INVISIBLE Dojo. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「銀英伝」を、全くイチから聴衆の前でプレゼンした時のおしゃべりメモ(再アニメ化記念に)

ということで、4月から始まりますね、リメイク版銀河英雄伝説
それを記念して、というわけでもないけど
以前、とある場所で本についておしゃべりする機会があったときに、この作品を語った文章のデータがあったので、紹介したいと思います。


一応断っとくと、これは銀英伝銀河英雄伝説をまるで知らない人もいる…というかそういう人ばかりだということを一種想定した文章です。だからいろんな設定とか人物造形も、一から説明する要があると思ってください。
知っている人とか、このブログにわざわざ来る連中(笑)が対象なら、また語り方は変わってくる。

はじめに

80年代にシリーズが始まってから、すでに中高校生の定番で繰り返し読まれる古典となっています。
ですから本来は、ここでわざわざ取り上げる必要もありません。

でも、なぜこれを選んだかというと、まず人気作品を選んでウケたかった、というのと(笑)もうひとつは、私たちより上のご年配の方、SFなどというのは子どもっぽいものだ…、というイメージの方に、敢えて勧めたいからです。
というのは、そういう世代にも楽しめる特徴があるからです。

実際の歴史がモデル。

この作品は題名通り、銀河を舞台に宇宙船の戦争を描いたSFですが、たとえばスターウォーズスタートレックのように、「宇宙人」や「ロボット」、「超能力」は出てきません。
どちらも地球を飛び出した人類が各惑星に散らばり、そこで社会を作る中で「銀河帝国」と「自由惑星同盟」という二つの国家を作り、戦争をするのです。

ただ、その描写や設定に関しては、さまざまな歴史上の事実を参考にしているのですね。
たとえば銀河帝国に関しては、いかにも悪役な名前で、それこそバケモノのような人々が作ったかと思われるかもしれません。
しかし、その開祖は「銀河連邦」という共和政体にいた軍人出身の政治家で、民衆の強い支持のもと独裁者となり、そこから皇帝になって専制政治をはじめました。
このへんはナポレオンやヒトラー、ムソリーニなど多くの実例を混ぜ合わせているそうです。


そして、それに対抗する自由惑星同盟は、その圧政に苦しむ民衆が、ある偉大なリーダーに率いられ辺境の惑星に逃亡、そこを開拓して作った民主主義国家です。
アメリカの建国、一部は中華人民共和国の建国過程などをモデルにしているようですね。
で、いかにもわるそうな「銀河帝国」と戦うのだから、正義の集団のように見えますが…政治家は汚職と次の選挙の琴ばかり考え、私利私欲で戦争を始めたり無謀な命令を下したりします。
これのモデルは・・・この国のような、あの国のような(笑)。

まあ、簡単にいえばどちらの国も長年の戦争に疲れ果て、惰性と腐敗が進む中で、それでもだらだらと争っていました。

優れた人物造形と文章、名台詞。

そんな中、両国に、共に偉大でありつつ全く対照的な2人の英雄が、同時代に登場します。
この銀河英雄伝説 が、中高生から広範囲まで30年以上愛されているのは、歴史上の人物をモデルとしながら、非常に多彩で、またそれぞれ各文明の歴史にも、自分の隣にもいるような「キャラクター」としての造形がなされているからですね。
作者の田中氏はマンガなどにも大きく影響を受けた世代で、そのためか、いい意味での「漫画的キャラクター」を造形しており、またそれを工夫を凝らした台詞や文章で表現しています。
 

時間もないのでこの2人の英雄に焦点を絞りますが、
一人は銀河帝国に登場したラインハルト・フォン・ローエングラム
彼は名もない貧乏貴族でしたが、美しい彼の姉が皇帝の寵姫として、むりやり宮殿に呼ばれ、その縁で思わぬ出世を遂げてしまいます。
そして彼はその偶然を利用し、最愛の姉を奪ったこの帝国全体をぶっ倒し、自分が新しい王朝を立てて、自由惑星同盟をも滅ぼして宇宙を手に入れることを、親友キルヒアイスとともに誓います。
そして、20になるかならぬかで大きな武勲を立てて、この野望に一歩一歩近づいていきます。
若く、姿形も美しく物腰も優美。そして多くの部下を従える厳しさや威厳がある、ある意味完璧な超人です。
この英雄の覇業を助けるために、一騎当千の部下達が集まってきます。まさに「軍団」という感じです。

それに対抗する、自由惑星同盟の英雄は・・・ヤン・ウェンリーという士官です。
軍人ではありますが、軍の学校は学費が要らないからという理由で入ったにすぎず、本当は歴史家になりたかった、とか早く引退して軍人恩給で暮らしたい、と言い出す、一種の「怠け者」です。
しかし、この人物だけが帝国のラインハルトに勝るとも劣らぬ軍事的才能があり、銀河帝国との戦争では戦うとかならず勝ってしまうので、さっさと引退したい本人の意向とは正反対に、同盟の中心人物となっていきます。
しかし本人は怠け者の性質以外にも「民主主義国家で、軍人は政治に関わってはいけない」という信念があり、そのため無能で自己中心的な政治家の無謀な命令にも、内心で多くの批判を持ちながらも、忠実に従って戦うという無理難題を自ら背負います。
ここが華やかでクールなラインハルトと比較して、お互いに輝くのですね。


