本日1月31日は、ジャイアント馬場さんが亡くなられた日です。そしてアンドレ・ザ・ジャイアントがなくなったのも日時の近い1月27日でした。
馬場さんは1999年、アンドレは1993年の逝去ですから、今年が特に節目とかそういうことではないのですが・・・・だがこの二人が、遠近感を狂わせる日米摩天楼コンビを東京ドームで結成してからはちょうど20年になるのです!
http://www.geocities.co.jp/Athlete-Acropolis/6877/td06.html
そんな機会に、天下の奇書にして当時の少年少女をわくわくさせたプロレス・スターウォーズを紹介したい。
アンドレ本人がこれを聞いたら、笑顔で「ネバー・ルック・バック!(振り返らずいこうぜ!)」といわれそうだが、別に懐古趣味だけでこれを紹介するつもりはない(ストライクフォース当日だというのに)。
実は、この作品で二人が対決するさまを分解すると、特に実在の歴史や人物に絡めた伝奇ものの「ストーリーテリング」のものすごいお手本になるなぁとしみじみ感心するからこそ、ここで内容を紹介したいのです。
まず前提条件を(コミックス五巻)
(1)日本侵略をたくらむアメリカ・プロレス連合軍と迎え撃つ日本プロレス軍が5対5の勝ち抜き戦を行っている。
(2)日本側は「若いレスラーに未来を託したい。自分は捨石に」と先鋒が馬場。初戦はジャイアント・キマラ(のちのカマラ)
(3)キマラの野生パワーを必殺16文チョップ(回転かかとおとしのこと!)で下すも、馬場は満身創痍。2戦目の相手がアンドレ!
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最初は馬場vsアンドレではなく、馬場vsGマシン
しかし、ここからがすごい!
・アンドレはなんと、覆面の「ジャイアント・マシーン」として登場(※当時、新日では本当にそういうギミックで大受けしてたんです)。悪の若松マネージャー、無数のマシン軍団と一緒に入場する。
・リングは、ビンス・マクマホンJrのお父さんであるシニアが、かつて「アンドレと馬場のシングルが実現するなら、普通のリングじゃ狭すぎる」と作ったという伝説の特大リング(この時点でもうマニアを泣かせます)。
・だが、そのジャイアントマシンと馬場の待望の一戦が始まったものの、若松がここぞというときはマシン軍団をあやつり、ちょっかいを出します。会場はブーイングの嵐だが、「勝てばいい」という、ひきょうひれつなアメリカ軍団はどこ吹く風。特に若松は「日本のプロレス界での落ちこぼれの俺が、こうやって悪の分野であってもプロレス会場を沸かせているなんて、我ながら大したもんだぜ」とにやり。
・あまりの乱入ぶりに反則負けにしようとするレフリーを、止めるのはなんと、当のG馬場!実は馬場にとっても「どちらが本当の大巨人か!」を決めるこの試合は、夢にまで見た待望のカードだったのです(泣かす泣かす。博多中洲は恋の街)。
・どんなにやられても立ち上がる馬場。「とどめを刺せ!!」と命じる若松。だが、その時、軍団を蹴散らすのは・・・当のジャイアントマシーン、つまりアンドレ本人だった。「もうこれ以上、自分を抑えきれぬのだ・・・」とマスクを脱ぐアンドレの目には涙が・・・・・・
実はここで、コミックスの五巻は終わり。いやー引っ張るなーー。
6巻冒頭。泣かせるお(;_;)。
いいですか、よく聞いてね。
古館アナ「や・・・山本さん、これは一体どうしたんでしょうか!?」
山本小鉄「あの人のことを思い出したんではないでしょうか・・・」
そして、アンドレはこう語ります。
「見えるのだ、若松よ・・・、お、俺にはミスター吉原(※国際プロレスの故吉原功社長)の姿が・・・」
なんと、アンドレを日のあたらない地下プロレスから救い、世界の大巨人とするきっかけを与えてくれた吉原社長も、馬場vsアンドレを熱望していた!!
