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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

橋本宗洋著「PRIDEはもう忘れろ!」(エンターブレイン)を読んだ

「PRIDEはもう忘れろ!」を買うた。

著者の橋本宗洋氏はid:N-Hashimotoとしてブログ「フリーライター橋本宗洋のズサンな生活」を、はてなダイアリー上で執筆している。



収録の文章、基本的に初出の「kamiproハンド」「kamipro move」で読んでいるはずなのだが、以前は携帯サイトの操作にあまり慣れておらず、けっこう読み逃しや内容の詳細を忘れていたりということが多かった。
考えてみるとほとんどの格闘技ライターは紙の専門誌=月刊誌を舞台にしているので、毎週の格闘界の動きについてある程度の分量と、締め切りに追われる中で書く(笑)という環境にいる人のほうがめずらしい(同じサイトに連載があっても、たとえば高崎計三氏の連載はプロレス界のことも扱うし、1テーマを2,3週に分けて扱うからそれを塊としてみると月刊ペースに近い)。ブログを持っている人もいるが、プロライターは大抵、そんなに更新は多くないものだ。


最初、自分は「時系列に並べるより、『DREAM』『戦極』『K-1』などにするかあるいは『競技論』などのテーマに再構成してほしかったなー」と思いながら読んでいたのだが、その時その時の雰囲気や考えを思い出させる、という意味ではこの編年体が正解だったのだろう(あとがきによると抜粋はあるそうな)。


とびとびで読んでいたときとは違う、通読によってあらためて感じたのは、朝岡格通の置き土産的な形で「ゼロ年代」の格闘技界に大きな影響を与えた”競技論”・・「格闘技か格闘競技か」って言い方も懐かしいな。これに対し、著者の立つ位置がなかなか独特で面白い、ということ。ジャッジ形式や、亀田大毅vs内藤大助のTBS報道への批判、桜庭和志のひところの対戦相手など、競技性を薄れさせるものについて警戒しつつも、それらの記述と、DEEPメガトントーナメントに際しこう語っている一節の緊張関係が読んでいる側としては興味深い。

「なんだこれ、ふざけてんのか?」といわれたら、まあそうですとしか答えられない。でもなんか楽しいじゃないか。格闘技はガチガチのシリアスなもんじゃなきゃいけないと決まってるわけじゃない。選手の安全性が守られていて真剣勝負であるなら、どんな企画だってありだろう。

わたしが何度もいうところの"Who is the strongest?"が成立しなくても"Which is stronger?"だけで面白い格闘技は成り立つ、っていう主張に近いものがあるんじゃないか?というのと、ちょっと通じるのかなぁ、という気がする。まあこっちが勝手にしているんだけど。しかし、たとえば桜庭vsルビン・ウィリアムスはそりゃ無いだろう、という感覚も一方で表明している。
このへんは逆に、その時々のトピックを週一回で追っているだけでは食いたりなくなるし、相互の関係も分かりづらくなるので、この本のページ分量制限があったなら活字を小さくしても、さらに一部を割愛しても、書き下ろしでおまけ・まとめコラムがあったほうが良かったんじゃないかと感じた。


そういえば多少格闘技界で話題になった「ロング・スパッツ問題」って、私はこのブログの検索結果で分かるように青木真也vsエディ・アルバレス五味隆典vs北岡悟が立て続けに秒殺足関決着となったのを受けた、今年1月に問題をそもそも認識。その後論じたり、メーカーの公武堂に聞いたりのだが、あとから自分も気づいたように、最初に話題になったのは青木真也が格闘技界の中心にいた昨年夏ごろ。

このとき、橋本氏は既にこの時点で、この問題を一回コラムで取り上げていたらしく、「ルール内で問題ない」「だが、それを『ダメ』と考える主張もありだ」「区分けの仕方はいろいろある」「要はどう”決める”のかという思想の問題」というのはほぼ自分と一致していた。当時は見逃していたらしく、そういう先行考察があったことに今回気づいたので触れておきたかった
。階級分けの便宜性の比喩として出ている「たとえば身長別の階級分けだってあるだろう?」という思考実験、わたしも前から書いてきたつもりだったけど、ブログ検索した限りでは実際に文章にしたのは氏のだいぶ後である。(もっとも大道塾という実例が既にあるんだけども)


あと数点、気づいたことがあるので箇条書きに。
佐藤嘉洋vs魔裟斗(2008年K-1MAX)の採点・ジャッジをめぐる問題について、そういえば携帯サイトに初出が載ったときに当ブログは引用紹介してたわ。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20081013#p2
有識者橋本宗洋高須基一朗)が「K-1判定批判」「青木発言」を辛口論評
今回、単行本化されたものとは多少文章が異なっている。読み比べるのも一興かと。


・また、著者は女子格闘技にも造詣が深いと聞くが、収録コラムでは結果的に記述が殆ど無かった。これは2006-2009という時間の偶然にもよるのかもしれないが。


・もうひとつは紙質。
エンターブレインのプロレス・格闘技書籍はだいたいこんな感じの紙を使っているし「時代性の強い本だから長期に取っておくってもんでもないでしょ」「むしろ海外はザラ紙のペーパーバック中心ですよ。最近は日本でも出てるし」「無駄にいい紙を使って高くするより、この紙質で値段を抑えたほうがいいでしょ?」といわれるとしょうがないか、と思うが。あれ?でも「パンクラス15年の真実」の紙質は良かったかな?まあ、個人的には、もちっと白く、つるりとした紙質のほうがよかった。


・最後に、ちょっと誤植らしきものを見つけたので報告。
63Pに追記として「文中の『格闘セレブ』とは、執筆時に『kamipro』で流行していた言葉」とあるが、
これはたぶん「『kamipro』で流行させようとしていたが、失敗して紙面でも流行しなかった言葉」の誤植ではないかと(笑)