われながら
記事のタイトル長すぎ。
この前
■東京都現代美術館(庵野秀明特撮博物館)と森下文化センター(『杉浦茂のとと?展』)はけっこう近く。両方見よう!!!
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120822/p2
で予告編的なことを書いたように、東京都現代美術館の特撮博物館に行ってきたと。10月までやっているとはいえ、近くで入場無料の「杉浦茂展」も9月2日までやっているのでそっちの期間中に見に行けと。杉浦展のやってる施設は常設の「田河水泡のらくろ館」もあるのでお得だと。
それをまず繰り返して、よし、あらためて特撮博物館の展示をみた感想を紹介します。
残念ながら、基本的に一部例外を除き写真は撮影禁止なので外の看板とかを・・・
アントニオ猪木ばりに「どーですかお客さん!」とミエを切りたくなる看板だ。
数々の展示物に、ちゃんと庵野秀明のコメントがある
しかもそのコメントには、庵野夫人・安野モヨコが夫を描いたカットがある(笑)
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またその説明がさあ・・・
たとえば、ジェットジャガーのところで、庵野氏が説明コメントいれるわけよ。
80年代に今のオタ文化を創った創生メンバーの一人ともいえる庵野氏は、そりゃツッコミいれたいにきまってるだろ?だが今回、主催者側だから。館長だから。
んで、妥協の産物?で「非常に驚きの展開」みたいな「言いたいことは分かるが、それを我慢していることがもっとわかる!!」的な文章が、実に楽しめた(笑)。
自分が印象に残っている解説はもうひとつあって・・・庵野さんは、特撮の中でもメカが好きみたいなのね。自分はそーでもない。だからずらっと並んだ円谷プロの警備隊メカ(実際の撮影に出てきたミニチュアも比較的残ってるらしい)は、それなりにふーんと観ていたのだが・・・TAC、ZATTと、ウルトラシリーズの警備隊メカは実にダサくなっていくじゃないすか(個人の主観ではなく、学界の定説です)。
庵野氏、そのTACのメカを「反重力とか、そういう未来科学で動いているというイメージ」と解説していた。「本当に飛ぶとは思えない適当なデザイン」とはっきり言えーーー(笑)!!しかし、庵野氏も巨額の金がうごく重要な仕事を数々こなし、結婚して家庭を持ち、こういうところをそつなくこなすようになったのです。みんなうそつきだぜ。
そして目玉の「巨神兵 東京に現る」だが。
「ママ。僕、大人になったらクリエイターになりたいな。」
「そんなの無理よ。どちらかにしなさい。」
https://twitter.com/nora_ito
という笑い話があるが・・・・はっきり言って今回のこの短編映画と、そしてそのメイキング映像は、上の話がジョークでなくノンフィクションであると証明してるようなもんだった。
メイキングというものは、DVDの普及によって「特典映像」の需要も提供できる枠も増したので観やすくなってるけど、逆にファンがその作品のDVDでも買わないと観られない。こういう展覧会、博物館という枠で、映画を見た人を、そのままメイキング映像に誘導する、という仕組みはたいへんいいのではないか。自分もおそらく、メイキング映像をここまで集中して観賞したのは初めてだ。
そしたら、製作者の映像がすでにして「怪獣総進撃」状態だったと(笑)
箇条書きでメモする「狂気の軍隊の、楽しき狂気の行進」。
・そもそも、「全部をCGを使わず、ミニチュアなどで表現する」と目標設定。
・エヴァ・・・じゃないや巨神兵は独特のフォルム。着ぐるみじゃ表現できない。さあどうする→とある日本の伝統技術を応用!これによって巨神兵の動きを表現できるようになった。元になった技術に補助金をカットして大丈夫ですか某市長さん。
・ただ石こうのビルを怪獣が人力で壊すのではなく、本当にビルを破壊するときは、ビルの壊し方に「三池流」と「伊原流」という伝統があるらしい。ひとつは、車のフロントガラスに使われる、割れるときは一瞬で全体が割れる強化ガラス。あれを圧縮空気で割る方法。もひとつは、要所要所のひもを引っ張っるとばらばらーーっとパネルが崩れる方法。
結局両方が採用されるんだが、そうなるとまた両流派がメンツをかけて勝負!中に瓦礫を仕込んだりとか、いろんな工夫します。そして一瞬で壊れると、スタッフが「シブくいった」と大満足の表情。
・それで満足すりゃいいのに監督、「巨神兵のビームでビルの壁が『とろける』シーンを入れたい」とか理不尽なことを。あきらめろとか、ここだけはCGにしましょうとかスタッフもいえばいいのに、「パラフィン?」「薄い鉄板をバーナーで焼いて?」「チーズ??」とか、発想自体がだんだん暴走してくる(笑)。でも、別コーナーにあったけど「日本誕生」という映画の噴火シーンでは、簡易溶鉱炉をスタジオに設置し、溶けた鉄をほんまに流したそうな(笑)
