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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

10年以上前の細野不二彦「電波の城」が「裏社会と格闘技、そしてテレビ局」を描き、今の状況に”マッチ”し過ぎる。

「THE MATCH」…那須川天心と武尊が対戦すると言うキックボクシング界最大のビッグマッチ、東京ドームが即日に前売り券で満員札止めになると言う、全盛期の K 1もかくやという大人気イベントになった大会・・・・・・
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しかし一抹の影、と言うにはあまりに大きな「ほぼ既定路線だったフジテレビでの生放送中止」「その理由はおそらく、関係者の反社会的団体とのかかわり」という一件も、重苦しい暗雲として格闘技界全体にのしかかっている。

今後の RIZINメイウェザー朝倉未来、2022年の大晦日興行… 本当に予断を許さない状態になっている。


さてそんな格闘技界の問題を、フィクションではあるが現実に沿ったモデルも多数配置して描いた傑作漫画があることをご存知でしょうか。

細野不二彦が円熟期に入って描いた、ピカレスクな女性を主人公としたサスペンス漫画「電波の城」がそれだ。

ある日、東京で小さな芸能プロダクションを営む男・鯨岡の下に、一人の若い女性が自分を雇えとやってくる。彼女の名前は天宮詩織。天宮はその卓越した才能と美貌で、テレビ局の出世の階段を登り詰めていくが、彼女にはとんでもない秘密があった。テレビ局の表と裏を余すところなく描いていく野心作。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E6%B3%A2%E3%81%AE%E5%9F%8E


女子アナの立身出世、成り上がりモノというと、もっとB級の漫画家がB級のクオリティで書いてるイメージがあるが、当然細野不二彦はそんな甘いクリエイターではない。巧みな構成で、小さなエピソードが繋がり、壮大な「悪女」のドラマを描くことに成功している。




この前、20巻以上あるこの作品を最初から最後まで再び通読してみた…「THE MATCH」の問題とは関係なくです(笑)。だが中盤の、あまりメインストーリーとは関係がない副次的なエピソードではあるこの格闘技話が、だからこそ独立した話として非常に面白いので、ある意味ここだけ読んでみてもらっても構わない。
(11巻だけ独立して「格闘技団体編」として読むこともできる。その前の10巻から読めばさらに良し)

10巻

●主な登場人物/天宮詩織(あまみや・しお。テレビ局でアナウンサーの頂点を目指す謎の女。現在は格闘技番組に進出。集団自殺を起こしたカルト教団の生き残りという衝撃の過去が…)
●あらすじ/トップキャスターである本城律子は年末の報道特番に向け、産業界を揺るがす究極のエコ燃料“エマルジョン”の実現性が高いというデータを入手する。(略)…本城が追うエコ燃料“エマルジョン”のスクープにかかる、スポンサーからの圧力! 一方「SC(ソルジャー・コロッセウム)」の目玉選手・海竜山を激怒させてしまった天宮詩織の魂胆は…? 年末を控え、丸の内テレビは格闘特番・報道特番ともに激震が…!?

11巻
女子アナ成り上がり列伝!
今年の女子アナMVP!!――
バラエティから報道、お天気お姉さんまで
フリーアナ・天宮詩織の人気は、
さらに大晦日の格闘技特番で
向かうところ敵なしのウナギのぼり状態!

しかし、絶頂目前の天宮の前に
再びトップキャスター・本城律子が立ちはだかる。
テレビの腐敗を暴き、
天宮を窮地に陥れる衝撃の告発番組とは!?
権謀術数うずまくテレビ界に新たな激震が――


今改めて再読してみると痛感するのは、この連載当時だったら「あーあの人がモデルだね」とか「あの事件を踏まえているね」と説明するまでもなくわかることが”注釈”の必要なハイコンテクストな描写になっているということだ。


尖閣諸島上陸、
柔道の部活動事故
身内感覚のやり取りが人気のクイズ番組
無愛想で偏屈な野球監督
その実体は軽薄極まりないし不勉強でもあるが、テレビの画面になると超一流の文化人のように見えるニュースキャスター、
犯罪も辞さない新興宗教………

作品全体を貫く大テーマから、エピソードごとの小ネタやゲスト人物まで、「モデルとなった現実の事件や人物との比較」を 考えるとさらに興味深い。


作者本人はこの作品に関する対談で「ほとんどテレビ局の取材はしていない。ほとんどが想像の産物」と言っているが、本当なのか(そうだとしたらもっと天才だ!)、謙遜なのか、あるいは情報源の秘匿をしているのか……


10、11巻の格闘技団体編は、そんな想像力と現実の拮抗した…つまり2000年代前半の「格闘技ブーム」の現実から、いろんなことを抽出していることは間違いない。

それは読んでみれば明らかだ。

細野不二彦電波の城」格闘技団体編(10、11巻)

へえ、地方のテレビ局の社員から格闘技団体の主催者になり時代の寵児となった、スマートなメガネをかけた2枚目…。誰かモデルがいるのかなあ(しれっ)


しかしその格闘技団体の熱を生む原動力は(この当時は)地上波テレビ放送のバックアップがあった。その中心となっている放送局内のプロデューサーはあまりに派手で強引で、目立ちたがりだったから、局内では「漢気ある!」とも「暴走野郎」とも賛否両論が渦巻く。番組は人気だが、その地位をめぐる権力闘争も活発。さらにはその男気を維持するには、どうも結構なお金が必要なようで…サラリーマンだけどなぜか羽振りがいい…誰かモデルがいるのかなあ(再度)

細野不二彦電波の城」格闘技団体編(10、11巻)


しかしあたかも公然の秘密のように語られる「格闘技界では裏社会との関係がつきもの」。

細野不二彦電波の城」格闘技団体編(10、11巻)
細野不二彦電波の城」格闘技団体編(10、11巻)

博打、八百長、カードのゴリ押し、それを支えるのは恐怖と暴力……

細野不二彦電波の城」格闘技団体編(10、11巻)

ははは、とはいえ、格闘技イベントの直前に関係者が一室に監禁されて脅されるなんて、これはいかにも

荒唐無稽、想像力が豊か過ぎますな。2003年に、ペリカンを監禁したアマゾネスでもいるのかよ(ヤメロ)



生贄のように登場する、格闘家の相手としての見世物的な「往年の人気プロレスラー」。 しかしそれがアップセットを起こすことも……だがその結果の不自然さは、ある裏が…

細野不二彦電波の城」格闘技団体編(10、11巻)

それがひとたび問題化すると、途端にトカゲの尻尾切りを躊躇せず行うテレビ局上層部。そもそも、その早い決断はテレビ局内の「格闘技反対派」の影もあるのではないか?
現場の人間はその上層部の手のひらの上下に、結局は翻弄されるだけのコマだったか…。

細野不二彦電波の城」格闘技団体編(10、11巻)
細野不二彦電波の城」格闘技団体編(10、11巻)

といった話が描かれたのは震災前、そして格闘技ブームの火が消えたことが誰の目にも明らかだった2010年(単行本発行)だけれども、それが12年後の令和に、あまりにもタイムリーな形で迫ってくるって、ちょっと天才が描く物語というものはパワーが大きすぎる。

この機会にまず「電波の城」11巻を試しに読んでみて、面白かったらシリーズ全部を通読してみてはいかがでしょうか。


そして那須川天心対武尊が、大きな熱線になり、運営に携わる人々の主戦場であるRIZINなどが 益々発展していくことを願ってやみません。

(了)


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