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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

21世紀出版界最大の”怪物”は角川歴彦氏やろ?彼の評伝って何で無いの?

本日は時間がないので、小ネタ?でもないんだけどあっさりと。
この話題が世間をこの前騒がせましたね。

角川・ドワンゴ経営統合 アニメなど「ニコ動」で海外へ
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ130F6_T10C14A5MM8000/
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 「角川書店」で知られるKADOKAWA(東証1部上場)と、動画配信大手のドワンゴ(同)は経営統合する方針を固めた。来年春にも持ち株会社を設立して2社が傘下に入る。KADOKAWAは出版や映画、ゲームなどのコンテンツ(情報の内容)に強く、ドワンゴは若者に人気のインターネット動画サービス「ニコニコ動画(ニコ動)」などを手掛ける。豊富なコンテンツと高いネット発信力を併せ持つメディアが誕生する。

で、いろんな解説記事出ました。

http://itnp.net/story/770

両社は「社風も近い。共通点はサブカルチャーだ」(角川会長)という。確かに、今のKADOKAWAを支えているのはゲーム雑誌などだ。ドワンゴの「ニコニコ超会議」などの事業もコンテンツとして取り上げている。

 「ザテレビジョン」や「東京ウォーカー」などの雑誌部門を育てた角川氏からすると、川上会長の経営の方向性は極めて腑に落ちるのだろう。

 川上会長も「『KADOKAWAのコンテンツをドワンゴのプラットフォームで世界に発信する』という見方の報道があったが違うと思う。両社ともコンテンツを作り、プラットフォームを運営している。だからこそ統合はうまく行くと思う」と両社の共通性を説明した。


たぶんそーやろーと思うのよ。
だが。
そもそも。 
なんで文芸の老舗、角川家の二代目…それも強烈な個性を持った兄、角川春樹の補佐役…そして何より、、1943年生まれの戦中派の彼、角川歴彦氏が、「サブカルチャーの目利き」なのか??と。

角川歴彦はこんなにすごい

兄さん春樹も、とにかくどハデに動いて、いろいろ失敗もする一方、出版界ではありえないような大路線転換や大挑戦を行い、映画や文庫で大成功した…という話は知ってます。
横溝正史作品を復活させたなどなど。


しかし、角川歴彦氏もすごいわけで。

自分が最初に「角川歴彦は単なる春樹追放で社長になったんじゃなくて、歴戦のつわものらしい」と聞いたのは、この挿話。
ただ、リンク先では「これは伝説らしい」と検証しているのだが、まあ伝説も何がしかの役に立つだろう。

http://d.hatena.ne.jp/kensyouhan/20090228/1235785379
唐沢俊一の札幌時代の「伝説」のひとつに、唐沢が参加していた「リーブルなにわ」という書店の伝言板角川歴彦氏が本にして出版しようとした、という話がある。もっとも、この話はきわめてアヤしいのだが
(略)

角川書店の若い営業部長が自らH店長のもとを訪れ、
「あの伝言板をそっくりコピーして、そのまま本にしましょう」
と持ちかけたというのである。
「あそこに書かれた言葉は、今のアニメやSFファンの若者たちの言葉そのものです。いま、彼らはわれわれの世代とは違う言葉で話し出している。その貴重な記録になっている。」
(略)
 その若い営業部長こそ誰あろう、現在の角川書店社長、角川歴彦氏だったそうだ。

あっしが聞いた話では、「ザ・テレビジョン」「ニュータイプ」や「TOKYO WALKER」をつぎつぎと成功させた雑誌屋。
それもどこにもないジャンルを立ち上げるのよりある意味すごくて、既に老舗の、そのジャンルでは押しも押されもしないような雑誌(「TVガイド」「ぴあ」や「アニメージュ」か)がある状態のところにに堂々と新規参入して、そしてあっさりそういう老舗を抜き去って、チャンピオンになっちゃうという。


