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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

脳震盪とスポーツ。未知の領域だった【脳震盪】の知見が重なると、格闘技は禁止になる未来があるかも…

羽生選手に「感動」するだけでよいのか? 誤ったスポーツ観が選手「生命」を奪う 脳震盪後、1日は安静に
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryouchida/20141109-00040588/

羽生選手の姿に「感動」の問題点
この週末(11/8-9)、スポーツ医学の中核を担う「日本臨床スポーツ医学会」の学術集会が東京で開かれている。脳震盪(のうしんとう)に関する調査研究がいくつも発表され、日本のスポーツ界において、脳震盪への対応が喫緊の課題であることを感じさせてくれる。
まさにその最中に、羽生結弦選手の事故が起きた。それは端的にいうと、(脳震盪であったとすれば)その事後対応は、多くのスポーツドクターが目を疑う光景であったといってよい。
(略)

「魔法の水」の時代はもう終わった

「魔法の水」という言葉をご存じだろうか。ラグビーの試合中に選手が脳震盪で倒れたときに、ヤカンに入れた水(=魔法の水)を選手の顔にかける。選手は水の刺激で気を取り戻し、競技に復帰する。観客はそれを、拍手でもってたたえる。
いま、プロの公式戦でそのような姿をみることはなくなった。なぜなら、脳震盪の症状があらわれた場合には、試合を続行してはならないという考えがスポーツ医学の常識となったからである。「魔法の水」の時代は、もう終わったのである。
(略)
仮に羽生選手が脳震盪であったとすれば、羽生選手は、医師の管理下にあったと考えられるため、それでも「受傷後最低24時間」は安静にすべきだったということになる。…(略)…そのことは個別の問題として置いておくとしても、どうしても気がかりなことがある。それは、脳震盪に対する関心の低さと、脳震盪(の疑い)を乗り越える姿が美談化される日本のスポーツ文化である

自分はフィギュアをぜんぜん見ないので、リアルタイムにこの件は見ておらず、今朝、追体験的にtwitterなどでの議論を見ています。

あ、いまサンデーモーニングで映像を見た。
これはきついな…
ご無事であることをお祈り申し上げます。


脳震盪の時に「もうその後は試合、ゲーム復帰はNG、アウトね。安静」という措置になっているのはその通りであります。そしてこれは医学の進歩によって脳震盪の研究が進んできたための変化のひとつであって、まだ古い知見、感覚の人もいるのですな。
まず周知が必要でしょう。

なにしろ、あの「古い根性論とはまた違った、合理性ある努力」をひとつのテーマとして描き、「寝技練習で絞められても我慢をし続け、けっきょく落ち癖がついて試合に負ける」馬鹿馬鹿しさや「ギョーザ耳になる前に治療しようよ。いまどき耳ぐらいで、なんて感覚のほうがおかしい」ということもちゃんと描いていた「帯をギュッとね!」でも、脳震盪気味に気を失った選手がそのまま猛稽古に復帰するシーンを肯定的に描いているのだ(だよね?ちょと記憶が曖昧だけど…ラスボス的なライバル校だったかな)


ただ。
そういうふうに医学が進歩し、リスクについての対応が発展するのはいいことだが……。

繰り返すが、昭和も平成の初期も、「脳震盪」にはまだ未知の領域が多かった。
近年、研究が進んだ。

その結果……

スポーツでは脳震盪を含む脳損傷が、「くり返される」可能性が高いということである。
交通事故をたびたび繰り返す人はそういないが、スポーツの脳損傷はくり返される。そしてそうした脳へのダメージのくり返しが、致命傷になりうることがこの数年、脳神経外科医の間ではもっとも重大な関心事となっている。
しかも恐ろしいのは、脳へのダメージがくり返されるときには、2回目以降の脳への衝撃がそれほど大きくなくても、致命傷になりうるというのである

この話はアメリカで先行している。
なぜかというと…OMASUKI FIGHTサイトで知ったのだが、アメフトではいま、元プロ選手が後遺症の責任があるとして、アメフトのプロリーグを集団で訴訟しているのだ。
もちろん巨額の金が動きかねない事態なので、攻める側も守る側も膨大な資金を用意し、一流中の一流の法律家&医者を動員、結果として最新の知見がどんどん蓄積され、公開されている…というわけだ。

2011年にその記事を書いていた(OMASUKIが元)

「KO(脳震盪)の後遺症で病気が発生する」という説が、アメフトと格闘技に与える影響は - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110728/p2

また繰り返す。
いままで「脳震盪が、その後に与えていく影響」についてのファクトやエビデンスが医学界、科学界にはっきりあったわけじゃなかった。
そうすると、脳震盪というのは、いったん起きたあとは影響があるかなんてよくわかんない。見た目、的にはふつうに元に戻っているかのように見える、これはまた自然で合理的ではあったろう。

ただ、もし脳震盪のリスクにファクトとエビデンスが蓄積されていき…ひとつの有力な可能性として「脳震盪のダメージは蓄積されるもので、リセットされるものではない」というふうに確定していったら……。


そのとき、「偶然練習中にぶつかって脳震盪」、とかのフィギュアとは違った、いわゆるコンタクトスポーツ……しかも、意識的に相手に脳震盪を起こすことがひとつの勝利の体系でもある打撃系格闘技、「投げ」で頭を打つリスクが高い柔道、レスリング、相撲、接触プレーが統計的に脳震盪を起こしているラグビーフットボール、スポーツとは違うパフォーマンスとはいえ、頭部を含む肉体に1トンからの衝撃がかかるプロレス……などに関しては「競技」それ自体を問われる可能性が出てくる可能性はなしとしない。


20年後にタイムスリップしたら「脳震盪危険スポーツ」として、上の競技が全面禁止になっているの、かもしれない。
それは科学だ、しかたない。
格闘技を愛好し、ブログもやってきた当方であるが、そういう流れになる可能性もある、ことは認識しとかなきゃいけないと思っている。
 
ただ、その時は今後の脳震盪研究の発展と同時に、いままでも何度もボクシングが例示されて議論されてきた「愚行権」の論議も再度行うことにならねばならないのではないか。