この前の
「ピラミッドからきちんと知識を積み上げてけば、人類は火星にも行けたはず。どこかで『伝承失敗』があった」 -http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150823/p4
に多数のご反響、ありがとうございました。
で、この記事の中でこういうのを書いた。
……「特許制度」にくわえて、本当に「学会」というものを考えた人はえらかった…
(略)
自分は江戸時代にタイムスリップしたら、脚気治療の名医として活躍しつつ(「米ぬか食え」でOK)、お殿様に説いて江戸の都に「特許庁」と「将軍立学会」を設立し、その事務局の仕事で食っていきたいと思っている。
この「もし自分がタイムスリップしたら何の技術を見せられるか」問題は、以前から考察している(笑)のだけれど、
村上もとか「仁−JIN」から〜 さて私たちはタイムスリップしたとき何の技術を見せられるか? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110421/p2
さすがに上の「江戸時代に特許制度を作る」というのは自分のオリジナルな発想だと思っていた。自分の独創性への自信というより、さすがにいくら文明論とはいえ、枝葉すぎんだろ、という自信がある(笑)。
ところが、この記事のブクマにですね。
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/gryphon/20150823/p4
id:tomo31415926563
いい記事だな。タイムスリップした人が、まず特許庁作るのは、マーク・トゥエインの「アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー」でやってる。曰く「特許制度のない国はカニと同じで後ろか横にしか進めない」そうだ。
えええええええ!!
アオイホノオの焔燃だったら、大ゴマで言われてるところだよ!!
「それはすでに、マーク・トウェインにやられちゃったんだよ!!!!」
実は自分が興味を持ってる分野をうろちょろしていると、マーク・トウェインのこの作品名が出てくるのよ。
近代兵器 vs怪獣、vs魔法などをフィクションで描く時、その強弱をどう設定するか? - Togetterまとめ http://togetter.com/li/827038
名無し岩手県民(鯨美味い) @iwatekenmin01 2015-06-08 00:19:05
このての小説で一番古いのはマーク・トウェインの『アーサー王宮廷のヤンキー』ですね。内容は…19世紀のさえない技術職のおっさんがアーサー王時代イギリスになぜかタイムスリップして近代文明起こすって内容だったりします。
「パターンの父」としてのトウェインに、ウェルズ以上のリスペクトを…(?)
この作品を自分が知ったのは、SFの歴史や名作の子供向け紹介本。
で、時間旅行の概念の紹介として…だいたいH・G・ウェルズの「タイムマシン」を起源として、「その前にマーク・トウェインがアーサー王…という作品を描いていたが、残念ながら機械で行くというアイデアではなかった。偶然で行くという話だった」みたいな”前史”扱いだった。
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しかし、よく考えたら「機械で過去や未来に自由に行く」というアイデアと「天変地異的な偶然で過去や未来に行く」は互角のアイデアであり「タイムマシン」と「タイムスリップ」は、実際、後世に受け継いだ作品の数では互角ではないか。
それに、H・G・ウエルズの「タイムマシン」は、結局最終的には「怪物のいる異世界の冒険物語」であって…
「過去に飛んで、実際の歴史上の偉人や事件に遭遇する」
「近代の知識や技術で、その時代を発展させる。そしてそれは、歴史を変えてしまうかもしれない」
みたいな趣向は、むしろマーク・トウェインが栄光を受けるべきではないか。
そして「時間ものSF」全体の功績を集計すれば、ウェルズ<トウェインとなるような気がする…まあ「ともに偉大な功績をそんな比較級で語るなよ」と言われれば一言も無いけど(笑)
それに「AとBが偶然にも、肉親や周囲の世話係ですらまったく見分けがつかないほどそっくり!!それを利用して、入れ替わって…」という、この王道パターンも作ったわけだからな。
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3つも邦訳がある。 どの訳がいいんだろう?
