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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「空気読め」の同調圧力が高まると「試合で出来ない技が道場で決まりまくる」という話(骨法でも柔道、柔術でも)

紙版が10号程度発行されたが、現在は発行されておらず、そのままネットメディアに移行した「Dropkick」という格闘技・プロレスムックがあります。編集者や執筆陣は「kamipro紙のプロレス)」の流れを汲んでいる、というと分かりやすいかもしれません。
http://ch.nicovideo.jp/dropkick

発祥から約20年、日本で地上波放送などのブームが巻き起こったのが約15〜10年前だった「PRIDE」「HERO'S」を筆頭とする「総合格闘技MMA= Mixed martial Arts)」は現在その地上波放送も終わり、一時のブームは終わりました。もちろん全国にジムができたり、大会に出場する選手自体は大幅に増加するなどの遺産もありますが…

そんな中で、Dropkickサイトは現在「総合格闘技が生まれた時代」の証言集を始めている。

【非会員でも購入可能!総合格闘技が生まれた時代シリーズ】
中井祐樹「ボクシングができるアントニオ猪木が理想でした」
朝日昇「本当に怖い昭和格闘技」
菊田早苗「新日本は刑務所、Uインターは収容所でした」
矢野卓見堀辺正史を語る「骨法は俺の青春でした」
・【元レフェリーの衝撃告白】「私はPRIDEで不正行為を指示されました……」
・【小比類巻貴之「ミスターストイックのキャラは正直、しんどかったです」


これは、「現在のMMAを語るより、人気があった時代を振り返るほうが反響が大きいから」という後ろ向きな理由もまちがいなくあるでしょう(笑)。
しかし、1DECADE、2DECADE−−「ひと昔、ふた昔」がすぎ、実際に当事者が語れるようになったことが大きい。
そのタイミングで聞いてみた。
貴重なエピソードを聞いた。
まとめてみた。

というのは、間違いなく貴重な仕事である。この業界なので?辛らつな個人批判や暴露のようなものも含まれるが
「これをやって何になる?」
という問いには
「歴史になる」
と答えれば十分であろう。実際にここで語ってもらった証言はどれも極上の興味深いエンターテインメントであると同時に、第一級のオーラル・ヒストリー資料足りえる。
(…まぁ本当に専門的なオーラルヒストリーの採録はまたちょっと技法が違っていて、そちらのほうの研究で本当に今後MMAの創世記が取り上げられればいいなぁ、とも思うのだが。)
ロングインタビューを重視したちっちゃういころからの「紙プロ」の影響を受けた運動としても、歴代で最高に近いものとからいえそうだし、ちと早いが「ブラックアイ」2014年の賞のメディア部門も狙えるだろう……というか、紙の書籍化は考えないのけ?


本題。「道場における空気の研究」

最初に長々とサイトおよび企画の紹介をしたのは、この記事を当ブログで、格闘技以外の記事を読みに来る人にも読んでほしいからだ。
いや、その準備は不要だったかもしれない。これから取り上げる「骨法」の話は、どうも自分が思っている以上に一般社会に訴求力があるっぽいんだよ(笑)

ヤノタク まあ、そこまで骨法に興味がある人間がいるのかって話ですけど(笑)。
 
――ところがこないだ無料公開した前半部分は5万人が読んでるんですよ!(笑)。
 
ヤノタク へー! やっぱり真実は人間の心を打つんですねぇ……

このご時勢、格闘技のネット記事に5万人のビュー(ユニークユーザー?)があるなんて例はめったにないんとちゃう?あるなら教えてほしいけど。
実のところ、骨法は実際のMMAが始まる前のブームとピークであり、実際にMMAが始まったときは「勝てなかった」という理由でフェードアウトしていった、ある意味健全な自浄作用というべきかもしれない(笑)
しかしその前は週刊プロレス格闘技通信、ゴング、さらには少年サンデー(闘翔ボーイ)から永井豪、ついでにビートたけしスーパージョッキーまで取り込んだ一大展開をしていた。
当時、京都にいたとある青年は、「今上天皇が即位される大嘗祭のときの重点警備で職質を受け、持ち物を検査された際にたまたま骨法のビデオが入っていて、職質の警官もそれを知っていて『おお、骨法!』と盛り上がった」---なる体験談を語っている。


