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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 報道、記録、文化のために

「片田舎のおっさん、剣聖になる」が世界的人気なことを受けて、即興の雑感

「主人」と「客」との対話。(丸山真男風、かな)



客 こんなニュースが飛び込んできましてね。予想してましたか。

…なにしろ、『おっさん剣聖」の最終話の放送後にはPrime Videoのランキングで日本での1位を含め、アメリカでも4位に入るなど36カ国でトップ10入り。

Prime Video全体のテレビドラマシリーズの中で4位に入る快挙を成し遂げてしまったのです。

(出典:Flixpatrol)
「おっさん剣聖」が第一期にもかかわらず、世界中にここまで大きな反響を巻き起こすとは、多くの人が予想していなかったと思います。

「おっさん剣聖」の海外向けの英語タイトルは「From Old Country Bumpkin to Master Swordsman」となっており、「Old(おっさん)」という文脈よりは「Bumpkin(田舎者)」という文脈が広い層にささるキーワードになったのかもしれません。


また、日本ではアニメや映画の主人公というと若い男性や女性であることが普通の印象が強いですが、海外ではハリウッドの映画でもいわゆる「おじさん」が主人公を務める映画がヒットすることが普通であることも影響している可能性はあるようです。


主人 いやまったく。一応作品はAmazonプライムで拝見したし、コミカライズも電書半額セールで購入してましたから、話の筋は理解してる。ただ、それをぼーっと見ながら「なんとも日本的な作品だな、これは理解されないだろうな」と思ってたんで、びっくりぽんですよ。ただ、こういう場合の「日本的」ってのはね「実に日本的な作品だから、海外にとっては新鮮だった。だからヒットした」という論法も取れる(笑)、そっちにさっそく切り替えます。


客 いい加減だなあ(笑)



主人 いや、実際そうでさー、日本発でも韓国発でもインド発でもいいけど、ヒット作を評して「○○の国ならではの独自性」が受けたのか、「もっと世界的な、普遍的なスタイルにマッチした」から受けたのか、これは論評時に永遠の課題になる……
そうだ、最近そういうツイートみたよ。

こりま
@korimakorima


千と千尋の神隠し』はハクのキャラデザや油屋が日本日本してるから異国情緒楽しめるわ~的にアメリカでも人気があるのかなと思っていたから、“デパートや人混みの中で親の姿を見失ったことがある子供なら誰でも入っていける映画”と米俳優が表現していて反省した。今日も世界中の子供が人混みの中、いっとき親の姿が見えなくなって不安になっている。寄る辺ない感覚。世界中の子供がその不安感を忘れないまま大人になっている。私たちがインド映画やアメリカ映画を見てそこに自分を見いだhしているように、アメリカの人も千を見て自分を見出している。
https://nytimes.com/interactive/2025/movies/votes-movies-21st-century.html#john-turturro

別の米国批評家は「オクサレ様から自転車などを引っこ抜くシーン」と『トトロ』で澄んだ小川をのぞきこむと捨てられた瓶があった、というシーンを重ねていた。ストーリー上、引っ張り出された自転車がアイテムとして活躍することはない。瓶も。捨てられた自転車や、川の中に捨てられたボトルを見たことがある人達は世界中に沢山いて、その人たちが「知ってる」と思うために出てくる。https://rogerebert.com/reviews/spirited-away-2002

https://x.com/korimakorima/status/1939517948017971483

「業界の限界」を示しているのか
K-POPは「西洋から認められたくて必死」─韓国で巻き起こる“厳しい批判”
courrier.jp
「……ファンにとっては『純粋で本物のK-POP』という感覚が重要であり、その大部分は楽曲が韓国語で歌われていること、そしてアーティストが韓国人、あるいはアジア人の特徴を持っていることと結びついているからだ。

また、西洋のアーティストの特徴を取り入れすぎると、西洋に認められたい気持ちが強過ぎるように見え、よく思わないファンもいる」


客 ふむう……ただ、この「片田舎のおっさん」って「なろう」に2020年から連載開始だったそうですけど、少なくとも連載開始時「海外で受ける要素を盛り込もう!」とは間違いなく思ってないでしょうね(笑)


主人 作者のことを知ってるわけじゃないけど、もしそう思ってたら神算鬼謀か誇大妄想ですよね(笑)だからこそ、自分も「日本的な要素だなあ」と思ったんです。



客 では、その「日本的要素」とは?