自分の記憶でいうと、90年代前半に、創元SF文庫が大規模な「復刊フェア」をやったことがあり、この作品はヴェルヌやウエルズ、ドイルのラインナップとともに、これが復刊されているのを店頭で目にしたことがあった。たしかモノクロの精密画みたいなので、その復刊は統一されていたんだっけ。ああ「勇将ジェラール」もあった。
そのとき、
「ああ、最近はこれも復刊したのか。ちょっと興味があるけど、まあ後に機会があれば入手しよう」と思ってほったらかしてしまった。それは上に書いたように、自分が読んだSFガイドでじゃ「前史」的な扱いだったことが大きい(笑)
惜しいことをした。今では普通に入手できる…かな?
一部は絶版、一部は発売中だった。3種類ほど翻訳が出ている??
コネチカット生まれのちゃきちゃきのヤンキー、ハンクが昏倒から目を覚ますと、そこは中世円卓の騎士たちの時代だった!科学の知識で、魔術師マーリンに対抗し、石鹸や煙草作りに始まり、ついには新聞や電話網まで整備して、次第にお人好しのアーサー王の側近として地位を固めていくが…。奇想天外なストーリーでSF小説の元祖とも呼ばれ、ひとつの価値観に凝り固まる現代文明を痛烈に批判する幻の名作が改訂版で登場。トウェイン完訳コレクション アーサー王宮廷のヤンキー (角川文庫)
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こうあると、翻訳の比較や批評に一言あるひとから、どの訳がいいかを教えてほしいものだが、心当たりは無いのでしょうがない。手に入れやすさだと、たぶんカドカワだろうな。
まず、ジャンルの名称を統一するべえ
ブクマや過去記事から、候補を……
「歴史改変もの」
「異世界・文明チートもの」
「未来技術・未来知識チートもの」
「文明無双もの」
「俺TUEE異世界ファンタジー」
「オーバーテクノロジー持込みもの」
「文化英雄もの」
「文明持ち込み異世界もの」
「内政チート」
(追加)
↑
ここに、寄せられた情報を追記します。
平田朋義
@tomo3141592653
@gryphonjapan 文明持ち込み異世界ものは、最近だと内政チートという単語がよく使われていますね。http://yomou.syosetu.com/search.php?word=%E5%86%85%E6%94%BF%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%88 …
「内政チート」は、投稿小説のサイトで、分類として使われている、と。なるほど。
うーん…、どれも帯に短したすきに長し、だな。
たとえば「異能バトルもの」みたいなビシィ!!とした統一用語は難しい…かな?
上のようなジャンルを呼ぶ用語が緩やかに並存して、そして要は、こういう用語を目にすれば「ああ、アレね、アレのことね」と分かればいいんだよ(笑)。
そしてつづく。
「啓蒙、建国、文明化」…の持つ危険な魅力…「植民地の良識的啓蒙者」にも似たそれは。
「ゲート」
「ドリフターズ」
「まおゆう」
…などなどの、そういうジャンル…今回、マーク・トウェインさんを開祖として崇めることになるだろうそのジャンルを見ると、いろいろと考えることがある。
ぼくは文明や科学や近代思想を知っている。
周りはそれを知らない”未開の地”。
ぼくはその知識で大活躍!!みんなは感謝、そこは発展しました…
というストーリーは、恋愛ものやスポ根ものの「王道」のように、やはり何かの快感をもたらす、黄金のパターンのひとつのようなんだ。
例によって、本編はろくに見てないのにいうのも何だが(笑)「まおゆう」のこのOPで、町が発展し、畑に収穫が実っていくさまは、やはり心地よいものを感じさせる何かがある。
そしてそれは、確かに「植民地的」でもある。
今も、読まれている海外文学で、そのパターンが近代のエンターテイメントにも直に受け継がれていく…というか、今読んでも本当に違和感がないエンタメ系の読み物って、なんだかんだと近代以降の欧州なんじゃないか、という気がする。
そこから生まれたものだから、無反省なほどに上から「あー俺たち未開の地を指導して発展させたー、よいことしたなー」っていう心地よさを描写することもさもありましょう。
それをおそらく、ある部分で受けついでいるあの作品を
『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』と植民地支配の娯楽性 - 法華狼の日記 (id:hokke-ookami) http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20150817/1439873147