・結局、食品の着色とかにつかう「メトロース」を風船みたいなものに入れて、それをあふれさせる処理でこれを実現。圧縮空気を使っての爆破、ミニチュアの破壊とタイミングを合わせなきゃいけないがみごとに成功。担当者は「うまくいくのは大抵おれのおかげだよ!」とどや顔(笑)。
・「クライマックスのきのこ雲を綿で作ろう」と言い出す。だからCGを(略。
・樋口真嗣氏「いま、おれの気持ちはブレとる。ブワーと、ブレとる」。何に?(後述)
・樋口氏「キャメロンもそうした」・・・それ初期の低予算映画でしょ?そう空元気を出す一方、(綿を使うなんて原始的な撮影をしていると)「俺天才だ、と思ったり、俺何やってんだ?と思ったりするんだよな」・・・これが「ブレ」の正体。
・そして・・・映画のキモでもあるので正体はぼかすが、この映画の中で、昭和特撮のリスペクトだろうか、リアルな特撮撮影が主体のこの作品に「敢えて作り物丸出し」のものが出てくるシーンがある。それを躊躇すると思いきや「もうこわいものなにもない」「これが特撮だよ」「うちはこれだから、といえるな」とノリノリ。
・この撮影に使ったミニチュアは博物館でも再現されているのだが、担当者は「倉庫にあるもの全部持ってきました」「日本の大半のミニチュアが集まってるでしょうね」と太鼓判。
・「いいよなあ。これだよなあ」と、スタッフが一番楽しみ、満足して、この映画が完成いたしました。
でなあ・・・このメイキングで、やっぱり目が向かうのは、スタッフたちの楽しそうな笑顔。もちろん、こういう作業はそれ以上に苦しみもストレスも多いことだろうし、そういうところはカットされているのがメイキングだろうけれども、どんな編集があっても、ミニチュアが粉々にふっとぶところをみて「これだよなあ」と笑う連中は、値千金の笑顔をしていたことは否定できない。
なんだかんだと、ここの人たちはみな、子供の頃からこれが「好き」で、その「好き」を仕事にしている・・・・当たり前だが、まただれもが参考にしていいわけではないが、そのことは強く感じた、のだった。
そこで「桐島、部活やめるってよ」(漫画版)と「ハックス!」と。
http://astand.asahi.com/magazine/wrculture/2012081800008.html
http://d.hatena.ne.jp/samurai_kung_fu/20120819#p1
http://d.hatena.ne.jp/yosinote/20120812/1344780608
http://d.hatena.ne.jp/Dersu/20120816#p1
など、全国公開される日本映画で、はてなでの反響がどのぐらいから「話題を呼んだ」というかは分からないけど、この映画の批評は、感覚的にいうと「はてな」ではホットエントリになったのも多いし、けっこう目に付いた。
自分は漫画喫茶にあった漫画版を読んだ、ということをお断りしておきます。
- 作者: 桃森ミヨシ,佐藤ざくり,斎藤ジュリア,やまもり三香,姉森カナ,朝井リョウ
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すっかり「スクールカースト」という言葉も、一般論壇誌にのるほどに定着したものだが、コミック版映画版にかかわらず、「桐島」では・・・結果的に・・・そのカーストの下位にある映画オタク(映画部)が、一発逆転するものとして「映画撮影」が出てくる。(これもややこしいが、実際に学校内の地位=カーストが揺らぐ・揺らがないのとは別に、登場人物の内面で「あいつのほうが輝いているよな、充実しているよな…」という「勝ち負け」もあるわけで)
そういう一発逆転をもたらすほどに「映画を作ろうず!」は、、高校生の自主映画であろうと、いい年をして既にその道で「大御所」となっている人が美術館からの依頼で撮っているというお堅い出自のものであろうと、充実したものをもたらすのだなあ・・・と、漫画版『桐島』と、今回のメイキングがふとダブったのだな。
文化系の活動でも、そういうクライマックスはいろいろあるもので・・・そういえば「涼宮ハルヒ」も何巻目かに自主映画製作の話があるし、「げんしけん」では同人誌をつくりあげるのが中盤のクライマックスだった。
映画だけでなく演劇、イベント開催・・・などもそうだな。
そこでもうひとつ紹介したい。
今井哲也「ハックス!」です。一度紹介したね
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120522/p3
