INVISIBLE Dojo. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

史上最強のシューター・キングジョーさん独占インタビュー!

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にあるように、私は昨年「最優秀怪獣賞」を受賞したエレキングさんにお話を伺うことができた。


この中でも少し触れているが、エレキングさんはレッドキング、ブラックキング、キングザウルス三世らとともに「キングの会」をつくるなどして交流があるそうだ。
そのメンバーの中に、あまり出席率は良くないものの、なんと「キングジョー」さんがいると聞き、俄然興味をそそられた。


マスコミ嫌いで知られ、その肉声を聞く機会がほとんど無い怪獣だが、エレキングさんへのインタビューでも聞いているように、その存在は数々の伝説によって彩られている。
特に有名なのが、日本の怪獣プロレス界でも絶対的なスターとして君臨し、同時に史上初のプロ・ガチンコ団体として知られている神話的存在「ウルトラファイト」でも無敗を誇ったウルトラセブンに対し、”シュートを仕掛けた”とされる事件…俗に「六甲の惨劇」として知られる戦いだ。
代理人ペダン星人が間に入ってのギャラのもつれとも、セブンの人気に嫉妬した初代マンが陰謀を仕掛けたとも、完全なジョーの単独犯行とも言われ、いまだに諸説ふんぷんたる状況だ。


エレキングさんになんども頼み込み、キングジョーさんへの仲介の労をとっていただき、ようやくOKをもらった。
30日午前10時からファミリー劇場で再放送があることを記念し、ここにそのときのインタビュー記録を公開しよう。


彼に会うまで

「くれぐれも、失礼のないようにしてくださいよ」
エレキングさんは、私を心配して何度も念を押した。
「あの方の実力は、わたしなぞ到底及ばないですが……それだけに妥協を許さない、一本気なところがあります。あまり昔のことをあれこれと掘り返したりしないほうが…ああ、それがお仕事でしたね」

彼はため息をついた。
そして、キングジョーさんの住所を教えてくれた。彼は、自宅をインタビューの場に指定していたのである。

◇ ◇ ◇


しかし、都心から電車に乗ってしばらくのところにある地方都市。その一角、キングジョーのすまいを訪れたわたしは。正直とまどいを隠せなかった。こういうことを書くのは失礼に当たるかもしれないが……敢えて書こう。
業界では名を誰も知らぬものがいない、往年のレジェンドが隠棲する場所としては、質素というしかない建物だった。
しかも持ち家ではなく、普通の物件よりたしかにスペースは広いものの、単なるアパートの一室だったのだ。


キングジョー(適宜、ジョーさんと今後は表記させてもらうことにする)さんは、私の表情からそんな戸惑いを即座に読み取ったのだろう、快活に笑った。


「この住まいなら、私のようなオールドマン一人が暮らすには十分だよハハハ。ご心配頂かなくても、私は十分にリッチさ。そもそもハングリーやプアーというのは、自分が求めているものより足りないからそう呼ぶんだろ?ビル・ゲイツぐらいマネーを持っていても、その二倍三倍の金がさらに欲しいというならハングリーさ。逆に、自分が求めている分が手に入っているなら、それはリッチというべきだろう。…まあ、中に入りなさい」

いまだに闘う「戦闘機械」

そこは、建物の外装以上にシンプルな部屋だった。最低限の家具を除き、他の家具や調度はほとんどない。
そのため否応無く目につくのは、腹筋台やサンドバッグ、ダミー人形などのトレーニング器具だった。

「まことに申し訳ないが、あと20分ほど待っていただけないか。今日の分の練習が、まだ終わって無いんだ」
そう言って、彼はダミー人形を使った投げの反復練習と、サンドバッグ打ちをしばらくの間続けた。
その光景、そして彼の技術の衰えの無さは、ある意味、言葉によるインタビュー以上に雄弁だったかもしれない。
しかし、私はそれでも言葉によって彼に切り込まねばならなかった。

ウルトラセブンとの戦い、
その後、ほとんどのオファーを断り、再出演しなかった理由、
そして沈黙をやぶって登場した「ウルトラマンマックス」、
今の怪獣界をどう見ているのかーーーー聞きたいことはやまほどある。
ようやくトレーニングを終え、シャワーを浴び、お茶を手ずから入れてくれてインタビューの席についたジョーさんを前に、私はレコーダーのスイッチを押した。


