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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

文学賞に関わり続けた編集者が、内幕からみた文学の姿―「芥川賞・直木賞をとる!」(高橋一清、河出文庫)

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160310/p1

からのつづき。

内容紹介
最も多くの芥川賞直木賞作家を育てた編集者が、両賞の舞台裏を大公開。新人賞をとるコツ、長く読まれる作家になる秘訣などを語る。

内容(「BOOK」データベースより)
あなたが受賞と決まりました。お受けいただけますか?―芥川賞直木賞選考会当日、受賞者に電話をかけ喜びの第一声を最も多く聞いた編集者が、受賞作決定までの経緯、選考会の内幕を公開。新人賞獲得の秘策、実際目の当りにした作家の執筆作法も教える。芥川賞直木賞をとる作品はこう決まる。


いまや週刊文春が、出撃しては武将の首を取る関羽みたいになっている昨今だが、センテンススプリングは本来、スクープジャーナリズム以上に文学の総本山であった。そしてその本丸に位置するのが芥川賞直木賞

ちょっと題名がノウハウ本的な感じだけれども、その実はその文春で、賞の選定にかかわったベテランが、内実を書きのこしたものだ。
「あなたの作品が賞に決まりました。お受けくださいますか?」と電話するのだが、やはり昭和の時代は落ち着かずに家を出てしまい、連絡がつかなかったり、山手線に乗ったり、劇場に入ったり・・・その受けてもらえますか?が確認とれぬまま「あとは私が責任をとる、もう発表しちゃえ!」なんてこともあったそうで。
その一方で、受賞の明け方に銀行マンが「先生!口座を開いてください!!!」と押し掛けたというから、昭和ってすごい(笑)。



しかし、編集の立場から見る「どうやったら 賞のとれるような文章がかけるか」は結構実践的だ。
「短所を修正するより長所を伸ばせ」という話では、動物の描写が得意な作家の連載にエンジンがかからないとき、「早く動物を出してください」と催促し、実際に登場すると見る間に物語が躍動していったとか。
また、これは連載漫画や小説だと使いづらいだろうけど、後半に例えば「雨の場面」を登場させたいと思ったら、そこで雨が降ってもおかしくない描写や伏線を、前にさかのぼって入れておけ、と。これを「叩き」というんだそうだ。
連載物でも、最後まで話を作っておけばそれができるんだろうけど、そりゃむりか(笑)。

また、編集者が「育てた」作家を手放す―――やはり自分の出版社だけで仕事をさせるわけにもいかなくなるとき、いろいろテーマを作者に聞いておいて、これだ!!というテーマには「この題材だけは、わたしが担当したいので、いつかふさわしい時期に声をかけさせてください」と言っておく。で、むいろ他社の仕事をして技術が積み重なり、知名度もアップしたのを見計らって、…あるいはやや疲れたりマンネリになって沈滞期に入ったときに「そろそろ『アレ』を描いてはどうですか?」と誘導していく(笑)。
けっこうあざといのう、センテンススプリング文芸部門も(笑)。

そんな一方、映像化権の交渉なんかにもかかわって、このひとは実際に天下の黒澤明とわたりあって、原作者の権利を主張してやりあったのだそうだ(某作品)。そんな経験談も。さらには「教科書に載せる」ことも仕掛けたりと、なかなかに寝技がうまいひとで・・・

ほかにも、「まずは原稿用紙100枚の作品を描いてみろ」
そして「賞を取っても会社は急にやめるな」と念押しするなど、回想とノウハウのアドバイスがうまく混然一体となっている楽しい本でした。