この前、この記事
「片山被告、これまでの犯行を認める」報道に接して思ったこと(twitterを再構成) -
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140520/p5
の中で、今回の偽メール事件の”決着”の仕方がホームズ譚の「ノーウッドの建築業者」に似てる、と書いたんですが、昨日(2014年5月23日)の朝日新聞「天声人語」でも
http://www.asahi.com/articles/DA3S11150450.html?ref=tenseijingo_backnumber
狡猾(こうかつ)な男が、他人を罪に陥れるたくらみに成功しながら、さらに証拠を偽造してダメを押そうとした。それが墓穴(ぼけつ)となってお縄になる。「あの男には」と名探偵シャーロック・ホームズが言う。「打ち切るべき時を知るという才能がなかったのだ」。古い小説の話である▼時は流れて、真犯人を装った自作自…
日本屈指のコラムと同じ発想をできて、しかも先んじれたことは一寸光栄。
それはともかく。
その小説はコレなんですが
http://www.221b.jp/h/norw.html
古典だし言っちゃっていいやな。犯人がダメ押しを狙って失敗したのは「指紋の偽装」だったのだ。
「自慢の拡大鏡でご覧ください、ホームズさん」
「今そうするところだ」
「同じ指紋は二つと無いことはご存知でしょう?」
「そういう話だな」
実はですね、なんでも原文は「母指紋」(親指の指紋)で、当時はまさに「指紋ってふたつと同じものはないらしいぞ。東洋ではこれを押して証文にしてる」「そうかなあ…」みたいな研究結果が出つつあるところだったんだそうです。
以前、このことを書いた本を2回にわたって書評してたっす。
「指紋を発見した男」評 -
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051101/p3
「指紋を発見した男」書評(続き) -
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051110/p3
で、http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140319/p3で紹介したBBCのドキュメンタリーでははっきりと「探偵小説に出てきた足跡や遺留品の捜査、という考え方を逆に後からイギリスなどの警察が取り入れて、科学捜査というものが確立した」と言ってたんですね。
NHKが紹介文書いてるので、消える前に保存しよう。
“科学捜査官”シャーロック・ホームズ 前編 遺留物・血痕・弾道(再)
120年前に書かれた推理小説の主人公シャーロック・ホームズ。実は、歴史上初めて科学的な捜査を行ったのが、架空の人物であるホームズだった。世界中の警察に影響を与えた名探偵の足跡を追う前編。
アーサー・コナン・ドイルが書いた全60編に及ぶシリーズ。第一作「緋色の研究」が書かれた頃、警察の捜査は目撃証言や自白に頼るばかりで、迷宮入りする事件も少なくなかった。しかしホームズは、現場に残された足跡や血痕を分析したり、死体の指を虫眼鏡で見たりして推理を重ね、鮮やかに事件を解決。その姿は人々を驚かせ、やがて世界初の科学捜査マニュアルの誕生につながった。
最新の技術を駆使して活躍する現代の科学捜査官たちも、ホームズから大きな影響を受け、彼がいなければ今の科学捜査はなかったと断言する。飛び散った血痕から、犯人の立っていた位置を割り出す方法や、暴行による出血なのか吐血なのかを見分ける方法など、犯罪捜査の専門家たちが実際に使用したテクニックを紹介しながら、シャーロック・ホームズが捜査現場に残した功績を明らかにする。
“科学捜査官”シャーロック・ホームズ 後編 毒薬・アリバイ・指紋(再)
120年前に書かれた推理小説の主人公シャーロック・ホームズ。歴史上初めて科学的な捜査を行ったのが、架空の人物であるホームズだった。世界中の警察に影響を与えた名探偵の足跡を追う後編。
とびぬけた観察眼と推理力で次々と謎を解き、事件を解決するシャーロック・ホームズ。20世紀初め、シリーズの愛読者だったフランスの学者エドモンド・ロカールは、警察内に初の科学捜査研究所を設立。ホームズのやり方を参考に、土や髪のサンプルを集め、現場に残された痕跡を分析する捜査手法を実践していった。ロカールは今では、科学捜査の父として知られている。犯罪科学はその後大きく進歩し、現代の捜査官たちは、被害者の髪に残された毒物の分析から犯行時期を特定したり、監視カメラが記録した歩き方の癖から犯人を割り出したりするなど、ホームズの時代にはなかった高度な手法を使い活躍している。
実は、原作者のアーサー・コナン・ドイル自身も、読者からの依頼を受け、探偵として事件を解決したことがあった。科学捜査の最先端のテクニックを交えながら、ホームズが残した足跡を明らかにする。
SFではジェール・ヴェルヌが考えた概念や発明が次々と実現したり、ネット社会の問題点や社会変化を星新一が先取りしたり、ということがあるけど、推理小説のほうでもそういう、フィクションの事実への先行…があったというのは面白い話じゃあるまいかい。