と、「植民地支配の娯楽性」というのは、まったく的確だと思う。
だけど、とつなげるか、だから、とつなげるか…
自分はここに、ブクマをこうつけた。
「成功した植民地支配」が基盤にある物語は一種の名君・賢王・征服王、あるいは宣教師の物語が基盤にあって、そしてその成功例はたとえば「ドリトル先生」なのだと思う。
おそらく、自分が、さっき箇条書きした
ぼくは文明や科学や近代思想を知っている。
周りはそれを知らない”未開の地”。
ぼくはその知識で大活躍!!みんなは感謝、そこは発展しました…
という物語に接したのは、この「ドリトル先生」じゃないのかなあ、と回想する。
その批判がとくに当てはまるシリーズと、その要素が薄いシリーズとあるけど、前者の要素が強いのは
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などです。アスキー新訳版もあるが、ここは井伏鱒二先生に敬意を表し岩波を優先。
しかし、そちらの版もイラストの斬新解釈が一見の価値有り(笑)
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しかし、そこに立ち込める植民地主義のにおいは消しようがなくとも、この物語がとてつもなく面白く、夢があり、広くこれからの子ども達に読んでほしいものであることもまた事実なのだす。一点の曇りも無く、そう言えると思う。
この時代の「日の没することなき帝国」や「明白なる運命」を自認した西洋近代は、天然痘撲滅、コレラ予防、教育、製鋼、航海術、開拓、高等教育……と、たとえば極東の島国でも、多くの人々の営みと共に、確かに成果をあげた。
そこに冷徹な国益や金銭的利害、名誉欲などが絡んでいたとしても、個々の人間が勲章を貰い、その膨大な報酬で故国に建てた大邸宅で、孫を相手に話す青春の回想は、おそらく上の「文明チートetc」と呼ばれるジャンルの話にかなり味わいが近いものだったのではないか。
それが変形し、舞台をかえ、今のSFで描かれたそういうジャンルになっていたのではないか。
それでチートされる側の末裔である当方も、その史観には鼻白む部分もあるが、全面否定することもない。功罪を含めて歴史として受容すればいいだろう。
でだ。
さらに、そもそもでいえば、このような話は「民主化」や「人民の前衛」の物語としても結構あるパターンなんだよねえ(笑)。
「封建主義的」な地域で、近代的な人々…例えば教師や医者が奮闘する、みたいなもろもろ。
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なんでも、ハーレクインロマンスの世界でも、「強引で傲慢で、美形(笑)の”アラブの王子様”が、近代国家のフツーの女性とのロマンスの中で女性の権利や尊重を学び・・・」というのが定番のひとつでもあるそうだ。
郊外デッドクルージング http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20091106
…とくにハーレクインの極みといわれているのが「シーク」ジャンルで、
ヒロインが異国を旅して(ツアコンや客室乗務員などの職業についている場合もある)大金持ちの王子様と出会う
異なる価値観(主に男尊女卑)の持ち主である王子様と、ときには衝突しながら距離を縮めていく
やがて二人は、数々の障害を乗り越え、結ばれる
というもの。その根底にある、イスラム教に対する偏見というか、勘違いしたオリエンタリズムは……
明治元年に「帝国主義」を教えた文明チートが、昭和20年代に「民主主義」を教える文明チートになったという。教えられる側の子孫たるわれわれも、その受容をどうすべきかは明治と同様でいいだろう。
つまりだ。
結論からいうと、「植民地の近代化」でも「旧ファシズム国家の民主化」でも、いいけど、そもそも「啓蒙、指導」は快楽が得られるのだということなんだろう。
昔聞いた言葉だが、「教育者は、魂の彫刻家である」という言葉があった(某サンボ選手兼教師の座右の銘だとか)。
いい言葉ではあるが、ここに何がしかの傲慢さを感じるのもまた自然な感覚だと思う。
教育者、先生のドラマやマンガは、その心地よさの疑似体験でもあるのだ。
ならば、文明や政治体制に関しても「啓蒙によって遅れたところを善導し、進歩させ、感謝と尊敬を得る」ということを描く物語は、今後も普遍性をもって語られ続けるだろう。そして、現実世界では情報化が進み、基本的に近代思想も近代科学も普及したから、むかしの「黒船」や「大航海」のように、どーんと相手がゼロの状態でぶつける、という話は書きようが無い。
