http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM#s4
第59条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
第59条の2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
だから今回、適当に話が収まったかというと、そうでもない。
いちいち社名は記さないが各紙社説。
おなじみ「社説比較くん3.0」はまだ今回の社説を記録できてない.いずれはまとめて読めるだろう。
http://massacre.s59.xrea.com/othercgi/shasetsu/
その1
「憲法は、いくつかの点で参院に対する衆院の優越を認めている。しかし、参院の意思を正面から否定する再可決の手法は、いわば非常手段だ。自衛隊を海外に派遣するという、慎重な上にも慎重を期さねばならない問題でこれが使われたのはなんとも遺憾である。」
その1の2(同じ新聞)
「憲法59条は、両院で議決が異なった法案についてこう定めている。「衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる」。法的に問題はないというのは与党の言う通りだ。
だが、何でもかんでも3分の2で参院の意思をなぎ倒していいはずがない。そうなれば参院はいらないも同然だ。
再可決とは、政治の対立がどうにもならなくなった場合に憲法が用意した非常手段である。これを使うには、合意づくりへの立法府の最大限の努力と有権者の理解が欠かせない。参院の意思を覆すには、政治的な妥当性がなければならない」
「参院で否決された法案の再可決は57年ぶりだが、国益を実現するために憲法で定められた手続きを取ることに問題はない。」
「新テロ法の成立手続き自体に、法的な問題はない。憲法が用意した数少ないねじれ解決ルールを適用しただけ、と割り切る考え方もあるだろう。 しかし、参院も衆院と同様に、国民の直接選挙で選ばれた議員の集合体である。憲法は「衆院の優越」を限定的に保障してはいるが、2院制である以上、1院の意思を別の院が多数で覆すやり方を、決して乱用すべきではない。 他方で、国権の最高機関がいくら時間をかけても、最終的な意思決定ができないような事態は、避ける必要がある」
「参院で否決された法案が、憲法59条の規定に従い、衆院で3分の2以上の多数による再可決で成立したのは、1951年以来のことだ。 その一事が、戦後の国会史に1ページを刻んだ第168臨時国会を特徴づける深刻な政治の停滞を示している」
「憲法に書いてある」もしくは「国会法に書いてある」
事以外にも、いろいろと国会には伝統や慣習に基づく縛りが有ることを、いわゆる「憲政の常道」と呼ぶことは何度か述べた。
ここでの「憲政の常道」検索結果
これも前書いたかな?「奇人学者」「ソ連崩壊の予言者」として知られる小室直樹は、竹下登内閣がリクルートと消費税で揺れていた時に「リクルートで辞める必要は無い。だが竹下内閣は国会の慣習を破った(何だったかは忘れた、すまん)。これが辞職に値する」という主張をしていたので、へー国会の慣習って、そんなに重いのかと感心したことがある。
ただし、国会における再議決というのは半世紀ぶりとはいえ、そもそもこれまで使われなかったのは衆参両院で同じ党派が多数を占めていた(もしくは参院が野党多数でも、衆院与党は三分の二もない)時期がずっとだったゆえ。つまり慎重論がいう「再議決は非常手段であり、滅多なことでやってはいけない」という「抑制の前例や慣習」も、正直言って存在していないわけであります。
どーするのか。
ざっと各新聞を見て、私が名前を知らないような専門的な知識人や学者は置いておいて、三分の二に問題は無いとするメディア系学者は村田晃嗣。反対論は小林節、水島朝穂らでした。
「直近の民意」とは何か?
何か?と聞いといてなんだが、自分で答えを書いた(笑)。
つまりはてなキーワードを今作ったんだよ。
直近の民意
で、書いておいてなんですが、これで正しいのでしょうか。
全面的に依存したかったウィキペディアにもこういう項目はないし、再版なった広辞苑にもあるのか、どうか。
法学関係の言葉かもしれないが、専門家の用語だとしたら私、無知ゆえにやっぱり分かりません。だからはてなキーワード、もっと知識の有る人がいたら直してね。
たとえば、アメリカなんかだと大統領選挙の結果と中間選挙の結果で、この論は適用されるのか?
「直近の民意」論に関してのいくつかの疑問。
これは私の無知なのかもしれないが、「直近の民意」論は今回の前、ほとんどメディアをにぎわせていなかった気がするぞ。
たとえば・・・これは何回か前にもいったけど、例えば「愛川欽也パックインジャーナル」で、愛川欽也や田岡俊次、下村満子氏が口々にこういっていた。
「郵政民営化法案を否決したのは参議院なのに、衆院を小泉純一郎首相が解散したのは理不尽で無茶苦茶だ」
朝日新聞の政治部部長?星浩記者もそう言っていたな。
だが・・・・今回の「直近の民意」論がもし正しいなら、小泉首相のやったことに法哲学的な問題は何もなくなるではないか!!
1.選挙のより近い院の結果が「直近の民意」として重みを持つ。
2.だから選挙をやりたい。
3.首相の権限で解散し、選挙を行える院は衆議院だから、衆院を解散する。
私は衆院は今回話題の中心になっている3分の2再議決権があるから、それを目指すという名分があれば憲法上も問題ないと思っていたが、それを目標にしなくても「直近の民意」論で片が付く。
少なくとも愛川欽也&パックイン一派が今でも時々持ち出している「小泉郵政解散は不条理、正統性なし説」を粉砕するときは、多数の「直近の民意」論者に助太刀をお願いしよう。
直近の民意を受け、議員は立場を変えるべきか?
