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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

龍の、物語を語ろう。(天龍源一郎引退試合) /プチ鹿島vs青木理

孔子去りて、弟子に謂ひて曰はく
 
鳥、吾其の能く飛ぶを知る。
魚、吾其の能く游(およ)ぐを知る。
獣、吾其の能く走るを知る。
走る者は罔(あみ)を以ってすべし、
游ぐ者は綸(つりいと)を以ってすべし、
飛ぶ者は矰(いぐるみ)をもってすべし。
龍に至るは、吾其の風雲にのりて天に上るを知る能はず…
 
(鳥がよく飛び、魚がよく泳ぎ、獣がよく走ることは私も知っている。走るものは網を張って捕まえることができ、泳ぐものは釣り糸を垂らして釣ることができ、飛ぶものは矢で捕えることができる。だが龍になると、風雲に乗じて天に昇っていく姿を知ることはできない)


65歳の天龍源一郎
彼の戦いの軌跡は、あらためてここでキーボードを打つまでもない。ハンセンと、ブロディと、ジャンボ鶴田と、橋本真也と、長州力と、ロード・ウォリアーズと……。
やはり、自分は、こういう見方が必ずしも本道ではないことを承知の上で「この試合を、どう”成り立たせるか”」に興味関心があった。

何しろ、背中や腰の手術なども何度も行い、腰は太いベルトで締め付けて引退試合のリングに立っているのだ。

状況としては、下半身麻痺のこの作中のレスラーほどに深刻ではないが、そこから敷衍するような形で「身体がボロボロのレスラーと、それを知っている相手が、それでもなお、どうやって観客を満足させられる試合を見せられるのか?」というテーマだと考えると分かりやすいと思う。

プロレス初心者・井上雄彦が、とんでもなく本質的な「プロレス漫画」を描いてしまった(「リアル」13巻、KAMINOGE24号)。 - 見 http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131127/p1

というか、実に感動的だったあの「リアル」の物語と似た状況が、まさに”リアル”で見られる、と考えてもらってもいい。

天龍の名言に
「俺は体を痛めて光っているホタルだよ。」
というのがあったが、全盛期の天龍はその「受け」にしても「かける技」にしても、とんでもなく”痛い”ものを見せていた。
しかし徐々にパワーボムにしても延髄斬りにしても難しくなり、それでもなお「グーパンチ」など、たたずまいで魅せる技を客に刷り込み…だからこそここまで長くやってこれた。
そのグーパンチ、また豪快な音を立てる逆水平チョップ。あるいは固め技のWARスペシャル。これで試合を組み立てる、とは思っていた。


しかし、最後の試合でもうひとつ目にしたものは、飛んでいるのかいないのかも分からないような、低空「飛行?」の延髄斬り。
相手のオカダ・カズチカといえば「もっとも美しいドロップキックを飛ぶ男」としても知られている。この選手の華麗な飛びわざと比較するなら、というか日本延髄斬り史上の中でも、ぶっちぎりで不恰好な延髄斬りだった。

しかし、その瞬間、思い出したのだった。長州・谷津組との試合や、ジャンボ鶴田との試合のなかで、天龍はごくまれに「ジャーマン・スープレックス」を出したことを。
相撲出身の天龍の出すそれは、実にもうまったく持って不恰好で、ブリッジも反りのスピードも、てんでなってなかった。
しかし、それを承知で天龍が”あえて”繰り出すその意外性ある技は不恰好だからこそ「秘密兵器」の説得力を持ち、観客を納得させた。
そしてそこに、客の予想を裏切る天龍の真骨頂があった。


そしてパワーボム
すでに指摘している人もいるが、パワーボムは危険な角度で落ちるとそりゃあ危険なもので、天龍自身がその犠牲者である。キレたジャンボが逆パワーボムをしたさい、タイミングを誤って、かなり重い頸の負傷を天龍はしたはずだ。

65歳の天龍がパワーボムを最後の最後に意地で決める・・・というシーンは確かにこの試合をいい”作品”とするためには必要だったろうけど、「怪我をさせない、しっかりコントロールしたパワーボムを天龍ができる保証は限りなく低い。むしろ、途中で落とす可能性が高い」ときに、パワーボムを受ける覚悟をオカダが持ってくれたことは、手を合わせて感謝せずにはいられなかった。


WWEのスーパースターも、こんな言葉を残している。

いいか、これは本当にフィジカルだし、ハードなんだ。5フィート上空から300パウンドの男が降ってくる。降ってくるとわかっていたら、痛くないとでも思うのかい? (HHH)


その「本当に危険なパワーボム」をクリアしたカズチカは、美しいドロップキックを天龍仕様に変化させて見せ場を作り、きっちりと仕留めて見せた。
おかげで、ラスト・ドラゴンが思い起こすことなく昇天する物語は、美しく3カウントを聞くことができた。


かくして、彼が掲げた「天龍革命」は終わった……のか?いや、たぶん違うだろう。


もし私たちが空想家のようだといわれるならば、
救いがたい理想主義者だといわれるならば
できもしないことを考えているといわれるならば
何千回でも答えよう
「その通りだ」と。

チェ・ゲバラ

その後のちょとした挿話。「天龍引退試合」のルポから、プチ鹿島vs青木理が(TBSラジオ「デイキャッチ」)

ツイートから抜粋。

gryphonjapan @gryphonjapan 10時間10時間前
TBSラジオ、天龍引退の話題に青木理氏が
「プロレスに興味がかけらもない」
「やらせだからね」
「マニアは何でもプロレスにたとえてうざい」
「痛みが伝わるプロレスって、普段は痛くないんですか」
と、古きよきプロレス嫌いだった(笑)。
ちなみにプチ鹿島氏の前で(笑)


お、上のツイートで書いた青木理vsプチ鹿島ポッドキャストで聞けるようになった。
http://podcast.tbsradio.jp/dc/files/rank20151116.mp3

プチ鹿島VS青木理 デイキャッチ11/16(34分から)
ちなみに、その前の青木氏の時事談議は実に凡庸。

実は自分、まさに上に書いたように、「ああ、こういう典型的なプロレス嫌いの発言って、今は珍しいわー。なつかしいなー」という昭和な感覚だった。
いや、実際この「プロレス嫌い」をメディアで吹聴する人は、たぶんそれ用のポジションがあるぞ…芸人でいえば2人ぐらい枠があるぞ…。


はてなブログ内リンク集

天龍さんが飲んだ世界一美味しいビール - 逆エビ日記Ver3.0  (id:sayokom / @345m) http://d.hatena.ne.jp/sayokom/20151115#p1
 
サンダーストームは永遠に - 男の魂に火をつけろ! <音楽映画ベストテン受付中> http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20151110
腹いっぱいのプロレス - 男の魂に火をつけろ! <音楽映画ベストテン受付中>http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20151115
 
天龍源一郎引退試合 − やまだの、プロレスやら競馬競輪やら、介護の日記 http://d.hatena.ne.jp/hisa_A/20151115
氣が付けば漢の戰い漬けの壱日だった - 廃人「恥」更級日記 改  http://d.hatena.ne.jp/d-murata/20151115
天龍源一郎引退試合 −大帝王通信ブログ http://d.hatena.ne.jp/g16/20151115
11.12と11.15に見たプロレスの断面 http://d.hatena.ne.jp/Dersu/20151118#p1


番外 カクトウログ
天龍、引退試合は久々の黒ショートタイツ姿! 精一杯を見せつけるもオカダのレインメーカーに散る http://kakutolog.cocolog-nifty.com/kakuto/2015/11/post-f5c3.html