ただ・・・、人情厚き正義漢として知られた吉原氏は「正せい堂どうと馬場くんからピンフォールを奪ってみろ!」と笑顔でハッパをかけていたのです。その自分が、馬場との決戦で、マシン軍団の介入を許している・・・
それがイヤなら大物中の大物であるアンドレ、アメリカ側の思惑なんか吹っ飛ばして自分のやりたいことをやればいいのですが、実はアンドレと若松は、その国際プロレスにいた若いころから深い友情で結ばれていたのです。自分が我がままをしたら、アメリカプロレス軍に雇われている若松にも迷惑がかかる。
「俺はどうしたらいいのだ・・・・」
しかし、リング上のことは中断するわけには行きません。マシン軍団は、ふらふらの馬場を仕留めようと再度リングになだれ込みます。
が!!「大ボケーーー!だれが動けと命令したんじゃー!!」
なんと若松がムチをふるい、マシン軍団を止めたのです。
さあ、ここからがもうね、こっちもキーボードを打ちながら涙ですよ。
以下、若松のセリフを抜き出します。
フフフ・・・そうか・・・
社長がそう言ったのか・・・・・・。
社長が言ったんじゃあしょうがねぇな・・・。
楽しかったぜアンドレ・・・いや実に気持ちがよかったのォ・・・
お前がマスクマンになった時の、日本中の驚きようといったらケッ作だったぜ!
しかし社長が正せい堂どうというんならしょうがねェ・・・
俺はヤボじゃねえのよ
ここまでだ アンドレ・・・これでジ・エンドだ・・・
そして
俺は 泣く子もだまる極悪マネージャー ”ショーグン”若松!
正せい堂どうは習っとらんのよォ・・・
若松は「極悪マネージャーが俺の人生なら、正々堂々と馬場を倒して”ジャイアント”の名を自分のものにしろ!それがお前の人生よ」と言って、軍団とともに、この試合からは手を引くことを宣言。
つまりここから、ジャイアント馬場vsジャイアントマシンではなく「ジャイアント馬場vsアンドレ・ザ・ジャイアント」の正式な”リアル・ジャイアント血戦”の幕が開きます。
そして・・・
よっしゃーっ 話は決まったーっ!
この試合は吉原社長への追悼試合じゃーーっ!!
いいかアンドレ、必ず馬場を倒せーっ!それがなによりの供養じゃーっ!
ワーハッツハッーーーッ
そして、ゴングを強奪した若松は「吉原社長への追悼の10カウントゴング」を勝手に鳴らし始める。
その10回目のゴングの音が響けば、そのまま馬場vsアンドレの試合開始のゴングとなる・・・。
二人の選手も含め、会場すべてが吉原に黙祷をささげます。
社長ーーーっ!!聞こえるかーっ!?寝てたらおきてくれーっ!!はやくせんと間に合わないぜーーーっ!! 吉原社長ーーーーっ!!
と、天国に向かってメガホンでがなりたてる若松。
そして10カウントゴング、リアルジャイアント血戦の開始を告げるゴングを鳴らし終えると、若松は会場のファンに悪態をつきながら、軍団を引き連れて退場していくのです。
ここで、このストーリーテリングを因数分解してみる。
以前、ドラえもんのスネ夫などを引き合いにだし、「ひきょう、臆病が特徴の小悪党キャラが、一念発起して勇気を搾り出し、英雄的な行動をする」というのが泣かせるという話を少ししました。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051117#p3
この変形とも言うべきなのだろうか、最初に「卑怯な手でも勝つ」とやっていた姑息な悪党が、何かで心を呼び覚まされて・・・そして、善に行くのではない、
「正々堂々の悪党」
になるという・・・こういうのが燃えるシチュエーションだなぁ、ということをあらためて知ったわけです。
それも、こういうふうに過去の因縁を持ち出して「心の師匠」とかに従うってことだと、人情を刺激するというか、いいやつっぽくなってかっこいい。
皆さんは、こういう例を他に知っているでしょうか。
あとは、もちろん吉原社長の実人生、キャラクターが知られているからこれは泣かせるのです。何でも編集部からは常に「細かいプロレス史を盛り込んでも、読者は分かりませんよ」と懸念されていたそうだが無視してやってくれてよかったなぁ。
そして実際の戦いの描写は!!
ここから本当に戦うのだが、まずアンドレが行くぞ!!と最初に繰り出した技がこれっすよ(笑)
なんと大巨人アンドレが、そらを飛ぶ!片方が馬場より大きい「18文」と言われたから、36文キックですよ!