ならばその代償行為として、「異世界での文明チート、文明無双」な物語は当然、SFやファンタジーとして描かれていくことが多いだろうな…と思う次第です。
おお、なんとか結論ぽいものになった。
今後も多少はこの記事に手を加えていきたいと思うけど、とりあえず了。
番外おまけ 過去のtwitterでの談議
こんなの見つかった
https://twitter.com/gryphonjapan/status/533243479841705984
@prime @prime46502218 11月14日
20世紀前半までの探検小説では、たいていアフリカかアマゾン奥地が舞台で、原住民はアンクル・トムか、異常に凶暴な人喰人種しか出てこないんだけど、
あれ、白人主観では紛れもない真実やったんやろうなあ。
コナン・ドイルの『失われた世界』、ターザン、ジャングルブック、ドリトル先生など。
gryphonjapan@gryphonjapan
そういう未開の人々を敵ではなく啓蒙の対象として、自分が偉大な建国者となる。…というパターンは誰が作ったのだろうか。ドリトル先生が鳥を使って郵便局を創るとか異様に面白いし。今のファンタジーでも「建国もの」多いらしいし。 @prime46502218
@prime @prime46502218 11月14日
@gryphonjapan どうでしょうか。わりと男の子の夢みたいなところがありそうですし。
19世紀末にはもう『アーサー王宮廷のヤンキー』があったし。
18世紀の『ロビンソン・クルーソー』も、建国要素があったと思いますし。
もっとさかのぼれば、ローマ帝国の建国神話も…。
MURAJI @murajidash 11月14日
@prime46502218 @gryphonjapan 実際に白人探検家が王国建国してしまったのは19世紀にジェームス・ブルックが建国したサラワク王国ですね。WW2直後にマレーシアに吸収されましたが下手すると現在でも続いていた可能性あります。国王の血統も残ってますし
@prime @prime46502218 11月14日
@murajidash @gryphonjapan カーツ大佐(とそのモデル)も王ですよね。
あと、こんな奇人たちも。
アラウカニア・パタゴニア王国 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%BF%E3%82%B4%E3%83%8B%E3%82%A2%E7%8E%8B%E5%9B%BD …
ウィリアム・ウォーカー http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC …
MURAJI @murajidash 11月14日
@prime46502218 @gryphonjapan 日本の神武天皇だって九州から出てきた探検家がヤマトに王朝を作ったようなもんですw
@prime @prime46502218 11月14日
@murajidash @gryphonjapan 言われてみればそうかもw 征服してされては人類の宿痾なのかもねえw
gryphonjapan @gryphonjapan 11月14日
完全に武力で征服するだけじゃなく、地元生え抜きは「あいつが王?それぐらいなら俺がなる」「あの家とわしらは50年の仇敵じゃ、即位は認められん」となるので、それ位ならよそ者を王に担ごう…となるという説(王権論)を聞きました(笑)@prime46502218 @murajidash
MURAJI @murajidash 11月14日
@gryphonjapan @prime46502218 それは源氏や平家が武家の棟梁として土着できた理由として上げる人も居ますw>現地の人では収まらない
@prime @prime46502218 11月14日
@murajidash @gryphonjapan 肉を独り占めするイソップ童話の悪い狐みたいなイメージにw
コメント欄からいろいろと。
甕星亭主人 2015/08/25 19:04
然うだんだ。 コネチカット・ヤンキーと大江戸神仙伝のさり気ない引用と思ってた。 まあ、先端科学を極めたヤンキー君も原始呪術に敵わ無かった訳だけど。 因みに読んだのは創元文庫。 先行訳が入手出来ず待望の文庫化だった記憶が有る。 反権力反因習のペシミストで略唯物論者のトウェインは大好き。 不思議な少年(岩波文庫)が合成テキストと知った時は結構ショックだった。id:ujimusi 2015/08/26 02:14
ヤンキー話については開高健の「輝ける闇」で超的確な要約&書評が読めまう。
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菜々氏 2015/08/26 10:50
