つづいて斎藤信也という記者の話。
この人は、当時の皇太子−−現在の天皇陛下−−が、英国のエリザベス二世戴冠式に出席するための船旅へ赴いたとき、同行記者となった。出発初日の原稿の「予定稿」を横浜支局で受け取ったのが若き日の深代惇郎で「皇太子はデッキに佇み、満月の光を浴びながら父母陛下と母国に思いを馳せる『予定となっていた』」と回想している。まあ、当時は技術的な制約もあったしね・・・。
で、斎藤記者は畏れおおくもかしこくも、皇太子殿下(当時)と将棋を指す光栄に浴し、しかもなんと三番勝負を2勝1敗で制してしまった。アマテラスの子孫が直接指揮したもう軍隊を、臣民が弓ひいて撃破したのは後鳥羽上皇か後醍醐天皇の時代にさかのぼるのではないか。
んで、当時の週刊朝日・扇谷正造編集長(伝説の編集長である)は「その棋譜送れいっ、スクープだ!」と色めきたつ。
斎藤記者はうんうん言いつつ、棋譜を40時間かけて思い出すのだが、その際に皇太子が記者に言った一言。
「どうせ、作っちまうんでしょう」。
その数日前、各社の紙面に並んだであろう「予定稿」のラッシュ、それを書かれる側の皇太子が、花形記者にこういった。
単に彼がその時苦しんでいた、棋譜再現のことのみを言っていたのだろうか。
それはわからない。
しかし、無意識的か意識的か、結果的に恐ろしい批評になっている。
いまの千代田区一丁目一番地の主、どうにもその器量おそるべしの「出来星」なのではないか。
- 作者: 河谷史夫
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