INVISIBLE Dojo. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「WEB漫画サイト」の隆盛?と今後を考える(1)。「お前の作品を載せてやる」?「貴方の作品を掲載させていただく」?

重版出来!」での、ネット漫画サイトを批判的に描いた回を考える…


重版出来!はTVドラマも、漫画を実写化したものの中では相当にできのいいものだと思うし、実際に毎回楽しんでおります。
そして漫画も、仕事の漫画として、漫画家(編集者)漫画として、きわめて面白いし、何度も書いたけどかつて同じスピリッツで先駆けとなった「編集王」をテン年代らしくブラッシュアップし、よりディティールや周辺部にも焦点を当てた面白いものになっている。
作者がタッグを組んでいる編集者・ヤマウチナオコ氏も相当な手練れで、そこで編集者マンガを描けば面白いに違いない。


しかし……



この作品の掲載誌的に、出版社的に、当然ながらいろんな紆余曲折はあっても「紙の雑誌はすばらしい」「出版社はすばらしい」というところに着地点が設定されるのは仕方ない話。そこから逆算した「護教」の物語では、あるのだ。
ただ、そういう出版社の正統性を守る「護教」マンガであっても、トップレベルの才能が、護教に立つからこそ価値がある。



法然親鸞阿弥陀の教えに従い極楽往生を目指すという教えを唱え始めたとき、既得権益を得ていた有象無象の坊主たちがこの浄土のおしえを攻撃したが、そういうなまぐさ連中の批判は問題に値しなかった。

だが、従来の仏教の中からでも、最高の存在であった「明恵上人」から出た批判は歴史に残り、論考に値している。

http://www.tokensoft.co.jp/manpo2008/manp0062.html
吉川英治の「親鸞」に明恵について以下のようなくだりがある。

「この上人は、そこらにざらにあるいわゆる碩学とは断じてちがう。満身精神の人だった。学問の深さも並ぶ者がまずあるまいという人物だ。

(栂尾の上人がこういった)といえば、その一言は、思想界をうごかす力があった。しかも、明恵は、めったに言論を弄ぶような人ではなかった。自重して、深く晩節を持し、権力とか、名聞とか、そんなことに軽々しくうごく人でもなかった。」

その明恵が奮然、起ち上がって法然の浄土宗を攻撃した…


で、重版出来!におけるネット漫画サイトの批判(と言っていいだろう)
は、明恵法然親鸞批判のように、やはり最高のものとして考える価値があると思うのだ。


重版出来!でネット漫画サイト批判ががっつり描かれたのは6巻収録のエピソード。

ここに感想がまとまっていますね。

http://comicmon.hateblo.jp/entry/2015/10/20/155057

WEBコミックの怖さ


ささ、そしてアシスタント栗山の話です。中田の才能を見て焦ったのか、ネームのダメ出しに疲れたのか、WEB漫画に手を出します。そしてそのWEB漫画は権利だけ取っておいてサイト閉鎖してしまう。

これはなんとも言えない話だなあ〜〜うわあ〜〜〜と思いましたwなぜなら僕が、WEBメディアの人間だからです!!きまずいです!!
まず読んで思ったのは・・・・(後略)


で、WEBコミックは、こうであると。

WEBコミックサイトは無責任で粘りがなく、儲けが無かったらすぐ閉鎖するし、編集者はアドバイスもよこさないし、権利関係がエグい。
漫画家は、大手出版社の有能な編集者と知恵と汗を出し合い、二人三脚で優れた作品を創っていくべきなのである…と。


これを補足するような、いくつかのまとめやツイートを紹介しよう。

マンガ家のヤマザキマリ氏による、「クリエイターの契約意識に対する問題」 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/971260
  
「原稿料は無いけど、うちで掲載を(権利はこちら)」や「第三者の依頼も、うち経由で…」という契約にクリエイターは注意、という話〜その反響 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/969808
 
「原稿料は払えません」実際にあったイラストレーターと依頼業者の理不尽な契約集 http://spotlight-media.jp/article/275829002120822237


なんか、傑作が多いな(笑)


うーん……まず、契約や交渉のあり方についてはそもそも確かに問題があるものはあるわけで、特に職人たる漫画家が出版社やWEBサイト運営者との交渉はどうあるべきか、弁護士が間に入った方がいいのか……などは大きな問題ではありましょう。



ただ、クリエイターに「LINEのスタンプを、うちから出さないか?」「本の制作プロデュースを、僕がやってあげるよ!」というような人の存在については、少々思うところがある。

というのは、そもそも今も、電波業界においては、それに近い話がふつうにあるからですね。

2014年にも話題になったんだっけ…

「WEB公開漫画が本になる時、作者の報酬は」の議論で「メディアとコンテンツ、どっちがカネを払うか」が再び気になった、テレビの放送料を含め。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140925/p4


