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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

高校の柔道、ラグビーなどは「脳震盪選手は出場できない」よう定まってたらしい。好ましい変化。

柔道漫画で、おそらく「YAWARA!」以来のアニメ化が決まっている「もういっぽん!」現在の雑誌連載では、インターハイなどと並ぶ「金鷲旗」大会を描いている。
柔道部物語でも途中、この大会が描かれたが最後では、「この部は金鷲旗も制覇し…」とナレ死ならぬナレ優勝をしていたな(笑)

それはともかく、激闘の末に主人公のチームは3回戦を勝ち上がったが、一人がこうなった。

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もういっぽん! 今の高校柔道では脳震盪選手はしばらく試合ができない

へえ!いまはそうなっているのか。
資料を探す……

http://judo.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/anzen-shido-2020-5.pdf
重要なのでまるっと引用しよう。

⑷ 脳しんとう後の競技復帰
 医師の診察で「脳しんとう」と診断された場合には、その日は練習や試合に復帰してはいけません。精神的・肉体的な安静を十分にとります。
 子どもや若年者の脳しんとうは、長引くことがあります。また、一度脳しんとうを起こすと、2 回目の脳しんとうを起こす危険性が高まります。脳しんとうを繰り返すことで重症化する危険もあります。
 したがって自覚的・他覚的症状の消失後に段階的競技復帰手順(表 1)を用いて、各段階を24 時間以上かけて慎重に復帰します。これはすべてのスポーツで脳しんとうに共通して国際的に用いられているものですが、2016 年の国際スポーツ脳しんとう会議で少し変更され、段階 1 が「活動なし」から、「症状が悪化しない程度の活動」となりました。したがって日常生活はこれまでどおり送れますが、柔道は見学程度にしましょう。
 段階 2 は歩行や自転車など軽い有酸素運動、段階 3 は頭に衝撃や回転が加わらない程度のランニング、腕立て伏せや腹筋、背筋などの補強運動、一人打ち込みなどとし、段階 4 は接触のない受け身(前回り受け身含む)、補強運動、打ち込み、寝技など徐々に練習に精神的・肉体的負荷を加えます。もちろん各段階の経過中に症状が出れば安静とし、症状が消失したら一つ前の段階から再開します。段階 4 まで進んだ後に症状がなければ、医師の診察を受け、さらに段階 5 へ進むことが可能かどうかのチェックを受けます。
 頭部画像検査で異常がなくても、自覚症状があれば、指導者は練習復帰を許可してはいけません。段階 5 では投げ込み・約束練習、乱取りなど接触を伴う練習に参加させます。指導者は脳しんとうを受けた競技者の受け身の取り方、技の攻防における技術、練習態度や心の持ち方などに問題点はない、試合に参加可能かなどの判断を行います。可能と判断すれば、段階 6 で練習試合などを経て公式の試合に参加を許可します。

うーむ、まことに立派な指針だ。だが、これだとおそらく、トーナメント中に脳震盪を起こしたら、もう最後まで復帰できないみたいだね…。

そして漫画じゃなくてリアルでも、実際にラグビー…昨日花園で優勝高校が決まったが、その準優勝チームでも発生したらしい。キャプテンは、夢の全国出場時間が「計10分」だったという。

「誇りに思う」 主将の矜持最後まで 国学栃木・脳震とうで出場停止の白石 全国高校ラグビー

……約1年前の部員投票で、チームメートから満票で選ばれて主将に。吉岡肇(よしおかはじめ)監督に「うちの大黒柱」と言わしめるほど、厚い信頼を寄せられていた。

 しかし、花園は悔し涙のスタートとなった。初戦の松山聖陵(愛媛)戦の前半13分、タックルの際に味方と頭部がぶつかり、負傷退場。脳振とうと診断され、大会規定により全試合の出場停止が決まった。最初で最後の花園は約10分で“閉幕”。
(略)
それでも「チームの命はまだ続いている」と、主将としての矜持(きょうじ)が前を向かせた。練習では指導役に回り、試合中はベンチから仲間たちを何度も鼓舞。「和輝を日本一の主将にする」。チームメートたちも主将の不在をばねに一致団結し、快進撃を続けた。
news.yahoo.co.jp


「健康を増進し、けがを防ぐのが普通のスポーツ。しかしチャンピオンスポーツは、けがのあるところからどうするかでしょう!」みたいな議論も一方である(けっこうなOBから出るんだよ…)のに、こうやって決めたのはやはり英断だ。
たぶんこの横断的な感じだと、文科省厚労省か、そういう国のしかるべきところから指示が来たんじゃないだろうかと思う。勝手に推測だけでいうけど、担当のお役人GJ。


実は「脳震盪」は、格闘技にも深く関係する話題として、ほぼ10年ぐらい前からトピックが挙がっていた。
これを追っていたのは「OMASUKIFIGHT」なのだが痛恨の、サイトごと過去記事消滅!…なので、うちのただの引用記事がいまや貴重な資料だ……

Yahoo! Sports によると、75名の元NFLの選手が今週、脳震盪の悪影響について情報を隠蔽していたとして、米NFLに対する訴訟を起こした。NFLでは長年にわたり、脳震盪が負傷を悪化させたり、影響が蓄積することはないと主張していたが、昨年になって、認知症や記憶喪失などの症状につながりうることを認めていた。

フットボール界にとっては「パンドラの箱」を明けてしまったと報じる向きもある。

もし原告に有利な判決が出れば、MMA選手にとっても無関係では・・・(略)
m-dojo.hatenadiary.com

21世紀すぎぐらいに、脳震盪に関して新たな知見が加わり「悪影響は意外なほど大きい」とされて、大事をとるようになったのだ。特に復帰までの時間について。


そもそも、最初に「もういっぽん!」について触れたが、まだ20世紀の作品であった「帯をギュッとね!」では後半のライバル校のライバル描写で、練習中に脳震盪を起こした選手が意識を取り戻すと、すぐに「やれます!」と練習に復帰、それを監督が「いい根性している!」と頼もしく思う…という場面がありましてね。

まあ、30年前になろうかという時代に描かれた作品から、スポーツ医学の知見が進歩していなかったら困るんだけど、
それでも、脳震盪の選手が以降、欠場になるということが当たり前に発生し、当たり前に物語にも描かれるとすればいいことだ(もちろん、そういう事態の発生を防げればそれに越したことはない)

以降、もういっぽん!では4人での戦いになる。
そこからドラマを作れればいい。

「魔法の水」という言葉をご存じだろうか。ラグビーの試合中に選手が脳震盪で倒れたときに、ヤカンに入れた水(=魔法の水)を選手の顔にかける。選手は水の刺激で気を取り戻し、競技に復帰する。観客はそれを、拍手でもってたたえる。
いま、プロの公式戦でそのような姿をみることはなくなった。なぜなら、脳震盪の症状があらわれた場合には、試合を続行してはならないという考えがスポーツ医学の常識となったからである。「魔法の水」の時代は、もう終わったのである。
(略)
仮に羽生選手が脳震盪であったとすれば、羽生選手は、医師の管理下にあったと考えられるため、それでも「受傷後最低24時間」は安静にすべきだったということになる。…(略)…そのことは個別の問題として置いておくとしても、どうしても気がかりなことがある。それは、脳震盪に対する関心の低さと、脳震盪(の疑い)を乗り越える姿が美談化される日本のスポーツ文化である

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