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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「ピラト総督が、イエス・キリストを釈放していたら」〜ロジェ・カイヨワのSF小説(浅羽通明講演会より)

【※書いたあとで気づいたけど、ネタバレ注意】
ときに、
「仁義なきキリスト教」ようやく読むことができました。基本的には、一発芸というかワン・アイデアであり、「ヤクザ風のXXX」というのはだいたい、鉄板で面白くなる。
しかし、実際にそれを一冊の本にするというのはできそうでできない。
おまけに「キリスト教」が対象というのは…。

なんじゃ言うてもの、一番はヤハウェ大親分のことを全力で愛することじゃ。親を大事に思わん極道なんぞおらんけえの。で、二番目に大事なんは自分のことのように愛することじゃのう。ヤハウェ大親分の言いつけにも色々あるけえど、これより大事なもんはありゃせんわい。

仁義なきキリスト教史

仁義なきキリスト教史

話題となり、出足好調に見えるのもむべなるかなでしょう。
あと、イエス伝一本か、その使徒ぐらいまでになるかと思ったら、ルターの宗教改革までフォローしていたのが結構ありがたかった。たとえば公会議で異端が排除される詳細まではよく知らなかったので。
そして前書いたが、
ヤハウェ大親分」の若き無頼の日々を描いたtogetterなんかがあったりする。

 「完全教祖マニュアル」の架神恭介が語る「ヤハウェさんパネえっす伝説」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20101224/p6

さて、そんなおり。
この前の講演会で浅羽通明氏が紹介していたのが、「ロジェ・カイヨワSF小説」だという「ポンス・ピラト」。

ちなみに仁義なき〜でのピラトはこんな感じ。

「おう、カヤファ、こんなぁ、面倒にわしを巻き込むない」
「おう、イエスとやら。おどれは、ユダヤ人どもの王か?」
「おう、聞けい! ええか、おどれらの気が済むように、イエスいう男は鞭打ちにしちゃる。じゃぇえど、それで釈放じゃ! 分かったか!」

ただ、口頭で語られたことを記憶で再現するという限界に加え、浅羽氏は小林信彦ばりに、ときどき実際のテキストより紹介がおもしろい(笑)。
自分も実際に原テキストを読んでいないので、もし異同があったらゆるされよ。
ちょっと語り口調で。

この話では、イエス・キリストの時代のローマから派遣されてきたピラト総督、聖書にも出てくるあの人が主人公です。

基本的に、この人はまじめで、事なかれで、自分の行政区が平穏であってくれれば一番いいんですね。だけど、そこでユダヤ教の中に分派みたいなものが出てきて、自分を神の子だというとかいわないとかで、もめている。そしてユダの密告、告発を受けて、牢屋に入っていて、その処分は自分が判断しなきゃならない。

それがいまの頭痛の種です。

そんなとき、ローマからピラトの友人がやってくるんですね。
この人が学者なんです、今で言う文化人類学者。プリニウスの弟子だったかな。
 
調査にこちらにやってきた彼に、ピラトは、この教祖、”神の子”への相談というか愚痴をこぼすわけです。

<※このへんから佳境に入ります。ネタバレ自己責任で>

すると学者は「その囚人はぶっ殺したほうがいいんじゃない。治安の面もそうだし、その教祖や宗教にとっても幸せだと思うよ。宗教って、育つためにはそういう受難が必要なんだ」と、宗教のメカニズムを見通して、そんなことをアドバイスするのですね。


ピラトは悩みます。
「たしかに宗教ってそんなものかもしれない…しかし、大きく育つために、俺みたいなヘタレとか、ユダみたいな裏切り者がいないと駄目な『宗教』ってなんなのよ?」

そして…SFなので、ここから史実と違う。
ピラトは友人の忠告に反して、イエスのほうを釈放するんです。
その晩、ピラトは夢を見ます。
自分が、イエスを処刑していれば起きた、その後のキリスト教の成立、迫害と公認と拡大、それが生む十字軍や異端尋問などの流血、しかしその一方でキリスト教が生む文化や文明……。


そして最後に、こう解説されます。
「この時ピラトが釈放したイエスを教祖とする宗教はその後、イスラエルを中心に中東地域で数百年栄え、…そしてその後、衰退した


あとでこの講義は動画がUPされるだろう。多少違ってても気にしないように(笑)

あっ!たしかこの作品、品切れとかって講義では言われた記憶あるけど、昨年再出版されてた!!

ポンス・ピラト ほか―カイヨワ幻想物語集

ポンス・ピラト ほか―カイヨワ幻想物語集

『遊びと人間』の3年後、1961年にロジェ・カイヨワは物語「ポンス・ピラト」を発表する。無実のイエスを死刑に処してよいのか?ピラト苦悩のひと晩を通し、臆病な人間が勇気をもって正義を決断するメカニズム、宗教の本質、そして日本人にはわかりにくいキリスト教における十字架刑の意味についてカイヨワが“物語”という形式で考える。1962年コンバ賞受賞作。そのほか、大洪水のなかで神の不公平な殺戮を思う義人の物語「ノア」、ポロックの絵画を介した記憶のあいまいさに起因する小篇「怪しげな記憶」、肉体を離れた男の精神が究極の実在に達するさまを描く「宿なしの話」。カイヨワ作のフィクショナルな物語全4篇。