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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

【完成】映画「アイアンクロー」公開初日箇条書きレビュー

※ネタバレを気にしないで書きます。ご了承ください


・たまたま予定が空き、公開初日に見に行くことができた。ただ、劇場はシネコンでやや小さめの1シアター。まあそうだろ、配給されるだけで儲けもんだ、このテーマで。観客は午後の部10人。こんなもんだと思うし、平日でまだ勤め帰りの観客もいない時なら上出来だと思った。まあまあペイすればいいんじゃないかな


・というか最初の配給会社のテロップ観たらキノフィルムズ=木下グループだったよ…。そこの木下工務店といえば知ってる、PRIDE崩壊後の日本格闘技界にドンキホーテと組んで「戦極」で打って出たが、情勢不利と見るやドンキを置いて逃げ出し、しれっと映画や演劇支援にシフトした、見る目のあるやつら(笑)。そこから幾星霜、配給会社が海外のプロレス映画の日本上映をサポート…いい話じゃあありませんか。



・作品本体に…冒頭、エリックがアイアンクローで大暴れする悪党の現役選手で、長男と次男が幼児ぐらいの時期から始まる。その時、スターになるならキャデラックに乗れ、という誰かの忠告を信じてリース車を突然キャデラックにし、堅実な妻がリース代はいくら?と顔色を変える場面が。人気悪役と言っても、その後の大成功はまだ見えていない(成功するためのキャデラック、なのである)。キャデラックの後ろにはトレーラー…詳細な説明はないが、巡業から巡業のエリックファミリーは当時、いわゆるトレーラーハウス生活だったのかな?エリックも「成功したら家を買おう」という言葉があったし。



・そうだ、これ知らなかったけど、お母さんは実に熱心に神を信じる敬虔なクリスチャン。非常にお堅い。それが最初はとてもいい方向に作用していたようだが…



・そして、そこから本編、ケビンがデビューしたころ…その頃のエリックはすでに超大金持ち、西部アメリカ人の成功の証である家に隣接の牧場で子供たちをのびのび育て、その地域の興行プロモーターでもある。
このへんはちょっと「列伝」知識入ってる(笑)

エリックは大物 プロレススーパースター列伝 
プロレススーパースター列伝  エリックvsブロディ


その成功をさらに後押しするのが、往年の父親の人気を受けつぐケビン・フォン・エリックだったし、弟デビットも、いつデビューしてもおかしくないような体をしている。3男ケリーもスポーツマン、四男マイクだけちょっと細身で音楽に興味あるような子だが…みな関係は良好。



・ケビンと組んだデビッドのデビュー試合は、なんとブルーザー・ブロディとジノ・ヘルナンデスのタッグだったかな?
で、基本、エリック兄弟も脇を固める、日本でもおなじみだった1980年代の人気レスラーも基本的に、似てる似てる(笑)。これは成功を求めて何万人の俳優志願者がひしめくアメリカ・ハリウッドの強みですわな。
日本だと「プロレスとか相撲の実録映画、ドラマを作りたい」「では演技ができて、実在のあのプロレスラーに体型も顔も似てる、身長も高い俳優をそろえよう……」ってところで、やっぱり妥協せざるをえないじゃん。韓国映画力道山」もやっぱり妥協は必要だったし、とえば実録伝記映画「アントニオ猪木物語」を、いま作れますかね、と考えてみなさい。猪木役と馬場役とアンドレ役で既に破綻する(笑)



・そのブロディにそっくりな役者が演じるブロディが(変な文章だ)「俺のハイキックで盛り上げたところで、お前が……」と盛り上げの”スポット”を打ち合わせる場面が描かれる。ここと、あとケビンがのちに結婚する恋人との会話でプロレスの「あれ」は説明しちゃって、以後は触れない。
それは、作劇的に、意図的にそうしたようだ。恋人はケビンに「プロレスってヤラセなの?」と、興味津々で聞く。橋本真也だったら「お前そこに座れ!正座しろ!」となる。

橋本真也がプロレスはヤラセ?と聞かれたら・・「正座しろ」

・ところがケビンは「どこの世界でも、仕事をできた人間が出世するだろ?」みたいな説明をする。ここで「その程度の説明に留めた」ことが重要でもあるのだ。



・まさにケビンは、順調に出世する…だが、父フリッツ・フォン・エリックがまさに、自分が得られないがゆえにこだわっていた、NWA王座…ハーリー・レイスとの戦いで、ミスをする。当時としては驚天動地のハードコア、コンクリートの場外でのレイスのブレンバスター!!(彼はバーティカルスープレックスと自分の技を呼ぶんだっけ。「滞空時間の長い」という枕詞もあったな)ケビンは息も絶え絶えになりながらなんとかリングに戻り、反則勝ちを拾う…のだが、その場外でのピンチから戻るさまが、弱弱しかったようなのだ、父やレイスの目線では。
ここが重要なのだが、仮にプロレスがデビッドのデビュー戦の描写で示したような「やらせ」であっても、試合の中では「お前は本当にタフガイなのかい?試させてもらうさ、リアル・タフなら認めてやるぜ!」という、別にプロレスの試合を壊すではないが、そういう”主導権争い”はあるのだ。
この映画は、そういうことがあるという点を強調し、そこに(だけ)カメラを向けることで、「プロレスの試合って結局、どうなの?」の問いを上手く…或いは無理やりぼかそうと試みた。それはその後の作劇にもかかわるんだが。



