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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

グレッグ・ジャクソンは数学を格闘技に持ち込み、実戦経験ゼロで「最強のトレーナー」になった。嘘の様な実話。

http://sadironman.seesaa.net/article/292677467.html

ランペイジ「グレッグ・ジャクソンがMMAをつまらなくした」
MMAは退屈だ。ぶっちゃけグレッグ・ジャクソンがファイターたちを変えてしまい、このスポーツをクソつまらなくしてしまった」(ランペイジ

と、名指しで批判されるグレッグ・ジャクソン。UFCニック・ディアスvsカーロス・コンディットで、グレッグ門下のカーロスがアウトボクシングによりニックを完封したことが、既に勝率の高さで有名だった同ジムをさらに有名にし、また「ああいう試合はつまらないか否か」の賛否の論争に引きずり込んだ。


ところが、仮に「つまらない」試合だったとしても・・・グレッグはこんなものすごい発想と理論で、その「つまらない」試合を行い、勝利し・・・ふつう、つまらないならプロモーターは選手を干すわけだが・・・勝っているので次も呼ぶしかない!
それを指導するトレーナーは、実戦の試合経験はゼロ!!!!!

約1カ月まえのコラムだが、見逃していた人は読んで驚くべし。
あ、言うまでもないが念のため。記事執筆者は有名プロレス;格闘技ブログ「OMASUKI FIGHT」http://omasuki.blog122.fc2.com/の管理者でもあります。

■数学と論理の格闘技――グレッグ・ジャクソンのゲーム理論/北米通信『MMA UNLEASHED』更新
http://ningenfusha.jugem.jp/?eid=271

グレッグ・ジャクソン(38)は、ズボンの後ろポケットからメモ帳を取り出すと、丸と線で出来た蜘蛛の巣状の図をスケッチし始めた。ゲームの木だ。ゲーム理論の分野で、意志決定の順序を分析するために使われるグラフ・・・(略)

1992年に最初のジムを開いてからずっと、ジャクソンは数学を使ったトレーニングを開発してきた。試合を生で見ながら、あるいは古いビデオを見ながら、ジャクソンは常にデータを収集して、どのムーブがいつ効果的なのか・・・(略)「私にとってリングは研究室なんだ。非常に厳しい姿勢で、極めてロジカルに考えるようにしている」と語っている。(略)

・・・他のMMAコーチとは違い、ジャクソン自身はなんのマーシャルアーツの帯もとっていないし、どこかの名人との師弟関係もない。実を言えば、まともな練習すらしたことがない。
それなのにジャクソンは17歳の時にジムを開いた。・・・(略)・・・「私が探していたのは、実証結果なんだよ。仮説を作ったら、試合の中で検証しないといけない。仮説が証明されないなら、それは棄却されるべきなんだ。これはサイエンスにほかならない」(略)
・・・90年代初頭に、ジャクソンはそれまでの研究結果に基づき、「ガイドージュツ」なる流派を立ち上げ・・・(略)ますます勝つためにジャクソンが頼ったのは、友人のジム・ダドリー氏だった。氏はニューメキシコ大学の数学の教員である。「最初にグレッグは、フラクタルを教えてくれないかと言ってきたんだ」と・・・・

いかがでしたか。同じ文章は最新版の「Dropkick」でも紙面に活字化されているので、紙で保存したいかたはどうぞ。

Dropkick(ドロップキック) Vol.7 (晋遊舎ムック)

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「これは
事実談であり・・・
このトレーナーは実在する!!」
梶原一騎ばりに言わないと、引用した自分でも「ちょっとこれ、漫画的にすぎるわー」と信じられないぐらいで・・・。

一昔前のB級スポーツ漫画だと・・・クライマックス前の、トーナメント2回戦か3回戦ぐらいにでてきました。たとえば進学校の野球部だ、という設定で、ベンチにマイコン(昭和テイスト)を持ち込み・・・「ふふふ・・・データ上の勝利確率は84%・・・」とかメガネかけた選手だかマネージャーだかがうそぶくが、根性で逆転されて、「そ、そんな馬鹿な!!計算不能!計算不能!」とか言って、しまいにはそのマイコンから煙が・・・みたいな。
そんな作品が本当にあるかは知らないけど(笑)。


でも、20世紀から21世紀にかけての、この世界は・・・パソコンの性能が向上し、計算式や確率論を研究し続けていけば、その計算式は「勘」「経験」「センス」「想像力」などをある時は超え、ある時はかなわないまでも肉薄していく・・・、そんなことが分かっていく時代だった。

全部をパソコンや数式のおかげ、とはもちろんいえないけど、もっとも人間くさい「野球」の中で一世を風靡し、その理論がベストセラー、映画化された「マネーボール」を筆頭にあげるもよろしいし。

マネー・ボール (RHブックス・プラス)

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マネーボール [DVD]

