「修羅の門」再開がコミックナタリーでのニュースに続いて、発売された月刊マガジンで作者インタビューの形でアナウンスされました。
・自分でも再開する気は無かった
・だが「海皇紀」終盤で主人公が戦略の駆け引きや軍事作戦ではなく、生身の体で戦うシーンを描いたら、スイッチが入った。もう一度こういう戦いを、自分は描けるかもしれないと思った。
・とはいえ格闘技の世界も漫画自体も10年以上の間に大幅に変わっている。そのまま続けるつもりはない。場面もそのまま、連載中断のところからそのまま再スタート…にはならないと思う
・かといって予告された陸奥九十九とケンシン・マエダ(前田光世の養子)の試合が無いかというと、無いとも言い切れない
みたいなお話でしたね。記憶によるので多少の違いがあったらご容赦を。
自分はこの再開ニュースを、「ホイス・グレイシーがUFCに再登場、マット・ヒューズと対戦」とか「船木誠勝総合に復帰、桜庭和志と対戦」とか「伝説のヒョードロフ師匠がリングス初見参」とか、そういう感じで聞きました(笑)。どれも結果はアレでしたね。
初めに連載が中断したときは、そもそも10年以上再開されないとは思っていなかったけど、その後、実質的に終わったのかな?という前提で見ると、あれはあれで途中終了系の終わり方としてはよくまとまっていて、余韻も残るいいエンディングだと感じたから余計にそう思うのかもしれない。
で、これから出る第二部の心配をするより、第一部を振り返るほうが有益かとも考える。あらためて見直してみよう。
出生の秘密
実はわたし、修羅の門を知ったきっかけは別冊宝島における夢枕獏のインタビューだったと思うんですよね。
(「格闘技死闘読本!」だったと思うけど、違うかもしれない。)
【追記】のちにこの夢枕獏インタビュー、原文を発見しました。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20111201/p4
そこで「餓狼伝」について自ら語っていたんだけど(餓狼伝もそのおかげで知った)、その中に「ちょっとぐらい印税を俺に払え、と言いたくなる様なフォロワーの漫画もある」という趣旨の発言をしていた。そしてそれは何か、と調べてみると、まだインターネットも無い時代だけど「修羅の門」だと分かったというわけ。
実際に読んでみると、関節技を「蔓」と表現するとか個別の技の類似ぐらいで、ストーリーの骨格はご承知の通り、少なくとも法律や民事では無理なぐらい両者別になっている。修羅の門は餓狼伝の人気無しに生まれなかったとは思うけど、まぁイタダキ・シルクロード(c:岡田斗司夫)の通常経路以上でも以下でもないと思います。
んで、修羅の門は基本的に4部に分かれている。
1・神武館篇
2・異種格闘技トーナメント篇
3・ボクシング篇
4・ヴァーリトゥード篇。
(1と2はまとめて、計3つと見ることもできるか?)
ここからは個人的な好みなのだが、まず顔見せの1はともかく、異種格闘技トーナメント篇は…実際の格闘技世界の進展と格闘漫画の価値はまったく別物だとはいえ、少々風俗的に古い感じは否めない。その「古さ」を考えに入れないで見れば、非常に面白いとはいえ、特Aという感じはない。
これは最後までを貫く欠点だと思うのだが、格闘技アクションドラマを描くための技術、画力が惜しむべし、物語についに追いつかなかったと思う。後期は画面の白さをも旨く消化し、画力は画力なりに何とか作品世界を描写するコツを身につけていたと思うけど、初期のころは「うーん絵が残念」と思わせるシーンが多数。
まあ私はあとからの読者だったので、長いシリーズの初期の絵柄は後から見る事になった。そういうとき違和感を感じるのはおなじみのパターンなのかもしれないから割り引いてもらっても結構です。
そして3のボクシング篇は・・・「究極武道の継承者は、ボクシングのルールで戦っても強い」というコンセプトでやるなら、やっぱり考えに考え抜いた工夫が必要で、ちょっと試合に説得力が欠けていたと、これも個人的には思う。それに、アメリカにおける人種問題の扱い方についてはさすがに一面的、単純素朴で、単に悪役イメージの平凡な増幅手段にしか見えないし、「東洋の黄色いチビに負けるな、と黒人ボクサーを応援する観客」って…その矛盾や違和感を掘り下げるのならいいけどねぇ、そういう点でボクシング篇は、二流の作品にしか見えなかった。
あと、海皇紀にも続いた欠陥だけど、この作者はヒーローも脇役も「すごいぜ」「強いぜ」の描写が
「ピンチのときにも動ぜず、にやりと笑う」
「それを楽しいなあ、とか口に出す」
「平凡なその他大勢が意外な結果だ!と驚くとき、一人だけ予想通りだと平然(或いは予言を最初に言っておく)」
こういう演出ばっかり。いや、基本はそれでもいいと思うけど、演出のバリエーションが、特にキャラクターごとに欲しいと思いますよ。
しかし、だ。
現在のところ最終章となる「ヴァーリトゥード篇」は、これは素晴らしい。これもトーナメント形式なのだが、トーナメント篇を漫画で描く時にかならず存在する「捨て試合」も含め、実は格闘技・バトル漫画における「トーナメントもの」では、並みいる作品全てで図って一番の出来なのではないかと思っている。
さっき言ったように最初はAではあるけど特Aではない、
ボクシング篇は二流品・・・・。
だが、この「ヴァーリトゥード篇」はAAAAA、Aを5つぐらい付けても文句なし、でした。
特にトーナメントが進んできて、選手が絞られてきてから
■レオン・グラシエーロ(グラシエーロ柔術、もちろんグレイシーがモデル)
■イグナシオ・ダ・シルバ(神武館空手、極真がモデル)
■”キングオブデストロイ”ジョニー・ハリス(プロレスラー)
そして
■ブラッド・ウェガリー(傭兵)
これだけの脇役に強烈な個性を与え、そして個性的な戦いをさせた。
「グラップラー刃牙」の最初のトーナメントもすごかったけど、僅差でこっち、修羅の門VT篇かなと。
ではどんなふうにすごいのか。
・・・・・・これはねぇ、文章で書く方も体力いる!時間要る! もう少し気力が充実したときに、いずれ書きましょう。
ここで、修羅の門らしく「第一部完」とさせていただきます(笑)
暫定的な結論としては
・「修羅の門」はトータルというより、最終章の「ヴァーリトゥード篇」が大傑作。
・未読の方は、ここをまず読んでみて、面白かったら前のストーリーを読んでもらう、という形がいいかと思います。
手元にある文庫本では、VT篇は11巻からスタートし、15巻で完結する。
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【追記】TBを頂きました
トラックバックもしたけど、おれは、ボクシング編最高説を取るね。物語として圧倒的に出来かいいと思う。
■現実とリンクする物語−「修羅の門」を分析する
http://d.hatena.ne.jp/memo8/20100807/p1