ちなみに、郵政解散後、結局参院の造反議員の多くは立場を変えて、再度の民営化法案には賛成した。
このとき、またまた愛川欽也(この人を例にしてすまんね)はじめ、多くの新聞テレビのコメンタテーターも「信念は無いのか」「腹が据わってない」と批判、冷笑したはずだ。立場をあくまで貫けと。
ところが、上の「直近の民意」に戻るなら、郵政解散であの結果になった以上、最近の選挙を経ていない参院議員は、その直近の民意に従って態度を変えることこそ正しい政治家のあり方だ、ということになる。
それでいいのか。それとも一人の選良として、自身の判断や信念にあくまで従うべきなのか。
思い出す例
もともと日本で、衆院可決、参議院否決ってめったに無いのだが・・・1993-1994年か、細川内閣成立後、最初の課題だった、現在の小選挙区にする法案が、七党連合政府から國弘正雄議員らによる造反者が出ていったん廃案になったことがある。
國弘氏は筑紫哲也らとも親交があった。ただ、週刊文春でも「思い知ったか小沢一郎」と題してインタビューがあったから、ある種のヒーロー扱いだったな。
このとき、その行動や法案に関しては賛否両論だったのだが、少なくとも記憶する限り「衆院選挙は参議院選挙の後だったから、衆議院こそが『直近の民意』である。それに参院が逆らうことは許されない」という意見は・・・、断言しよう、皆無だったと。
これって今と構図は逆転しつつ、同じだったじゃんねえ。
ワン・イッシュー論
平野貞夫、小林節氏らは衆院の三分の二を絞める議席は「郵政解散」というワンイッシューで得たもの(だから再議決に使うのはおかしい)との主張だったが、それに対応するように村田晃嗣氏は「参院逆転は年金問題で得たもの」と同じような主張をした。
個人的にはどっちも認めることはできない。小泉さんのかっこ良さが素敵、というミーちゃんハーちゃんの一票でも、占いしたらサイコロが丁と出たから民主党、であっても票は票であり、後付で理由つけてもしょうがない。それに世論調査って結局は憲法上何の規定も無い、ただの無位無官の数字だ。どの社を使うんだ、って話にもなる。
織り込み済み論
このへんの「民意」にはもうひとつ問題が絡んでいて、例えば今現在の話で言えば、2005年に自公が圧勝し、2007年の参議院改選では民主が圧勝した。
だが、こういう主張もできまいか。
『国民は、「衆院では自公が三分の二を持っている」ということを前提とした上で、参院選挙を投票した。憲法でも衆院が優越しそこで首相が選ばれること、三分の二あれば再議決できることを知っていたのだから投票行動も当然それを踏まえる。であるから、三分の二の再議決は正しいのだ。』
なかなか反論しにくい理屈ではないでしょうか。
もちろん、これは逆に郵政解散などでも「参院は郵政民営化反対多数であることを前提に国民は投票した。だから衆院の結果がどうだろうと、参院議員が態度を変えるのはけしからん」という論法も導ける。
つまり「衆院と参院の違いを尊重せよ」という憲法論、憲法原理主義論でいうなら実は「直近の民意論」を否定してしまうのではないでしょうか。
「首相が変わった時、衆院選挙の洗礼を浴びていない総理は正統性を持たなくなる」
との説が有る。北大の山口二郎教授がこれを何度も言っていたはず。
ただ、山口氏は後述の理由でOKだが、例えば佐高信氏や辻元清美氏らがそれを言ってはいけませんよ。
なぜなら彼らが支持、応援した村山富市首相とその内閣が、衆院選挙をやらずに誕生、終焉したからだ(笑)。
一回、参院選挙は闘ったがこの時は面白いもので連立の自民党が勝利したが、村山の属する社会党は今回の安倍晋三以上に大敗北した。
母数も大きく、全与党での過半数は一応維持したがこういう場合の「民意」は?
いっそのこと「憲法・法律でOKなことは全部やる」ほうが分かりやすい
与党はばんばん、三分の二で再議決する。
それじゃあ今までの与党優位と同じかというと、今回足並みが乱れて不発だった「否決ではなく、次国会への継続審議を決めることで法案成立を阻止する」とか「審議をずっと吊り下げて、審議未了廃案にする(これは与党が会期最終日の60日前に衆議院で可決すれば無効になるが)」
また、今回、国会の慣習破りだとして話題になった
「証人喚問は国会の全会一致を原則とする」という”慣習”も、いっそ破ってしまっていいんじゃないか。与党は衆院で、野党は参院でそれぞれ都合よくだれでも証人喚問しまくる。
お互いバシバシ法律を廃案しあって、何も決まらない。
そこでうんざりしたときに、新ルールができてくる。
それに前にも書いたけど、明文規定のほうが慣習や伝統を持ち出すより、すっきりしてていい、って部分は有る。
うーん、堅くて大して面白くもない話題に労力を割きすぎたな。
まあでも、これで「憲政の常道を考える」シリーズはたぶんおしまいだ。