「練習に感動した? このオールドマンの日課に、別にたいしたものがあるわけじゃないよ。わたしもまだ、発展途上であり、それを向上させていくことこそがライフだということさ。それは毎日、練習する中で、しみじみと感じていることだ」


−−レスリング、柔術、打撃などをくまなく現在も練習されている、ジョーさんが一番重視しているのは?
「どれも奥が深いね。しかし、ひとつだけあげろというなら柔術のムーブだろう。この年になると特にそうだ」


−−貴方は、その柔術を試合の場に持ち込んだ草分けでした。中でも一番印象に残っているのは、ウルトラセブンから貴方が完璧なマウント・ポジションを奪取したことです。あの試合に関しては、数々の謎があります。今日は、そのへんのことをお聞きしたいのですが・・・・


キングジョーは、頭に少し油を差した。


セブンとの試合の真実

「君は、なにか不自然なところを、あの試合に感じているのかね?」


−−ええ、正直なところ。あれだけ絶対的な人気と実力を誇っていたセブンさんが、一方的に無名の…失礼、でもあの時登場したばかりのジョーさんに、実質敗れるような試合を組んで、しかもそのあとすぐ再戦してあの結果(ウルトラ警備隊の乱入)になる、というアングルはプロモーター的にも考えにくいと思います。
そうすると、ブッカーの意図を超えた何かがあったんじゃないかと思うのは当然でしょう。
一説には、当時マネージャーをなさっていたペダン星人がギャラ交渉でプロモーターともつれて「試合を壊せ」と指示されたとも言われています。ただ、そういうことなら2戦目はへんですし…


キングジョーはゆっくり答えた。
「あの試合が普通とは違う、というのはたしかに見立てが正しいよ。
しかし、その理由が、そういうふうに言われているのは少々愉快だな。いや、それだけ昔の伝統が知られていないということなら、これは少々厄介だし、真実を伝えておかねばならないかな…」


「君は、パートタイム・シュートと言う言葉を知っているかね」


−−いいえ、残念ながら。
「そうかね。君のようなこの世界で取材している人も、いまは知らないのかね。昔はちょっとした通の客なんかも、それを楽しみに観戦していたもんだがね…簡単な話だ、試合全体は試合として、枠組みはつくるけれども、その途中は時間を決めるなり、お互いで合図を決めるなどして”コンテスト(※真剣勝負・競技を意味する隠語)”をやるんだ。私の頃は既に形骸化していたが、王者とかエースは、この申し出を絶対に受けるのがたしなみだった時代もあるそうだよ。
自分もそのころは血気盛んだったから、しょっちゅうコレをやっていたものさ。そして、セブンの相手に私が抜擢された。……そこで私が、これをやらないわけがないだろ?(笑)」


−−セ、セブンに一部分とはいえ、シュート勝負を申し込んだのですか…
「セブンは、若い頃はこれで鳴らしていて、最強の名前をほしいままにしていたよ。ただ、この頃はそういうことはほとんどやっていなかった。あまりにもスターになっていたから、プロモーターがプロテクトしたということもあるし、他の怪獣たちが気後れしてそんなことをおくびにも出さなかったということもあるだろう。ただ何よりも大きいのは、彼の若いときの、こっちの方面での実績が凄すぎて、だれももう挑戦する気力がなかったということだ。そこで無謀にも挑戦した、コンピューターの狂ったロボットがこのキングジョーだったというわけさ(笑)」

技術で見るキングジョーvsセブン(1回目)

私は持参した、実際のファイトの映像を本人に見直してもらった。


キックからチョップを狙うセブン。その後、体当たりをはじき返すキングジョー。後ろから羽交い絞めにし、そこから逆水平チョップをかますセブン。しかしここから、キングジョーはセブンのパンチ連打を平然と受け止め、ビーム、アイスラッガーまではじき返す。


キングジョーがつぶやく
「ここまではワークだね。」


−−にしても、セブンは序盤、こうやって見るとフィニッシュ・ホールドのエメリウム光線アイスラッガーをはじき返していますね。これは新人相手に、大スターのセブンがやったとしては、破格のセル(相手を持ち上げるための見せ場)だったのでは?
「彼は、久々にパートタイム・シュートを申し込んだ私の心意気を気に入ってくれたんじゃないかな?と同時に……ややうぬぼれさせてもらっていいかい?」
キングジョーがはにかんだような声色で語る。


