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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

野中広務・補遺(御厨貴の書評)

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050515#p1
書きかけだった「野中広務 差別と権力」の感想がやっと一応区切りがついた。
本当に独立した一文とするんだったら、これを構成して前後を入れ替えたりなどして、何より部分的な刈り込みを行うんだけど、ブログの特性を良くも悪くも利用し、思いついた順番に字数制限なしにだらだらとまとめました。


ところで、各新聞の書評を探しているなかで、特に毎日新聞読書面で巨人上原や西部松坂のごとき不動のエースである東大教授・御厨貴氏がこの本を評していたという記憶を思い出した。
探してみるとあれだ、すでにサイトからは削除されていたがグーグル大明神のキャッシュでご保存あそばされていたよ。

「MSN-Mainichi 今週の本棚 野中広務 魚住昭 御厨貴」をキーワードに、
http://www.google.co.jp/の最初のヒット項目のキャッシュを見るべし、保存すべし。

今日は小泉政権の運命を決める参議院選の投票日【引用者註:初出は2004年9月7日】。昨年、小泉打倒を果たせず現職から引退した野中広務は、いかなる心境で今日という日を迎えただろうか。(略)


 既に野中広務の存在は、急速に国民の間からも忘れ去られようとしている。だが選挙に臨む有権者に、もし一時(ひととき)の時間の余裕が許されるならば、本書にさっと目を通してから投票所に赴くことを勧めたい。我々の一票の行使が、瞬間風速的かつ短視眼的な動機に基づくものではなく、一九九〇年代以降の、いや戦後政治の長い文脈の上に位置づけられるものとなるために・・・・(略)


・・・そこに野中広務の政治家としての真骨頂がある。限定された現場における情報操作とブラフによって、変わりつつある潮目を決定的にする。蜷川虎三前尾繁三郎小沢一郎梶山静六という名だたる政治家に一度は従いながら、決定的チャンスを掴んで自らの敵対者に仕立て、自らの姿を大きく見せる。イデオロギー性が薄いこともあって、政党に対しても先述のように自由自在に操作を試みる。


 実はこうしたタイプの政治家はめずらしくはない。ただこのタイプには、必らず伯楽的存在が常にあった。野中は中央政界への登場が五七歳と遅い。それ故に伯楽的存在に出会う時間がないまま、権力の階梯を一気にかけ上がることになった。そうであれば、本書が執拗に追っているように、野中は一歩先をいく自らの敵対者にねらいを定めて、迅速に手を打つという短期決戦型にならざるをえない。おそらく長期多角決裁型であった竹下登とは最も対角にあり、だからこそ竹下型政治の崩壊現象の中で、野中は頭角を現わすことが出来たのである・・・

分析力といい、それを表現する文章力といい、またジャーナリスティックな問題設定力といい、そして何より教養人としての気品がにじんでいる。
高坂正堯山内昌之以来の大学人書評家だ。