谷口ジロー氏逝去…追悼その1(夢枕獏氏とのからみを中心に) - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20170212/p2
という追悼記事をまず書いたのだけど、その時に時間と分量的にこりゃ書ききれないな、と思ったのが「遥かな町へ」についてでした。
今回は、それについて。
ちなみに書誌的な話ですけど、はじめは上下巻だったものが、

- 作者: 谷口ジロー
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1998/09
- メディア: コミック
- 購入: 1人 クリック: 72回
- この商品を含むブログ (11件) を見る

- 作者: 谷口ジロー
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1999/02
- メディア: コミック
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
のちに一冊になっています。

- 作者: 谷口ジロー
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/02/10
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (2件) を見る
それから、適宜あとでふれていくけど
低予算で映画・ドラマ・演劇化しやすい漫画を結構真剣に考えてみた - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110118/p4
これ海外で映像化されてるんです!
DVDになったか。
![遥かな町へ [DVD] 遥かな町へ [DVD]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51huUAGZzmL._SL160_.jpg)
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2013/02/27
- メディア: DVD
- この商品を含むブログ (3件) を見る
あらすじ&登場人物。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09183715
48歳の会社員・中原博史が、京都出張の帰路にふらっと乗った列車。それは自宅のある東京へ向かう新幹線ではなく、故郷・倉吉へ向かう特急列車だった。だが、なんとなく途中で戻る気にもなれず、結局故郷にたどり着いた彼は、死んだ母の菩提寺へと足を運ぶ。母の墓前で突如激しい目まいに襲われた博史が気がつくと、なんと中学生の姿に戻っていて…(第1話)。
●本巻の特徴
34年の時を越え、中学生時代の故郷・倉吉にタイムスリップした博史。最初の戸惑いにも徐々に慣れ、かつて憧れていた少女と二度目の青春時代を楽しみ始める。だが、まもなく父が家族を捨て、失踪してしまう「事実」を思い出した博史は、これを思いとどまらせようと決意するのだが…。谷口ジローの名作シリーズが、リニューアル版全1巻で再刊行!
●登場人物中原博史(48歳のサラリーマン。34年前の中学生時代にタイムスリップしてしまう)
中原和江(博史の母。34年前に夫に失踪され、22年前に48歳で他界)、
中原京子(博史の3歳違いの妹。20歳のとき結婚している)、
永瀬智子(中学生時代の博史の級友。男子の憧れ的存在)、
島田大介(中学生時代の博史の悪友)
時間ループというか、タイムスリップものは、この作品が描かれた時点で既に完全に「ジャンル」として確立、爛熟していて、とある一点を除けば(と僕は思ってる。後述)、斬新なガジェットや、奇想天外なアイデアが出てきているわけではまったくない。
それでも、彼の画力で、また懐かしさを感じさせる(読者がその時代を体験していたかどうか、とは、これもまったく別だ)小道具をちりばめつつ語られるお話は、王道として魅力的だ。
中年の落ち着きと経験値をもって中学生に戻れば、勉強でもスポーツでもケンカでも、この前の人生の反省を踏まえて(それらに新鮮な感動も感じつつ……)、うまくやることができる。
そして主人公の大人びた落ち着き(何しろ、お酒をツッパリや背伸びではなく、本当に旨そうに飲む大人っぽさ!)と世間知、ジェントルな振る舞いは、同世代の知的な友人との友情を育み、同じく知的な異性には素敵なアピールとなり、どちらからもモッテモテになるのである。
はっきり言って、このへんの楽しさの核心部分はいわば「チートもの」で、「なろう」小説とそんなに変わらない(笑)。
……といいつつ、「なろう」の作品は読んだことないので、上の一文はただの偏見による決め付けだ(笑)。
