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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「その国のオッズは?」世界を賭けるギャンブラー”保険屋”

古人いわく、君子危うきに近寄らず。
オレいわく、危(ヤバ)いことなら銭になる」

宍戸錠主演映画「危いことなら銭になる」)


「保険」の本質は賭け事と同じで、違うのは保険金を支払う側が、本来は嫌なこと(「私が契約期間内に死ぬこと」「家が火事になること」)に賭け、保険会社がその反対側(死なない、火事にはならない)に賭けるということだ・・・・・ということは知る人ぞ知る真実であります。個人の家などでより、もっとスケールの大きい貿易・輸送や多くのビジネスにも当然その種の保険がある。アメリカでは「大作映画がコケたときの保険」まであるそうで(笑)


と同時に、保険詐欺というものに対抗するため、加入時や支払時に各種の調査や交渉が生まれる。「MASTERキートン」でそういう人の活動は有名になったが、ゴルゴ13にも時々出てくるね。

実は先だって、そういう海外の保険業務に携わる人から話を聞く機会がありました。
この人の専門領域はちょっと詳しく書きにくいのだが、「海」に関係しているとだけ申し上げておきます。
(情報源保護のため、音声や方言は変えてあります)


「2000年ごろの話なんだが、おれ、英国のXXX関係者に会ってきてね」


−え?あの伝統の保険引き受けの会社の?・・・・・・・
「いや、ちょっとちゃうねん、会社や無いねん。XXXってのはまあ、シンジケートの集合体。多数のシンジケートが店を開いている場、というのが正しいな」


−シ、シンジケート?ギャングの集合体?


「ああこの単語、なんか日本語のイメージはそうなっとるな。でも本来の意味は、別に犯罪組織ちゃうで。
要はこうや。保険つうのは「ネーム」と「アンダーライター」から成る「シンジケート」が担うと考えてみてくれや。
ネームというのは、ようは「金主」やな。たとえば金主がカネをだしあって10億になったとする。この10億をどうやって増やすか?銀行に預ければ年率2%で1年で2000万増える。こりゃ大もうけだというのは所詮貧乏人。
英国紳士はこう考える。10億円の建物(絵画、貨物、電子レンジにずぶ濡れのネコを入れられる可能性)がおじゃんになったらその分お金払ってあげましょう。そのかわり1年で5%の保険料を頂きまっせ。この金主となるのがネームということになる。イギリスでは成りあがりの金持ちが「おれさぁ、こないだロイズからネームにならないかって手紙が来てね」というのがよくある自慢話だそうや。 」


−英国には上流階級とそれ以外の、ふたつの国が中にある、とも聞くからなあ。でも、その保険主ってたしか「無限責任」なんでしょ?保険金の支払いは「シャツの最後のボタン一個まで」という徹底した責任。そういう危険と背中合わせの業界だって聞きますよ。

おれのイメージではなんかXXXの会合で、途中で執事みたいなのが誰かにそっと耳打ちすると、その紳士が「諸君、少々失礼」とか言って無表情で部屋を出て行く。
そんで、ドアの向こうから銃声がターンッと・・・・(笑)


「そんで、部屋の連中が『諸君、目下の問題はこのブリッジの続きをやる人間がいなくなったことだ』って(笑)。なんやその劇画は」


−で、そいつらは先祖がジャンヌ・ダルクやスペイン無敵艦隊と戦って武勲を挙げたとかいう大貴族なんでしょ?正式な称号が舌を噛みそうなほど長くて「いえいえ、僕のことは気軽に”十四世”と呼んでください」とか(笑)



「その発想から離れろや(笑)。たしかにもともとはこのネーム、個人しかなれなかった。でもさすがに異常気象やらアスベストで首吊りが増えて個人ネームが激減した(ネームの名誉の根拠は徹底した無限責任だもんね)から、最近はロイズ改革のひとつとして法人ネームを認めるようになったんや。なもんで、東洋の島国・日本の保険会社も元同盟国のよしみで(?)多くがいまや「ロイズ・ネーム」になってるつうわけや。


−ほうほう。


「で、元手の例えば10億をより効率よく増やそうとすると、専門家が必要なわけ。リスクを読み、拒絶するリスクを明確にし、引き受けるリスクに妥当な値段をつける。この専門家が「アンダーライター」。競馬でたとえれば、ネーム=馬主、アンダーライター=調教師 みたいなものか。」


−はあ、なるほど貴方はその「アンダーライター」だったわけだ。


「だからXXXは多数のシンジケートが店を開いている場、ということ。シンジケート間、というかアンダーライター間はお互い強烈な競争意識はない。「アンダーライター間の親密な交流こそがコーヒー店以来のロイズの伝統」という言葉があるくらいやからな。
この言葉、短いロンドン滞在中に別々の3人から聞いたよ。お世辞もあるやろけどな。

シンジケートは海とか陸とか、農業とか貿易とかいろんな部門に分かれてるんやけども、どのシンジケートにも「あそこは、XX戦争の保険で大儲けしてのし上がった」つうネームがある。どのシンジケートにも、というより「どの戦争にも」かのう。


−一戦争、一成金か。


「もちろん、その分例の「諸君、少々失礼」のデンで退場していくネームもあるんやけどな。最近では@@@@@@が、コXX紛争でのし上がった」


−コXX紛争で?


「あれはリスクが高すぎるっつうんでどこも敬遠してな。そこだけがウチがやりますって手ェ挙げたんや。他の連中は「いつ潰れるか、大損害で駄目になるか」って目で見守ってたんやけど、結果的に賭けに勝って名士にのし上がったってわけや。
今、WAR ON LANDと呼ばれる『戦争陸上保険』があってな、これは要は、戦地とかで、港に陸上輸送用として荷揚げされた貨物の特別な・・・・」



−あの、船は船舶輸送で保険が当然あるでしょ?陸、港は別で、特殊な保険なの?


「そりゃね、船は機雷だとかテロでやられても、まあ結局冷たく言えば一艘二艘の被害に限定されるだろ。ところが港に荷物が集まったところでどかんとくれば、その被害はちょっと無限責任ちゅうても無理なわけや。
そういう教訓をXXXとかは、それこそ無数の紳士たちの『少々失礼、・・・ターーン』を通じ学んだわけや(笑)」


−あああ、なるほどね。


「それでも、現在は最新の計算のもとに、そういうリスクを引き受けましょうというところも出ている」


−ある意味、死の商人ですな。


「いや、結局被害が出なくて保険料が儲かることを望んでいるんだから、わしら『生の商人』だよ(笑)・・・・とはいっても、世界が完全に平和だとチト困るわな

読者諸氏よ、そのときの「ニヤリ」と笑った保険のプロの笑顔を・・・・作者の筆で描写しきることあたわず!!(梶原一騎調)

【補足】ただし、これはあくまでも2000年の話でその一年後の9月11日、保険業界もすべての状況が一変したとのこと。氏曰く
「少なくとも、相当便乗値上げがされたようやな(笑)。
不振のロイズにとって9.11こそはまさに「神風」だったらしいで」