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これもGMは、学生時代は活躍したもののプロでは芽の出なかった選手、彼が引き抜いた補佐役は太ったただの野球オタクだったね。彼がPCで数字を駆使し「四球を選ぶ技術のほうが、盗塁の技術より得点につながる」「バントは確率論的にいってやり損」などの真理論を発見する。


これは山形浩生の本からの受け売りなんだけどさ、アメリカで近年ヒットしたドラマの中に、数学者の監修を受けて、「数学者が数学理論(確率論?)を駆使して、犯罪捜査に当たる」という作品があったそうだ。

うーん簡単に検索でみつかった。

数学で犯罪を解決する

数学で犯罪を解決する

この本は有名ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」
でも紹介されてますね。

■子どもが「数学なんて役に立たない」なんて言いだしたら渡す「数学で犯罪を解決する」
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2008/06/post_0b75.html

その数学が戦略を決める (文春文庫)

その数学が戦略を決める (文春文庫)

ウィキペディアの「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」

FBI特別捜査官ドン・エプス(ロブ・モロー)と、数学の天才で犯罪者の行動を予測する公式を導き出す弟のチャールズ・エプス(デイビッド・クロムホルツ)の活躍を描くドラマである。

ナンバーズ 天才数学者の事件ファイル ファイナル・シーズン コンプリートDVD-BOX Part 1

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「ヤバい経済学」では「7勝7敗力士の千秋楽の勝率」という禁断の研究に手を染め(笑)、追い込まれた力士は確率を超越した「800ロングパワー」を発揮する、ということを証明したり。

ヤバい経済学 [増補改訂版]

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ギャラリーフェイク」13巻には美術の知識がまったく無いまま、絵画の中の「カルマン渦」「フラクタル」を見てゴッホの真作を見抜く科学者が、その知識と分析を株式予想に利用し・・という回があり、さらにそれは実社会とも関係していて・・・。

為替の動きは「物理学」で解明できる?驚きの理論は事実かトンデモか。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110211/p3

連立不当方程式
ギャラリーフェイクで「ゴッホ展」が開かれる。ある男が本物のゴッホの前で30分も立ち止まる。「このギャラリーの展示中の作品は、全て贋作だと聞きましたが」「ええ」「たとえ、贋作でも、この作品のカルマン渦は完璧です。数学的均整がとれている。いいものを見せてもらいました」その男は東王大学で講師をしている青井という男であった。

これは確率論や数学じゃないけど・・・テニスをひたすら理詰めで理解し、精神状態までも理詰めにコントロールしようとする、じつに地味なスタンスの選手を主人公とするテニス漫画「ベイビーステップ」が競争激しい少年マガジンで人気を博し、生き残っているのもこの流れに属していると思っています。

ベイビーステップ(1) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(1) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(23) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(23) (講談社コミックス)

えっ、もう20巻を突破してるの??
余談だが、テニスに知識・興味が無い自分がこの作品を読むようになったのは、体験エッセイ漫画を「講談社の漫画を紹介するガイド漫画」としても活用している「もう、しませんから。」(現「ちょっと盛りました。」)のおかげ。あれはこういうふうな波及効果をもたらす、地道なヒット企画でした。


ああ、このへんは過去の記事でも繰り返し語っているな。
自分はこれをその後、「文系の分野だと思ったら理系の分野だよシリーズ」と命名したんだっけ。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120510/p4
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120505/p7
その一環として、実に紹介した「グレッグ・ジャクソン伝」は興味深かった。


だが・・・最後に、再読して気づいたことを。

ジャクソンは言う。
「私は、勝利を最終ノードにおいたことはない。勝ちたくないということではないよ。ただ私は選手に、その場その場で最も有利で、最も選択肢の多いノードにいてほしいんだ。どんなサイエンスでも同じなのだが、結果ではなくて、大事なのはプロセスなんだからね」

いま、記憶から抜けていたこの一節を読み直してぞくりと戦慄した・・・

http://www20.tok2.com/home/gryphon/JAPANESE/BBS-SELECTION/Gotch.htm
カール・ゴッチ名言集

「勝ちたい、という気持ちさえ、闘いにおいては邪魔になるのだ。その瞬間、もっとも効果的な技を出すことだけを考えるんだ。勝利はその結果として、天から与えられるものに過ぎない。」

この言葉に深く感銘した夢枕獏氏が、「餓狼伝」では印象的な登場人物、堤城平の言葉として語らせているので記憶している人も多いだろう。

餓狼伝〈3〉 (双葉文庫)

餓狼伝〈3〉 (双葉文庫)

昭和に「欧州伝統のキャッチレスリング(※それが事実かどうかはさておき)」を標榜し、鬼のしごきを行った孤高のプロレスラーと
平成の世の、最新鋭のMMAにおいて、まったく実戦経験なしのトレーナーとして最高峰であるUFCで所属選手を勝ちまくらせる男・・・。


その、まったく接点の無い二人の言葉が、こうやって連動している・・・。
いま、本当に、この記事を書くためにキーボードを叩きながら、ぞくぞくした感情が収まらないよ・・・。