要はメディアとコンテンツの関係で…
メディア側がコンテンツ側に
「そのコンテンツ、うちのメディアで『流してあげて』もいいですよ。その代わりおかねくださいね」
というのか、コンテンツ側がメディア側に
「そのメディアに、うちのコンテンツを『流させてあげて』もいいですよ。その代わりおかねくださいね」
 
というか。これは本当に力関係というか偶然というか、伝統というか、力関係というか・・・たぶん正解はないし、そうなると「個々の魅力次第」ということになるんだろうなあ。そして今の現状も、たぶん「必然的にそうなる」というものではないからこそ、今までの伝統が壊れることに恐怖や警戒感がある、と。


最近発売されたムック「俺のプロレス」にこういう一文がる。

当時(1980年代)のアメリカのTVマッチは、プロモーターが時間帯をテレビ局から買った宣伝用番組で、主役となるレスラーがかませ犬のレスラーを一方的にやっつけて次の興行を煽るのを目的としていた

要はCM番組、テレビショッピングのようなもので何の不思議も無い。
テレビもそうだが、書籍の「自費出版」の歴史はもっと古いのだから、ある意味で「流通させるメディアと、そこに載せるコンテンツ。どっちがどっちにお金を払うか」は、500年戦争…やはり「正解のない」ものなんだろうなあ、と。

コンテンツもメディアも、自己実現や表現欲という、市場原理とは別のものが働くわけだし。
そういう点で、WEBで公開していた漫画を、出版社が「本にして、流通させたい」(この部分で、出版社を「メディア側」と扱います)と申し出るとき、印税は別にして、その本にする際の報酬がゼロであっても、有料であっても、あるいは逆に金を作者側からとっても、それは自由であり、交渉次第でしょうね、としか言いようが無い面はある。
ただ、その交渉の際に大きな基準となるであろう「慣習」「常識」…それがネットの発展とも絡んで、結局どう落ち着いていくのか、これは何とも興味深いところだと思いました。

コンテンツと媒体、お金を「貰う」か「払う」かに別に原則は無い。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140330/p3

■なぜ地方ではアニメが放送されないのか-http://blog.toppy.net/?eid=1073150

テレビ局が作っているアニメ
テレビ局が作っているアニメとは、……テレビ局がスポンサーを集めて、そのスポンサーからのお金でアニメを製作している。基本的には、スポンサーが製作費と全国の各テレビ局分の電波料を負担しているので、キー局だけでなく、地方局もネット保証金という名目でお金を受け取り、放送をしている。
(略)
これらテレビ局が作っているアニメは、もし、その地方で放送されていないのであれば、地方のテレビ局に要望を出すことで、その局が放送したいと思ったり、その地方だけのスポンサーがつけば、キー局からアニメを購入し、放送をすることができる……問題は「そうじゃないアニメ」である。

テレビ局が作っていないアニメ
主に深夜に放送されるアニメを見ると、製作は「製作委員会」という形になっている。これは、製作委員会参加企業それぞれが出資……DVDやブルーレイなどを発売し、その収益を参加企業でわけあうのだ。……製作委員会がテレビ局の放送枠を買って流しているのである。


島本和彦吼えろペン」でも、「この作品がメジャー誌の〇〇に載っていれば大人気のヒット作だったはずだ。だが、マイナー誌で連載しちゃったから、そこそこの人気しかない…」みたいな話があったと思います。


もし、どこぞのWEB漫画サイトがたとえば2000万人の固定読者を持つ人気サイトで、そこに連載すれば多くの人が見てもらえるチャンスがあるなら…そこから先はクリエイターの実力次第だとしても、最初は、テレビ局が「うちでそのアニメを『流してあげましょう』」というのと同じように、「うちに『載せてあげましょう』」もありかと思います。その報酬がえらく低くてもゼロでも、単行本化や映像化の権利を抑えていても、それは自他の評価と、交渉次第で……というのもあるかと思う。倫理的に「無料で載せろなんてけしからん!」という根拠は、特にあるか、どうか…


ただ、逆に根拠がないからこそ「誰かが描いた漫画を無料で掲載するなんて”非常識だ”」「単行本化や映像化の権利を掲載サイトの会社がすべて抑えるなんて”倫理に反する”」と言わなきゃいけないのかもしれない。



