神宮外苑の樹木伐採 市民の理解は置き去りだ
朝刊政治面
毎日新聞
2024/11/4 東京朝刊
十分に審査し、理解を得る努力を尽くしたとは言いがたい。これでは、将来に禍根を残す。東京・明治神宮外苑の再開発計画に基づき、事業者は開発区域での樹木の伐採を始めた。作業がこのまま進めば、伐採される樹木の総数は619本にのぼる。
再開発計画は、神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替えて再配置し、高層ビル3棟を整備するものだ。明治神宮や大手不動産会社などが事業者になっている。
約1000本とみられた中高木の伐採・移植や、新球場整備が名物・イチョウ並木に与える影響などへの懸念から計画撤回を求める動きが広がった。東京都の要請に基づき、樹木保全に向けた見直し案が事業者から提出されていた。
見直し案では、新設する神宮球場とイチョウ並木との間隔が、根の保護などに配慮して約8メートルから約18メートルに広げられた。
ただし、イチョウ並木の現状は決して楽観できない。事業者側の調査でも4列128本のうち活力度が「正常」とするAランクは52本にとどまっている。
樹木の伐採数は124本減らすとした。この中には、伐採予定だった樹木を枯れ木と認定し直した分などが含まれているため、大幅な見直しとはいえない内容だ。
にもかかわらず、都の環境影響評価(アセスメント)審議会が、1度の会合であっさりと「さらなる見直しは必要ない」と判断し、見直し案を了承したことは解せない。再開発が環境に与える影響について、より慎重な分析と議論が必要ではなかったか。
事業者の計画を科学的観点から批判してきた日本イコモス国内委員会からの意見聴取も最後まで行われなかった。スピード了承も合わせ、結論ありきだったのではないかと受け取られかねない。
一帯の開発は2036年まで続く。アセス審議会は今後も必要に応じて事業者に報告を求めるという。環境に及ぼす影響や、イチョウ並木の状況などに市民が関心を持ち続け、監視する必要がある。
一連の経過は、都市再開発のあり方に重い教訓を残した。地域との合意形成の徹底や、懸念に正面から向き合う審査などの必要性を再認識させた。問題は、神宮外苑にとどまらない。
(社説)外苑再開発 より広く真摯な対話を
社説
2024年11月3日 5時00分
東京の明治神宮外苑の再開発で、1年ほど延期されていた3メートル以上の高木の伐採や移植作業が始まった。環境や景観への影響を懸念する声がなお残る中での着手となった。
計画は、神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替え、190メートルと185メートルの商業ビル、ホテル、スポーツ関連施設などをつくる。全体の完成は2036年の予定で、工事を延期していたことによる工程への影響は調査中という。
再開発をめぐって、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関「イコモス」は危機にある文化遺産を守る目的の「ヘリテージアラート」を出し、都市の森の完全破壊につながると指摘して撤回を求めた。また、音楽家の故・坂本龍一さんが再開発反対を訴える手紙を小池百合子都知事に送っていたことがわかり、著名人らが声をあげ反響が広まった。計画の見直しを求める署名も都に提出された。
都は昨年、樹木を保存・移植する具体策を提示するよう事業者に要請。高木の伐採が延期された。
今夏の知事選で小池氏が3選した後の9月、三井不動産など事業者は見直し計画を公表。設計変更などで743本中124本の伐採を取りやめて植樹する木を増やし、高木は全体で再開発前の1904本から2304本に増えるとした。都の環境影響評価審議会では大きな異論は出ず、環境アセス手続きは終了した。
見直しでも計画の基本は変わらない。再開発で地区の景観は一変する。日本イコモス国内委員会は「緑の質」に関する検討が欠落していると批判し、協議不足を訴える。事業者が9月、再開発地区がまたがる二つの区の住民を対象に開いた説明会でも、環境影響を懸念する声が相次いだ。
事業者はいったん立ち止まり、より広い範囲の市民や関心を寄せる専門家らとの真摯(しんし)な対話に臨む必要がある。
この問題では、都市計画行政のあり方も問われている。
神宮外苑は、約100年前に作られた人工の森で、緑や景観を守るために日本初の風致地区に指定された。本来高層ビル建設などはできなかったが、五輪開催が決まった2013年に都が独自に「公園まちづくり制度」を作るなどして、それを可能にした。その枠組みの中で、都の都市計画審議会が再開発計画案を22年に承認した。
都や小池知事は当事者である。静観するのではなく、環境影響の精査を続けるとともに、今からでも、よりよい選択肢がないかどうか再検討し、事業者と市民・専門家との対話を促してもらいたい。
外苑の樹木伐採 市民対話の重さ教訓に
2024年11月5日 05時05分 (11月5日 05時05分更新)
東京・明治神宮外苑の再開発で樹木の伐採が始まった。計画見直しで伐採の本数は減ったが、「外苑を今のまま残して」という市民の願いからは程遠い。伐採は見切り発車と言わざるを得ない。
事業者の三井不動産や明治神宮などの計画によると、新ラグビー場を一部縮小するなどして伐採本数を743本から619本に減らす。名所のイチョウ並木への悪影響が懸念された新野球場は、位置をずらして並木との間隔を約8メートルから約18メートルに広げる。
10月21日の東京都環境影響評価審議会では、有識者委員から樹木の保全を巡り質問が相次いだが、最終的に計画は承認された。
1926年の外苑創建時に植えられた木は樹齢100年近い。安価に利用できた軟式野球場などは廃止され超高層ビルが建つ。都心の憩いの場は様変わりする。
外苑は明治神宮の私有地だが、歴史を振り返れば、国民の財産を神宮が預かっているとも考えられる。戦後、スポーツ施設が集まる公共性の高さから国有地として維持する案がまとまっていたにもかかわらず、神宮側の要求で条件付きで払い下げられたからだ。
その条件は、国民の公平な利用や低廉な施設使用料、民主的な運営など4項目。今回の再開発で神宮側が条件を順守しているのか、大いに疑問だ。
行政の責任も重い。東京都はかつて外苑を風致地区に指定し、緑と景観を維持してきたが、一連の再開発であっさりと規制を緩和し、巨大な建物が相次いで建つようになった。都心の自然や景観を守ろうとした先人たちの理念をぶち壊したに等しい。
再開発には、ミュージシャンの故坂本龍一さんら多くの著名人が批判の声を上げ、反対するインターネット署名には23万筆超が集まった。わずかではあるが、計画の見直しにつながり、公共性の高い事業を進めるには、市民との丁寧な対話が必要だという重い教訓も残した。
問題の根源として、現行の都市計画制度では「市民参加」が形骸化していることも指摘したい。行政と事業者だけで計画の細部まで固め、内容の公表時点では変更が困難だからだ。公告・縦覧の期間も短く、市民の意見を反映する義務もない。
市民を蚊帳の外に置く制度の在り方こそ変えるべきではないか。
このURLで、検索して反響を見てみる…
https://x.com/search?q=https%3A%2F%2Fwww.chunichi.co.jp%2Farticle%2F981872&src=typed_query
※朝日社説URLでの検索はなかった(数日前、11月3日の社説なので日数が経過したせいか?)
「神宮外苑」でも
https://x.com/search?q=%E7%A5%9E%E5%AE%AE%E5%A4%96%E8%8B%91&src=typed_query&f=top