
- 作者: 浅羽通明
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2012/10/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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を今読んでいる。
SFに属する時間ループテーマのフィクション(小説、漫画、映画、神話・・・と幅広い)と、そこから関連した論考をまとめた本だ。いまは本体のSF自体に勢いがないので、SFを「論じた」本が出るというのもなかなか凄いと思う。
ぱっと、読者の皆さんが思い出す「時間ループ物語」はなんでしょうかね。
「リプレイ」?
「ターン」?
「未来の想い出」?
「うる星やつら ビューティフル・ドリーマー」?
「七回死んだ男」?
「魔法少女まどか☆マギカ」?
「涼宮ハルヒの消失」?
いや、当方も知らない作品多いよ。この本で概要知ったものも含む。
もともと浅羽氏は、純粋に本の内容を紹介するビブリオバトル系の文章がうまくてね。彼が小林信彦の「イエスタディ・ワンス・モア」の文庫本に付した解説は、「日本三大文庫本解説」のうちのひとつだ(俺認定。あとの二つは機会でもあれば)。
・・・で、彼はこの本のオープニングとして、この記事のタイトルにあげた短編「秋の牢獄」(恒川光太郎)をネタバレ込みで紹介している。
この文章が読むだけで興味をそそられ、読んでみたいと思わせるので、ちゃっと孫引きしようという寸法(結末部分はカットしますのでネタバレ心配は、この引用ではありません)。
(※これは中編集です)
- 作者: 恒川光太郎
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/09/25
- メディア: 文庫
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主人公は女子大生・藍。四年生大学の二年生。彼女の一人称で物語られていきます。11月7日、水曜日。なんの変哲も無い雨上がりの晴れた秋の平日・・・・・・(※彼女はその後、この日がループしてると気づく)何度起きても11月7日、水曜日。藍の記憶を除いてすべてが深夜にリセット・・・そうわかると藍は当然、大学なんか行かない。持ち金を使い果たすまで遊んでみたりする。何しろ翌朝になれば7日、水曜朝に持ってた金額に戻るんですから。(※だけど買った物も翌朝に無くなり、残るのは記憶だけなので)藍は毎日、映画や芝居を見てまわります。
物語が展開するのはここから。20何回目かの11月7日水曜日、彼女がキャンバスのベンチでぼんやりしていると、男子に声をかけられる。彼女以外はすべて昨日、もといこれまでと同じ動きをするはずですから、これは事件ですね。そう。かれも、この秋の一日を繰り返している人だった。・・・・・・実は、同じような人(11月7日を繰り返すからリプレイヤー)はけっこういた。そして、すでに仲間を見つけたリプレイヤーたちは、公園の噴水前という集会所まで決めていた。藍ももちろん仲間に加わって、老若男女十数人と知り合います。藍はその中ではまだ初心者クラスで、皆、何十回もリプレイしている。「長老」とあだ名されている500回以上という人物もいる。ここで情報交換が行われ・・・
(藍を含めた4人のグループができ)彼らは、いつ果てるともわからないループし続ける時間を消化する選び方を考えては実行します。まず、コクラさんの提案で、旅行。どこへ出かけても、明日は東京周辺の我が家で目覚めるのですから、旅費は片道でいい。準備も何も無くていい。海外はムリでも、北海道や沖縄を半日楽しむのは容易い。・・・さらに彼らは「思いつき挑戦」というリプレイヤーならではの遊びを思いつきます。皆の持ち金を頼母子講よろしく、1日誰か一人へ寄付して、その人がずっとやりたかったことを実現するのに使ってもらうのです。コクラさんはスポーツカーをレンタルして東名高速を爆走・・・隆一はカヌーで夜の海へ・・・藍はというと、ゴールデンレトリバーの仔犬12匹と芝生で戯れる・・・しかし、やがて4人は遊びつくしたようになり、隆一が解散を提案し・・・
いかがですか?
「タイムループ」が一人じゃなくて何人もいて・・・その人たちが、周りには分からないグループを作って、公園で集会を開いている、というシチュエーション。厨二病患者なら、この小説に影響されて普通の公園を見ながら、「ああ今日もあそこで、リプレイヤーたちが…」と妄想しかねない(笑)。
時間ループの人々が複数いて、お互いに徐々に知り合い、グループをつくる・・・まだ自分は読んでないわけだけど、つまりこの物語のストーリー全体や文章ではなく「シチュエーション・設定」に膝を打ったわけ。
そしてSFってけっこう、シチュエーションが面白ければ、人物描写や文章力などを含めた実際の作品自体が、総合的には面白くなくても個人的には許せる(笑)。
自分がこの紹介文を読んで連想したのは、周囲の状況の中で自分たちがごく少数の(いい意味、悪い意味含め)「選ばれたもの」となり、そして仲間を見つけ、その中で友情や裏切りや対立が生まれていく・・・という設定ですね。

- 作者: ジョン・ウィンダム,井上勇
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1963/12/25
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- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1998/10
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- 作者: 筒井康隆
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1978/12/01
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- 作者: 森恒二
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な感じの。
そして、これは浅羽氏も指摘しているけど、「どんなことをやっても元に戻る・・・たとえば危ないことをして死んでも」「物は持ち続けられずリセットされるけど、その分1日だけならみんなの有り金をはたいて、その範囲の贅沢が可能」というふたつの能力を使って、さまざまに遊ぶ彼らの時間を・・・
「延々リプレイされる11月7日水曜日が、一種のユートピアとして描かれている」
と評している。4人のグループで、金や安全の心配もそこのけ、思いつくままの面白そうなことをする・・・。そういえば「SOS団」も4人だったよね。・・あ、5人か
まあ、そんな共通性や差異は実際に作品を、もしくはこの本を読んでもらって考えるほうがいい。
最初にあげた「涼宮ハルヒ」「ビューティフル・ドリーマー」「まどか☆マギカ」「未来の想い出」なども論じられているので、若い世代や本格的なSFにはなじみが無く、アニメやライトノベルのほうしか知らないという人にもいろいろとっかかりがあると思います。
自分はこの人の本、いつも本格紹介の前に枝葉の部分をまず最初に書こうと思って、そして実際に枝葉部分だけ書いて満足しちゃうのだが、これは機会があればもう少し全体的な紹介も書いてみたい。