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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

ごく平凡な個人的「鋼の錬金術師」感想

【書評十番勝負】
もう本日がBSマンガ夜話で、同作を放送する日だ。その前座として。

鋼の錬金術師 (10) (ガンガンコミックス)

鋼の錬金術師 (10) (ガンガンコミックス)

この作品の掲載誌は全くの守備範囲外で、今まで一度も手にしたことがない。
夏目房之介氏らをはじめとする各所の、評判を伝え聞いて初めて紐解いてみたのです。
やはり、傑作というべきものでありました。
こういう、世間での評判作品が確かに質が高いときは「日本のマス文化を支える大衆は、やはり質が高いものだ」と、ナショナリスティックに誇らしくなる(笑)。実際、読み手市場の質が高くならないで、質の高い作品が生まれるわけはなし。



さて内容(単行本)について。
未読の人むけに簡単にあらすじを書こうかとおもったが、キーワード
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%DD%A4%CE%CF%A3%B6%E2%BD%D1%BB%D5
にも載っているし、検索するとたくさんあるから略。
http://www.tbs.co.jp/program/mbs_hagaren.html


まずはこれもおそらく凡庸な指摘だろうと思うけど、失われた体の一部を取り戻し、人間性を回復させる旅を続けるという点では、手塚治虫の「どろろ」のモチーフを受け継いでいる作品ですよね。
体や魂が取れたりくっついたり、融合したりというのは、基本的にはゴシックホラーというか怪奇趣味、一種のグロテスクな魅力というものを醸し出すもので、いつの時代にもそれは少年たちの心を惹きつけるものだろうと思う。「錬金術」という言葉が生む、オカルティックな興味も含めて。


しかし、この作品はそういう部分をベースに持ちながら、これ以上ないほど「少年漫画」の王道を進んでいっている。今時分は、少年漫画は裏道のほうが大渋滞で王道のほうがガラすき、先行車両は藤田和日郎さんの車とワンピースバスしか見えません、あっ脇からこの道に入ろうとした椎名高志の車が脱輪した・・・てな状態だが(偏見です)、重い宿命と迷いを背負いながらも、まことに元気でまっすぐな主人公ぶりには好感が持てる。
今、「釣りキチ三平」が雑誌形式で復刊されてるのだが、これも典型的な少年漫画の主人公・三平に比べて「生意気」という要素が添加されているのはマァ時代の流れだ(笑)。


そういえば、数年前にこの作品がアニメ化されたときだったか、宣伝のCMだかポスターで、豆粒どチビの少年とゴツイ鎧のコンビを見て、「あー、主人公と、それを保護する忠実なる異形の部下、という『牛若丸-弁慶パターン』、言い換えれば横山光輝パターンだね」などと勝手に思い込んでいた(笑)。
が、読んでみるとご存知の通り、鎧は主人公の弟であるピュアな少年でした(魂だけを、鎧に移し変えている)。今、弟や妹など「守るべき」対象を常に持っている主人公というのもあまり多くないんじゃないのかね。そういう作品は「レオン」の影響か、渋めのオジサンが主人公になったりする(そっちのほうがリアリティが出やすいしね)


で、そういう主人公らを配置して、「失われた体を取り戻す」という、もともとの基本モチーフを展開させ「人間が、命や体を自分たちの都合で自由に操っていいのか?」「人間が人間であることの意義は?」というのを正面から打ち出している。
敵側のホムンクルスも、数々の超能力を持った超人にも関わらず、最終目標は「はやく人間になりた〜い」というベムベラベロ的なものだし、鎧のアル君だってある意味不老不死の肉体だが、それでももう一度人間に戻りたいという目標は変わりない。、



ただ、それを本当に着地させられるかどうかはわからん。
もともと壮大すぎるテーマだし、今単行本で見る限りでは、その問題を必ずしも思想的に突き詰めているわけではない。石森章太郎キカイダー

ピノキオは人間になれて、ほんとうにしあわせだったのでしょうか?」
と、最終回の最後の最後に問うただけでした。


でも、このテーマ自体は永遠の未完の問題としても、それを常に背景に持つことで深みを加えることには成功しているんだからよしとすべきか。



そして、各種の脇役たちも非常に魅力的だ。
少年探偵に対しては「●●刑事」という、協力する役がありますね。オトナとしての包容力もあるにはあるが、やや単純でおっちょこちょいなタイプ。これがどういう風に”練成”されたかはしらんが、アームストロング少佐らになる(笑)。
現在のエンターテインメントで、キャラクター造形に根本的な新機軸を打ち出せるようなことは滅多に無いので、ある程度従来の枠の中での工夫をせざるを得ない。だからそのぶん、作者のセンスというのを比べやすくもなっているのだが、作者の荒川弘氏は、やっぱりその辺はかなり上手いし、研究もしている。
彼の他の作品にどんなものがあるのかは知らないが、やはり出るべくして出てきた人なのだろう。
【補足】↑上の文章では「荒川弘氏」「彼の作品」と書いたのだが・・・下コメント欄を見よ


同時に、上の少年探偵でいうと「イヤミで気障で、知的には少年探偵のライバルとなるXX警部」なんてのもいるが、それに該当するのが(やや単純化してますので怒らんでください)マスタング大佐。

彼は、軍隊の中での地位上昇と、最後は頂点に立つことを狙う野心家だが、それは「自分の理想(それも悪役っぽいイデオロギーとかではなく、素朴な正義感)を実現するため」であるという、最近流行のキャラクターであります。

完全にこの種の人物が市民権を得たのは、「踊る大捜査線」の柳葉敏郎(明確に台詞でも「正しいことをしたかったら、偉くなれ」と言ってるね)かなあと思うが、まだまだ展開のしようがあるし、現にその部下たちとのやり取りを含めて面白い(このへんはヤン・ウェンリーとイゼルローン不正規軍の関係のほうが対比しやすいか)。

作者も「一番集めて読んでいる資料は、錬金術の本と軍隊関係の本」と言っているけれど、この軍隊組織、いやもっと大きく組織一般の中での軋轢や力学、そしてそれが生む矛盾や欺瞞(要するに「オトナの論理」)に、主人公らがある時は反発し、ある時はそれに反論できずに落ち込む。

そういう、「VSオトナの論理」という部分も含めて、真正の少年漫画だなあと思うわけです。




・・・・おれが上手く着地できなかったよ(笑)まあ、前座の喋りはこれまでで、あとは
夜11時からBS11NHK衛星第二で「BSマンガ夜話鋼の錬金術師
をお楽しみください。


また、読み初めてからの期間が短く、まだ感想が熟成されとらんので
ツッコミどころは多数あるだろう。ご自由にどぞ