というかこういう物語の形は、たぶん、それ自体が否定されるべきものでもないのであります。
閑話 コブラツイストの謎
ちなみに
何度もこのブログ内限定でネタにしているし、外国で映像化されたトキにどうなったのかはほんとに興味津々なのだが、精神のタイムトリップでチート化した主人公を妬んだザコモブの同級生が、主人公の「コブラツイスト」によって返り討ちにされるというシーンがある。
時代は昭和38年。
まだ日プロの若獅子・アントニオ猪木が、カール・ゴッチ直伝の必殺技コブラツイストを一般に公開する前なので、いわばこの技はまさに「未来チート」の象徴。バックトゥザフィーチャーで、マーティがチャック・ベリー の「ジョニーBグッド」を演奏するようなアレなんですな。
だが、ひそかにライバルであるジャイアント馬場打倒に闘志を燃やす猪木は、これよりさらに強力な技を師匠のカール・ゴッチから授かる!
それこそが、脱出不可能の「卍固め」!!!!!!!!!!!
・・・・・というのは、作:梶原一騎、画:原田久仁信の別の作品だ(笑)
そうではなく、これは夢枕獏原作の「餓狼伝」作者であるところの谷口ジロー氏ならじゅうぶん分かっていたはずだが、コブラツイストは寝技限定でいえば、元はアマレスのガチ技、転じて柔術界ではツイスターという技に変化しており、決して根も葉もないものではないけれども、基本的に立ち技としては相手の協力があって初めて成立する技だ。
「台本がなければ 試合はできないか」
ざわ
「あんた…もう取り消せないよ 土下座してもね」
「取り消すつもりはないよ」
みたいな展開になるところである。(だからそれが餓狼伝だ!)
なぜ、ここで「コブラツイスト」が選ばれたか。谷口氏が黄泉へ旅立った以上、大いなる漫画史上の謎として残された(そうか?)。
しかし、そういいつつ、相手がまったく無知で、しまも小中学校のケンカレベルなら……、本来は「これ極まんねーだろ」みたいな机上の空論技が、ガチな場(ケンカ)でもけっこう決まったりする事例を、おれは骨法のいくつかの例で実践しているしな・・・・・・・
というか、上のコブラツイストの話はあまりにも脱線しすぎている(笑)
閑話休題、ここで打ち切って、本題に戻る。
とにかく、そんな形で、中年の意識を持ったまま、中学生時代に戻ってチート無双している主人公は、これを千載一遇のチャンスとして、ある歴史を変えようとする。
それは・・・・・・・・・・・・まさにこの時期、自分や妹や母親を残して、まじめ一方だった父親が突然失踪していたのである。
その真相は幼かった主人公には当時わからなかったが、「女の影」などもあるような、無いような・・・・・・・
そして博史は、この歴史を変え、失踪する父を止めようとする。
幼かった過去の世界線(あれ?この用語、意味分からないけどさらっと使っちゃった)とは異なり、48年の大人の知識と経験を積んだ自分なら、父親を止められる・・・・・・・・・・・・。
だが。
えー、ここからが、作品の肝の部分だと自分は思っているので、いわゆるネタばれではないけど、避けたい人は、できる限りお避けいただきたい。
その上でかくと・・・・・・・・・
要は、自分が父親を止めるための力になると思っていた
「大人として生きた経験」こそが
父親を止めることのできない、自分の足かせになってしまうのだ。
ごく単純(シンプル)なプロットとSF設定であるだけの「遥かな町へ」が、世界の人々に、
おそらく永遠に愛されるであろう名作になったのは、実にこの構図が、時代や国を超えて人々に共感されたからだ、と思うのです。
ガンダムがSFですかとか
スタートレックがSFですかと異端審問する、泣く子も黙る「SF警察」にかかれば、これも異端どころかセンスオブワンダーと科学考証のない異端邪説扱いされるかもしれないが(はい、ここもコアなSFファンへのただの偏見です(笑) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131207/p5 http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131212/p2 など参照)
実際のところ、自分はこういう…あ、藤子・F・不二雄先生のいう「すこし・ふしぎ」な話でいいんです。
そうだ、藤子・F・不二雄の話とつなげる発想がなぜなかったのかな。谷口ジローの絵で、藤子・F・不二雄の『すこし・ふしぎ』な世界を表現した……、という言い方でも、まあ大きく外した紹介ではないね。
そんな作品を、故人は描いた。(了)
そのほかの、捕捉すべきことがら
◆東京新聞コラム「筆洗」が追悼を書いた
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017021402000133.html