文明人が異世界で無双するといえば、ガリバー旅行記が早いのではないでしょうか。
小人国で巨人として活躍するだけでなく、急所の目を狙う小人の弓矢からメガネで目を守るなど、技術的にも遅れた小人国を文明の利器で圧倒する描写もありました。
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id:teketennteke 2015/08/27 06:59
>歴史改変あ、「刀語」というアニメを見たんですが、
未来を視ることが出来る刀鍛冶が、悲惨な未来が見えたってんで、
見えた未来の技術を使って常識を越えた刀を作り、未来を改変しようとした技術者がいました。
歴史改変って普通は過去を改変することですが、未来の改変も歴史改変ですね…。
あとリアルヨーロッパ近代の底力は、
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が面白いですよー。
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申す。
・まず「大江戸神仙伝」、いやこれも「脚気治療(予防)なら医者じゃない俺も簡単にビタミン食わせりゃオッケー!!このアイデア、すごくね?」と自分で思いついたつもりの話だったので、先行作の話を聞いて、やっぱりホノオ君状態…
「石川英輔!!俺だけは認めてやろう!!」(意味不明)
・ガリヴァ旅行記、そうそう、そのメガネのエピソードは子供のころ背伸びして全訳版(新潮文庫)を読んだ自分も覚えてる。「あ、巨人でも目に矢が当たればやばいんだ」というのと、その意外な解決策ということで印象に残ったんだな。全訳ガリヴァだと、子供向けの本でカットされてた「小人国におけるガリヴァーの排泄物処理」の描写なんかもあるんだよね。、むしろ子供が喜びそうな場面なのに(笑)
設定的にはちょっとだけ、当時の英国のほうが技術文明が進んでいるんだっけかな。
さらにそういえば、巨人国でガリバーは「ここではまだ発明されていない火薬の製法をお教えしましょう。これでこの国は覇権国家となります」と提案し、巨人国の賢王が「そんな恐ろしいものは不要だ」という場面がありましたね。
啓蒙・文明チートもののカウンターである「高貴な未開人が、技術文明の歪みを指摘する」の萌芽も、既にこの作品で出ていた、ということか。
・開高健の「輝ける闇」で、アーサー王のヤンキーが「ベトナムにおけるアメリカ」にそっくりだ、と引用されている、という話は、原文を読んだことはないのですが、どこかで聞いたことがありました。
検索してみましょう。
http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4827/1/r-ky_034_02_008.pdf
「アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー」は、マーク・トウェインの同名の寓話に基づいている。現代(19世紀)のアメリカからアーサー王時代のイギリスにタイム・スリップしたアメリカ人が、封建制を打破し、民主主義を導入することに成功するが、旧勢力によって殺されてしまうという物語である。あきらかにアゴネシアとダブらせた作り方であり、『輝ける闇』においても踏襲される。「私」はこのトウェインの小説を、最前線のアメリカの砦で読んでいる。
アメリカ兵とアゴネシア兵の格差、アゴネシア兵の窮状、アゴネシアのハー大佐の暮らしぶり、アメリカ兵がアゴネシア住民の敵意にさらされていること、砦の情報が敵側(アコミイ)に筒抜けであることが語られ…
・山本義隆…といえば東大全共闘を経て、科学史家になった人でしたね。
wikipedia:山本義隆
この作品にも出てくる「文明人が日食を応用して、”未開人”を騙すエピソード」について【創作系譜論】【日曜民俗学】
この記事を書くために、twitter内を作品名で検索したら
ヴァート @Yellow_Vurt 2015-08-23 09:54:39
マーク・トウェイン『アーサー王宮廷のヤンキー』でアーサー王期イングランドにタイムリープしたアメリカ人が、処刑台で絶体絶命になった際、皆既日食がこの日に起こることを思い出して「俺を殺すとこの世を滅ぼすぞ!」と難を逃れるエピソードがある。
朝日を呼び出した長渕はたぶん未来から来た。
というツイートがあったんですよ。
この挿話は、なんかよく使われてるなー、ひとつのお約束だなぁ、浸透しすぎてパロディにもなっているなあ…
と思ったら、「日曜民俗学者」「創作系譜論探偵」の出番だ!!