・本題に戻って…その、ケビンが反則勝ちだがちょっと弱弱しかったな、って試合で、最後の大乱闘にリングに割り込んで「この臆病レイスめ!兄貴に恐れをなしたか!」とマイクを握って挑発するのが二男デビッド。ところが以前から、こういうトークでのアピールが苦手っぽいケビンと違って、このマイクパフォーマンスが「100点満点」だったのだ…、ケビンの「弱々しさ」を指摘した返す刀で「お前のマイクは完璧だった!」とほめそやす父。長男と二男の間に、微妙な空気も流れ……
もともと父親は「期待の順番は1、だれだれ、2,誰々……」と名前を挙げ、この順位は刻々変わるぞ、と兄弟にプレッシャーをかけるのだ。



・1980年、ソ連でのモスクワオリンピックアメリカなど西側諸国がボイコットした関係で五輪出場が閉ざされたケリーもプロレスラーになり、フリーバー図からNWA六人タッグの王座を奪取(のちにウォリアーズ&天龍がこの王座とったね)。デビッドは、父の考える「今後のNWA挑戦者」に抜擢される。日本で王者と試合し、その抗争からベルト奪取へ… 王者レースからいったん外れたケビンだが、複雑な思いもありつつ、兄弟が再び結束。ケビンは恋人と結婚もし、家族を重視する決意を持つが…



・デビッドが、日本遠征時に突然死する。急病ではあるものの、事前に血を吐いたり、或いは筋力増強剤と思しきものを注射する描写もあり、ただの病死ではないとも示唆されるが…



・NWAのもう一人の顔リック・フレアーも登場する(この役者もまぁ似てる)。ケビンが苦手とする試合前インタビューをとんでもなく華麗に…つまり観客を煽りまくってこなし、上手いプロレスを見せる。ケビンはフレアーを相手に、レイス戦で見せたような弱々しさの皆無な戦いを見せるが、あまりの激しさに反則負けになる。控室では「何があった?」と騒ぎになるが、フレアー自身はその部屋を訪れて「なかなかやるな!飲みに行かないか」と誘うまでして、そして笑顔で去っていく。ここで、ケビンの暴走が事前のシナリオ通りではない、というふうに描かれるんだが、まあ実際はそうとも思えない。ここが、プロレスの「取り決め」をあいまいにした脚本の進行方向、そういう路線だということなのだろう。



・その後、体格的に堂々たるヘビー級であることも生かし、ケリー・フォン・エリックがNWA王座を奪取。しかし、ケリーはバイク事故で右足を切断。その後、なんと義足をつけてのカムバックに踏み切るが、激痛を紛らわすための薬物に依存するようになる。



・四男マイクも急いでデビューするが、見た目的にも明らかに体や技術ができていなかった。技の失敗から怪我、後遺症の高熱で精神にもダメージを負った?マイクは自殺する。ケリーも義足の身でWWF(現WWE)のコンチネンタル王座にまで上り詰めるがそこで限界。彼もピストル自殺する。
※このへん、時系列を上手くはしょったり、省略している。たとえばケリーの王座戴冠とバイク事故、WWF退団と自殺は時期的にずれていて、直接の理由でもないのだが、そう観客が受けとるように描写している。
ケリーの走り書きの遺書「あの世がどんなところでも、ここよりはマシだ」……



・より哀しいのは、兄弟はどんな苦難であっても、些細な感情行き違いはあれ、常に相互の愛情に満ち続けていることだ。いや、両親も含めて……。ケリー自殺でショックを受けたケビンと父フリッツが取っ組み合う光景や、死後のケリーが、先に死んだ兄弟と再会する幻想シーンを挟み、エリック王国ダラスのプロレスプロモーションは、別のプロモーターへの売却によって幕を閉じる(この何年後か、結局ケリーも所属したWWFWWEとなって全米を統一、地方色豊かなプロモーションが消滅する未来を我々は知っているが……)フリッツとその妻の晩年も、生活に不自由があるとかではないが、もの悲しい。



・最後は、エリック家の中で「家族」を第一に優先し続けたケビンの近況が語られる。「優雅な生活が最高の”救済”である」と、もじった格言で締めくくれるような、ほっとさせられる事実を提示され、映画は幕を閉じるのだ。それだからって問題は解決するの?といえば違うのだろうけど・・・



(了)







ブロディ、エリック兄弟をシゴく(プロレススーパースター列伝