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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「銀英伝」の中国人気において、民主主義描写はどう受容されているのか(謎)

https://ginei.club/infoDetail.php?iKey=100
…中国の気鋭の映像制作会社、稼軒環球映画会社により、待望の実写映像化が実現することになった。
稼軒環球映画会社の総裁、銭重遠氏は、20年以上の経験をもつベテラン・プロデューサー。手がけた映画は、代表作「狼图腾」(Wolf Totem)のほか、「大海啸之鲨口逃生」(Bait 3D )、「最爱」(love for life )など、ドラマを含めると40タイトル以上にのぼる。また、20年来の『銀河英雄伝説』ファンであり、この作品の実写映像化に並々ならぬ情熱を傾ける。
稼軒環球映画は、中信、国美と中国を代表する大手企業グループの傘下にあり、今回のプロジェクトにも強力なサポートが期待できる。

銭総裁は「『銀河英雄伝説』の映像化は、自分が若い頃の夢であり、いまは大変興奮している。「銀英伝」を知っている人はもちろん、まだ知らない人たちにも「銀英伝」の魅力が伝わるような作品に仕上げていきたい」と語る。また、先日、一部のネットメディアに取り上げられた「銀河英雄伝説」のポスター風の画像は「あくまでも社内用の検討資料が流出してしまったもので、田中先生をはじめ関係各所に大きなご迷惑をお掛けしてしまった。公開にあたってはさらに力を入れたビジュアルをお見せする」とのこと。

実写映像版『銀河英雄伝説』は、三部作とのことで、2020年に第1作が公開される予定…


さて。そもそもの1丁目1番地として銀河英雄伝説は、中国の中でとびぬけて人気、SFの代名詞的作品である」という大大大前提を知っている人と知ってないひとで、反応は全然違うだろう。
自分は何年前だったか、WEB上で…当時はまだ産経新聞北京特派員だった福島香織氏の文章で知ったから今回のニュースで驚かなかったが、ただその福島氏の文章を読んだときはとんでもなく驚いたのだったよな(笑)

ここを検索すれば出てくる……

そうか、2007年にかかれた文章を、2010年に当方は読んだのかな?いや、当時読んだ気もするな…
タイトルが今回のテーマにもつながってるが…

なんと銀英伝が、中国で(発禁もされず)翻訳出版されてた・・・と、あの福島香織が報告(2007年の文章)。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100215/p3

福島氏がこの文章を発表したのは、当時勤務していた産経の半分公的、半分私的な「Iza」ブログで、退職しフリー記者になった現在は自身のブログ「中国趣聞博客」に転載しておられる。

英伝 - なつかしの「銀英伝」、中国で堂々出版 | 中国趣聞博客
http://kaorifukushima.com/%E3%81%AA%E3%81%A4%E3%81%8B%E3%81%97%E3%81%AE%E3%80%8C%E9%8A%80%E8%8B%B1%E4%BC%9D%E3%80%8D%E3%80%81%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%A7%E5%A0%82%E3%80%85%E5%87%BA%E7%89%88/

ちなみに2007年、自分が読んだ2010年でも、
まだまだお堅い「新聞記者」が、半分公的な新聞ブログに「銀英伝」の話をすること自体が珍しく、キャッチ―なものだったと記憶している。
実はコメント欄にて、産経記者としてはいろんな意味で有名な阿比留瑠比 さん が「私も何度か読み返しました。今でも本棚にあります」とコメントしていたりもしたのです。



冒頭を引用してみよう。

 ■どうやら産経新聞およびEXはガンダム男子世代の読者層をターゲットに据えているらしい。紙面でもガンダムネタが多いし、ブンカブにはガンダム担当記者もいるようだし。まあ、私もガンダム世代、ガンダム関連記事にノスタルジー感じる。だが、もし個人的に若い世代に受け継いで読んでほしいサブカルチャーをひとつあげよ、というなら私は、ガンダムより『銀英伝』(銀河英雄伝説をあげたい。

 ■なぜ、いまごろ銀英伝??いや、最近の中国の文芸作品発禁状況をしらべようと、本屋にかよっているうちに、こんな風景をみかけて、思わず小躍り。どーっと、青春の思い出(おおげさ)がよみがえってきたのだ。