このエントリーは、そこに出てくる技術に着目したものなのだが、内容についても書いている。
「とにかく一から、自分たちの好きな分野で、すごいものを作りたい!!」というところをメインテーマにして、文科系部活動を描こうという・・・はじめはそれこそ、その部はまったりだらだらな部活なのですが、まったく空気を読まず、ついでにアニメの凄さに触れたばかりでむやみやたらと前向きな主人公・・・
このときは1巻を読んだだけだった。今後の展開をそのとき、こう予想している。
2巻以降は…才能の開花やチームワーク、異能同士の衝突や挫折なども描かれるのかもしれない。そういう部分は、けっきょく今も昔も変わらない・・・
で、全4巻のこの作品、実は後半でいじめ、スクールカーストの問題もばっちりでてくる。ただ、それ以上に、カーストではどこに位置するかは分からないけど「一生懸命、情熱的に目標へ向かって完全燃焼!!」という人と、「別にそんなに一生懸命やる必要ないっしょ?」という人が対立してくるのだな。
もともと本能的にむやみやたらと猪突猛進する主人公は、そもそもそんな対立に慣れていなく、自己嫌悪やとまどいで立ちどまるのだが、OGで現在はプロのアニメーターからこう励まされる。
その結果、作品は完成するのだが、その「一生懸命じゃない」側は・・・
- 作者: 今井哲也
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そしてそれは「打ち込んでるやつは、打ち込んでないやつよりはやっぱり偉いんだ」となる・・・のかな??
むつかしいところだねー。
やっぱりそう言っていいような気もするし、それがまた抑圧や偏見になっていくところだってあるかもしれないし。「一生懸命」や「打ち込む」ということだって多義的であり、簡単に判断できない。
再度紹介するけど、あの、新世代の牽引車、90年代の旗手だった椎名高志氏ですら一時は「けいおん!」について
「いや、だから必死についていこうとしてるの。でもどうしてもあの子たちががんばらないのが納得できない。そんな作品じゃないことはわかってるのに、くやしい・・・」
( http://togetter.com/li/18557 )
と悩んだそうだから。
こうやってみると、イギリスの貴族とインドのマハラジャのほうが人種国籍を超えて話が合うように「一生懸命の連帯」によって、野球部と映画部の一生懸命派同士のほうが、話があうのかもしれない。(「桐島」でも、それに似たような話が出てくる)
してみると、
などということをさらっと描いたゆうきまさみの慧眼とワンアンドオンリーぶりにあらためて敬服する。この回はくしくも、登場人物が最後に「今日は何も無い一日だったね」といような無為な一日を描いてるのだが、それを、一生懸命に部活に打ち込む人々に負けないぐらい魅力的に、リア充に描いているからすごいのだよな。
究極超人あ~る 文庫版 コミック 全5巻完結セット (小学館文庫)
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はい、やっと一回転して「特撮博物館」に戻ります。
大活躍した甲子園球児が鳴り物入りでプロに入るように、今回「巨神兵東京に現る」をつくったスタッフは、まさに技術・精神の両面で「一生懸命の甲子園」「クリエーターの甲子園」で球場をゆるがした経験がある、文化系的超エリート。その超エリートだからこそ、あれだけの緊張や苦労に満ちた撮影を楽しみ、あれだけの笑顔を見せているのだと思う。
だから簡単にマネをするわけには行かないし、それはそもそも不可能だと思うが、だからこそ、すごいプロ野球選手の美技、記録におどろくように、困難を「撮る」ことにいどむクリエイターの超人性を見物する場所、と考えてもいいのかもしれない。
ではあるけれども・・・「CG時代のミニチュア」は別れの予感を漂わせ・・・
だけれども、その超人たちが創意工夫を凝らしたミニチュア特撮なのだが・・・結局、今回は「そういう昭和の特撮を見せますよー」というコンセプトだからそれをやった、ということを超える意味があるかは微妙だ。
コストや手間で、どのぐらいの差があるのか分からないけど、やはり怪獣も、爆発も、燃える街並みも・・・「CGでやればいい。そっちのほうが安く、リアルだ」という場面は増えることこそあれ、減ることはないでしょう。
いわばこの特撮博物館は
「おじいさんのランプ」なのかもしれない。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000121/files/635_14853.html
そんな寂しさも感じることで、さらに味わい深くなっている。
おまけ
美術館のモニュメントが、ブルトンに見えた(笑)