そして、伝説の追放と復帰劇。

http://wirelesswire.jp/management_theory_by_programmer/201405161357.html
歴彦は「ザ・テレビジョン」や「東京ウォーカー」、「コンプティーク」を仕掛け、情報誌事業で売上に貢献する一方、兄の春樹との確執が最高潮に高まった後、春樹によって角川書店を追放されてしまいます。


 これに反発した歴彦直下の独立部隊、角川メディアオフィスの社員のほぼ全員が辞表を提出し、角川と無関係の新会社メディアワークスを立ち上げます。このメディアワークスの立ち上げを担当したのが、佐藤辰男です。

 佐藤辰男角川歴彦の秘蔵っ子でした。彼が歴彦に売り込んだゲーム雑誌の企画書は「コンプティーク」として月刊誌になり、「マル勝ファミコン」といった攻略誌も担当しました。

 このマル勝ファミコンの編集部には、当時まだ学生だった浜村弘一(後のファミ通編集長、エンターブレイン社長)と塚田正晃(後のメディアワークス社長)が机を並べていました。
 
 佐藤辰男以下40名の怒れる社員たちは、メディアワークスで「電撃王」を創刊し、いきなり黒字化を達成します。
 さらに「電撃プレイステーション」へと快進撃は続き、「電撃文庫」の創刊でその地位を不動のものにします。

自分はこの「分裂騒動」を横目で見ていたが、実際上の影響はほとんど受けてなかった。
というのは自分は―今もそうだがー家庭用ゲームの最新トレンドは全然ついてけなかったったし、アニメも実際に見ることがあんまり無かったのだ。今もそうだが(原作)漫画だけで基本自足するタチだし、そして漫画は「集英社小学館講談社」だけを見てれば当時は十分というか……「それ以外が、なにか挑戦してへんな雑誌を新たに出しては失敗してる」というイメージだったのだ。
じっさい文芸春秋とか宝島社とか新潮社が漫画雑誌に挑戦しては失敗してた時代すよ??
角川「少年エース」の発刊は…

なんか角川系漫画雑誌の系譜がえらく複雑だといま知った。
ウィキペディアの「少年エース」
ウィキペディアの「月刊ガオ!」
ウィキペディアの「電撃大王」
ウィキペディアの「コミックコンプ」

それにそもそも、会社の揉め事で追放されたスター経営者やスター社員が「てやんでえ、俺がいたから会社がもってたんじゃねえか。俺が中心になって同じ業種の会社をつくれば、すぐに古巣はふっとぶぜ!!」てなことを考えて、成功した例はマレだ。
その数少ない例外がスティーブ・ジョブスアントニオ猪木、そして角川歴彦だったろう。

まあとにかく、電撃ナントカのざまざまな雑誌が、分裂劇のあとに創業して成功した、というのはとってもすげえことでありましょう。

そして角川春樹がちょっとASKA的なあれで一休みしたときに、流され王子は帰還する。
その後の物語は、また続いていくのだが…

いよいよ本題。なんでこの人はそんなにサブカルオタク文化)で成功したの?

角川歴彦が成功させたもの」というくくりは伸縮自在で、間違ってるのかもしれないけど

ロードス島戦記
ガンダムシリーズ(2作目以降?)」
ケロロ軍曹
新世紀エヴァンゲリオン
涼宮ハルヒ

など…らしい。
んでな。さすがにふつうの常識で考えると、1943年生まれのこの人が、そんな個別の作品をいい悪いとか分かったり、観てたりするとも思えない。ようは井上ナントカって人とか、そういう番頭さんや手代どんに優秀な人がいて、大旦那の角川歴彦がそういう人に自由にやらせてる、ってことなんだと思うのだが…
ただ、「いや、実際に歴彦さんは上のような作品をちゃんと見て、ああせいこうせい的な主張もしてるみたいだよ」という話も聞かないではないのだ。

【さらに追記】こんな話もご教示いただいた。80年代にアメリカにいって「D&D」にムムッ!!と感じる感性の持ち主だったようです。俺、D&Dってよう分からんですが、異世界ファンタジー的なものなんですよね?
ならば「ロードス島戦記」がヒットすると現役出版人としてアンテナに引っ掛けた、としても不自然じゃないわけか…。

http://d.hatena.ne.jp/MYSKY+TRPG/20110514/1305337289
角川歴彦さんのお話が掲載され、D&Dのエピソードが紹介されています。