平積み!銀英伝? 道原かつみの挿絵つき
(※リンク先記事では写真あり)


 ■英伝と聞いて、きっとこのブログにいらっしゃる方は意味がわからないだろう。きっと今の若い人もほとんど知らないだろう田中芳樹著「銀河英雄伝説」という私が高校から大学にかけて夢中になったジュブナイル(青少年向け小説)のことである。もう、20年も前のこと。しかし、ジュブナイルといっても、おそらく、これほど完成された日本人によるスペース・オペラは銀英伝の前にも後にもない、と思っている。。それが、昨年夏から、北京出版社系列の北京十月文芸出版社が、ちゃんと徳間書店から正規の版権を買って、中国語で出版されていたのだ…

2007年は再漫画化や舞台化なんて話がなかったから「今の若い人は知らないだろう」的に書いているのだな(笑)
詳しくは記事そのものを読んでいただくとして…要約を再掲載

・「銀英伝」全10巻は実は96年に台湾で翻訳出版され、それがネットや海賊版により中国に流入

・銀英伝に影響をうけた中国若手SF作家もたくさんおり、というか、宇宙を舞台にした中国SFで銀英伝の影響を受けていない作品はない、とまでいわれている。

武侠ファンタジー「誅仙」の著者の蕭鼎なども、銀英伝崇拝者

・主役のひとり、ヤン・ウェンリーの名を楊威利 (ヤン・ウェイリー)に変えていた

・銀英伝は「三国演義」や「史記」など、あきらかに中国古典を底本にしたような、エピソード、作戦、人物造形がある。

・「私が文章を書いている紙は、2000年前、東漢蔡倫が発明したものだ。私は少年時代、西遊記水滸伝三国演義史記を読み、物語と歴史の妙味を知った。私は中国文化の恩恵を深くうけた。今、私の作品を中国で正式出版することで、中国文化に少しでも恩返しができるなら、こんな光栄なことはない。・・・」

・主役のひとり、ヤン・ウェンリーは、明らかに中国人。もう、中国人の自尊心をくすぐる設定なのである。

・中国では、銀英伝をして「謀略小説」「政治教科書」との評もあるのだ。

・中国SF作家・星河の銀英伝論評「写実の伝説」に・・・「作者は意図せず自分の文化背景を作品ににじませている。特に専制と民主(の長所と欠点)を同様に指摘している。これは東洋の思想の影響」

・(コメント欄)創竜伝は銀英伝よりまえに、すでに中国で出版されていました。ネットでも大人気です。


どれもこれも、腑に落ちるといえば腑に落ちるわけ。
日本だって海外作家のSFで、日系キャラが活躍したら、そのイデオロギーとか抜きにしてまず第一に好感を持つだろう。また、そこでの宇宙大戦の描写が「あっ、これ関ヶ原がモデルじゃん」「長篠合戦を下敷きにしてるじゃん」「この場面、勝海舟坂本龍馬が出会う場面じゃん」というのが続出したら、さらに好感が深まるだろう。

当時の自分の感想の一部

それほどまでに中国もリベラル、自由になったということかもしれないし、怒涛のような商業化、経済第一主義の中では、輸入翻訳エンターテインメントの思想性なんぞにいちいちかかずらわってはいられない、という、ルーズでいい加減になることが結果的な”自由化”になっているって面もあるでしょうな。

だいたい現在、情報の流通量自体が文革時代とは違って爆発的に増えている。よっぽどあからさまで具体的な体制批判を取り締まるだけでも精一杯、という部分もあるだろう。

それに、上の作家の言葉のように「民主主義体制が絶対に正しく、勝利するとは限らない」というふうに当局はテーマを読み違えたのかもしれない。


今回の「映画化」を伝える記事に、自分はこうブクマした。

http://b.hatena.ne.jp/entry/347547202/comment/gryphon
創竜伝では中国共産党を「未来はない」とか(地の文、作者の意見として)書いてたよね、とか言いたくもなるけど(笑)、そういうのと個々の作品を切り分けられるほどに中国も成熟した、と見ることもできるだろう。