メインのインタビューはすでに行われて、大反響を呼んだ。
ヤノタク」こと矢野卓見は元骨法門下生だが、のちに破門というか骨法を離れて自分流の技術を確立させ、格闘技界で活躍。
何度も真剣勝負のMMAグラップリングを戦い実績を収める一方で、「エセ骨法」を名乗ったり、骨法の代表・堀辺正史氏のTシャツを着たり、骨法のテーマを入場曲に使ったりとさまざまに挑発をするという面白いことをした人です。


体験談の骨子はゴン格などで既に語っていたけど、文字数の制限がない分、当時の心の動きやディテールをさらに詳しく説明。僕は始まったときから「インタビュー・オブ・ザ・イヤー」だと言っていました

矢野卓見、骨法と堀辺師範を語る!「佐村河内氏と堀辺氏は共通点があるのではないか(Dropkickサイト)

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140319/p2

今回のインタビューは

【骨法再発見】ヤノタク再び堀辺正史を語る――「先生も知らない骨法の秘密」
http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar521975 #blomaga

――今日は前回聞けなかった骨法退会後のお話をうかがいます。
ヤノタク いやいや、骨法の話はまだ終わってないですよ!
――えっ、あのインタビューで“骨法完成”してなかったんですか!
ヤノタク これ読みました?(BUBKAを差し出して)。先月号なんですけど……堀辺師範がインタビューを受けてるんですよ。
――あ、そうみたいですね。ここに来て骨法ブーム再び(笑)。
ヤノタク この記事のことは知らなかったんですけど、こないだラジオを聞いていたら吉田豪がいろいろとしゃべってて…(後略)

吉田豪がいろいろしゃべって」るのはこちら。


何が「先生も知らない骨法のひみつ」なのか。
これだ。

ヤノタク 勝敗もあらかじめ決まってない。八百長をやれと言われてるわけではない。技をかけられたら抵抗するなということになっている。そういう試合がどうなるかというと、道場内の力関係が反映されるわけですよね。
――そうなると純粋な強さというより人間関係がついてまわりますよねぇ。
 
ヤノタク そこの話をもっと掘り下げると、最初のうちは練習もガチンコだったわけですよ。そうすると、立ち関節なんか滅多にかからない。そうしたら先生がイライラし始めて「キミたちは私の言うことを聞かないから、技がかからないんだ!」ってキレたらしくて。それで選手たちが先生にビビって技にうまくかかるようになったらしいんですよね。
(略)
ヤノタク ……そこで面白いのは、これって先生は弟子たちがやってる試合をガチンコだと思ってたということですよね。
――あっ……!! 
 
ヤノタク 弟子が先生に気を遣って技をかかるようにしていたら、先生は「俺の指導どおりのかたちになってきた!」と喜んだ。予想以上に技がかかるようになってきたから一本勝負だとお客さんは満足しないということで10分・本数勝負にした。そう言われて骨法の試合を見返すと凄く納得できるんですよね。
(略)
ヤノタク そういう裏のルールというか「空気読めよルール」が骨法にあったというか。そこは日本的ではありますよね。みんなで空気を読んだ結果がああいう試合になりましたっていうか。


ふうむ。
あの「骨法」のアレには、これがあったのか……
しかし!
「骨法」といえばテン年代のいまは、ある種のネタのようにいまでは消費されているわけであります。「まあ、あの骨法だからね」で済ませられるといえば済ませられる……かもしれない、と思った。
しかしTLのいたずらで、偶然にも同じというかつながるテーマのツイートを読んだ。
それを書いたのは、上のインタヴューにも登場している人であり、七帝柔道、修斗、「ヴァーリ・トゥード」と呼ばれるべきな初期MMA、そしてブラジリアン柔術をすべて体験し、競技的な実績はもはや語るまでもない人である。
その人がこういう。

柔術新聞 速報版 ‏@busujiujitsu 10 時間
バックを取られているのに、腕1本で相手を絞め落としてしまった女子選手のテクが話題に。https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=621310444604643&id=121612057907820
 