本や漫画の発売を「プロヂュースする」という話も、自分は「作らないくせに中間で搾取するなんておかしい」、というけど、別の所では「漫画家は交渉事や法律的判断は不得手だから、弁護士に仲介させるのは当然だ」という話も盛り上がってるよね? 本を自分ではかかない、つくらないけど、企画して出版社に売り込んで、宣伝などを引き受ける業者というのも、実力次第ではありだし、というか現に「フリーの出版プロデューサー」は存在して、あやしげに業界でうごめいている(笑)

wikipedia:高須基仁
中央大学在学中は学生運動に熱中。学生運動の最前線に立つ。1968年、10・21国際反戦デーの学生デモに呼応し、防衛庁への侵入を図った。その際、これを阻止しようとした警察官らとの殴り合いのすえ、凶器準備集合罪と公務執行妨害の嫌疑で逮捕される。
大学を卒業後、玩具メーカーのトミーに入社。トミカプラレール、UNOなどの商品に携わる。 その後、芸能事務所、制作プロダクションの経営を経て、ヘアヌード写真集をプロデュースするなど現在に至る。
著書から「脱がせ屋」「毛の商人」とも呼ばれる。激高しやすい性格で、ロフトプラスワンなどのトークイベントで暴れる姿がよく見られた。特に田代まさしの出所会見イベントに乱入した様子はインターネット上のニュースサイト、動画サイトなどで取り上げられるなど拡がりを見せた。

ぶっちゃけ、ぼくの出版プロデューサーのイメージはこの人。
欲しくないけど、某格闘技イベントではおまけのような形でこの人の本が配られていたので1冊ほど持っている。特に面白くもなかった(笑)






しかし、WEB漫画サイトやLINEのスタンプでそれをやろうという人にトンデモなさが感じられるのは、なんといっても、免許事業のテレビと違って、コミックを集めてネットに掲載するというのはハードルが低く、新規参入業者がやまほどあるからだろう。
だから玉石混交になるのはしょうがない(重版出来!で言ってるのはこの話ですな)けれども、その分、その作者本人を含めて、どんどんオルタナティブが登場し、最後は常識的なところに落ち着くような気がしますね。



そしてさらには、こういう身も蓋もない話も出てくる。

名前が知られているギャグマンガ家さんはツイッターに新作をアップするのが単行本への近道!?〜田中圭一先生の提案 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/938187

はぁとふる売国奴 @keiichisennsei 2016-02-14 11:28:06
最近マジに思うのだけど、僕クラスの業界ではギリギリ名前が知られている程度のギャグマンガ家さんは雑誌連載を目指してネームをシコシコ描くくらいなら、毎日1本新作をTwitterにアップした方が単行本への近道じゃないのかな?過去に単行本を出すなどしてそこそこの知名度があって(続
 
はぁとふる売国奴 @keiichisennsei 2016-02-14 11:28:24
毎日新作を上げていけばフォロワーを短期間で数万人(知名度によって多少変わるだろうけど)獲得するのは難しくない。毎日毎日更新することが大切だけれど、4コママンガなら週刊誌で7本単位で描いて載せるでしょ?それと同じ程度の労力だ。(続
 
はぁとふる売国奴 @keiichisennsei 2016-02-14 11:29:36
例えば5万人獲得すれば、5万部の雑誌に連載して立ち読みされているのと同じ効果がある。今、大手でも5万部を切っている月刊誌なんていくつもあるわけで、そこでの連載をゲットすべく何年もネームのやりとりしているくらいなら

 
マンガの単行本を出す近道は“Twitterに新作を毎日上げる”こと! 田中圭一さんのつぶやきが注目を集める http://cupo.cc/topics/3238


もともと雑誌連載と原稿料は作者や出版社の主たる収入源ではなく、単行本の印税のほうが重要であって、雑誌の出版は「単行本を売る宣材」である(だから赤字のところも多い)という。そんな「宣材」なら、数百円のハードルがある雑誌媒体より、twitterで無料の読者を得て、それで単行本になるほうが早い。


これはある意味で「自分が自分を搾取している」ともいえる。もちろん権利は自分だから、それでも最悪のWEB掲載サイトよりはマシなわけだが「多くの目に触れて、そこから単行本になることが最重要の点で、一本を描くごとにもらえる報酬は無くったっていい」という話ではありますよね。



ここが、WEB漫画は何しろ最初に読むのはタダという強みがあって、雑誌マンガより上になるかも…しかしマンガ雑誌は老舗の強みがある。時毒WEB漫画の「出張版」が雑誌に載って、それで気づくこともある。



重版出来!でのWEB漫画サイトへの批判、twitter上での「原稿料はないけど載せませんか?」みたいな話、逆に田中圭一氏の「twitterにマンガを載せて単行本化狙ったほうが、雑誌連載よりいいんじゃね?」、みたいな話は、「コンテンツとメディアの関係の変化」に位置付けて考えると面白いので、描いてみました。


WEB漫画サイトの今後については、もう少し別の論点もあるのですが、時間がないのでそれは後日、このへんで。


今後の参考にしよう的なメモ。

小説サイトに投稿してスカウトを待つのはなぜ?まとめその2 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/971549 @togetter_jpさんから