 80年代に米ロサンゼルスを訪ねた際、案内役の商社マンが「断絶していた親子の会話が『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)』のおかげでよみがえった」と話すのに感銘を受けた。D&Dはロールプレーイングゲーム(RPG)の元祖で、「ドラゴンクエスト」などの源流だ。(略)
 「いまソーシャルと呼ばれる現象を理解する原点がD&Dでした。原作をプラットフォームにしてコミュニケーションが生まれ、さまざまな人が多彩な二次創作を紡ぐ。人々に広く開かれていることで生まれる豊かさがあるのです。だから、原作者の権利を厳格に守る著作権法のあり方には疑問がわく」

だとしたら…すげえんとちゃう?
ま、本当に若い人材にこういう現場を任せて成功しました、ということだったとしても、それだってすごい。


なもんで、そういう角川歴彦の歩み、兄との闘争、アニメやSF、ファンタジーライトノベル…に大カドカワの舵を切った決断。

そういった話を自伝でも評伝でも、がっちりと書いた本…ってもうあると思いきや、自分の知ってる限りではないのですよね。

角川春樹さん、兄さんのほうは

といろいろ書いたり、研究書があったりするのだが。ここで確かに、兄から観た弟・歴彦のことも書かれていてそれは貴重な資料だが、カドカワ経営と歴彦氏のことはもちろん分からないさ。


さらに、ものすごーく古い話だが雑誌「宝島30」に、「角川家 地獄の家の秘密」というおどろおどろしいタイトルのルポが載ってた。書いたのは、今はとても意外なかたちで有名になっている岩上安身さんで…氏の個人サイトに、その古いルポがUPされている。

「宝島30」 1993.11
前後編企画・誰も書かなかった「角川家の一族」
http://www.hh.iij4u.or.jp/~iwakami/kado1.htm

【追記】実務的な本のような気がしてスルーしてたのだが、ブクマなどで教えて頂いたことには、これらは結構な文化論にもなってて読む価値があるらしい。


とまれ、実のところ自分の知識も圧倒的に不足していて、
「実は既に角川歴彦氏のすごさやその軌跡を徹底的に記した本は出ているよ」
という可能性も
「そもそも歴彦氏は、上のようなサブカルコンテンツの成功に関わってないよ」
という可能性もある。


まあ、そういう場合は教えてください、ということで。
 
以前から興味を持っていたのだけど、今回のドワンゴ・角川経営統合を機会に問題提起してみた(問題提起と書いてりゃどうにかなるっぽい、と最近学んだ(笑))


どこかの誰かが
角川歴彦はどんなふうに凄かったのか」
を全体の経営的にも、出版全体的にも、映画的にも、あるいはアニメ・ラノベサブカル的にも語ってくれることを希望する…これはそういうひとへのお願いの文章でした。

追記 朗報!!ついに「角川歴彦評伝」が書かれる!!書き手は大塚英志氏!!!

この記事にtwitterで反応をいただきました。

https://twitter.com/einee_kochi/status/468902085921357824
高知県映画上映団体ネットワーク ‏@einee_kochi 4分
@gryphonjapan 大塚英志が6月くらいから星海社のサイトで角川歴彦氏の評伝連載するそうです 角川ドワンゴ統合の際に出した予告編のようなものです→http://bit.ly/1o3jJge

リンク先に跳ぶと…

http://sai-zen-sen.jp/editors/blog/sekaizatsuwa/otsuka-%20essay.html

大塚英志緊急寄稿「企業に管理される快適なポストモダンのためのエッセイ」
2014.05.17
星海社ウェブサイト『最前線』において6月中旬の開始を予定している大塚英志氏の新連載『角川歴彦とメディアミックスの時代』の公開に先駆けまして、大塚氏から緊急寄稿がありましたので急ぎ僕のブログを通じて公開いたします。タイトルは「企業に管理される快適なポストモダンのためのエッセイ」。

