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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

昭和の感性と仕事術が生んだ、平成プロレスの隆盛期…永島勝司の新刊を読む。他ジャンルの参考にも。

山本夏彦が書いていた話だと思うけど「明治の精神、明治の気骨とよくいうが、明治時代を実際に形作ったのは、その前の教育を受けていた『封建の人』なのである」と。

 「明治の人を崇拝したがるのは昭和の人より格段すぐれていると思うからだろうが、むろん誤りである。明治の人というのは近衛文麿であり真崎甚三郎であり東條英機である。私たちの父の時代の人で、大事なときに国をあやまる人々である。私たちが明治の人というのは実は封建の人で、漱石鷗外あたりがその『しんがり』である。」

こういう意外なタイムラグのようなものはある。
今回発売された、

プロレス界最強仕掛人 永島オヤジの  まぁだま~って読んでみてよ

プロレス界最強仕掛人 永島オヤジの まぁだま~って読んでみてよ

言わなきゃ死ねない、プロレス・仕掛けの裏の“裏”。本書は、新日OBとしての遺言である。愛するプロレス界へのラストメッセージ
 
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)永島/勝司
新日本プロレスリング株式会社取締役企画宣伝部長。1943年生まれ。島根県出身。専修大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。同社勤務時代には、上司との衝突により、整理部長から平社員へという「8階級降格」の経験を持つ。プロレス担当記者時代にアントニオ猪木と出会い、88年新日本プロレスリングに入社。渉外・企画チーフプロデューサーとして、旧ソ連北朝鮮でのプロレス興行や、「新日本対全日本」「UMFインターナショナル全面戦争」などといった数々のヒット企画を生みだした(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

を読んでみても、そんな意外な感覚・・・ある意味で昭和以上に盛り上がった「平成の新日本プロレス」が、ある意味驚くほど「昭和の感覚」が種火となって燃え広がったものだということを感じたのだった。

永島氏はそもそも、新日本に入社する前から東京スポーツの記者として新日本のアングルの企画、宣伝、おまけにカードの勝ち負けに対して選手を納得させる仕事までやっていて、「入社っていつごろだっけかな・・・」と正確に思い出せないほどだったという(笑)。その時点で既に「古き良きいい加減な時代」なのだが、そういうネット時代の平成とは違ったコテコテの感性が、うまく猪木・坂口時代からの代替わり、そして長州・藤波時代からの代替わりによって生まれた大きな平成の盛り上がりを下支えしていたということがわかる。
なんとなく自分の記憶も上書きされて、「演歌調」ともいえる昭和の金曜8時から、一気にJポップ風の三銃士のドームプロレスに変わっていったというイメージがあるんだけど、よくよくこの本を読んで思い出してみれば、じわじわとグラデーションを経てそういうふうになっていったというのがよく分かる。

たとえばアントニオ猪木vs天龍。終わってみれば、今の感覚で言えば、そりゃ引退間近の猪木が、絶頂の天龍に負けるのが必然だということになるかもだけど、当の猪木本人はすごく嫌がって嫌がって、それをオヤジ・ゴマシオこと永島氏がなんとか説得したのだそうだ。

あの当時の天龍というのは新日本にとってhんとうに重要な選手で、客観的に見れば猪木から勝ち星という栄誉をもらうだけの価値のある存在だった。だけど誰もがそう思っていても、猪木にそうはいえない…(略)長州でさえ「会長はそんなのやらないだろう」と言っていたものだった。・・・(略)それでも「俺がなんとか形にするから」・・・

というか、だいたい歴史に残る大試合や大アングルに関してこの本の記述を見ると「橋本は嫌がった」「長州は嫌がった」「藤波は嫌がった」・・・と、そんなのばっか(笑)
それを説得していく手腕が重宝がられ、永島氏は新日と日本のプロレス界の中でのし上がって言った。

発想するフロントがいて、それをゲンバに言って、最初は「それはできません」といわれてもいいんだ。いや、言われるぐらいじゃなくちゃいけない。

という。実際、どんなプロジェクトでもそうなんだろうな。

ふつうのビジネスで生きる教訓も。「WJ」ばかりじゃないんです(笑)

もともとアドリブ性を重んじて、アクシデントとスキャンダルを商売に結びつける・・・という点で会長と一致している人だから、それをカタギの世界にそのまま生かせ、とは言えないけど

肝心なのはマスコミの予想を裏切ること・・・裏切ることから物語は生まれる。・・・でもその結果がお客さんを納得させるだけのデキになければ、これもまたシラけさせてしまう。
(略)
分かっている人をどう騙すか。分からない人をどうやってその水準に持っていってあげるか。

ファンの求めているものを「一回裏返して」提供する。「求めているものを提供する」じゃだめなんだ。そして裏返して提供するためにも、何をファンが求めているかは正確につかまなければ