「ここでこれだけ破格の形で、私の強さを売り出してくれれば、その後のシュートがいかにタフ・ファイトであったとしても、観客が納得してくれるだろ?私の実力を予想し、そういう形で全体をまとめることを視野に入れてくれていた…そう思いたいもんだね。そういう柔軟性と臨機応変のセンスがあったから、彼はシューターでもありスターでもありえたのさ。私とは違ってね」


上機嫌で、ジョーさんは再び油を頭に差す。
「さて、ここからが君のお待ち兼ねのシュート部分さ」


◇ ◇ ◇ ◇


とび蹴りを放つセブン。ジョーは右にサークリングしてさばくが、着地したセブンはすかさず胴タックルに持っていく。
「これは上手かったね。一見、派手な見せ技に見えるようなとびげりだったが、これは私との距離を盗むためのものだったんだ。そこからグレコ式の胴タックルだった。体格差があったから防げたと正直思うよ」


ーーここから、首筋にジョーさんは打撃を落としています
「今のMMAだと反則だそうだね(苦笑)。この前、ロングスパッツのジャパニーズ・ヤングガイと、入場でやたらと踊るブラジル人の試合がそれで終わったそうじゃないか」


−−ええ、ノーコンテストになりました。
MMAでも、極めて危険な技は反則にするべきだと思うが、ストリートやノールールでの攻防で自然に出てくるような技を制限するのは感心しない。まあこれは議論があるし、実際にこの首への打撃は大きなダメージを与えて、そこから私もマウント・ポジションに入れたわけだ」


−−エレキングさんは、「ジョーさんは柔術も使いこなす稀な存在だった」と絶賛しています
「それは過大評価さ。このころ私は、たしかに必要性を認識して柔術の基礎をカーウソン・グレイシーから教えてもらっていた。だが、白帯をやっと脱したかどうかだ。もちろん、他の人間に比べればマウントが重要だぞ、ということをわかっているだけでもアドバンテージだろうがね。半分は本能で取ったものだし、第一そこから有効な攻撃をできてないね。むしろ今見ると、下からリストを取ってコントロールしているセブンのほうが柔術には詳しかったんじゃないかな?ジャーナリストなら、そのへんを突っ込むと面白いことが分かるかもしれないよ」



−ー今後のテーマにさせていただきます。この後ジョーさんはクロー攻撃のような形でセブンをマウントから攻めました。
「やはり最後の最後では、自分の地金が出るものさ。あのころはパウンド技術ひとつとってもセオリーが無かった。だからいわゆる、先輩のキャッチレスラーから学んだボーン・トゥ・ボーン…ゴリゴリと頬骨の辺りを削るように押し付ける技が出たんだろう。ほれ、この骨の部分を顔のここに」


ーーーいたいいたいいたい!!わかりましたから…ところでこの時、指がセブンの目に入ったのでは?
「かもしれないな。故意ということは絶対無いが、いまさら言い訳はしないよ。セブン自身はそういうクレームをまったくしなかったが、彼は誇り高いからね。もしそれで目を傷めても、たぶんそれは自分の責任と思う人だ」


−ーこの後、モンゴリアンチョップのような形でパウンドしています。
「むしろチョーク気味にのどをねらったのさ。実は首を極めたかったんだが、そのリストを取られる恐怖があったので、打撃と絞めのあわせたような技になったんだ」


−−ここでセブンの動きが止まりました。つまり…あなたの勝ちでしょうか?