ひょうひょうとしたヤンの名場面、名台詞をひとつ紹介しましょう。
帝国軍との捕虜交換式に出向くヤンは、万が一暗殺の危険のために護身用の銃を持っていくよう、養子的存在でもある部下に勧められます。
そのときの答えが


「もし私が銃を持っていて撃ったとしてだ、当たると思うかい?」
「・・・いいえ」
「だったら、持っていたって仕方がない」


こんな風なたちの人なので、「自分がいないとこの人はダメだから」と思うのでしょうか、多士済々の部下が集まってきます。
こちらは「軍団」のようなラインハルト軍に比べて、なんともいえぬ「学校」風の雰囲気があり、比較的平和な時期の、彼らの生活を描いた外伝も人気なんですね。



軍事・戦争や政治を、わかりやすく描く

そして二人の英雄は、戦術を駆使して戦いますが、SF的でおもしろいのは……宇宙だから当然、宇宙船に乗って戦うのですけど、その艦隊の数が20万とか30万といった数です。
つまりこれは、現実の歴史でいえば、戦争の「兵隊」の数ですね。SF設定としてはやや強引で、厳密に考えると穴も正直あるのですけど、そこは敢えて、三国志ギリシャ・ローマの戦争、戦国時代やナポレオンの戦争を模した戦争として描いています。
だからおとりを使うとか包囲殲滅とか、その裏をかく個別撃破とか、これも歴史を知っていれば「ああ、あのモデルだな」とにやりとする例が登場します。


また、宇宙ということで宇宙船を使えばどこからどこへでも行ける、かと思いきや、ここでは宇宙空間にはいろいろ宇宙船の飛行を妨害するものがあり、帝国と同盟は戦争をするについても、細く決まったルートを通って相手の領土へ攻め込まねばいけません。そこの途中には難攻不落の要塞があったり、中立を標榜する自治領があったりして、簡単には通行できない・・・と、これも過去の世界史の例をさまざまにモデルにしています。

そして、二人の英雄による戦争の合間には、クーデターや要人の亡命、暗殺事件、宮廷の陰謀などが入り乱れ、そこから「国家とは何か?」「平和とは何か?」「軍隊とは何か?」といった思考実験もさまざまに挟まれます。
私自身の評価は、この思考実験の一部は舞台設定上もやや単純というか一面的にすぎ、いろいろ反論の余地が残る思想も出てくるように思いますが、実はそこからさまざまな反論が出る余地がある、というところも含めて、この作品の美点なのじゃないかと思います。
そこへの賛否を考えることが、たとえば今年から18歳の選挙権が始まりますが、中高校生の間で「政治」というものを身近に感じるひとつの材料になる、そんな視点からもお薦めする次第です。

映像化作品の情報

最後に映像作品の情報を。
この作品は1980年代の半ばにアニメーションになり、全10巻の小説をもとに、30分で100話以上の本数が作られました。
そして、CS、BSなどの衛星チャンネルでは一種の「定番」でして、検索してみたら今も放送してます。いまは終盤ですけど、待ってればだいたい2年に一回ぐらいのペースで放送してる気がします。


漫画化もされていて、最初の作品は人気を得ながら、原作の半分ほどのところで終了となりましたが、昨年からは別の作者により再度の漫画化が「ヤングジャンプ」で始まりました。

そしてまた、アニメーションもリメイクされるとのことです。
(この当時、中国での実写化は当然発表されていなかった。)

蛇足ですが、今回敢えて、中高校生に人気の作品を選んだのは、若い皆さん・・・あまりいませんけど、ここで興味を持ってもらう、語れる本は難しい本や何世紀も前からの古典、芸術である必要はないということを伝える意味もあります。
漫画などを含めた、いわゆるライトな、若年層向けの本でも、こうやって語ってもらえれば別の人たちに興味を持ってもらえるかもしれないのです。
そういう願いを込めて、若くない自分が若者向けの本を紹介しました(笑)

銀河英雄伝説事典 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説事典 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説1 黎明篇 (らいとすたっふ文庫)

銀河英雄伝説1 黎明篇 (らいとすたっふ文庫)


同時に、自分は何度か書いてるけど「田中芳樹を撃つ!」サイトの最古参兵の一人であり(管理人さんも先代だった)「ザ・ベスト」にもなかなか自分でも気に入ってる論考を遺しています。

http://www.tanautsu.net/the-best.html
これもまた、「銀英伝」がリメイクされれば、それに合わせて読まれるだろう、という自負もあり。

コメント欄より

90126 2018/04/08 09:58
●○●○風銀英伝です〜
https://twitter.com/90126_ABWH/status/981728784821833728

gryphongryphon 2018/04/08 10:09
ありがとす
ブログにも収録、それ以外にも
https://togetter.com/li/1215593 そのほかいくつかのまとめに収録したり紹介したえいさせていただきました