(前略)…▼その漫画家は「音喩」の使い方が極端に控えめである。亡くなった谷口ジローさんである。六十九歳。「犬を飼う」「父の暦」「歩くひと」「孤独のグルメ」。細かく正確に描く生真面目な作風。物語とは直接関係のない風景や街並みまで一切手を抜くことなく、丹念に描かれた作品は、昔気質の名工を連想させた▼老犬との暮らしを描いた「犬を飼う」の「音喩」を数える。二十もなく、どれも見落としてしまうほどに小さい▼おそらく必要なかった。「音喩」に頼らずとも、海を描けば波の音が、都会を描けば喧噪(けんそう)が、住宅地を描けば人の話し声や子どもの笑い声が、どこからか聞こえてくる…(後略)
◆海外で制作された、映画「遥かな町へ」について/日本版の映画化構想と、その頓挫について
公開時の記事
http://blog.goo.ne.jp/zouroku-rg/e/3b543ff9ace7de197beac023b43a0fb0
2010年12月1日(水)08:00
【パリの屋根の下で】
谷口ジロー氏の漫画「遥かな町へ」がフランス、ベルギーなどの共同制作で実写映画化され、パリなどで絶賛上映中だ。
中年男性が14歳の中学時代にタイムスリップして、初恋の少女と再会したり父親の失踪の謎を追ったりするという物語は原作をほぼ忠実に再現している。
監督はサム・ガルバルスキ、中年男性は渋い役柄で定評のあるパスカル・グレゴリー。少年時代をレオ・ルグランが演じ、谷口氏自身も特別出演。音楽は仏ポップ・ミュージックのグループAir。・・・・・・・・・(後略)
原題QUARTIER LOINTAIN movie trailer 予告編youtubeがあった。
で、日本版も一時構想されたが…
http://anago.2ch.net/test/read.cgi/moeplus/1340098794/
「遥かな町へ」製作について石田倉吉市長「客観的に見て厳しい」との見解 資金不足で
1 :あやめφ ★:2012/06/19(火) 18:39:54.79 ID:???
漫画家・谷口ジロー氏が鳥取県倉吉市を舞台にした漫画「遥かな町へ」の映画化が頓挫しそうな
雲行きになっている。出資会社の入れ替わりが相次ぎ、映画製作に必要な資金確保の
めどが立たないのが主な理由だといい、石田耕太郎市長は18日の市議会本会議で
「客観的に見て厳しい」と語り、半ば“あきらめムード”をにじませた。同原作漫画の映画化は、大手映画会社の東映や出版元の小学館、製作会社などが
出資、構成する製作委員会が主体となって進め、製作費1億円、宣伝費1億円の計2億円の
予算確保を目標に準備が進められていた。早ければ昨年5月に製作発表、同年夏に地元ロケが行われる見通しもあったが、出演俳優の
スケジュールが整わず、先送りに。その後、ことし夏をめどに撮影開始する方向で映画関係者間の
調整が図られ、俳優のキャスティングはおおむね固まったが、数千万円の資金不足
という。
がーんだな………。
◆「欅の木」について。
(最初、twitterで書いた)
追悼 谷口ジロー
ごく日常的なお話である短編「欅の木」をご存知でしょうか。
とあるリタイヤ老夫婦が引っ越した家には見事な欅の大木があったが、その落ち葉が、近所の苦情を集めていたことを知る。
ご近所トラブルを恐れた夫婦は、木の伐採を決めるが、その直前、元の家主と知り合い…
![]()
![]()
これも、大きなドラマや大どんでん返しがあるでもない、ほんとうに不思議な、静謐な作品でな…。それに自分はたぶん、「掃除をしない側」の人間だから、この老人たちのように、そうそう、その通り!と結論に共感することもあまりできない(でもまあ、落ち葉をほっておくという方法はあるがね)
でも、印象的な作品です。

- 作者: 内海隆一郎,谷口ジロー
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1999/01/01
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る

新装版 欅の木 人びとシリーズ (ビッグコミックススペシャル)
- 作者: 内海隆一郎,谷口ジロー
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/02/27
- メディア: コミック
- 購入: 4人 クリック: 10回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
◆くまのまんが
これ、書名わすれた。
彼の描く、くまがいいんだ。
また、「くまvsうし」も描いた。興行として「くまvsうし」を行ったところがあったのか。さぞやおそろしい試合となったろう。