「実はこの時、ちょうどシュートタイムが終わるところだったんだ。だからそこでセブンも、『終わりだぞ』という意味で敢えて動きを止めたというのが事実じゃないかな。いつもの自分だったら、勝手に延長して完膚なきまでにけりをつけて、その後プロモーターに干されるのが普通だ(笑)。だが、セブンという存在はヤングボーイだった私が、自分から『終わりだぞ』と感じてそれに従う…そういうディグニティ(威厳)があったよ」


−−もう一度伺いますが、ご自身では勝ったと思ってはいないのですね。

「正直、マウントで攻めまくった後、シュートがタイムアップした時にはもう息が切れて、力もゼロでね。ゼイゼイいいながら、ゆっくり時間を稼ぐためだけに、ビルを壊しに向かうフリをして歩いていたんだ。ところが、もっとぐったりしてるはずだったセブンがいきなりジャンプして、後ろからダブルレッグダイブ(両足タックル)だぜ? 正直、信じられなかったよ(笑)。それだけのスタミナがあったら、いくら有利な体勢だったとはいえ、あのあとセメントでやってもリバーサルされてやられていたかもしれない。まあ、もしもの話はだれでもわからないよ」

そして2回目の試合(神戸)は…

俗には1回目の「六甲の惨劇」に対比して「神戸の復讐」と呼ばれる2回目の試合だが、意外なことにこれについてはキングジョーさんから、明快な答えを得ることはできなかった。
こういうと、負け試合を語りたくないといった偏狭な姿勢かと思われるかもしれないが、彼はこの時も極めて上機嫌だった。
彼の言葉をそのまま記しておく。


「確かにこの試合も最初と同様、シュートとワークが部分的に共存している。だが、ボーイたちにすべての答えを教えるのも教育上よろしくないな。どこがどのような部分であるか、これは未来への宿題、謎かけとしておこう。ただ、ひとつ自慢でもあり、ミスター・セブンへの敬意も込めて明かすと、フィニッシュを警備隊の秘密兵器によって私がやられる”クイック”(傷のつかない負け方)にしようと提案してくれたのはセブンのほうだよ。あのころ、そういう扱いをされたのはトップ級怪獣ばかりだった。ジェロニモアントラー、そしてゼットン……。初代に比べてセブンはそういう曖昧決着を嫌うタイプだから、そういう点でも稀な光栄だろう。ただ、器の小さい人気スターなら結果的に1回目で株を上げた私に完勝して、格を元に戻したかったはずだ。彼はそういう形で、わたしに”ボーナス”をくれたのさ」


試合の真実をストレートにはきけそうもない。私は諦めて、周辺のもうひとつの謎を口にした。


−−実はこれもエレキングさんの受け売りなんですが、ジョーさんはタンカーをするりと、そのまま持ち上げていますね。
実は若い選手も、このジョーさんのテクニックを真似しているエヴァという子がいたんですが、この選手が持ち上げたところ、造船時の継ぎ目からめりめりと船が折れてしまった。どう違うんでしょう?

「タイミングだよ、タイミング。同じものでもどこに重心があり、末端とどういうバランスでなりたっているのかをまず感覚で見極めて持つこと。そうすれば崩れないし、そもそも崩れるような状態で武器にしようったって意味が無いだろ?」



【第二部・その後のキングジョー】

セブンとの2試合の検証も完璧ではないものの済ませたわたしは、その後のキングジョーの歩み、生き方をじっくり尋ねることにした。
これはあの試合以上に謎であった。
なにしろ、あれだけインパクトを残した実力者でありながら、その後は完全に表舞台からは身を引き、世に隠れた生活をしてきたのである。

なにしろ当時、高い評価を得たものは各地でメインイベンターとして引っ張りだこであった。のちに芸能界にも進出したバルタン星人の人気ぶりはいうまでもないが、エレキングが「タロウ」の敵として大々的にフィーチャーされたり、例えばキングジョーとまったく同タイプと見られることも多い孤高の実力派シューター・ゼットンでさえも、帰りマンの最終試合の相手役として破格のギャラで来日した。

なぜ、キングジョーは長き沈黙を続けたのだろう?
この謎に迫る必要があった。



−−この試合で、貴方のネームバリューは飛躍的に高まったはずです。引く手あまただったでしょうに、どうしてその後、他の怪獣のようにいろいろな出演をしなかったのですか?

