twitterに一度試し書きしたものを、ブログに補筆して再掲載します。
昨年末に出た速水螺旋人先生@RASENJIN (https://twitter.com/RASENJIN)の「大砲とスタンプ」6巻をようやく読めた。前半は「のらくろ」でも相撲あり忠臣蔵の芝居ありとにぎやかだった軍の民間との交流祭(要塞祭り)で、そちらも面白かったのだが、
後半、ものすごいことになる。作品世界は一変…したわけではなく、これまでも、この穏やかで丸みのある絵柄で、実にエグイ軍やテロや官僚組織の闇は描かれていて、その延長線上にあってしかるべきストーリーではある。
それでも、その緊張感や緊迫感では、これまでの1−5巻を「助走」としつつの、ためを効かせての『大跳躍』があったといえると思う。
ぶっちゃけ、それは何かというと…主人公のマルチナ・マルコフスカヤ中尉が、その超有能な事務手腕を買われ
・ゲリラと良民を分け
・良民は軍が建設した新しい村に移送し
・その後ゲリラのみを壊滅するという作戦の兵站担当を命じられたのだ。
もう、全プランに悪い予感しかしない…
それを軍事面で担当するのは
・歴戦の勇者が率いる通称「黒死病連隊」
あ、これ、あかんやつや……
黒死病連隊の長・グロム中佐は、上のコマ画像にあるように敵国の共和国人ゲリラを見下さず「強敵である」と敬意と評価をしている。
更に”前線の勇者”によく見られる、事務や補給の仕事を「臆病者の机仕事」と馬鹿にする悪弊(旧日本軍にその傾向強し!)もなく、むしろ「勝利の鍵は兵站」と肩を叩く。
意気に感じた中尉もばりばり働き、業務は順調…
グロム中佐の部下も
「規律は厳しいが
兵を失うことをとても嫌う
部下思いのやさしいお方だ」
と上官に心酔。
いや…上に挙げた要素、単独では誠に美徳なんだけどね…
そして補給事務担当も、その姿に「自分も持ち場で最善を尽くす!」とさらに気合。これも美しいじゃありませんか、それ単独は…
・異民族の匪賊(ゲリラ)を侮らず、歴戦の兵と尊敬→容赦なく掃討
・兵を失うのを嫌う部下思い→配下の戦死を強く憤り、絶対にゲリラを逃さぬと住民を徹底的に脅す
・規律は厳しい→略奪は許さんと厳命。その結果純粋な掃討が徹底される…
そしてとどめは、その「羊飼い作戦」の最前線を見てショックを受けるマルチナ中尉に
そう、冷静に考えれば、そういうことなのだ。
銀英伝でも、おそらく補給の天才キャゼルヌが”殺した人の数”は、他の同盟軍の英雄がいくら斧を振るい、敵機を撃墜しても及ばない…
……と、いう話は最初にこのブログで「大砲とスタンプ」を紹介したときのマクラにしたんだっけ。いま思い出した。「へいたん!」…いや兵站を描く、変わった軍事漫画「大砲とスタンプ」(速水螺旋人) - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120921/p4
別に近代戦に限らなくても、戦争というものは尊い人命はいわずもがな・・・カネとメシと火薬と鉄を食いまくるものです。そしてそれを滞りなく補給できた軍が、最後は勝利するものです。英雄豪傑、伝説の勇者も必要だが、あっちからこっちへ、そこからここへ。計画通りに物資を流通させることはそのまま「軍事力」なのです。
だからおなじみ「銀英伝」でたとえれば、エースパイロットのポプラン少佐より、書類仕事のキャゼルヌ中将のほうが、たぶん千倍も一万倍も、銀河帝国の兵士たちをヴァルハラに送り込んでワルキューレを多忙にさせていたのでしょう…(後略)
「対ゲリラ戦」において
似たようなことは、
中国大陸でも
ベトナムでも
アフガンでも
その都度、発生しただろう。
さらに、有能なる事務仕事とその担当者が生む「死と破壊」に関しては、我々はこの歴史を知っている。
ここに、2013年のtogetterまとめがある。
【ホロコーストでさえ彼らの一面でしかない - https://togetter.com/li/443672 】
Хаями Расэндзин @RASENJIN 2013-01-23 01:03:08
@uchidahiroki @MyoyoShinnyo 普通のキャラが明るく仲良く元気よくハツラツとホロコーストに手を染め、だめだ傍から見るとキジルシだ。
にのまえふみ @ninomae_fumi 2013-01-23 01:04:28
@RASENJIN @uchidahiroki @MyoyoShinnyo 思うに「大砲とスタンプ」のマルチナさんは、悪の陳腐さにヘタしたら染まりかねない人なんですよね。大公国軍がナチのような妙なスキームを持ってなくてほんとうに良かったと思ってます。
Хаями Расэндзин @RASENJIN 2013-01-23 01:06:11
@ninomae_fumi @uchidahiroki @MyoyoShinnyo まったくその通りなのです、としか現状答えられません(笑)。ここに速水螺旋人氏のツイートも収録されているが、このいくつかは、今回の「大砲とスタンプ」6巻のストーリーを暗示していないか?
自分には、そう思えるのだが。
大砲とスタンプは1年ペースでの単行本発行で、けっこう時差がある(収録回は2016年9月号まで)。
このあと数回、雑誌で話は進んでいるはずで、これらの件がどう展開していくか、興味あって待ちきれない人は、雑誌のバックナンバーを取り寄せるのもいいでしょう。
(了)
ブログ用のボーナストラックを書くとすると、6巻ではマルチナやキリールの上にいる「中隊長」が初登場する。
・・・・・・・・・・ただののんだくれオヤジでした(笑)。
だが、彼をそうさせている、何かの「闇」が、ここにもどうもあるらしいのだ。この人物の本音は、そう考えるに至った経緯は何か?
そのへんのことも、今後あきらかになるかもしれません。
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月刊モーニングtwo
他ブログの記事なども含む参考
速水螺旋人『大砲とスタンプ』 - 紙屋研究所 (id:kamiyakenkyujo / @kamiyakousetsu) http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20140519/1400435347
ファンタジー兵站ラノベの可能性 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/889390
終戦後、ある日本軍人が”好敵手”に敬意「君達(味方)は一騎当千だった。必ず何か盗んでった」…これがリアル「大砲とスタンプ」 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160822/p3