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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

秋山成勲の人気ギャップに見る文化差と、これから…解決策はあるか

秋山の大「ブー」ム

この前のDREAMはPPVも無いので会場へ行った人のブログによるしかないが、ミドル級トーナメントの選手紹介があった時、挨拶に立った秋山成勲は最初から最後まで、マイクが聞こえないほどのブーイングだったと聞く。
しかしまあ、もしインターネットが無かったら放送の際にカットし、マスコミが自粛すればこの一件も無かったことになってるわけで、主催者にとってみれば大変な時代だな。
普通だったら、次回のキャンペーンのためにこの挨拶風景はテレビ中継に潜り込ませただろうに。


秋山カンタービレ(歌うように)

その一方で秋山の韓国人気はさらに増しているようだ。
http://beye2.com/item_17741.html

……‘悲運の柔道王’からK−1スターに生まれ変わった秋山成勲は、話題のコンピレーションアルバム「2008恋歌」にパク・サンミンの曲「一つの愛」で参加することになった。

ソン・スンホンパク・ヨンハら日本でもよく知られている韓流スターと一緒に今回のプロジェクトに参加することになってうれしい」と話す秋山成勲は、最近、ソウルで「一つの愛」の録音を終え、「今回のアルバム参加で受けたギャランティー全額を木浦(モクポ)共生園に寄付する」と…

こっちでも
http://sadironman.seesaa.net/article/90083357.html

歌手との2足のわらじといえば木村健吾ですね。
今回寄付する木浦という施設も日韓の架け橋として有名だ。
だれだよ、今度の寄付を「らしくもないぜ」とか言ってるのは!(俺だ俺)
しかし、このギャグももう昭和のかなたに消えていくのだろうな…。


さて、それ以上に今回気になっているのは例の秋山出演バラエティーin韓国、だ。
一部朝鮮日報その他で断片的に伝わっているが、例の韓国格闘技ウォッチャー大川義之氏のkamiproハンドで、さらに詳しい紹介があった。

それはもちろん、ファッションモデル志願や、シャンパンやサーフィンに凝っているとかも面白いのだが(笑)、やはり注目は三崎和雄に関しての話。

ああすれ違いのメロドラマ。

…憤懣やるかたない調子で「あの蹴りで鼻が折れたんです。裂傷もあったので塗ったんですけど、悔しくて意とを自分でぶち切りましたよ!」と怒りの余り三崎につけられたケガを見るのも嫌だった様子。

また三崎のマイクに「彼は自分よりも年下なんです。彼も柔道をしてて、僕の国籍のことや経緯も、すべて知っているのに『日本人は強いんです!』と言うのはダメでしょう!」と一気にまくしたてた。
(略)

「(2.22ケージフォース大会で)突然、かれが自分の前にやってきて、こういったんです。『お疲れ様でした』って。僕にすまないという気持ちがあるんだったら『すみませんでした。あのときは勝って気分も良くて、観客も盛り上がっていたから、ああなってしまった』と謝罪すれば、自分も男ですから理解できますけど」

「自分は何も言わず、目を閉じてそのまま通り過ぎました」と目の前で三崎をガン無視したという仰天エピソードまで披露!(後略)


ぎゃぼー。(のだめ調)



二箇所ほど、字を大きくしたところがありますが、まずそのへんから論じましょう。


実はkamiproハンドに先行して、中央日報の記事を紹介していた「悲しきアイアンマン」記事( http://sadironman.seesaa.net/article/88759063.html )などでは、今フォントを大きくした部分には触れられていなかったんですね。
だから大いに驚いた。
さすがにあっちが挨拶したなら一応、内心の怒りはどうであれ挨拶でかえすぐらいの交流はあったんじゃないかと思ってさ。
だって、片方は「お前の心が俺にも届いた」はずだし(笑)、もう片方は「柔道で相手を思いやる気持ちを学んだ」はずじゃないか(爆笑)。


ただ、笑ってばかりもいられませんで、
秋山選手、ノーコンテスト決定時となんか言ってることが微妙に違っているような気がするんだよ。本当に
三崎和雄に対して感情的な怒りがある」
三崎和雄は私に謝罪すべきだと思う」
のなら、ついでにそれに正統性を感じているのなら、堂々とそれを日本メディアにも公言してほしいのである。私が今回のkamiproハンドで驚いているのだから、たぶん日本のメディアではこういう言い方はまだしていないはずだ。

