「ザ・グレイテスト」モハメッド・アリの訃報からほどなく、まだ40代のこの選手の訃報が米国から届いた。
★キンボ・スライスが42歳で急死 - 格闘技徒然草 (id:lutalivre / @lutalivre_jp) http://d.hatena.ne.jp/lutalivre/20160607/1465296803
キンボ・スライスという男が、日本語で紹介されたのはおそらく、この記事が最初だと思われる。
現在はプロの格闘技記者として活動されている堀内勇氏、アミューザを知ってるファンには「ひねリン」というほうが早いわな。
Thursday, November 18, 2004
英語MMAネット界を乗っ取った戦い http://hinerin.blogspot.jp/2004/11/mma.html
2004年、ネットで各地に散らばった「野の遺賢」が、スピードや対象範囲的に小回りが利かない従来メディアを出し抜くのが、すでに日常の風景になろうとしていた。
そういえばアメリカで、CBSキャスターが在野のネット評論家に誤報を暴かれて失脚する「ラザーゲート」があったのも2004年だった。
米国ブログが既存ジャーナリズムを叩き潰した: 極東ブログ http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2004/09/post_17.html #
※これに関するキャスターの言い分が今度映画となり、夏に公開される。
ブログ&ネットvs巨大メディア&有名キャスター…を描いた映画「Truth(ニュースの真相)」が日本公開決定 - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160503/p2
話がそれた。
日本語でキンボを初紹介したのがネットのブログ記事であった…という話以上に、そもそもキンボ・スライスこそが「ネット動画の生んだ最初のスーパースター」「元祖youtuber」であった。(いや、youtubeより早いけどさ!youtubeのスタートは2005年だ)。
ひねリン記事を抜粋するので見てみよう。
……俺はあんまフォローしてなかったんだけど、この数日間はシャードッグもUG(※どちらも超有名なアメリカの格闘技サイト)も、みんな「キンボvsガノン」という話題に埋め尽くされていた。ホイスももアケボノもUFCもすべてカキ消されるくらいに。こないだ紹介したWWEの「アングルvsピューダー」(※うちのブログでも紹介したことあるけど、シュートかプロレスか?が問われた映像)の時もスレが乱立してたけど、今回はその十倍くらいの勢いの狂騒ぶり。二日前あたりは、マジでUGの最新100スレッドのうち70くらいがキンボガノン関係。しかもこれは別にアラシではなく、みんな夢中でこの話をしてる・・・今日になってやっとおさまってきたが。
じゃ、キンボとガノンってナニモンで、どーしてみんながこんなに騒いでいるのか?
(略)
まず、最初に話題になったのは黒人ストリートファイター、キンボ・スライスの このV(※現在、この映像はリンク切れ)。見れば分かるよーに、(双方の仲間達によって仲介された)裏庭ベアナックルファイト。ひげもじゃの方のキンボが、相手を何度もぶちのめしている。よく知らんがこのキンボは、賞金をかけてこの種の試合?によく出かけてゆくとか。で、これがなかなか見事なぶちのめしぶりなので、「キンボはタンクより強いんじゃないか?」「ヒクソンと戦ったらどうなるか?」 (こんなん作った奴も)みたいな話題が沸騰。
で、そのうち「キンボの仲間達が実際に賞金次第ではMMAファイターと戦ってもいいと言っている」みたいな話がでてきて、たいていこーゆーのはガセなんだけど今回はそうじゃなくて、UG Forumの管理人のKirik が直々に「キンボと本当に戦いたいファイターは私に連絡をくれ。向こうも本気らしい」と募集。当然「誰かやる奴いないのか?」って話になる。
そこで名乗りを上げたのが、スーパーヘビー級MMAファイターのショーン「ザ・キャノン」ガノンという人。
(略)
この一戦が本当の本当に実現することになってしまった。ネタでなくリアルファイトであることはUG Forumの御墨付きで。どっかのジムを締め切って、二人のファイターとお互いの仲間達だけが中に入って行われる戦い。ルールはキンボの本領であるベアナックルファイト。グラウンドはナシ。ケリもナシ。どっちかが倒れたら周りの連中がいっせいにカウントを開始し、30秒以内に立ち上がったらまた再開・・・で、この一戦はwhoopass.tvという新興ファイト映像サイトで、試合後数時間後に有料で見られることに。このサイトがインチキでないこともUG Forumの御墨付き。
そして、数日前にこの一戦は行われ、whoopass.tvによる放映もそれほど問題なく行われた。これが期待を裏切らない凄絶な戦いとなり、$10(プレセール時は$8)という値段にもかかわらず、マジで多くの人間がこれを購入して視聴し、今まで夢中で語ってる・・・と。
このへんの動画かなあ??
