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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

THE OUTSIDERの一席にございます 「平成外道連 佐野哲也喧嘩旅」

マダ日が高い午後参時に始まったこの大いくさも、廻り巡ってハヤ六時過ぎ。
六尺豊かな大物が、得たりとリングに仁王立ちして、今や遅しと敵の訪れるを待っております。

「今日来る佐野と云う奴はいかほどの者かネ、よもや怖気付いて尻に穂を掛けて逃げたんじゃあ在るまいな可々」
そうカンラカンラと高笑いするは、下野にはこれ在りとしられた豪傑・松本峰周であります。


何せよ不夜城とも魔窟とも云われる東洋の真珠・真岡の裏社会を取り仕切り、夜の帝王と称された豪傑です。市俄古に悪名を轟かせたる、かのアル・カポネのような存在でありました。


「何を云うかッ。それがしがその場に立つのが一秒遅れれば、それだけ貴公の寿命が一秒延びるという寸法ではないか。精精感謝したまえ」と花道で嘯きましたるが、満場の皆様お待たせいたしました。街道一の大親分、清水の次郎長を生んだ駿河の命知らず、一大の快男児・佐野哲也で御座います。眼前敵を前にして、その意気挫けることなく正に悠々不敵、流れる音楽の調べに乗って膝を曲げ肘を曲げ、準備体操などをして云る。


「ヘン此方はとんだ佐々木小次郎と云う訳か、何ンとも猪口才な孺子だ。我輩の朋友吉永の仇でもある。早々に首根っこを押え付けてギュウギュウと締め付けてやる」と松本もハヤ臨戦態勢、すぐにも火蓋が切って落とされるとて、観客の騒擾もまた四倍五倍だ。
もともと駿河と下野は、其処の名物だと云う餃子の覇権を巡って日頃から勝つた負けたと大騒ぎしている因縁の在る者同士だ。呉越同舟ならヌ、呉越同リングよと口さがないものは云う。


殊に佐野は駿河の英雄、浜松の為には何時でも死ねると広言しておる。日頃から、目の前に栃木の者がいたら、行きは鎧兜の武者であっても帰りは経帷子を着せて帰すのだと嘯く、栃木狩りの鬼!!


いずれが虎かいずれが龍か
サァ天下の大勝負だ、


得たりや応と中央に進み出る両者、低く唸るは松本の「すてごろフック」ぢゃ。
此れを一発お見舞いされればモウ堪らない。熊をも一撃で倒す天下の豪拳!!


しかしその刹那!!
いかなる術か、それとも天の理法か、紙一重でそれを見切る佐野!
今度は此方のお番でございと云うかの様に、相手の首根っこを抑えて繰り出すは雷鳴の如き膝蹴りよ。
地味な様にも見えるがイヤハヤ、これは頗る効く。
これはさしもの松本と云えど、一寸やそっとでは防ぎ切れぬ。


古の函谷関もかくやという松本の頑健な体躯も見事なら、それを打ち砕く佐野の膝は項王の剣の如し。
「よしっ、猶も立つというならお誂え向きだ。」
嗚呼、富士の高嶺の白雪も、 解けて流れる真清水の如き清冽なる膝の乱打!!
平家の武者は富士川の、水鳥の虚に逃げ出すも、佐野の打撃は実なりき。


さしもの難攻不落の松本も弁慶の域にはあらじ、ぐらりと倒れるリング脇。
ここで慈悲も後生も有るものかよと、非情の技を繰り出すは、狂気八分に冷徹二分。かの佐野の師匠・ジョシュア・ロオレンス・バアネツトがかくやったように、相手の頭がロープから出ていたとて、一向に頓着せぬ。
破邪顕正の拳は此処に有りだと云わんばかりの猛攻だッ。


北斗の星座見よ使命
暗雲天をとざすとも
神与の剣ひらめけば
妖魔散じて影空し。

勝利を告げる鉦の音が、そして会場に響き渡る。


嗚呼忠烈無双佐野哲也、かくして凱歌が上がったのであります。


【感想】
・やってみたら難しかったです。本当はもっと講談の資料がしかった。あまり原文はネットにはないね
・途中で、素材となる試合のほうはあまり覚えていないことに気づきましたが、あまり関係なかった

・文体の参考に一寸なったのが、前にも紹介した此れ。
http://kindai.ndl.go.jp/BIImgFrame.php?JP_NUM=40075639&VOL_NUM=00000&KOMA=1&ITYPE=0
・これと別の格闘技の話があって、それを書く前の軽いパロディだったはずだが、かいているうちに忘れてしまった。