三崎和雄ノーコンテストへの思いや「日本人は強いんです!」という表現の微妙さ(誤解の余地)については語っているが、秋山が上のような話を公言すれば「僕は彼に謝罪すべきと思っている・思っていない」について言わざるを得なくなってくるだろう。
これは格闘技的にも意味ある問題なので、秋山も三崎も包み隠さず本音を披露してほしい。

「ちょっと差異がある」のが曲者だ。

kamipro編集部所属前、大川氏が運営していたブログの読者はご存知でしょうが、彼は韓国で日本語教師をしていた経験もある。今回のエントリでは内容紹介とは別に、氏が韓国文化を紹介しつつ、秋山の言動を解説した部分がある。

秋山と三崎はたった一歳違いであっても儒教精神が強い韓国では、厳密な上下関係が存在する。そのわずかな差にこだわる秋山は、やはり韓国的な精神を持っているのだろう。

たった一歳違い。これ重要。
これは韓国儒教、の影響もあれば、先輩後輩にこだわる「(日本)体育会系」の伝統もあるでしょう。レスリングでも例えば石沢常光がPRIDEデビューしたとき、大阪でパンクラスの試合がありセコンドできなかった高橋義生は、KEI山宮を彼のセコンドにつけた。その際は両者一面識も無かったが「石沢の後輩に当たるから、何の用事でも言いつけられる」との計らいだったそうだ。学校すら違うのに、レスリング界全体で先輩後輩意識は強い(のかな?)。
そりゃ中尾”KISS”芳広戦極参戦するわけだ。

ただそれはともかく「一歳違いで、しかも社会に出ているのに先輩後輩、年上年下というのもおかしなもんだよね」という意識も、たぶん大多数が日本では共有する意識だろう。皆さんの実社会経験上も。

ただ、欧米と比べるとそういう意識が強いのも事実。
嘘かまことか「Brother」も「Sister」も、それだけでは兄も妹も分からない。それぐらい兄弟で上下意識は少ないのだ、なんて説も。


日本と韓国の間に話を戻すと、このギャップ、および共通点…すなわちある程度まで分かりながら、微妙なところで違うのが厄介だ。





実はこういう本がある。

朝鮮民族を読み解く―北と南に共通するもの (ちくま学芸文庫)

朝鮮民族を読み解く―北と南に共通するもの (ちくま学芸文庫)

著者はサントリー学芸賞を著書「東アジアの思想風景」で受賞しており、単純な印象論ではない。
ただ、それと同時に具体的な経験談も豊富にある。
冒頭に、作者が最初に紹介しているエピソードはこれだ。

筆者が下関の大学に勤務していたころの話である。
ある日突然、韓国の親友から電話が入る。いま東京に着いた、君もすぐ来いという。西も東も分からないから案内せよ、と。当地から東京まで新幹線で6時間以上もかかることを、彼は考慮しない。
知人や親戚を引き連れて、団体で訪れるものもいる。当地はふぐが名産だそうな、みなにふぐをたべさせてやってほしいと気軽にやって来るのである。これも突然、福岡空港から連絡が入る。国際電話なしに、みな体ごとまずやって来るのである。
このような人々と顔色を変えずに付き合えるか、ここが分かれ目だと私はいつも学生たちに話してきかせる。

これだけ読むと、なんてずうずうしい連中だと怒るかもしれない。
ただし、重要なのはこの本によると、彼らはもし我々があちらに同様にとつぜん行くことがあっても、やはり自分の都合はすべてキャンセルし、毎日毎夜の観光ガイドや、のめや歌えの宴会を催してくれる…らしい。
同書での、かつての親友と再会し、すぐに結婚式と結納式に参加するエピソードなど、その濃密な友情と親しみやすさに、見方によっては感動するかもしれない。



その他、ひとことで要約してしまえば
韓国人
「日本人は水くさい、そっけない、情が無い」
日本人
「韓国人は押し付けがましい」


というすれ違いのエピソードが、これでもかと紹介される。


こういう本以外の、ライトな韓国体験エッセイでも、けっこう類似の事例を読むから、まあ個別類例に収まらない何かの傾向があるのは間違いないだろう。
「ディープコリア」にも、日本人の一般基準としては相当ずうずうしい、そして非常に味のある親父が出てくる。



例えば、これはまた他の本のエピソードだが

知り合いのうちに行く。留守だ。
勝手に入る。冷蔵庫を開ける。何かある。食べる。くつろぐ。
これぐらいは、韓国ではめずらしくない光景で、逆にこんなことで怒るとしたらそっちがとんでもなく無作法だというのだ。