そしてキンボ・スライスはとんとん拍子に大スターとなり、そして放送コードなどの問題で、地上波にあがることに困難さがあったMMAが2008年、ついにアメリカのCBS(あっ、上のダン・ラザーの騒動の局だ。因縁だねえ…)で全米地上波放送!!されたときのキラー・コンテンツ、メインイベンターになったのが彼だったのだ!
男人生絶好調!!!
http://omasuki.blog122.fc2.com/blog-entry-79.html
EliteXCが米国地上波CBSで放映されることになりました。4月スタートで年間4大会を放映、放送時間は土曜の夜のゴールデン枠かプライム枠(国内で時差があります)の2時間番組の見込み。第一回放送のメインカードにはキンボ・スライスが登場するとみられています。
ShowtimeはEliteXCの株主ですが、そのShowtimeの株主のViacomは、傘下にCBSも抱えており、このような関係を伝って、EliteXCでは昨年2月頃からCBSでの地上波放送の交渉を行っていたそうです。
また、スポーツメディア・マネジメントの大手IMG社の協力があったと言われています。昨年までプレミアム・チャンネルのHBOに所属し、UFCのHBO放映を協力に推進しながら、結局失脚したクリス・アルブレクトが、IMGスポーツメディア部門のトップとして、仲介の労をとったとされています。
CBSとの契約にこぎつけたEliteXCはUFCとの立場が逆転する!? http://sadironman.seesaa.net/article/87593772.html
・ProElite社(EliteXCの親会社)はCBSとの契約を近々発表することになっている。メジャーテレビ局が初めてMMAをレギュラー放送することになる。
・EliteXCは2006年にShowtime Networks社との提携で設立された団体で、EliteXCとShowXCは現在Showtimeで放送されている。またShowtimeの親会社はCBSである。
・関係者は、CBSはプライムタイムにEliteXCの大会を生放送する予定だと話しており、大会は1ヶ月おきに開催される見込み。
・この件については放送予定や開始日も含め近々公式発表される予定。
・契約の公式発表は明日される。
・EliteXCとCBSは4月の大会から4大会分の契約をする。
・キンボ・スライスが大会の目玉になる。
・放送予定は土曜日の午後9時から11時までの2時間で生中継される。
・2007年の第4四半期にShowtimeの資金総額は11%も上昇した。10月のShoXCと11月のEliteXCが貢献しているものと思われる。
しかし……残念ながら、キンボはプロ格闘家に交じって戦うには、ちょっと弱かった。
最初の試合はなんとか勝ったものの、たった二試合目で完敗…14秒でKOされてしまう。
そのうえ、対戦相手が「立って戦え(※キンボは寝技素人なので、テイクダウンされると弱いと思われていた)と言われてねえ」とうっかりしゃべってしまい「それじゃ八百長だ!」と追及される。
キンボの相手「立って闘えと言われた」発言が”世間”の大問題に発展? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20081012/p2
そして、あっさりとその団体は倒産。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20081022/p4
それもこれも、街の喧嘩屋レベルであったキンボでは仕方ない。
だが、だからこそ…である。
『並みいるアスリートが切磋琢磨、自己研さん、ストイックな練習をして栄光を掴もうと努力している中で、ネット動画で派手な映像をアップし「メディアの寵児」となった”だけの”、素人の喧嘩屋が、一時期、一瞬だけれどもアメリカ格闘界の栄光や注目の頂点に立った』
というこの事実、これがアリやグレイシーとかとは別の意味で、「アメリカの伝説」足り得る存在なのだと思うのですわ。
すくなくとも映画になってもいいし、あるいは「ネットの歴史の教科書」に載るかもしれない。
彼自身がキンボ・スライスという「メディア」だったのだ。
どこも「スポーツとしての格闘技」でなく、「街の喧嘩、不良、護身術」のほうが受けるのかも?