その成果は、ここにまとまりました。
【SF雑談2題】「日食を文明人が巧く使って、未開人を騙す」話の元ネタ /「日本分断もの」について - Togetterまとめ http://togetter.com/li/865395 @togetter_jpさんから
たしかにマーク・トウェインが元ネタっぽくはあるが、それに先んじた「実話」があったようです。それもとある超有名人が…
関連してこちらもどうぞ。
5月28日は「日食休戦記念日」。紀元前585年、オリエントのお話。 - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150526/p3
法華狼さんの記事を読んで(2015.8/30)
こちらの記事のリンク(TB)の縁で、関連した記事を書いていただいた。感謝感謝。
『アーサー王宮廷のヤンキー』では文明側の限界も描かれているし、技術だけで優越する物語でもない - 法華狼の日記 http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20150827/1440860053
そこから、つらつらと。
いや、さもあろうと思います。
自分が例示したたとえにも
「文明や科学や近代思想」「天然痘撲滅、コレラ予防、教育、製鋼、航海術」「啓蒙によって遅れたところを善導」
などのことばをちりばめている通り。
「文明チート」なら、技術だけじゃなく「ものの考え方、思想」のほうでもアドバンテージがあり、その部分も指導する…って場面が、むしろ出てこないほうが不自然ですわな。ドリフターズの場合は、その方向性があまりにも普遍性のない「島津的武士道」で、逆に突っ込まれたり呆れられたりするのが見どころなんだけど(笑)
「アーサー王」では、その近代アメリカ人がどの程度、民主的価値観を前面に押し出そうとしたのか?
(※リンクを二度飛ぶと、こういう紹介がある…「モーガンとアーサー王が下層の市民に成りすまして旅…圧政を布く征服者の目が開き、民衆の苦衷を知る」)
それとも、戦争と覇権に協力するような部分がやはり主なのか…、そこがどんな割合なのかは、もし読む機会あれば、そこに注目すると興味深そうです。
ただ、そこで
というのはこれはその二つを対、背反するようなものとして定義しておられるのかな。
それはどんなんだろう?
というのは自分は、進歩主義って植民地主義の対にあるというより、むしろある意味でその基盤(にもなり得る)というか…図解したほうが早いな。
こんなイメージなんだけど………たぶんこれは「進歩主義」という用語のイメージに先方とズレがあるのだろう。
だから、
そもそもでいえば、このような話は「民主化」や「人民の前衛」の物語としても結構ある
と書いたのだな、もとをただせば。
ちなみに「ゲート」で「進歩主義」な部分といえば……当方はアーサー王だけじゃなく、「GATE」のほうも、過去にhttp://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150729/p3とかで書いたように、基本的に小説や、放送中のアニメのほうはパスして、コミカライズ版を途中まで読んでるだけなんだけど(笑)……、たしか中世(異世界)的な常識なら、国家財政が傾いてもおかしくないような身代金に相当するだろう人数の捕虜を「わが国には身代金や奴隷制度はない」と無償で返還すると日本側が申し出て、相手が驚きつつ安堵するシーンがあったはずだ。
ただ、そのへんの「思想的、制度的に異世界よりこちらが進んでいる」という描写が、他の作品と比べて数や割合的に多いとか少ないとかより…、さらにもっと本質的な問題につながる。
それは「政治的に正しいGATE」に書き直すとして、やってきた異世界人が
「へえっ、女性が元老院議員にもなれるの?すごうい」
「なんと、この元老院は庶民すべてが一票を投じて選ぶのか!」
「へえ、元老院やジエイタイを批判する『ますこみ』があるの?」
うんぬんかんぬんと、「遅れた異世界人」が、完璧から程遠くもそれなりに現実にも機能している日本の<民主主義>や<自由、人権保障>の部分を賞賛するようなストーリーも、それはそれで結構鼻白む展開じゃないか?ということですね(笑)。(特に、ほかの部分―軍事面で自衛隊の軍規や装備、戦術の優位性が描かれる時に居心地の悪さを強く感じる層にはなおさら)
俺TUEEEや日本SUGEEEが、【民主主義SUGEEEE】に変化したとき、味わいはどう変わるのか、あるいはあんまり変わらないのか。
