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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

時代は一人の男に、一人の男は時代に――映画「フェイシング・アリ」を見てきた。

この前紹介した、http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120825/p1を見てきました。

http://www.webdice.jp/dice/detail/3580/

・・・このドキュメンタリーは、60年代から70年代にかけての公民権運動の隆盛など、彼が全盛を極めた時代のバックグラウンドを紹介しながら、彼と闘った10人のボクサーの証言を構成することにより、アリという存在の大きさを浮かび上がらせる。
 
映画『フェイシング・アリ
渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマほか全国順次公開
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/facingali/

圧倒的なカリスマのドキュメンタリー(本でも映画でも)を作るとき、技法として、あるいは本人が出演を拒否したり病気その他で出られないときに「周りの人の証言集」にするというのは、よくある方法ではある。ましてボクシングは一対一でリングで向き合う商売。その相手、つまり「アリと戦った男」というのがそのままスペシャルな存在であることは、東洋で根っころがって引き分けたペリカン野郎が、その後パキスタンでもイラクでも顔が利いたことからも分かるだろう。

その証言が面白くならないはずはない。
特にモハメド・アリはトラッシュトークをボクシングに持ち込み、相手を散々攻撃するのを売りにしたボクサーだ。それに直面したボクサーもそれぞれで、
そのトークに悪乗りして
「女みたいな戦い方をするやつだ」といわれたことを逆手にとって女装して会見場に現れ、「ねえ、女みたいなあたしなら怖くないでしょ?この試合契約書にサインしてよ」とやった人とか、
自作の歌(これが結構うまい)をステージで歌い「♪ねえ アリさんよ 俺が怖いのかい?さっさと俺と戦いなよ・・・」と挑発する人もいる。

一方でずっとそれに対して怒り続けていたジョー・フレイジャーもいる。フレイジャーは最近亡くなったが、ここで別の人の証言として
「自分はアリより肌が黒く、アリより貧しい環境で育った・・・なのに、黒人はみなアリのほうを応援している」
という思いがあった、と紹介されている。
その時代の熱気はすごいもので、アリがカシアス・クレイから改名することになったネイション・オブ・イスラムとその分裂・・・マルコムXとアリの並んだ映像なども多数出てくるし、ベトナム反戦と徴兵拒否による服役などの映像もある。
これならキンシャサ、マニラなどもアリが”ホーム”になったのはやむをえないだろう。

フレイジャーの怒りはここを参照。
http://omasuki.blog122.fc2.com/blog-entry-545.html
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090709#p1
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090730/p4
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20111109/p2
http://d.hatena.ne.jp/maroon_lance/20090719/1247976824

ただし、そのフレイジャーも含めて、回想するボクサーたちにはやはりアリに対しての一種の懐かしさと、親しみもただよう。60代ぐらいになっている彼らが、それでも自分の試合のハイライトを振り返るときに「バンバンバン!」と擬音を入れながらシャドーでコンビネーションを見せる姿にはある種の色気があり、みな「いい顔」をしている。

選手の一人は、こう語る。
「アリはもう、(パーキンソン病で)語れない。だから戦った俺たちが、アリを語り継いでいくんだ」

最後にひとつ、上で紹介した「ジョー・フレイジャーは今でもアリに『アンクル・トム』といわれたことを憎んでいる」という話のディティールを紹介。
ジョージ・フォアマンだったかな?別のボクサーが自分が見た光景を回想していたのだけど・・・・・

フレイジャーは、『俺を覗き魔扱いしやがった!』と激怒していた。あいつは『アンクル・トム』と『ピーピング・トム』(「出歯亀」と同じく、英語の覗き屋の代名詞的存在)をまちがえていたんだ。

        ∧∧
       ヽ(・ω・)/   ズコー
      \(.\ ノ
    、ハ,,、  ̄
     ̄

ドキュメンタリーとしては「普通」な感じも。こういうのを日本で作るなら・・・

ただ全体を通していうと、ここで明かされる新事実は「トム」の一件を除いては、ボクシングを知らない自分でも既知の話が多く、「アリの対戦相手に話を聞いた証言集」という事前情報から予測していた面白さ通りで、逆に言うとそれ以上の広がりはあまり無く・・・たとえば上のリンクで紹介したかつてのドキュメンタリー以上かというとうーんだね。
だが、とにかくカタチとしては整った作品で・・・

で、ふと思ったんだが「松田優作物語」「ブラックジャック創作秘話」など、同様に故人本人に話を聞くことはできずに、周辺の人から話を引き出して作品にしたものがあり、両作品とも傑作の誉れが高い。(原作者は同じ人)

フェイシング・アリも要はこの漫画を読んだときと同じ種類の読後感なのだが・・・逆に言うと、この漫画作品の取材のとき、どっかの製作会社とタイアップしたり、あるいは編集者などが撮影技術を磨いてビデオを回し・・・それをうまく編集すれば、それだけでこの「フェイシング・アリ」に匹敵する映像のドキュメンタリーは作れたかも・・・、と思ったりする。そういう想像ができるほど、現在の撮影機材の進歩はすごいのだが、あとは素材だよね。

ざっと考えると
長嶋茂雄 王貞治 カネやん 張本喝! ビートたけし 立川談志  美空ひばり 石原裕次郎 小泉純一郎 丸山真男 手塚治虫 藤子・F・不二雄 渥美清 司馬遼太郎 力道山 大山倍達 アントニオ猪木 ジャイアント馬場 前田日明
・・・・・・・・・・うーん、偏りがあるな。「本人が登場せず、密接に関わった人たちの証言集で一本のドキュメンタリーが作れてしまい、その時代も表現できる人」・・・のリストアップをそれぞれしてみてください。むしろリストアップした人の個性が浮き出るかもだ(笑)