これって、スティーブ・ジョブスのアップルがやっていることにも通じるような通じないような。ナンとおっしゃるウサギさん!(意味不明)
もっとも、オヤジ本人はこれを競輪の大穴レースと本命レースの呼吸から学んだそうだ(笑)

あと、レスラーを大組織の中の「サラリーマン」と見なすと、その「出世競争」が何によって左右されるかということを、抜擢する側から書いている、ともいえる。上の命令にいつも従順な人が出世し、そうでない人が左遷されるかというとさにあらず。かといっていつも我を通している人が出世するかというとこれも違う。
その「出世争い」という目でプロレスを見ると、個々の勝敗はアップダウンを決めたものであっても、そこからどう伸びるかは・・・サラリーマンの出世競争がガチであるのと同様にガチなのだ!(笑)。
或いは自分は、プロレスと演劇論を最近つねに対比させているけど、北島マヤ姫川亜弓の演技合戦がガチなようにガチ、ともいえる。

そういう意味では、プロレスはすべて真剣勝負! ガチだなんだというけど、つまり「ガチ以上にガチ」なんですよ。

そうだよな、
ストーリーラインがうそ臭くて、ケーフェイっぽい出世競争は島耕作シリーズだけである(笑)。

北朝鮮興行、そのナゾと闇

ナゾといっても、ブル中野平壌に咲く一輪の花だったかどうかとかではない(笑)
あきらかに、平壌興行が決まった経緯やその過程に関しては、まだ明らかになっていない部分が多すぎる。企画の発案者もそうだし、もとは開催資金を「民族系金融機関」が担ってくれる話がぽしゃったという話、訪朝して出場したレスラーたちの人選も・・・実はこの本でも、核心の核心は「ちょっと控えさせてもらう」「あまり詳しいことはいえない」という。
だが、そういいいつつかなり「ん?」と驚く話もある。
あの興行の目玉は、試合をする人々以上にゲストのモハメド・アリだった。
アリは米国でも全世界でも、その言動が「スポーツ面ではなく社会面か1面に行く」人物である。また、よく考えればアメリカを象徴する人物でもあるが、あの70年代に「怒れるアンチ・アメリカ」の象徴でもあったという二面性がある。これが「北朝鮮」に行くのは、大きな政治性を帯びざるを得なかった。
同時に、酒でも食事でも女性でもカネと権力に飽かせて倦むほど堪能する独裁者にとって、けっきょくエンターテインメント、サブカルチャーは「やっぱハリウッド、アメリカッっしょ!」と、多くの反米独裁者もそうなるんだよなあ。
そして金の字の二代目、まさにそういう点ではミーハー道全開。アリが来る!!に北朝鮮当局の方が色めきたったそうだ(笑)。
しかし・・・

とりあえず奥さんと一緒に日本へ来て、名古屋発のチャーター機北朝鮮に入るって時に南側の妨害があったらしい。

オリンピック委員会のチャ・ウンが「大変だ、アリが来ない」って知らせてきた。それで俺に急遽・・・

公安もちゃんと新日本プロレス界隈の行動情報などを収集にあたっていたらしい。

そして・・・

馳はいまでも北朝鮮に関連した話をいろいろ進めているらしい。

北陸が選挙区であることもあるが、自民党でも中心に入りつつある馳議員。この人は確かに、政治ニュースの中でいくつか北朝鮮がらみの話題を聞く。この本からそれを連想するというのも意外だが(笑)、大きな警戒とわずかの期待も必要だろう。

格闘技との接点

中西学vsヒクソン・グレイシー長州力vsヒクソン小川直也vs橋本真也前田日明vsドン・ナカヤ・ニールセン、前田日明vsアンドレなど、異種格闘技や不穏試合についてもいろいろ語られている。
いずれもディテールがこれまで以上に語られていて興味深いが、これは紹介エントリを改める必要があるだろう。


そんなわけでまさに目ン玉とび出る回想本!
永島勝司の革命は終わらねえ!そうだろ?」

Dropkickで永田裕志と対談したそうだ

Dropkick(ドロップキック) Vol.6 (晋遊舎ムック)

Dropkick(ドロップキック) Vol.6 (晋遊舎ムック)

さんざんに永田さんから「オヤジは古い!!」とダメだしされたそうだが(笑)、たしかに古いのである。ではその古い感性がなぜ平成初期には爆発したのか?その「古い」部分で今に持ち込むと、逆に新しく感じるところは無いか?そういう視点で見るとまた面白いような。



http://www.z-flag.jp/saneyuki_akiyama/gungaku/sugar.html

。或日私は冗談に、海戦航跡図をかきまわして、フンフン言いながら秋山中佐に向い
「何うも、どことなく水軍のにほいがするようだね」
といったら、中佐は例の通り少しく顎を突き出してちょっと頭を曲げ、
「白砂糖は黒砂糖から出来るよ」
と笑っていた。