「ふむ…。取材の最初の時に、君は『私の練習に感動した』といっていたね。それと同じで、私自身があの試合に感動した…というべきかな。私のような若造にあんなスターが正面から勝負してくれたんだ。そしてああいう勝負になった。その後、わたしはこう思ったんだ。自分は強さを極めよう、この世界で成功するかしないかは、一試合のギャラではなく、どれだけ技術と肉体を向上させたかで測ろうとね。だからその後のオファーも納得しなければ断った。金銭的な条件というより、試合のスタイルがね…。マネージャーのペダン星人もあきれて、結局契約を解除されたよ。
だがこんな変わった男にも、コーチを頼みたいという怪獣やロボットがいたので、寂しくは無かった。ここで名前を言うのは控えるが、ウルトラマン以外にも、主役級のヒーローを倒した怪獣やロボットで、私が教えたヤツはたくさんいるよ」


−−ウルトラファイトに出場したいという気は無かったのですか?
ウルトラファイトか…懐かしいね。実は私は、『幻の旗揚げメンバー』の一人だったんだよ」


−−ええっ!
「もともとあの団体は、ミスター・セブンの半ば道楽…というと変だが、彼の情熱で旗揚げしたようなものでね。彼は決して従来の怪獣プロレスを否定する人では無かったが、私とのタフマッチのように『リアルもできなきゃダメだ』という信念もあった。そういう場として、ファイトは立ち上がったんだ」


−−今の総合格闘技の魁となる、全ガチ団体だといわれています。
「もっとも、今のようなメジャー化は考えていなかったね。逆に『これでは食えないけど、細々でもいいから続けよう』と小さなインディとして行うことになったんだ。あの時大々的にやっていたら、PRIDEやUFCの代わりに世界のウルトラファイトになったかもしれないね、ハハハ。」


−−なぜそれに参加しなかったのですか。
「それを放送するTBSが妨害したのさ!!彼らは『ガチ』というのは自分たちがコントロールできないものだとして本質的に嫌っていたのだ。私のセブンとの戦いも、彼らにしてみればえらく不評でね。あそこはグレート・クサツを王者にしようとして、相手のルー・テーズから怒りを買って最初の意図と大幅に違うテレビ放送になってしまった。このへんで懲りたんだろう。それに私がロボットで、他局のロボットものと違うカラーをだしたかったらしい。まあ、私に病気の親か進学志望の兄弟でもいて『闘う理由がある』とでもすれば出られたのかもね、ハハハ。セブンはこのことを知らなかったんだろう。私のほうから出場を辞退したら大いに残念がってくれて、何度も電話してくれたよ。『ああいう試合を、今度は最初から最後までできるんだぞ。私との決着もつけることができる』と口説かれた時はさすがに揺らいだがね。でもセブンとTBSのいい関係を私が崩すわけにはいかなかった」


−−では見ていて、残念な思いがあったでしょうね。
「ただ…これはセブンの唯一の欠点だったろうが、自分を慕う怪獣を切り捨てることができなかったね。本来のガチ団体を目指すなら、あきらかにレベルに達していないアギラやゴーロンは切り捨てるべきだったろう。エレキングも、いいやつだが技術的にああいう試合にを行うにはキャリア不足だったね。しかし、逆に言えばあそこに出た人間は、あきらかに技術を知らないやつも含めて、そういう試合をやりたい、そういう技術を身につけたいと考えるものたちだった。今はそういう怪獣がめっきり減った・・・」


−−今の若い怪獣には不満があるようですね。
「若い怪獣もそうかもしれないが、それを甘やかすほうにも問題があると思うよ。例えばさっきの話に出ていたゼットンだ。帰りマンの時には相当にコンディションを悪くしていたじゃないか?まるで別人のように体形も崩れていた。ガソリンがなければキャデラックだって走らないように、怪獣なら最高のコンディションで臨むべきなのだ。この前メビウスとやったときはまだマシだったようだが、それでも動きにキレがない。結果的に名声を切り売りして食っているようなもんさ。私にはできないね。それから今のロボットたちにも不満がある。ガチャンガチャンとむやみに合体したり、飛行機になったりするだろ?」


−−いまやロボット界では、一流になるための必須条件ですね。元祖がキングジョーさんだとも言われていますが
「そう呼ばれるのは全くの不本意だ!私はたしかに分離合体・飛行形態を初めて行ったロボットだ。だがそれは、警戒地区を襲撃するための侵入方法であり、グラウンド・ポジションからの脱出であり、すべて生きた技術だ。今のように無目的なギミック、ファンへのアピールとして合体や変形をするようではいかんのだ。バンダイがダメにしたんだよ」


