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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「テンプレラノベ伝奇考」、或いは「フィールド・ノート」…着替え・遅刻遭遇説話の伝播を探る

日本のどこか、人里はなれた山村……天婦礼羅野辺(てんぷれらのべ)村に、二人の男が降り立った。

一人は巨躯を黒いコートで包み、山高帽の下はスキンヘッド、豊かな口ひげを蓄えステッキをついた、なんともいかつい男である。
もうひとりは細身の体に黒いスーツ、女性と見まごうようなロングヘアーだった。

別々のタクシーに乗っていたが、偶然降りる場所は同じで、お互いに顔を見合わせると、双方ともおやっという顔をした。ここで出会ったのは、偶然だったようだ。
スキンヘッドの男が、山高帽をちょっと持ち上げて挨拶する
「ほう、君か。ひさしぶりだ」
ロン毛の男も深々とお辞儀をする
「先生もおかわりなく……やはり、この地に興味をもたれましたか」


「ふむ、わしのライフワークだからな。白鳥説話にかかわる…。だが、案内をお願いしていた地元の方がまだ来ておらん様だな。ん…その方は、ひとり同行者がいる、といっていたが…」
「私のことのようですね」とロン毛は微笑する。
「そうだ、先生の論文は読ませていただいておりますが、人待ちついでに、先生のお説と、この天婦礼羅野辺(てんぷれらのべ)村に来た理由をお聞かせ願いませんか」
「ほう、これはいい聞き手を得られて、わしも考えを整理する絶好の機会だ。ありがたく語らせてもらうよ」
川の土手に腰を下ろすと、スキンヘッドの教授は語り始めた。

「知っての通りわしのライフワークは、白鳥処女説話だ。『伝奇考』の一巻に載っているが−、おっとメタ発言失敬」

宗像教授伝奇考 (1) (ビッグコミックススペシャル)

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  • 作者:星野 之宣
  • 発売日: 2007/12/26
  • メディア: コミック

「森の湖に七羽の白鳥が舞い降り、羽衣を脱いで娘に変身し、水浴びを始める。そこに、若い猟師がばったり出会ってしまう− そこからこのふたりは、なんだかんだとトラブルを経たあとで夫婦、カップルになる―。
この伝説の原点は、定説では中央アジアで、ドイツからヨーロッパ全域、ロシアやアメリカ大陸にまでこの伝説は伝わっている。南方に向かっても西アジア、インド、東南アジアにも伝わっている。北では白鳥の渡りコースとも重複しているが、白鳥のこない南方では、これが”羽衣伝説”として、静岡の三保の松原などに伝わってきた。
だが―わしの仮説では、それらの原点にあるのが、このてんぷれらのべ村での説話だということだ。
こんな狭い村なのに、さまざなまバリエーションの説話があるが、だいたいは偶然、超自然的な力を持つ女性の着替えに、さえない若い男が出くわし、それによって最初は憎まれるが、ついには恋人、夫婦になる―という展開だ。この説話がこれだけ集中しているのは偶然ではあるまい。民俗学的な重要な秘密が、ここには隠されておる!!わしは、そうにらんでいる」

静かに、だが力強く語り終えたスキンヘッドの男は、ふうと小さく息を漏らすと、ロン毛の男に微笑した。

「さて、こんどは攻守交替というわけではないが、君がここに来た理由を聞かせてもらおうか。将来を嘱望されながらも、学会にも所属せず探偵、風来坊まがいに神出鬼没でフィールドワークをしているという君の研究をね」


「立派な大学人たる先生に、在野の風来坊が自説を展開するのも恐縮ですが……わたしは天地創造の「ぶつかり神話」の調査に来ました」
「ぶつかり神話というと…ここでは戦国時代以降、キリスト教と混交して広まったというあれか」