増田俊也 ‏@MasudaToshinari 10 時間
手の位置が隠れてますが自分の衣を使った絞めでしょうか、あるいは袖車でしょうか。 RT @busujiujitsu @yuki_nakai1970 バックを取られているのに、腕1本で相手を絞め落としてしまった女子選手のテクが話題に。https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=621310444604643&id=121612057907820 … …
 
中井祐樹 ‏@yuki_nakai1970 9時間
@MasudaToshinari @busujiujitsu その前の展開が映像にないので確実なことはわかりませんが自分の下襟(いわゆるラペラ)で絞めているように見えますね。柔道では反則な気がしますが。
(続き)ただし、野球絞め(パラレルカラーチョーク)やラペラ絞めには絞めの最中にバックを取られる可能性があるものが幾通りか有り、それ自体は驚くには当たりません。でも試合で決まるのは珍しく、見た人はビックリしますよね。
(続き)私は練習だけでなく試合で決まった技こそが本物の技だと考えています。先輩後輩の関係で決まっている技も稽古中にはありますから。

 
自分はびっくりして、つい二つをつなげてしまったのだが、それに怒らずレスのツイートをしていただいた。

gryphonjapan ‏@gryphonjapan 9 時間
普遍的問題なんだ!
「先輩後輩の関係で決まっている技も稽古中にはあります」https://twitter.com/yuki_nakai1970/status/462587470891077632
 
「練習もガチンコだったわけですよ。そうすると立ち関節なんか滅多に…そしたら先生がイライラ…」
http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar521975

中井祐樹 ‏@yuki_nakai1970 9時間
@gryphonjapan 試合で練習とは違う展開・結果になることは少なくないです。

ううむ、
普遍的問題なのだろうなあ。
こんなところにも自分は連想が及んだ。

gryphonjapan ‏@gryphonjapan
2002年W杯の韓国代表サッカーを率いてた…ヒディング監督だったか。
「コリアは儒教の伝統があるから、ゲームの中でもパスなどに先輩後輩の関係が持ち込まれる。その意識を、少なくともフィールドでは徹底的に取り除くようにしたのが上位進出の理由の一つだ」と言っていたっけ。


日本の「察しと思いやり」は一概に否定されるものではない。
どっかでも、だれかが言ってたな(笑)
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1164369916
韓国の儒教的秩序もそうであろう。
ただ、それがいろいろと困るところもある。


これはちょっと部分的に切り取りすぎだとは思うが、象徴的な意味としては面白い。

小学4年生の国語の教科書で「空気の読み方」教える? - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/662428

だからこそ、空気の通じない「(他者との)試合」、という場が重要になってくるのだ。
このエピソードを再紹介したい。

レスリング、三船十段「空気投げ」の”冤罪”晴らす

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120806/p1
ローマ五輪の話。

次の対戦相手はソ連のカラバエフ。この試合に勝てば市口のメダルが確定する。しかし3分20秒、市口はカラバエフの見事な投げをカウンターで食らい、フォール負けを喫した。
呆然とする市口に、八田一朗は言った。
「市口、技を覚えろよ。今のは隅落としだ」
隅落とし!
別名は”空気投げ”である。柔道の神様と歌われた三船久蔵銃弾十段が考案し、柔道着を持った手以外、相手に一切触れることなく投げるためにこう呼ばれた。
(略)
しかし、乱捕りの相手が三船の弟子ばかりであったため「あんな技がかかるはずがない。弟子たちはわざと投げられているに違いない」と周囲から疑惑を持たれたことも事実だった。
ところが、空気投げは持ち手のないレスリングでも実在した。三船久蔵の弟子である八田一朗はこともなげに「今のは隅落としだ」と言ったのである。

このくだりを、著者の柳澤健氏は
「格闘技の奥行きは私たちの想像を超えて深い」としめくくっている。

日本レスリングの物語

日本レスリングの物語

この「総合格闘技が生まれた時代」シリーズ、どこかで書籍化せえへん?

http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga
の「総合格闘技が生まれた時代」シリーズ、
これだけ回数が進んだ今、その読み物としての面白さやインタビュー構成の巧みさを否定する人はいないだろう。紙としての書籍化も視野に入れていいのではないかな。未定ならどこか企画して。電子書籍でもいいけど。