−−なるほど、耳の痛いロボットもいるでしょうね…。ところでメビウスにさっき触れていらっしゃいしたが、ジョーさんは沈黙を破り、その前の「マックス」にご出演なさいました。オールド・ファンは狂喜したものですが、その理由はなんだったのでしょうか。若い選手への不満とはまた、どう関係しているのでしょうか。

「ふむ。これはウルトラ・プロモーションとしてはあまり触れられたくない話題かもしれないが…。しかし私が言わない限り、だれも語らないだろうな。敢えて言っておくべきか。それはマックスこそが、今の若いウルトラの中で唯一の”リアル・ディール(本物)”だからさ」


−−……。
「ウルトラの中にも、だれがどうとかは想像に任せるが、本物の実力を持つものこそがトップになるべきだと考えるものもいれば、派手な光線技や武器を駆使して、大会場やテレビ映えするテクニックを身につけた人が売り出されるべきだと考えるものもいる。マックスはその実力も相当である一方、派手な武器や光線も水準以上だから、ティガやらダイナとか以上に当初、ウルトラプロモーションもプッシュした。だから『キングの会』で言えば、レッドキングエレキングも喜んで闘ったろ?もともとはセブンが依頼したのさ、「育てたい、すごい若者がいるんだ。一手指南して、彼に皆の持っているものを伝えてくれ」とね」


−−セブンの推薦で、みなさんはマックスと戦ったのですか!
「相手をしたものは、私を含めぞっこんマックスにほれ込んだよ。みんな『彼は本物だね』『天才だよ』と舌をまいたものさ。ところが幸か不幸か、それまでさっぱり人材がいなかったウルトラに、次のスターがすぐに生まれてしまった(苦笑)」


−−それがメビウスですね。確かにマックスとメビウスは、初代・セブンと続く大物の連鎖だとも言われました。
「そういう売りもできたのだろうが、ただウルトラ・プロモーションはメビウスという逸材に興奮しすぎ、過剰なプッシュをしたと思う。兄弟との仲を前面に売り出しただろ?あれはスター育成にいいように見えて実はマイナスなのだ。一人で何もできないベイビーだと思われるからね。才能が有りながら、それで失敗したのも前にいただろ(笑)?」


−−はは、名前はいえませんが(笑)。ジョーさんはメビウスよりマックスを評価すると。
メビウスとは少し話したが、素直でいいやつだし、あのきらびやかな戦いはたしかにスターになる素質がある。しかし、それを支える、コレ(手でピストルサインを作る)では、すごい可能性を秘めてはいるが、まだまだまったくマックスに及ばない。この二人が闘えばメビウスは3分持たないよ。他の団体でいえば、ナカムラとタナハシのようなものだ」


−−いや、あの一族はだれも3分持たないですが(笑)。なるほど、両者の比較は考えもしなかったな
「マックスのほうもギラギラした野心がある男ではない。メビウスの影として、サポートする立場に回るならこれほど頼りになるものは無い、有能なポリスマンだろう。だが、ウルトラ・プロモーションとしてはそれでいいかもしれないが、マックスの潜在能力、実力をこの時代に生かさなくていいのかと思うね。メビウス自身も、今のプッシュが足かせだと思う。それこそ今、ウルトラファイトシリーズでも立ち上げて、そこでマックスとメビウスをやらせてみてもいいんじゃないか。リアル・ディールの戦いこそが、光線や剣といったギミックを超えて、ウルトラをここまで発展させたのだから。…さて、少々おしゃべりが過ぎた様だね。こんなところでいいかい?」

【完】

【付記】いわずもがなの解説ではありますが、このキングジョーのキャラクター造形は、1年前に逝去された、”神様”とも称されたある伝説的なプロレスラーの経歴や発言を参考にしています。
数日ずれてしまいましたが、これを私なりの没1周年の追悼としたいと思います。
 
【付記2】
なんと、この怪獣インタビューはその後も続き、シリーズになってしまいました(不定期)
他の怪獣へのインタビューはこちら

怪獣インタビュー・リンク集 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140302/p1

続篇的な何か
キングジョーさんにウルトラマンZとの死闘を簡単に振り返ってもらった。【怪獣インタビュー・番外】
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おまけ 現実世界での裏話




一部のブクマがエラー化して別のところに行っています。
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/gryphon/20080730%23p2