「聞き取りの、こちらの教義の記録がありますが…」

そもそも でうすと敬い奉るは
天地の御主 人間万物の御親にてましますなり
はじめに 天地万物を つくらせたまい
また 土より五体をつくりて人となし
これ あだんとえわのふたりなり
ぱらいそにパンの木あれば かならず
食う事なかれと でうすかたく仰せあるを
えわ たばかりてパンをとりて食い
これより たちまち ちこくにおわれ駆けだせば
あだんとみちでぶつかりぬ。
それゆえふたりは むすばれるも
異世界に追いやられ
無双となりぬ またおれつええとなりぬ。

「ふうむ」
衝突する、ぶつかるというのはへたをすれば怪我をする、ネガティブな要素です。しかしそれがきっかけとなって、結ばれるという奇妙な説話…しかもこれも、この狭い地域に、いくつものバリエーションをもって伝わっているのです。そしてなぜか、重要な要素として『パン』をくわえている
「パンといえば、”キリストの肉”……」
「自分も、その関係がどうなのか、まだ確信をもった仮説は立てられません。あるいは、この”ぶつかり説話”と”着替え説話”をつなぐミッシングリンクがあるのかもしれませんが…」

「やあやあ、ずいぶんと遅れてしまって申し訳ない」
ここの教会にずっと赴任している、老神父が遠方からとことこと歩いてきた。

「おや?お二人はお知り合いでしたか。学者さんが同じ時期に調査に訪れるとは、珍しい神のおはからいもあるものだ」
神父はそういいつつ、ややうんざりした様子で言葉を続けた。
「ここの連中ときたら…正当なSFに改宗を勧めにきたんだが、この村はSFの教えが伝わらなくなってから、口づてに教えを伝えてきた…それが長い間に、ほかにあったファンタジーとかラブコメと交じり合って変形してしまってね。わたしのSFが彼らの言い伝えとちがうといって、かたくなに自分たちの信仰を護り、科学的知識とセンスオブワンダーに基づいたわたしのハードな教えこそを、にせのSFだというのだよ…」



ここから、この村を訪れた二人の学者は、おどろくような光景を目にするのだが、今宵はここまで。


解題(とはいわないこんなの)

元の発想は、この前「中国でも韓国でも、ラノベやゲームの発想は日本と似通ってきているらしい」という記事を書いたときです。
その後、少なくともゲームや漫画のキャラクターには、非常な類似性がある、ということが証明されたとかしないとか(笑)。

まあそれはともかく

中国で既にライトノベルが「軽小説」とまんま訳され「テンプレも共有」してるという…サブカルの世界連帯はあるのか? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160117/p1

の中で、

…「サブカルの国際連帯」みたいなものを感じてワクワクしたのもまた事実なんだよ、ほんとに。
あと、数百年数千年たったら「最初に男女がぶつかって出会うという神話が共通している…この大陸で、同じ民族が東から西へ移動したとわしは考えておる!!」と、民俗学の教授が力説してるかもしれないし(笑)。

とひと言書いたこのネタ、自分でヤヤウケしたので、そこを広げて実際に書いてみた、というね(笑)。
ただし、例によって、肝心のラノベ方面で実例を知っているようで知りません。テンプレだー、テンプレだーという騒ぎを経由して知っただけ。
逆に、本当に実例に詳しい人は、こういうパターンや場面の共通点を、民俗学的、神話学的にでっち上げて、もっともらしく語る「カノッサの屈辱」的なことをもっと緻密にやることできるよ、という人もいるかもしれません(※いても、あほらしすぎるからやらないか…)。




そして、基ネタとなった、民俗学研究者は主人公のふたつの漫画。
知っている人は懐かしく回顧していただき、知らない人は「ん?なんだろう」と興味を持って、そして何人かは手にとってもらえればさいわい。
(逆効果だろ)

思い出した!!なんでこの二大民俗学者ラノベ・テンプレを結んだかといえば、この擬似民俗学ネタがあったからだ!!

ちらっと断片のツイートを見て、無意識に思い出していたんだな。
いまはtogetterになっていた。

妖怪ハンター稗田礼二郎のフィールド・ノートより〜「ガルパンさん」 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/920734
 
ガルパンさんに関する記述 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/923305




あと、これがあったから、脳内で諸星大二郎ブームが来てたのか…