ひねリンブログより
…特に試合の感想はないんだけど、こんな戦いがこんなに盛り上がってしまう・・・ということ自体にあらためて驚き。つまり、MMAでもボクシングでも VTでもなく、素手の拳で殴り合う素人ファイト(いやま、一人は一応プロなんだが)が。この種のベアナックルファイトの伝統ってのはやっぱ現在もアメリカに脈々と流れていて、それはちょっと日本人にはピンとこない種類のもんなんだよねたぶん。もとをたどれば英国から来ているプライズファイトが、開拓者時代のアメリカでも実践され、今でも・・・っていう経緯があるんだろうね。
で、(めちゃ大ざっぱな一般論になっちまうが)、たぶんアメリカ人が持つ「もっともタフな奴」って観念は、日本人のイメージする「最強」とか、ブラジル人のソレとかとちょっと違うんだろうな。技術とかキレとかよりもっと物理的肉体的な「腕っぷしの強さ」「打たれ強さ」が重要と言うか、あと「常に平静を保てる精神」とかじゃなく「気性の荒さ」。そういや、いつぞやアイリッシュのジプシーが今でもやってるというベアナックルファイトのVというのをネットで見たけど、やっぱ同じような感じだった。レフェリーというか執行人はそれぞれの仲間達。ひたすら拳で殴り合い、いくら倒されても、立てるまでは試合は続行・・・みたいな。こっちも、どっちが「タフ」な奴か、を決める戦いって感じで。
ま、いいかげんな文化論はこのへんにしますか。
togetter用資料
— gryphonjapan (@gryphonjapan) 2016年1月30日
「天空の城ラピュタ」の「男ならゲンコツで通りな」の場面。どちらも相手のこぶしを交わすという発想は皆無っぽかったですよね。 pic.twitter.com/lqMqYcV264
こういう、「堂々とした殴り合い」とか「武道とか格闘技の技術なんて、男らしくねーよ。ごちゃごちゃやってんな!」みたいな発想は自分は格闘技漫画読んでてもずっと感じなかった。
それを「視覚化」したのが、グラップラー刃牙の「花山薫」と「柴千春」だったわけだけど、実はあれ、格闘技漫画としては今までのパターンにない、とっても新鮮なものだった…と自分の観測範囲では思っている。
で、そんな感じで「街の喧嘩屋」がいわゆる本職の格闘家と闘って、勝ってプロスポーツ側が恥をかくもよし、喧嘩屋がやられて化けの皮がはがれるもよし…は結果的にめぐりめぐって「THE OUTSIDER」という人気コンテンツを生んだ、と思っている
「だってパンクラスだ、DEEPだってプロの興行出てる選手が、バイト先で『キミもいつかアウトサイダーに出られるようにがんばりなよ』って言われるって話ですからね」
(山ちゃんは)埼玉栄でがっつりレスリングやってて、一方は「ケンカしかやってません」みたいな不良でしょ。そういう不良相手にレスリングの技術でオラオラかまして気持ちよくなる…(略)
「俺(大井)はいまでも「練習してない不良を当ててほしい」という希望はあります。」
「やっぱり不良とは最後の最後までは分かり合えない」
「そういう不良にオラオラしたいんだろうっなっていう。たぶん「ビビッてます」みたいな顔もするでしょうけど、心の底では自信があると思いますよ。昔の俺を見るようですよ」(KAMINOGE43号、大井洋一)
最後は「喧嘩屋が、一からあらためて総合格闘技を謙虚に学び始める」というコンテンツにもなった。その半ばにして…。
あのTUFは、日本でも放送されたんだよね。それらのシーズンの中では一番の面白さだったかもだ。
中盤迎えて面白くなってきたWOWOWのTUFヘビー級。ランペイジひでぇ(笑) - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100505/p1
でも書いたのですけど、
こちらのコラムのほうが詳しく書かれていますね。
http://www.yukes.co.jp/UFC-ouen/articles/2010-05-06/