たしかに日本でも類似の話は田舎にあるだろうし、よつばと!にもそういうシーンがある。
しかし逆に言うと、日本では無邪気な5歳の子どもがやってはじめて、それも滑稽な失敗談のひとつとして扱われるレベルの話だ。

だから微妙なんだよ。


おおきく振りかぶって」の主人公の投げる「まっすぐ」は「球速は遅いのだが、通常のスローボールより速い」という微妙な特徴があり、それゆえ好打者ほどとまどい、凡打に終わる…という設定がある。
日本と韓国の間のカルチャーギャップ、とくにネット時代の反日嫌韓の応酬は、歴史問題も北朝鮮独裁体制問題も竹島問題もあるだろうが、またこういう、特に人種、外見や消費先進国の生活様式で極めて似ていながら、上のような文化や伝統に微妙な差があることにもかなーーーり起因していると思うよ。


ただ、さらに古田氏は冒頭のエピソードについて

日本に居住する韓国人の間ではすでに廃れつつある慣習で、本国のネイティブと付き合ってみて初めて分かる体のもの

としている。また、時代や近代化によっても当然変わるわけで、古田氏は1992年に、韓国の食堂で「一人で(!)食事をする」人を初めて発見、「80年代には決してなかった」「一人で外食するとみんなが見るのでうしろめたい」「不幸でもあったのかと店の人から慰められる」と断言している。上の(!)マークも原文ママだ。「孤独のグルメ」はなかなかあちらではままならなかったようで。


こういう、在日文化や近代化による時代の変化もあるので、さらにややこしい。


さて秋山の今後は

ぐるっと遠回りして、もう一度本題へ。
秋山は、柔道最高であり、子どもを引き連れての入場であり、やっぱり本音ではベビーフェイス志向なようだ。「二万人に喧嘩を吹っかけることができるなんて、男冥利に尽きるじゃないか」という慧舟會総帥のお言葉もかっこいいが、やはり当人がそれじゃいやだというのもあって(笑)。
プロレスでもヒール向きの人のベビー志向、その逆のようなミスマッチは多いらしい。


そこで。
前はちょっと夢物語であった「海外進出」はどうだろう。
今後DREAMが仕切っていく以上、仮に重視されたとしても「ヒールとしての重視」という路線は絶対に変わらないし、桜庭和志がいる以上、優遇措置のほか、同席ひとつとっても問題は大きい(そういえば上の三崎−秋山話で疑問なのは、秋山は桜庭に対して、あのあと正式な形での直接謝罪を済ませているの?(桜庭が断った可能性もあるが)という部分もある)。


前、高須Jr氏も同じようなことを言っていたが、処分直後はまだ実績が桜庭への反則がらみ、アメリカでは無名のメルヴィン・マヌーフぐらいだからちょっと当時一極集中のUFCじゃあ難しかろう、が私の見方だった。

ただ、その後の秋山はデニス・カーンの1RKO葬という、万国のリングに共通する”パスポート”を取得した。
そしてダナやジョー・シルバが選定権を持つUFC以外に、エリートXCグループやHDnetグループ、ストライクフォースが割拠しはじめた。
さらにさらに韓国MMA市場も、逆に米国から興味を持たれる程度に成熟し始め(キム・ドンヒョンUFC契約を見よ)、その熱は日本を一部では上回るようになった(韓国から流出したDREAM動画を見る皮肉!)。秋山の韓国人気は、彼を獲得すればそれがおまけで付いてくる、というイメージを米国MMA団体の首脳に抱かせるのに十分だろう。
ギャランティーの差も、だいぶ近くなって…或いは上回るかもしれない。


そういう点で、「秋山成勲海外の団体へ」というのはなかなかありえる、いい選択ことじゃないかと思っている。


谷川イズム的には「契約が無くても、育てた団体の恩を忘れるのは許せない」となるけど、「K-1(HERO'S)の恩は忘れてないが、そこを乗っ取って自分を悪魔扱いするササハラとダイスケに嫌気がさした」といえば、韓国では少なくとも同情の声が大多数だと思うよ。

そして、最後のおまけとして今なら「ストライクフォース」には「三崎を追ってやってきた!」という言い訳が立つ(笑)。



問題は、アメリカのMMAファンや関係者が「Akiyamaはnulnul野郎じゃないか!レジェンドサクラバを反則で負傷させた卑怯なやつ」というようなイメージを持っているか。他国のリングで行った反則行為が、どれぐらい浸透しているかなあ。英語字幕つき動画とかもあったし、コアなファンには届いているかもしれないけど。