※そのへんで連想が大きくとぶけど映画「ゴジラ’84」では、小林桂樹 演じる日本国首相が、ゴジラ退治の名目で核を使おうとする米ソを「安全な核などない」「わが国には非核三原則がある」と押し留める役だったのだが、子供ゴコロに「日本の首相だけをあんまりかっこよく描きすぎて、いいのかな…」とちょっとばかり居心地悪く感じたのだから、まあ頭のいい子でしたぼくは(笑)。まあ、あれは今から思えばおもいっきり「ナショナリズム」の噴出だったなあ。米ソを向こうにして道を説くわれらが首相!!と。
あと最後に。
しいたげられた存在として奴隷を登場させ、それを解放する展開で主人公の正当化と仲間集めを同時にこなすのは、WEB小説のファンタジーでは定石といっていいくらい見かける。解放奴隷を主人公に依存させ、自由人の形式で便利にあつかう作品もあり、それは実質的に奴隷あつかいのままだと批判されることさえある。
へえ、そんなにパターン化してるのか…と驚いたのだが、80年代に1巻が発表され、ことしアニメで人気再燃?の「アルスラーン戦記」がそのまんまだなあ、と連想が繋がる。もっとも、時系列で考えれば、少なくとも日本ではこことかが火元になって、そういう潮流がアマチュアの投稿するWEB小説で有力になった、のほうがありそうであります。
また、「自由人になった元奴隷だが、元主人に心服しているので自由身分であっても変わらずに仕えている」という人物典型も、この作品にはそのまま存在している。ナルサスの従者エラム。
まあ、お話の中でも、一発で善悪の印象を固定させられるぐらい「奴隷」に悪のイメージがある、というのはいいことでありましょう。
「人間が奴隷になる話」―断片的な随想と雑感 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140602/p4
人間が、捕まえた命を解放して「いいことしたなー」と思う話(「人間が奴隷になる話」続編)。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140917/p2
ただこういうエラム的な人物造形が登場する理由のひとつは…結局のところ、「忠臣」の姿というのは、どんな近代的な物語でも、ある種の感動や快感を呼ぶ、やはり「普遍的な心地よさ」のひとつなんだろう…というのが以前書いた仮説であります。
森薫「シャーリー」2巻を読んで思った。『「忠臣」の姿を見る心地よさ』とはなんでしょう? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20141016/p4
「役職を失った男に、それでも部下や友人がついていく」という”おとぎばなし”について【創作系譜論】 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150218/p2
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そしてまた、長くなった長くなった……
【これに頂いたコメントを転載(※だから内容は下のコメント欄と同じです)】
id:hokke-ookami 2015/08/31 18:05
>>そもそもでいえば、このような話は「民主化」や「人民の前衛」の物語としても結構ある
>と書いたのだな、もとをただせば。その文章を素直に読んだので、『アーサー王宮廷のヤンキー』からして「民主化」や「人民の前衛」の側面があることをgryphonさんが認識できていないと解釈しました。
>というのはこれはその二つを対、背反するようなものとして定義しておられるのかな。
イコールでなければ背反するものというわけではないでしょう。
gryphonさんの定義を図示したものでも「進歩主義」かつ「非植民地主義」な状況はありえるわけで、それを「植民地主義というより、進歩主義の娯楽に位置づけるべき」と解釈することはできませんか?(Gryphon挿入 なるほど、分かりました。)
>たしか中世(異世界)的な常識なら、国家財政が傾いてもおかしくないような身代金に相当するだろう人数の捕虜を「わが国には身代金や奴隷制度はない」と無償で返還すると日本側が申し出て、相手が驚きつつ安堵するシーンがあったはずだ。
私のエントリで「交渉でとまどったり」と言及したところですね。
実際には「無償」ではなく交渉材料として使っています。むしろ捕虜を活用する展開は遅すぎたくらいだと思っています。(Gryphon挿入 本日、この該当巻=3巻が蔵書から見つかったのでそのコマを載せておきます。たしかに具体的にはいわない形で「何らかの譲歩を期待」と表明してますね。原作、アニメとの異同は不明。―ただ、自分から身代金や奴隷という選択を「無い」と表明するのは、やはり体制・システムの優位性描写に重点がある気もします。なぜなら本気で”別の形の譲歩”を求めるなら「身代金要求や捕虜の奴隷化もこちらの選択肢だが、敢えてそれをしない代わりに譲歩を求める」のほうが基本、効果的だから。むろん、そんな”非人道的”交渉は今度は野党などの批判を浴びるリスクなどもあり。)