主人 私見はある・・・・・・けど、先回りして弱点をさらすけどね、たぶんこれから挙げる例は、さがせば「外国にも○○という例がある」という反証は色々出てくると思うよ。或いは黒澤時代劇が西部劇に翻案させて人気になったが、その黒澤映画はもともとアメリカのハードボイルド等の翻案です、みたいなさ。むしろ、そういう反証を「客」くんにも読者にも言ってもらうために、あえて乱暴に区切って言わせてもらうさ。あと、「日本風」といったって、別に文化風土とか関係なくても、3人ほど天才が続けばそのまま、その国の売りになるような文化は育ったりする。
たとえば「巨大ロボットに人が乗って戦う物語」は、2025年現在、たしかに「日本の香りがする、日本の文化」として扱われてる部分があると思う。
だけど、これまた乱暴にいえば、横山光輝永井豪、富野のハゲ(下の名前忘れた)の3人がいたことで「日本文化」となった、と乱暴にいえるわけで・・・・・



客 ほんとに乱暴だな!!だがまあいいや、そういう乱暴な例でいいから「片田舎のおっさん、剣聖になる」が日本風だ、って思ったところを語ってよ。




主人  まず「剣聖」そのもの



客  ファッ?


主人  この議論も折に触れやってるけどね・・・・そして毎回、朝鮮出兵の時に捕虜になった李氏朝鮮の知識人が「敵陣視察」のつもりで日本社会を観察した「看羊録」、あるいは司馬遼太郎エッセイを紹介するんだけども。

看羊録
司馬遼太郎 職人


この延長みたいなもんで・・・・もちろん戦闘に関するスキルを教えるのだから、職人というよりは軍人の一ポジションで、軍人が高貴で高い身分、という社会も世界中に多いけどさ、しかしそれでも「剣技」を極めた人間には何らかの意味での「聖なるもの」というか「人徳」がやどり、特別な尊敬と崇拝を受けるに値する、というのが、たぶん日本で奇妙に発達した一偏見。それが逆にサブカル通じて広がってるというか…
17世紀前半まで猛烈な内戦が続き、その後は19世紀後半までの、逆に異様に長い平和があったけど、名目上は「軍事政権」であり、軍と武は尊びつつも、戦争そのものにはもっていかない。
そんな、独自の軍事・武に関する文化が育った日本の歴史…という、かなり特異な要素が背景にあって、「剣聖」という言葉それ自体がすんなりと受け入れられる土壌ができてるんじゃないかな。



客  中国でも武侠小説って人気なんでしょ?なんか人生のことまでを知り尽くした「老師」もむしろ中国っぽいし……



主人  それはそう。・・・・なんだけど、中国武侠小説とか武侠もの、への知見がないんで、たとえば「片田舎のおっさん」的な意味で「剣聖」=武道の達人がそのまま人格識見超一流で尊敬される存在、的なものであるかどうか。



客  まあ、確かに、剣術武道の達人が全人格的完成者というのは特殊なイメージかも。



主人  柳生一族、宮本武蔵らのブランディング戦略がうまくいったんだね(笑) あるいはファンの二次創作、とも言える吉川英治版の武蔵ですよ。

柳生廉也武芸帖1巻

 




客  さらには姿三四郎……



主人  おっ、それだ。みやもとでなくみなもと太郎がいってたけど、ある時期までの和製アクションヒーローはほとんどが姿三四郎の影響下にあるとか。




客  さらに言うと、一芸一能を極めし人間は、世俗の権力者や王とも渡り合える五分の存在だ、というコンセプトも背後には……



主人  となると『利休と秀吉』の構図も思い出すね。ただこの構図もまさに近代的な発想、創作だという説もあり(このブログを「利休」で検索してみてください)。
m-dojo.hatenadiary.com
もともと「剣豪」からこの種の一芸の名人にも伝播したコンセプトかもしれない。今思い付いた、まさに思い付きだけどさ。



客  外国でもダ・ヴィンチミケランジェロとかにそんな雰囲気あるような…あと聖職者や哲人と権力者のコンセプトは?樽のディオゲネスとか中東のホッジャとか。



主人  今度は日本にそれらの名人についての情報が来たときに、日本人がそういうイメージを投影したかも考慮せにゃいかん。



客  ややこしいな!



