石井慧については以前書いたように
・・・個人的には「柔道の金メダリストが、『ヒョードルやヒクソンなど強い男はたくさんいる』『柔術の茶帯です』とか『ハッスルハッスル』と格闘技やプロレスに理解、敬意を示す」という状況が非常に心地よかったので、これを続けてくれれば本当は良かったと思っているんですけどね。
というのが個人的な思いですが、転向するのならそれはそれで頑張ってほしい。
今後の格闘家としての素質は、現在発売中のゴング格闘技にて、総合格闘家の打撃を見ている人(秋山成勲、川尻達也、高谷裕之などの打撃コーチ)の証言がありまして、その要約をこれも再掲載します。
今回のニュースで興味を持った人は、まだ店頭にならんでいるこれを買って読んでから語れい。
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■チーム黒船・山田武士トレーナー(実際に石井のミット打ちを受ける)
「力はあるが遅いしどんくさい。打撃センスはゼロ」
「柔道家も二種類いて、見よう見まねで出来る”軽い”強さを持つタイプが秋山やヒョードル。全然柔らかさが無く、しっかり根を張った”重さ”が強さになる柔道家もいて、後者に属する石井君はだからこそ金メダルも取れただろうけど、総合には向いていない」
「組み技で致命的な”脇を空ける”が打撃には必要だが、それができない。同じ五輪選手で、総合では今ひとつの宮田和幸にもこれは通じる」
その他、石井に対して書いた過去の文章をまとめてどうぞ
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/searchdiary?word=%c0%d0%b0%e6%b7%c5
しかしそもそも「現役日本人柔道金メダリストが総合転向」が、が昔はおとぎ話
しかし、だ。
1993年にパンクラスやK-1、UFCが産声をあげたとき、「オリンピック種目の格闘技でやっている一流選手が実際に闘ったらどうなるんだろうね」という話はずっとあった。
メダル経験者の参戦自体は早くも二年後、柔道ソウル五輪銅メダルのベン・スパイカースや、4年後のレスリング、ケビン・ジャクソンやデニス・ホールで実現していたのだけれども(それだけで通用しないことの証明も)やはり体力的には一山超えた人が多かった。レスリングはその後規制も減り、カラム・イブラヒム参戦なども実現したが、やはり「世間の知名度」「注目度」という点では同じメダリストでも、やっぱり最重量級で(他がいない中での、男子唯一の)金メダル、20代前半でだれが見ても体力の衰えなし、そして旬の短い五輪選手が、オリンピックのあった「その年」に転向を表明するというのは、もう間違いなく割れ目ルール二枚ドラ赤入り、ぐらいのしろものでありましょう。
そしてやはり、この転向の中に、ホンネはどうかしらねども、これまでの発言の中で「柔道は柔道で、他とは関係ない」という立場でなく「強さを求めるさまざまな格闘技がある。柔道はその最強への通路の一つである」という認識が出てきている。これが建前かホンネか、またこれまで確立されてきた”競技論”から見てどうか・・・はどうでもいいんで、そういう価値観がオモテににじみ出るだけで価値は計り知れない。
10年前は夢物語だった。
3年ほど前は「餓狼伝(板垣版)」の世界だった。
ここまで来た。
そして思えば、ここでは毎回おなじみの話だが大正十年にアド・サンテルが講道館に挑戦し、講道館がこれを拒否した(その後、闘った選手は同館の命令に逆らった人たち)時代に遡る。
http://okigura.lolipop.jp/jj/jj/kakutou/koudou2.htm
・・・大正10年の春、そのサンテルから
1通の挑戦状が東京の講道館にとどいた。「ぜひ講道館のチャンピオンと試合がしたい」というのである。
サンテルはそのとき、プロレスの”ミドル級世界チャンピオン”と名のり
13年間の敗戦はたったの1回。
ドイツ生まれのアメリカ人で、32歳、体重185ポンド(84kg)と
自己紹介がしてあった。”伊藤五段を破った男”サンテルの挑戦をめぐって
講道館は騒然となった。黙殺すべきか、応ずるべきか、決は嘉納師範のはら一つ。
高段者たちの間には、さまざまの憶測が流れた。
新聞がジャンジャン書き立てる。初めは黙殺するつもりであった師範嘉納治五郎も
新聞社の追及に・・・
社会スポーツ「柔道」を確立するという点からみれば、そのときの講道館の決断は決して間違いではなかったと思うが、しかし時を経て、また石井は「強化選手を辞退」という形で離れてはいるけれども、それでも彼がMMAの世界に入るという点ではひとつの節目になったと思う。
あとは受け入れる、ジャンルの側の問題。
吉田秀彦や瀧本誠、永田克彦は、肉体的に「あと五年、転向が早ければ・・・」といわれていたが、石井慧の場合、環境的に「あと五年早ければ・・・」と言われかねない(笑)。そうならないことを祈る。