【追記として前フリ】全然知らなかったが、偶然、ここで紹介した話がドラマになってて、29日に放送されるんだって!!
夢枕獏氏の大ヒット小説「陰陽師」シリーズ最強の敵・平将門が登場する長編作品『陰陽師 瀧夜叉姫』(文春文庫)が、俳優の佐々木蔵之介主演で初めて映像化。テレビ朝日系で29日(後9:00~11:05)に放送される。陰陽師・安倍晴明を演じる佐々木は「格闘あり、恋あり、家族愛ありと、エンターテインメントの宝庫のような作品です。どうぞお楽しみに!」と呼びかけている。
さらにまったく余談だが「夢枕獏 市原」で検索すると、この「夢枕獏 市原隼人」関連の記事がトップでヒットすることがわかり「そうだな…そのほうがいいよなあ…」と、人情派のベテラン刑事が、男の過去を敢えて詮索せず去っていくような、そんな気分にさせられました(笑)。いや、うちの他の記事でわかっちゃうんだけど(笑)
【ここから以下、本題に】
ことしも、東京の桜は見事に咲いた。2011年もそうであったし、おそらくは関東大震災の翌年も、東京大空襲から1カ月後にも咲いていたのだろう。
人がもうせんのむしろもって、練馬でとれたかまぼこを肴にお酒ならぬお茶けを飲もうとも(長屋の花見)、どんちゃん騒ぎが禁止され、ただ歩いて眺めるだけであっても、あるいは不要不急の外出が自粛されても、花自体はそこで咲く。
ところで、そんな折に読んでみた「陰陽師」の漫画版…それも、一般的に知られた長期連載になった岡野玲子版のほうではなく、睦月ムンクというかたの作品に、原作にあったのか、漫画オリジナルか(よね?)桜についてのやり取りが、とても詩的に表現されていたので紹介したい。
またこの部分が、各種サイトの「試し読み」部分にあるのですよ
平安の都では、奇妙な出来事が次々と起きていた。巨大な蜘蛛が牽く車が姿を現し、妊婦が、たてつづけに腹を裂かれて殺された。 そんななか、顔にできた瘡が突然しゃべりだした平貞盛に晴明と博雅が呼び出される。 それらは、やがて都を滅ぼす恐ろしい陰謀へと繋がっていく…。 注目の新人漫画家、睦月ムンクによる陰陽師シリーズの傑作長編が今始まる! !
きちんと咲いて
きちんと散る桜は桜として咲くことによって
何事かをまっとうしそしてまた
桜として枝から離れ
散ってゆく――
どこから見ても桜だ
桜は桜のようにしか咲くことができぬ桜のようにしか散ることができぬ
まったく桜はなんとも見事に桜であろうことか
そう思っていたら
自分もまた
あの桜のごとくに自分でありたいと
思うたまでのことなのだ
この台詞、詩的ではあるんだけど、みごとなのは、これを発言する源博雅のキャラクターを反映していて、どことなく「凡庸」「普通」というかぼやっとしてる、というか……また、それがそのまま、彼の美点を反映している感じがあるわけなのね。
これは原作者の夢枕獏も公言しているのだけど、「陰陽師」の安倍晴明と源博雅の関係は、シャーロック・ホームズとワトソンの関係を基に発展させたものだ。
そして、オリジナルのホームズ版にもあったけれども部分を夢枕獏が強調したのは、ワトソン役―源博雅の「平凡・普通」というのはそれだけで一種の能力であり、それはある意味で主人公たるホームズや晴明の足らざるところを補い、力を増幅してくれるものだ、という点だ。それは見事なスタイルとして、さらに多くの作品に継承され、発展している。
主に女性向けに、発展しているとも言われるがーーー
まあ、そんなところをみごとに表現した一場面が、今回の桜のやり取りだったと思うので、この、桜の季節に紹介した次第です。
ブクマより これは最近の?「ありのまま信仰」ではないか
id:memorystock
こういう「ありのまま」信仰「俺らしく」信仰って何によって生じたんだろう。また、大衆がそこまで自信家だとは思わないので、これはもっとほかの衝動やニーズが足りない言葉になって表出してるのではと疑う。
面白い視点
まず夢枕獏の作家性というところもある(ありのままを尊ぶのは平凡な視点だが、美しい桜を見て「あのように美しく」や「あのように潔く散る」ではなく、それらをひっくるめて「桜が桜であるように俺は俺らしく」というのは相当珍しい視点。だから紹介したんだし)。それに大ヒット曲たる「世界に一つだけの花」や「let it go」とも関係しているだろうけど、そんなに古い視点なわけでもない。
それが流行し、メインストリームに収まった、という流れは調べるとおもしろかろう
www.youtube.com
世界に一つだけの花 1万人の第九
ただ、追加して感想を述べるなら「大衆は、「自信家」なので『俺が俺らしくある』ことを肯定している」かというと、逆に「より良くなることは難しいが「俺がおれであること」は可能なので、それゆえに肯定してる」のかもしれない。
松本零士の漫画コマでよく引用される、38式歩兵銃を見せて「俺にはこれしかないんだ!だからこの銃が俺には一番いいんだ!」というようなアレ。
俺にはこれしかないんだ。
— てくにがす (@gasgas998) June 25, 2019
だからこれが一番いいんだ!
松本零士先生の短編集の中にある一言には色々な何かを感じますね pic.twitter.com/bIf6dGdlcJ