主人  もうひとつの方はもっとややこしいんだ。それは主人公の『謙虚さ』。これはエンタメの中でもなかなか無い……とは言わないけど、何というかやっぱり日本発の創作物だと思うんだよねえ。主人公、自分の剣の技術がそれほど優れてるという自己評価がまったく無く、市井の無名人として満たされていた。
だが己を知るものが、無理にでも陽の当たるところ、活躍の場に引っ張り出す。本人は名利を求めてないのに、そうなる。
これはやっぱりハリウッドや西洋冒険小説を見ても珍しいんじゃないかな。
(だから、最近はやりの元殺し屋とか特殊工作員が…みたいなハリウッドものとかキルアオやSAKAMOTO DAYSとかと個人的には連想があまりつながらない。)

いや日本の創作物でもお馴染みの設定とかじゃなく、この作品の一大特徴だとは思うけどね。ただ、現物としてそういうキャラが出されると「ああ、わかるわかる,そういう人物こそ好もしい、我らがヒーローだ」という感覚、これは日本だとすっと伝わるでしょ?よくも悪くも「謙譲の美徳」はそれだけこの島国には骨がらみなのさ。平凡で、つまらない評論で恐縮ですが…と、謙虚に言おう(笑)。でも、実際そうでしょ、「この考察、素晴らしいと思わないかい?」より自然で、反発を買わない。



客  それはそう思います。ほかにもヤン・ウェンリーとか、やれやれ系主人公とか。いまこのニュースのブクマみたら、「無自覚系主人公」というカテゴリー分けをしてる人がいました。
( https://b.hatena.ne.jp/entry/s/news.yahoo.co.jp/expert/articles/982253c1235efa6f1bf33f0d94af8067c693b932 )
でも、だから謙虚なキャラが日本的、かといえば本当にそうかなとも思いますね。日本スゴイ!的な自画自賛にも聞こえるし。



主人  いやいやいや、わかるのよ、そういう類例は中国の古典、隠者にもとがあるかもしれないしね。皇帝に即位するんだって3回は断るべきだ、とかの儀礼も洗練されてる。ホームズだって「名声を求めない」姿勢は一貫してた……
だけどやっぱり、この作品のように「自分は地位を求めてないのに、なんか尊敬、評価されて、その分大きな任務を受けちゃったよトホホ……まあ、そのミッションクリアしちゃうけど」というのは「新機軸」だと思うし、その「日本的」なコンセプトが、新鮮に見えたんじゃないか、という仮説。
それにだいたい、そもそも無欲な主人公だと、話を動かすのが大変なんだよ(笑)。そういう点では無欲=積極的に動く動機がない人って、”燃費が悪い”から諸外国の創作には、それだけで登場させるモチベーションに欠けるよね。
たとえば「無欲だけど正義漢」なら、正義のために動くけど、アニメ一期やそれに相応する漫画版では、多少はあるとはいえ、「この正義感ゆえに無欲だけど、積極的に動いていく」なドラマツルギーではなかったよね




客   うーん………そういえば、チームのなかに「サムライ」がいると、その人はストイックで求道的で、ゆえに一歩引いた寡黙なスペシャリストみたいなステロタイプはあるよね。



主人   それも当の日本人が「ルパン三世」で作った説あるけどね(笑) 古くは黒澤映画「七人の侍宮口精二が演じたサムライ的な。これ、けっこう使い勝手がいいんだ。
そこを、ある種の「自己評価が客観的な実力より低い」「だから名利を求めない」と翻案したのが今回の「片田舎」かと思うんです。



客   では、今回外国で、この作品に人気が出たとするなら、そういう価値観、美的感覚れも伝わった、となるのでしょうか。



主人  まさにそこがわからん・・・・のだよ。海外に詳しい人に任せたい。とりあえずこの二点ね。



客   しかし『片田舎のおっさん』はタイトルが実にキャッチーでしたね。



主人  結局、タイトルで内容を知らせるのは、いろんな『売り場』に載せられる情報がまずタイトルな時点で、確実なアドバンテージなんだろう。なにをかくそう我がブログも、シンプルかつ風刺的に1行で内容を示すより、字数の限り内容を伝えた方が読まれる(笑)
にしても……これ定着したっぽいよね





客   異世界漫画や小説多すぎるのか何なのか、30円とかで電子書籍セールしてるんですが、タイトルに『おっさん』がある作品が多数。ブームなのは間違いないところです……いや、定着済みかも??

https://www.amazon.co.jp/s?k=%E7%95%B0%E4%B8%96%E7%95%8C+%E3%81%8A%E3%81%A3%E3%81%95%E3%82%93&i=digital-text&__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=6IJC27N45WKZ&sprefix=%E7%95%B0%E4%B8%96%E7%95%8C+%E3%81%8A%E3%81%A3%E3%81%95%E3%82%93%2Cdigital-text%2C193&ref=nb_sb_noss_1


(一応の了)