※資料

【例:創竜伝7「黄土のドラゴン」】
人民解放軍は、兵匪を追い払う正義の軍隊で……それが一九八九年には、武器を持たない市民を戦車でひき殺す権力者の走狗に堕落してしまった。…華僑たちは、激しい怒りと失望を禁じえなかったのだ。我々は、強制収容所に国民を放りこむような国の出現を望んでいたのではないと」


とは
いえ。
そのブクマ
http://b.hatena.ne.jp/entry/s/ginei.club/infoDetail.php
の中に、自分の「?」を端的に表現してくれているものがあった。

http://b.hatena.ne.jp/entry/347547202/comment/hosi
「私は最悪の民主政治でも最良の専制政治に勝ると思っている」を中国当局は許してくれるのか。

ブクマに対してさらにブクマ(二階建てというらしい)して、こう書いた。

gryphon 簡単に言えば、まさにこのブクマなんだが、現実としての中国の銀英伝人気はこのへんどう消化してるんだろう?

これは、さらに細かくいうと、
「当局はどう評価しているのか」という点と、「中国の一般の読書人、ファンはどう評価しているのか」の2点は、また答えが違うだろう。

自分は中国語を読み書きも出来ず、中国にも短期間の旅行を一回しただけで、これ以上の材料はない。
これは答えというより「問い」「謎」をあらためて皆さんに開示し、事情通や名探偵の登場を待ちたい、と思う次第です。


なにはともあれ・・・・・・・福島香織のブログ記事以降、ネットに出てきた「銀英伝と中国」の関連リンクをおまけにつけておきます

「オタ中国人の憂鬱」こぼれ話 その2 - 「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む http://blog.livedoor.jp/kashikou/archives/51705586.html

銀河英雄伝説
中国で最も「濃い」ファンが多いと言われる作品です。
「銀英伝」は中国のネット黎明期(ダイヤルアップ時代)にファンサイトが賑わい、そのままファン層が構築されました。

「銀英伝」について一家言あるようなファンも多く、
中国のネットでは毎年ヤン・ウェンリーの命日に
「ヤン提督に紅茶入りブランデーを捧げます」
といった発言を見ることができます。

しかしこだわりのあるファンが多いだけになかなか扱いの難しい作品でもあるようで、中国本土で銀英伝が正式出版される時は翻訳などに関してファンからの批判が飛び大荒れになってしまったなんてことも。
ちなみに大陸版の宣伝文句は「宇宙の三国志」というなかなかに「分かっている」ものでした。

 
中国オタクの間で銀英伝再アニメ化が早速話題に - 「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む http://blog.livedoor.jp/kashikou/archives/51977589.html 2014年02月15日
 
アルスラーン戦記と中国の銀英伝人気 - Togetterまとめ https://togetter.com/li/828009  2015年5月29日
 
人民日報も認める『銀英伝』。中国で「愛される理由」は http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20060802/107390/ 2006年8月23日(水)※あっ、これ福島ブログより早い記事だね


先ほども書いたように、福島氏は最初に紹介したブログ記事を書いた後、産経を退社してフリーになった。
そのとき、twitterでこうやり取りしたのはいい思い出です(笑)



当時の記録↓
流星光底長蛇を逸す…福島香織産経新聞を辞めたワケ - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20101018/p7


福島香織氏だが、2年前に出した新書

の中に、銀英伝に関する記述がかなりあるらしいよ(上記togetterでも紹介されている)






あと、いま思いついた!
中国語版ウィキペディア(か、それに類似するもの)の「銀英伝」や「創竜伝」の記述を読めば参考にならないかな?? 思いついただけで行けないので、行ける人は行って読んでみて(笑)


中国ではウィキペに該当するといわれる「百度百科」はこんな感じだと・・・・・・・・・・

银河英雄传说 (日本小说家田中芳树的太空歌剧式科幻小说)
https://baike.baidu.com/item/%E9%93%B6%E6%B2%B3%E8%8B%B1%E9%9B%84%E4%BC%A0%E8%AF%B4/778