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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

増田俊也、吉田豪に「木村政彦伝」の苦労を語る。長期連載が生む「狂気の行進」。

http://blog.livedoor.jp/nhbnews/archives/52186796.html

GONG(ゴング)格闘技2011年8月号

GONG(ゴング)格闘技2011年8月号

◆柔、再び。YAWARA
☆「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
完結記念・禁断の対談が実現!
増田俊也×吉田 豪「木村政彦とは何か?」

という対談が行われた。吉田氏は、この感想をポッドキャスティングで語っているですね。
http://www.tbsradio.jp/kirakira/2011/07/20110707-2.html

これまでの総まとめ&本編には出てこなかった「木村・拓大面白エピソード」の紹介ですが、それと同時に面白かったのが、4年に及ぶ!長期連載の間に、しかも距離を置くのではなく、柔道界の人間として感情移入たっぷりで連載を続けた増田氏が、途中で苦しんで暴走したり「もう書けない」と苦しい思いを言いだすところ。

増田 「…僕は連載していた4年間はもう完全に世界に入っちゃってましたから、泣くんですね。書きながら。もう号泣して。」
 
吉田 「木村先生がどんどん堕ちていく!って(笑)」
 
増田 「もう泣いちゃって書けなくなるんです。木村先生が力道山に負けた界があったじゃないですか。あの時も編集長に何回も電話して泣きながら「僕もう書けません!」って言ったんです。なのに「ある格闘家が『木村がテイクダウンできなかったことについて厳しく書いてくれ』って言ってましたよ」とかプレッシャーをかけてくるんですよ。それで泣きながら「木村政彦が本気だったなら、ガウンを脱いだ瞬間にそれを力道山の頭からかぶせ、リング下からパイプ椅子を持ってきてボコ殴りにしただろう」って書いた原稿を送ったら「増田さん、冷静になってください!」って(笑)
 
吉田 「ダハハハ!入り込み過ぎちゃった(笑)「僕が木村先生を守らなければ」って。」

いや、おもしろいな(笑)。
ちゃんと軌道修正させたり、「これ以上書けない」と言い出した書き手を叱咤激励して書かせた編集長(その松山郷氏が対談の司会もしている)は御手柄だったが、その一方で「ガウンを被せてボコ殴り…」路線に進んだこの連載もちょっと読んでみたかった気がする(笑)

連載が長きに渡るとマンネリとか惰性も出てくるが、そのほかに「テンションは落ちないけど、なんか、あらぬ方向に突っ走ってしまう」というパターンがある。
「サルでも描ける漫画教室」には、これを象徴した

というのがあって、言霊とかなんとか、全然ついてこれないところに入っていった連載と、「こりゃもうあかんな」と匙を投げる編集部、という図があって今でも笑える一方で、その「黒い太陽の毒電波」について描かれた擬似的な狂気の文章はいまだに背筋をぞっとさせるものがある。当時、雑誌で読んでいて一瞬「本気でおかしくなっちゃったんじゃないか!?」と思ったものな。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051211
右足の電波は半減しましタ
しかしコレのみでもまだ不足なわけです
かようにサッカーとは地下の黒い太陽からの呪縛より両足を解き放ちてボール様を大日如来の御許へとお帰りしたて
まつり マスことこそその本義

いやまあこれと一緒にしちゃうのは増田氏に失礼だが、要はわれわれ読者って、結局は紙面化された「最終段階」のものしか目に触れないわけでしょ。
その楽屋裏では「結局は活字にしなかったけど、XXXを紹介したかった」「・・・を書こうと思ったが、編集者が反対して結局はXXXに落ち着いた」という、そういう無数の、幻の選択肢やボツ構成がある。

今、DVDの容量増加や、売り上げ増のためにおまけが求められる中、映画を撮影中にカメラを回し、作っている最中の映像記録を残す「メイキング」は既にスタンダードとなっている。
本作り、とくにこういう雑誌の長期連載でもそういう「メイキング」の記録というのは、少なくとも編集者の私家版としてでもどこかに残されるべきではないか。編集者の回想記というのもそれなりに無いわけではないが、一種の「オーラルヒストリー」としてもっと体系的にだれかが聞いて欲しいものだ。さっき挙げた「サルまん」は実は単行本で、「鉄子の旅」で鉄オタ(というかスイッチバックオタ)編集長として知られるようになった編集者の、この作品の苦労話が載っていてそれが異様に面白かったりする。
 
だって、 
木村が力道山に負ける回がいよいよ載る際になって作者から「もう書けません!」と泣きながら言われるって、編集部にとっては「男一匹ガキ大将で主人公に竹槍が刺さって「完」と描かれ、作者が失踪・・・」というのに匹敵する緊急事態で、「(笑)」じゃ済まねーよ!てな部分も多々あったろう。
 

そういうわけで「長期の雑誌連載の陰にドラマあり!」「その”記録””メイキング”を作者側も編集者側も残しとけ!!」というのが今日の結論であります。
この連載で「木村vsエリオ・グレイシー」が取り上げられたとき、自分は
■近代柔道史の光と影。…そして最後の勝者は”物語”なのか?(ゴン格215号)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100422/p1
というエントリを書き、中島みゆきの「伝説」という歌を紹介した。

http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND54188/index.html
記された文(ふみ)だけがこの世に残ってゆく
形ある物だけがすべてを語ってゆく
叫べども あがけども だれがそれを知るだろう

4年の連載が終わり、正史と対峙する、もうひとつの文(ふみ)が記された今、再度ここにこの歌を載せるのも意味があるだろう。

なんと!この本の単行本化が早くも決定だ!!!

作者本人のブログ。
http://blog.livedoor.jp/masuda_toshinari/archives/51704887.html
http://blog.livedoor.jp/masuda_toshinari/archives/51705683.html

ゴング格闘技」で4年以上の長期にわたり連載させていただいた「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」が単行本になります。

新潮社からの発売になります。

9月に書店に・・・

本当はここから繋げて

この前紹介、早速自分でも購入して読んでみた

についての感想・・・とうまくテーマをリレーしたかったのだが、軽い夏風邪にかかっていてちょっと二つ目のエントリは書けないかも。
これは後日に。
この前書いたこちらもご参照ください。

手塚治虫ブラックジャック」の誕生秘話が漫画化&「創作秘話漫画」まとめ。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110707/p5