さて今回は、TUFシーズン10序盤最大のハイライトであろうキンボ・スライス vs ロイ・ネルソンについて語らせていただきたいと思います。
チームランペイジ、キンボ・スライス。僕が彼を初めて見たのは、彼自身がYouTubeにアップしたベアナックルボクシングの動画でした。
その動画を見た印象ではキンボはまさしく獣。圧倒的なパワーで相手を殴り飛ばすその様はかなり野性的でした。しかし、TUFを見て彼の印象はガラリと変わります。
『自分のことをビッグスターだと思っていない。最強だとも思っていない。生まれついての喧嘩屋みたいにイライラしていない。平和主義さ。俺は、ただ純粋に戦いが好きなだけだ。』全米で人気者のキンボ・スライス。街に出ると声をかけられ、ベタベタ体を触られます。
彼はその中でも自分を見失わない強さを持った人間でした。僕ならばそれだけチヤホヤされたら全てを見失います。前後不覚に五里霧中のフルコースです。コーチのランペイジも最初はキンボのファイトスタイルが好きだ、と言っていましたがエピソードが進むにつれ内面について語り出すシーンが多くなります。
『キンボは謙虚で素直だ。向上心が強く、知ったかぶりをしない。穴だったレスリングもグングン伸びているし、本当に教えやすい。』
(略)
厚遇を受けるキンボ、それを疎ましく思う他のファイターという構図ができていました。
誰もがキンボを狙っていました。
『キンボと戦いたい。スタンドは脅威だがレスリングは素人だ。』、『キンボなんてただの喧嘩屋だ。チヤホヤされて気にいらねぇ。』、そういった声が多くのファイターの口をついて出て来ていました。周りは敵だらけ、対キンボ戦線が敷かれる中、そんな状況でキンボは言いました。
『敵を倒したくて戦っていた。でも敵って誰なんだ。考えに考えた末にたどり着いた。敵は俺の中に居る。自分自身だ。敵は、俺なんだよ。』
胸に拳をぶつけながらそう語るキンボを見て、僕はTUFシーズン9のフランク・レスターを思い出していました。
前歯全部失いながらも何度も立ち上がり、対戦相手への愛で戦ったフランク・レスター。
彼へ感じたような、熱くなる思いをキンボ・スライスにも感じました。漢です。漢。気付けばキンボの周りに人が集まるようになっていました。
気付けば誰もキンボの実力を軽んじる者は居なくなっていました。
彼の人柄に触れ、彼の成長を見て、周りもまた変わっていったのです。
とはいえ、年齢も年齢であったキンボはのびしろもそれほどあったわけではなく、TUFでは今でも人気者として中堅で活躍するロイ・ネルソンに敗れ、それからあとは「レジェンドファイト」的な試合でお茶を濁す仕事であった。知名度抜群なのでそういう仕事は多く、たぶんフルタイムの練習などもしていないのか年齢によるものなのか、スタミナの欠如は明白だった。
それでも、7月には、同じような境遇であるジェームス・トンプソン(一度キンボに敗れている)との再戦が予定されていた。
そこでの急逝。
街の喧嘩屋、
「ネット動画」による思わぬ形でのスター化
アメリカ発の生中継地上波MMAのメインイベント
14秒でのKO負け
八百長疑惑
一からの再修業・・・・・・・・・・・・・・・。
モハメッド・アリのような意味での実績もタイトルもなかったが、やはりアメリカの、格闘家の、人間の何かを象徴するアイコンではあったと思う。
彼もまた、
やすらかならんことを。
「ひねリン」(堀内勇)の過去の文章は、どこかでまとめられるべきだと思わんかね?
ひねリンブログは移転などもあり
http://hinerin.blogspot.jp/
http://hinerins.blogspot.jp/
とふたつあって、実にどうもネタ元になるので本来は教えたくはないのだが(笑)、時事的な意味などを超えていまでも読める文章ばかりだ。
検索などでも本来は上位に来てもいいはずなのだが、更新を止めたブログはどうしてもネットの海に沈んでしまうのだよね。
もっと、ひねリンの過去記事は読みやすい状態になければならない。
私は、ちょっとそういうことを考えている……