http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/
映画評論家という肩書を超えて行動範囲を広げ、いまやUSA大衆文化ウォッチャーとしての名を高め続けている町山智浩氏が、マイケル・ムーアの映画「華氏911」の公開後の反響を連日書き続けている。
どれも情熱がびんびんに伝わる文章だ。
しっかし、オイラもあれだ、何度もいうが「別冊宝島」「宝島30」の水で思想的うぶ湯を使った人間のなれの果てである。そのオイラが、今回(6/27)4、5分ほどTBSの番組「サンデーモーニング」で流れた一部の映像をもとに、同作品(の一部)を批判しようと思う。
全体の批判でない。批判しようにもまだ全体を見てないんだから(笑)。
内容もごくシンプルだ。
引用映像を再現すると・・・
(TBSのナレーション)
『たとえば議員にムーア監督自身がこんな突撃取材をするのです』
(ワシントンに乗り込んだムーアが、捉まえた議員に話しかける)
「議員のみなさんにお子さんを軍隊に入れてイラクに派兵するよう協力をお願いしています」(軍隊の募集パンフ?を渡している)
(ムーア監督の独白ナレ-ション)「議員の誰一人として自分の子供をイラク戦争で犠牲にしたがらなかった。
誰が彼らを責めることができる?子供を犠牲にしたい人がいるだろうか?
・・・あなたなら?」
なるほど、戦争を決めた議員は
息子を危険な軍隊に送ってないんですって。
けしからんね、イラク戦争の大義のなさの証拠だね。
・・・だが?
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20040627
ムーア「カン違いしてる人が多いけど、僕はアフガン攻撃には反対してないよ」
ハワード「誰が反対するもんか。3千人も殺した連中だぞ」
ムーア「そうだよ、アルカイダとビンラディンは倒すしかない。でも、ブッシュはなぜかあいつらをほったらかしで関係ないイラク攻めてるからおかしいって言ってるだけなんだ」
またれよムーア監督。
イラク戦争を決めた議員が息子・娘をイラクに送っていないことがけしからんのなら、アフガン戦争を決めた議員が”アフガンに息子・娘を送っていない”のも以下同文で問題のはずだ。
(ア)「イラクは大量破壊兵器はなく、アルカイダと無関係。だから戦争に大義がない」
(イ)「アフガンはビンラディンを匿ったから、対タリバン戦争には大義があった」
この主張自体には矛盾はない。一人の人間が両思想を持っていても一貫性は十分に保たれる。
しかし「議員は自分の子供を兵隊にしていないのに・・・」というのは明らかに批判のベクトルとしては方向が違う、質が違うのであって、少なくとも(ア)(イ)を保持しつつ、どちらか一方だけにこの批判を適用しようというのは無理な相談だ。
さらに、もし自身がアフガン戦争のほうには賛成だと、公に立場を言明するのなら、「じゃあ貴方は、息子を戦地に送るのに匹敵もしくは準ずる、どういう個人的犠牲を払う用意があるの?」と問われることも覚悟せねばなるまい
もしそれを分かっていて、それでもなおかつこのシーンを情緒に訴える目的で加えたのなら、それは天晴れである(この問題は、何しろ与謝野晶子の詩の時代から言われている話だから、感情に訴える力はバツグンである)。逆に映画としての作りの巧みさを評価したいぐらいだ。
しかし、もし矛盾を感じずに100%感情移入してああ振舞ったのなら、粗雑との指摘をしないわけにはいかない。
ところで、この問題と来たら田中芳樹「銀河英雄伝説」を触れないわけにはいくまいが。いや、行くかもしれないっつーかごく一部の世代を除いて知らない人が多いだろが、まあそういう人は流せ。
「銀河英雄伝説 第1巻」より
「わたしの婚約者は祖国を守るために戦場に赴いて、
現在はこの世のどこにもいません。
委員長、あなたはどこにいます?死を賛美なさるあなたは
どこにいます。あなたの家族はどこにいます?
わたしは婚約者を犠牲に捧げました。国民に犠牲の必要を説く
あなたのご家族はどこにいます?あなたの演説には
一点の非もありません。でもご自分がそれを実行なさっているの?」
これを批判的に検討したものを、田中芳樹批判サイトに書いたのはもう5年の前かあ(HNは違うよ)。今でも、それなりに傑作だと思うなり。この作品の話だけではなく、現実の問題の、ものの考え方に応用が利くという点においてね。
http://www.tanautsu.net/the-best01_03_01_aa.html
http://www.tanautsu.net/the-best01_03_02_aa.html
んで、これらの文章をまとめる際の参考になったのが浅羽通明メールマガジン「流行神」1992年11月号(90号)---「生と死をいかに位置づけるか・・・戦死と殉職と過労死と」である。だから「別冊宝島」的思考が巡り巡ってこのブログになるわけ(?)。
のちにこの論考は
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何度も予告だけしている浅羽氏の新書「ナショナリズム」「アナーキズム」を、銀英伝を引き合いに出して論じたい、というのはこういう点を敷衍して書くつもりだったのだが、ちょうどいい話題だったので生煮えのまま出してみました。
まだいくつか論点はあるのだけど。