いくら漫画とはいえ。しかし、本当にこれがあったらド迫力だろうなぁ、と納得するしワクワクのし通しです。
そこからは怒涛のように、けれんと正攻法をともに惜しげもなく使う。
この技で場外に吹っ飛ばされた馬場は、リングに猛然と戻ると、最大奥義のランニングネックブリーカー!!
だがアンドレは、この技ですら倒れない!
そこで馬場はアントニオ猪木のアドバイスを受けてなんとアリキック!!
チョップ合戦!河津落とし!ヒッププッシュ!パワースラム!!
テーズが「うう・・これほどの試合をわたしは見たことも裁いたことも無い・・・」
そして、アンドレが、「死の封印」を解き、ツームストンドライバーを、なんとトップロープから!!実は実際にアンドレはこの技で相手の死亡事故を起こしているんですわ。それをあえて描くというすごさ。
しかし、その技でも馬場はたちあがったーーー!!
ここから、その先へ。
アンドレのセリフが、こわいです。マジ怖いです。
ウウッ・・・偉大なるジャイアントよ
か・・・体の芯までうちふるえてくるようだ・・・
しかし馬場よ…
俺たちはプロフェッショナル・レスラー
決着はつけねばならん・・・できることならば使いたくはなかったが…それも仕方あるまい・・・(略)
吉原よ、格闘技者の宿命
お前の同胞を 死に追いやらねばならぬ
この俺を 判ってくれるな・・・!
こういって、アンドレが・・・天を仰いで十字を切るんですよ。
あのねえ、舌出して中指立てるより、よっぽど怖いですよこれ(笑)。
あの時、本当に廣田瑞人の腕を折った後、天を仰いで十字でも切ってたら青木真也も凄みを増していたと思いますよ。
この「できれば使いたくなかった技」は、ネタバレになるかもしれないので詳細は伏せるが「リアル・プロレス史」と絡めた、その名も”マンハッタン・トリニティ”。往年の名レスラーのあの技とこの技の・・・
で、しかし・・・・・・・それでも決着がつかない。
そしてなんと、この技は、仕掛ける側にもレスラー生命を絶つほどの多大な負担が掛かる悪魔の技だったのだ!
もはや立つ力も無い両者は、最後の力を振り絞って、秘密兵器とは異なる、”あの技”の相打ちを・・・・
前振り、舞台設定、脇役、試合展開、秘密技、歴史的因縁、そして結果のブック・・・・どれもこれも、実在の人物や現実の歴史を絡めた伝奇ストーリーを描く人たちのお手本でしょう。
原案の原康史が、どこまでストーリーの細部にかかわっているのかは判りません(註:その後のインタビューなどで「ほとんどノータッチ」と判明。別記事など参照)が、もし細部までかかわっていたら、この人のストーリーテリングのうまさはもっと再評価されていい。
この漫画は中古でのみ入手可能か?(2019年の追記あり)
WWF(現WWE)の大物レスラー、日本人の大物レスラーを実名・実似顔絵(なんだそりゃ)で描くという作品、いまは当然、メジャー商業誌でできるわきゃーないと思うが・・・・
うー、む。13年前に一度復刊されているのが信じられない。

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馬場vsアンドレは旧版では5、6巻ね。中古市場ではそんなに高いってほどではないはず。(ブックオフでもそれなりに見かけます)
・・・ありゃ?というかクリックしてみたら、中古市場では(31日現在)1円からの出品だ!!うそお
たださすがに、上の権利関係で何度も復刻されることはないだろうし、いつ「封印」されてもおかしくないような・・・

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【2019年の追記】封印どころか、Amazonキンドル入り!!杞憂でした、すいません

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そもそも実名で有名な人物で、自由自在に「架空の」お話をかく、というのは名誉毀損とかパブリシティ権利とかでどうなるんでしょう。前に一度そのテーマを書いた気もするが、詳細は忘れちゃったい
付記。このシーンのことは忘れていた
全力を振り絞り、力尽きた2人の大巨人。普通なら両者担架というところだが、彼らを運べるような担架があるんだかどうか。
しかし、そこにやってきて「二人とも、わたしに運ばせてほしい・・・」と言ったのは
人間発電所!ニューヨークの帝王! ブルーノ・サンマルチノ!!
怪力無双という彼の特徴を、ここぞとばかり生かし、最高のゲスト出演にしています。
この、涙泥棒!!!