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>「遅れた異世界人」が、完璧から程遠くもそれなりに現実にも機能しているも日本の<民主主義>や<自由、人権保障>の部分を賞賛するようなストーリーも、それはそれで結構鼻白む展開じゃないか?ということですね(笑)。
まさに『まおゆう魔王勇者』が一部から批判されていたポイントのひとつですね。
特に「完璧から程遠く」の自覚に欠けていたことがよく槍玉にあげられていました。まおゆう魔王勇者 (1) 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」
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念のため、私のエントリでは、民主主義への「賞賛」を『GATE』に求めてはいません。指摘したのはTVアニメ第8話に「評価」や「反応」がないことであり、私自身の例示における「高評価」は後の展開への踏み台です。自国の現状を進んだ文明として賞賛するだけの展開では、そこに必然的な展開や自覚的な構図がないと、物語としては安易で好めません。
なおエントリでは原作の展開に合流する例示にとどめましたが、個人的には「特地を日本領土と国際的に主張したため、特地住人に日本の選挙権があるという理屈が日本政府にのしかかっていく」なんて逆説も面白いかなと思います。
(Gryphon挿入 そんなショートショートが星新一?にあったような。)
>軍事面で自衛隊の軍規や装備、戦術の優位性が描かれる時に居心地の悪さを強く感じる層
うーん、そのような層はどれくらいいますかね。居心地の悪さを表明している層に対して、“自衛隊の優位性を描写されるのが不快なのだろう”という藁人形論法をつかう層はよく見かけますが。
私の観測範囲における居心地悪い思いをしている層は、優位である時にどのような行動を選ぶのか、そしてその行動がどのように位置づけられているのかを重点的に見ているように思います。
(Gryphon挿入 そういえば、そもそも最初に「ゲート」の話を聞いて(聞いただけ)エントリーをこしらえたとき(※異世界に圧勝した)このとき、お話の中での日本はエゴイズムたっぷりに振る舞うのか、それともかっこよく振る舞うのか。魔界の種族への人権は認められるのか。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140422/p5…と、こう書いたんだっけ。)
>80年代に1巻が発表され、ことしアニメで人気再燃?の「アルスラーン戦記」がそのまんまだなあ、と連想が繋がる。
私は『アルスラーン戦記』は新旧アニメしか見ていませんが、その数年前に『シュナの旅』が出版されています。
宮崎駿監督によるこの絵物語では、安易な解放に批判的な描写を入れるという段階をふんでから奴隷制を批判しています。漫画化においてオリジナル描写が増えているらしいTV版『アルスラーン戦記』も、主人公側が奴隷制をしいているという構造は小説通りのようです。
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奴隷解放を賞揚する物語はずっと古くからあると考えるべきでしょう。むしろ1980年代の時点で、奴隷解放で奴隷の主体を奪う問題意識が著名作品に描かれていることに注目するべきかと(さらにさかのぼることもできるでしょうけど)(Gryphon挿入 「アルスラーン」でも、自分に危害を加えようとする城主を倒したついでにそこの奴隷を解放しようとしたら、その城主は奴隷には「優しい、いい城主」だったためにむしろ奴隷は城主の仇を討とうと王子を襲う…という挿話がありましたね(原作由来))
2017年4月採録
そういや以前もちょっと書いたけど、アーサー王時代のまま文明が止まった島に現代アメリカ人の教授親子が漂着して無双する『幸福の島』(1882年)という、『アーサー王宮廷のヤンキー』(1889年)の元ネタになった話があるんだよ。
— カスガ (@kasuga391) 2017年4月15日
私がこの小説で一番好きな場面は、愛しあう騎士と姫のために教授が電話を引いてやる場面でもなく、悪役の騎士が教授の作った蒸気船を調べようとして自爆する場面でもなく、王から近代技術を教えてくれと強引に頼まれた教授が社会学の講義を始め、聴衆が全員眠り込んだ隙に逃げ出す場面だ。
— カスガ (@kasuga391) 2017年4月15日
※【創作系譜論】は準タグです。
これで日記内を検索すると「キャラクターやエピソードの歴史を探す」というネタの記事が多数出てきます。