「MMA LEGEND」で、早くも桜庭和志の特集号が出た。この後は特集して商業ベースに載りそうなレジェンドってだれかいるだろうか。ミルコ、ノゲイラ、所英男かしらねえ。
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2010/04/02
- メディア: ムック
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そこで、以前から気になっていたトピックを書いてみよう。実は、「いま」読み直すと、この一連のくだりが非常に考えさせるのだ。
桜庭和志が語った初の自伝「ぼく。」で、桜庭の個人史の中でもエポックメイキング的な戦いであるホイラー・グレイシー戦を回想した場面である。
- 作者: 桜庭和志
- 出版社/メーカー: 東邦出版
- 発売日: 2000/04
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・・・実際に闘ってみたホイラーは、拍子抜けするぐらい弱かった。…(略)…闘っていて、まったくホイラーには負ける気がしなかった・・・これじゃあ弱いものイジメしているみたいだ。
と余裕の戦いだったことを強調する桜庭。だがこのとき、グレイシー陣営がごり押ししたこの試合だけの特別ルールが伏線として浮上してくる。そう、この試合は判定が無かったのです!!
・・・どう転んでも負けることは無い。ただ、時間切れの場合は引き分け、というルールだけはやっかいだった。
引き分けなんて絶対に嫌だ。(略)・・・アームロックの体勢に入った。
ところが、ホイラーはまったくギブアップしようとはしない。体、柔らかいのね。「ウッ」と声を漏らすぐらい痛いんなら、早く諦めてよ。このままだと引き分けになっちゃうよ。ありゃ、残り時間はあと2分?ヤバイ。そう思ったとき、頭のなかにある案がひらめいた。
「そういえば、レフェリーストップというのがあるな」
ちょうどぼくの目の前にはジャッジの人が座っていた。ぼくは技をちょっと緩めて「このまま決めたら折れちゃいますよ」といってみた。
ストーーップ! 作戦は大成功。
さて、この試合を実は小生、会場で見ております。
満場、この場面で「折れ折れ!」の大声援が飛ぶ中、わたしは格闘技を競技として確立させようという立場から、「とめろレフェリー」と叫んだことをはっきり覚えております。えらいね俺。当時は、私はそういう考えに何の疑いも無かった。
だが、そのあと格闘技界は、さまざまな試合を経験している。
すなわち、吉田秀彦vsホイス・グレイシーの初戦であり、
桜庭和志の「HERO'S」初登場の試合であり、
桜庭和志vsゼルグ”弁慶”ガルシックの試合であり、
そして青木真也vs廣野瑞人・・・・。
判定と「どこで止めるか?」の基準に関しては議論がいろいろ出ていた。
この試合も、いまは亡きヒクソンの息子ハクソン君がペットボトルを島田レフェリーにぶつけるグッジョ…いやいやマナー違反をするなど当時から盛り上がったのだが、
当の桜庭は
あの体勢からはどうやっても逃げられないでしょう。「いくらタップしてない」と主張しても、事実としてホイラーにはまったくいいところがなかった。
本当に負けてないと思うんだったら僕がUFCでやったようにリングに居座ればよかったのだ。(略)・・・握手をして帰っていった。ということはあの場では裁定に納得していたのだろう。
上は常識論、下は法律論としてはそれぞれ論理性があり、納得できるのだが、それでもシンプルな試合の骨格として
「技を掛けている当人は、極まらないなと思いつつ」「第三者にアピールして」「そこで止めさせて勝利を得た」という例、それも当事者がそう語っている、というのはこの例以外ないのではないか。吉田vsホイス初戦は構造はかなり似ているのだろうけど、吉田が「いや落ちてないと思ったけど『落ちてる』とアピールして勝ちを得たんすよ」とは口が裂けても言わないだろうし(笑)、
最近のGSP対ダン・ハーディもそうだったし、その他上の桜庭vsホイラー以後も枚挙にいとまがないけど「ああ完璧に極まった!」「こりゃ折れるよ!」というぐらいのタイトな関節技から、根性と粘りで結果として耐え切った、脱出した、ちう例は実際に存在する。するから見込み一本、関節のレフェリーストップは廃止・・・ちうのもまた極端だけど、桜庭本人の手ごたえ、証言と、残り時間やホイラーがその後アピールした彼自身の常人離れした関節の柔らかさを考えると、あすこでストップが掛からなかったら
「桜庭vsホイラー 2R時間切れ引き分け(特別ルール)」
という結果になったかもしれない。
その場合、どんな風に日本のMMAの歴史はなっていったのだろうか。グレイシー陣営は「体重差があってもグレイシーの技なら負けない!これがわれわれの力だ」と大アピール、結果的に記録上は勝てなかった桜庭のその後の大ブレイクはなく、PRIDEブームも生まれず・・・だったかもしれない。
あるいは桜庭の主張する「記録上は引き分けでも、試合内容を見てくれ。ぼくの完勝だ!」が結局受け入れられ、変わらなかったかもしれない(余談ながら、当のグレイシー一族が、吉田vsホイス第二戦は記録上の「引き分け」を無視して実質上の勝ち扱いしている)。
また、そもそも論的では「内心はああ極まらないな、と思いつつ、形に入った姿をアピールして第三者に止めさせる」という行為は、美学やマナー的にアリか、ナシかというのも議論するとそれぞれ意見は違うかもしれない。
ああモナにわか( ´∀`)は議論せんでいい(笑)。
・・・・・・というような話が「MMA LEGEND 桜庭和志」に載っているのかいないのかは未読なので分からない(笑)。ただ、今「ぼく。」が手元にあって、それを引用できるブロガーもそういないでしょうから(私は最近古本屋で購入)、ひとつの資料としてここに引用しておく。上で紹介したムックが、より楽しめる?
レフェリーストップとギブアップのパラドックス
そういえば関連して、面白い話があった。
http://d.hatena.ne.jp/memo8/20100102
複数のレフリーの証言として「見込みを取る」というと選手はタップしなくなりがちで、むしろ「折れるまで止めないよ」と宣言した方がタップは早くなるという傾向がある
これを実際に統計その他に取る事は不可能だろうが、もし事実ならばむしろゲーム理論とか、政策論でいうとサラ金規制だ福祉政策だなんとか、そういう類の話にもつながるのでしょう。経済学的な議論もできそう?
- 作者: スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー,望月衛
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
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