・・・「コミックビーム」(エンターブレイン)5月号で、上野顕太郎『さよならもいわずに』が最終回を迎えた。ウツだった奥さんが突然亡くなって、娘と二人になった漫画家の、圧倒的な悲しみと喪失感を訥々と語った異色作である。考えられた演出、緻密に描かれた絵、画像の配置、選ばれたセリフや内語・・・・・、重苦しく逃げ場のない主題から一切逃げないという作者の姿勢がひしひしと伝わる。これを描ききらねばならない、という必死の思いも。
- 作者: 上野顕太郎
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悲しみや喪失感といったネガティブな主題ばかり追うマンガは、近年とみに読みたくなくなっていた僕だが、この作品は違った。読みたい、というより、ただ引き込まれる。(略)
上野顕太郎の作品はなんといっても短編ギャグ集「夜は千の目を持つ」シリーズを以前、紹介したことがある。
■「トーストくわえて遅刻」パロディを抜粋
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080506#p6
(※なぜこれが「プロレスマンガ」かはリンク先へ飛べ)
このように、パロディをすることそれ自体に情熱があり、パロディは手段ではなく目的となっているような本末転倒ぶり、分かる人にはわかるさとにやりとさせる基ネタ探しの深さ、クレイジーキャッツのヒット曲「五万節」のパロディのために本当に人を五万人描くという無駄な情熱…それらをひっくるめて、とり・みきや唐沢なをきに通じ、さらにいえば全盛期の秋本治にも通じるようなステキな通好みのショートギャグ作家なのだが…
実は「夜は千の目」シリーズでも、ギャグの一環として漫画ではおなじみの、登場人物が作者にあれこれ文句や注文をつける…という話の中で「作者本人」が登場したことがあるんだが、そこで作者が
「うるさいな、こっちは嫁が死んでやさぐれてるんだよ!!」
と言い出すシーンがあって「えっ…」とすっごく違和感を感じたものだった。実際、あとがきなどでそれが事実であることは知りこっちも粛然とはしたのだが、ギャグ漫画の中でそれを消化しようという覚悟はあっぱれだったものの、残念ながら私の反応を基準にすれば成功とはいいがたかった。
きちんとした形の作品、漫画としてこの体験を再構成したというなら、それは漫画家としてのきっちりしたリベンジ、けじめなのだろう。
あのとき、あのコマへの違和感を感じた一人として、読ませてもらいたいと思う。夏目ブログによると4月のコミックビームに最終話が載ったのだから、多分単行本はまもなく発売となるんだろう。
ただ、なかなかビームの単行本は、普通の書店では売ってないんだよな・・・
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【追記】その後「さよならもいわずに」は単行本になった。
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