先日発表されたKADOKAWA・DWANGOの誕生が放つ巨大な重力から逃れて生きることは、ライトノベル、漫画、アニメ、ゲーム、ネットなどのただ中で生きている僕たちにとってはほぼ不可能な状況になることでしょう。だからこそ、僕たちはたった今、個人個人が真剣にこのKADOKAWA・DWANGOの合併劇について考えるべきなのではないでしょうか。そういった意味で、この緊急寄稿は必読のテキストであると考えます。

また、新連載『角川歴彦とメディアミックスの時代』では、「メディアミックス」の誕生の原点とされる80年代史と角川源義、春樹、歴彦の角川家三代の対比列伝を通じて、これからのメディアの未来を大塚英志氏があぶりだします。連載の開始を楽しみにお待ちくださいませ。

ああ、この記事のタイトルははてなブックマークのホットエントリに上がっていたが、yタイトルが悪いよ(笑)まさか「評伝・角川歴彦」の予告編だったとは思わなかった。
ただ…長いな(笑)。


こんなツイートもいただいた。

鈴木誠二 ‏@esukiesuji 14分
@gryphonjapan 社内競合も恐れず、基本的に部下に自由にやらせたからだと思います。後、オタク気質はあることが確かですね。角川書店専務時代にロードス島戦記関連商品のプレゼンをしたことがありますが、商品サンプルをニコニコしながら見ていたのが印象的でした。

id:shanghai 2014/05/21 16:40
角川歴彦氏、将棋の奨励会上がりでもありますね。その後は将棋界とは一切関わっていないようですが、ニコ生と将棋の無視しえない関係を考えるとどんな影響があるか気になるところ。

gryphon 2014/05/21 18:11
えっ、そうなの?なんかもう、濃い設定すぎるよ!! その設定、要らないよ…。
じゃあ春樹兄に追放されたときも、脳内に将棋盤を描いて「…あと24手詰めか…」とかつぶやくシーンとか挿入できちゃうよ!!(ドラマ化すんな)

竹熊健太郎《編集家》 ‏@kentaro666 2011年11月12日
角川歴彦氏は凄い。他の版元オーナーとは一線を画している。RT @K2nd: .@tsuda こっちの方が遥かに面白かったw
<角川とニコ動が描く電子書籍の未来とは? 角川歴彦×川上量生 対談全文>
http://nico.ms/nw143006 #niconews

流転 2014/05/22 11:50
角川歴彦氏は二十年以上昔、本屋で働いていたころに角川の営業の人が「社長(春樹)よりもはるかに怖い」といっていたのを思い出します。
なんでも業界でも強面で知られた角川の労組を「骨抜き」にしてしまったのはこの人だとか・・・

さらにこんな情報も

「艦これ、ほとんど儲からない」角川歴彦会長が明かす
http://www.huffingtonpost.jp/2013/09/27/kankore-business_n_4001827.html

この歳なら「そういうのをうちのグループでやってるという報告は受けているのですが…詳細はちょっと把握してなくて…」とか言っても許されるだろうになあ。
ちゃんと把握してるっぽいね。
 
兄は「男たちの大和」で当てて
弟は「艦隊これくしょん」で当てるという。



和解しろよ。


付記 2017年9月

カドカワが絡んだとある人気作品の続編が作られる際に、最初の作品をヒットさせた監督が関われなくなったという騒動があり、それをきっかけにSNSの中で「そもそもカドカワの体質が…」「昔はこうじゃなかった」「特に春樹、歴彦さんら経営者は…」みたいな発言が相次ぎました。あちこちに証言が散らばっているのでぜんぶを収録などはできませんが、のちの研究者はそういうところもお押さえください。






2022年追記

因果は廻る糸車。
お兄さんがその地位を追われたように、こちらもお上のお裁きの手が…伸びているのかいないのか、事情聴取を人生の最終盤で受けているという。
果たしてその結末は・・・・・・