この本でも、コロリョフにはほとんど光が当たらなかった。
たしか、2人の対比列伝的な本はあったんだけど…
あー、この本だ!!!
人類が実現した最も壮大な夢、アポロ計画。月に人間を上陸させることは、冷戦期の米ソの威信をかけた闘いであり、莫大な金と人が注ぎ込まれた。あまり知られていないことだが、2大強国にはそれぞれ中心的な役割を果たした科学者がいた。アメリカのフォン・ブラウンとソ連のコロリョフである。2人のどちらかが欠けていても、米ソの宇宙開発はずいぶんと違うものになっていただろう。本書は、人類を月に送り込むという空前の開発レースを、幼いころからの夢を追い続けた「史上最強のライヴァル」の名勝負としてつづったノンフィクションである。
フォン・ブラウンもコロリョフも1930年代のロケットブームの影響を受けた世代だった。会ったことこそなかったが、運命の糸は劇的に交錯している。ドイツ生まれのフォン・ブラウンはV2ロケットの開発に携わり、その技術をアメリカで発展させる。歴史の転換点となったドイツ脱出劇は実にスリリングだ。一方、コロリョフはドイツから持ちかえったV2を徹底して研究し、初の人工衛星打ち上げと有人宇宙飛行を成功させた。コロリョフのチームには、かつてのフォン・ブラウンの同僚も参加している。けっきょく、偉業を達成したのはフォン・ブラウンだけだったが、政治、軍事、技術的困難に決して屈することのなかった2人をめぐるドラマは、表舞台の宇宙開発同様、ダイナミックで魅力的である。著者は宇宙の専門家だが、とても読みやすく、エンターテイメント小説顔負けのおもしろさである。(齋藤聡海)
内容(「BOOK」データベースより)
宇宙開発競争をくりひろげた冷戦期の米ソは、それぞれ稀有な才能を擁していた。ソ連には、粛清で強制収容所に送られながら、後に共産党中央委員会を「恫喝」して世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げたコロリョフ。アメリカには、「ナチスのミサイル開発者」と白眼視されながらも、アポロ計画を成功に導いたフォン・ブラウン。遠く離れた地にありながら、同じように少年の日の夢を追い、宇宙をめざした二人の軌跡。