先週号です。また「店頭からなくなってから書いてしまうシリーズ」。
読みたい人はバックナンバーのある漫画喫茶どこかで読むか、3巻の発売まで……
「いちえふ」は掲載直後から大大反響を呼んだことはご存知の通り。
いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1) (モーニング KC)
- 作者: 竜田一人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/04/23
- メディア: コミック
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いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(2) (モーニング KC)
- 作者: 竜田一人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/02/23
- メディア: コミック
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自分だって、連載第一回が出てら、即座にtwitterにあふれ出た反響をまとめたぐらいだ。
原発事故跡の作業風景を描く漫画「いちえふ」反響〜作者アカウントなどを中心に - Togetterまとめ http://togetter.com/li/572305 @togetter_jpさんから
だが、今回………2015年13号に掲載された第16話は、2012年末に(被ばく線量の上限となったので)福島での仕事をひとまず終えて戻ってきた作者・竜田一人氏が、この「いちえふ」の第一回を書いて掲載されるまでの話なんだが…
目を疑う光景が描かれていたのだ。
えええええええええええええええええ????? マジ??
むかし、浪曲だったか講談だったか落語だったか「紀伊国屋文左衛門一代記」を聴く機会があった。ご存知の通り彼は、荒天で正月のミカンがまったく産地から輸入されない江戸に、嵐をついて船を出し、高値でミカンを売りさばき財の基礎をつくった。
『沖の暗いのに白帆が見える あれは紀の国 みかん船』
ってやつですね。
で、その浪曲だか講談では、江戸のミカン問屋に、文左衛門が「うちは今、ミカン船到着しましたが…」と売り込むと、この一言で番頭はんは
「逃がすなああっっっ!!!」
と絶叫し、店のものが総出で文左衛門を屋敷に招待、というか拉致する。
「商売相手かドロボウかわかったもんじゃありません」というくだりもあったような…
話が大いにそれたが(笑)、いや、あの時に、「実際に福島の現場で作業を経験した人が、あの水準で漫画を描く」となったら、江戸にようやくやってきたミカン船を逃がさない問屋のように、編集部はとびついて、くらいついて当然とちゃう??
自分のようなシロートでさえ、話を聞いただけで「こりゃ話題になるわ…」と思ったし、実際に漫画を見て「絶対話題になるな」と確信して、実際にそうなったでっしゃろ。
というかほかの出版社だってモーニングをはじめこうですよ。
秘儀・持ち込み原稿抱きかかえの術。(返さないぞの術)
こちらのかきおろし企画は最終的に見送りになったのだから、同じことなのかもしれないが、でもやっぱりこれぐらいテンションが上がって当然だよな。
結果的に「モーニングの連載」はそれ自体が最高の宣伝であり、ヒットの要因でもあったのだから結果はオーライだが、
そりゃ、話題になるがなあ。
そこから逆算しても、上のテンションが低く名刺も渡さない「若い編集者」はなんなんだろう、と思う……
「進撃の巨人」作者に対してみたいに「いちえふじゃなくジャンプを持ってきてくれ」とでも言ったのか(笑)? ※この話は↓を参照
「進撃の巨人」人気、社会現象化をあらためて思う【創作系譜論】 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130712/p2
いやちがったジャンプじゃない(笑)実は作品の中で、ここは「モーニングのライバル誌」と書かれているから、たぶんあすこだろう、と微妙に想像がつかないでもないですがね…。
「進撃の巨人」「スターウォーズ」「風と共に去りぬ」「シャーロック・ホームズ」「アルジャーノンに花束を」「ハリー・ポッター」など、「最初は原稿や企画がどこからも評価されなかった、たらいまわしにあった」伝説のヒット作品は枚挙にいとまがない。そういうのは、分からんでもないんですよ。
山本弘のSF秘密基地BLOG
http://hirorin.otaden.jp/e316495.html
最初に中編版の「アルジャーノンに花束を」が書かれた時のエピソードである。> (略)…これを〈ギャラクシイ〉誌にもっていった。ところが編集長のゴールドから手直しを迫られた。「結末がうちの読者には暗すぎる。チャーリィは超天才のままアリス・キニアンと結婚する。そして幸せに暮らす」こういう結末にすれば掲載しようという彼の言葉にキイスさんは愕然とし、黙ってその場を立ち去った。(後略)
えええええーっ!
H・L・ゴールドって有名な編集者だけど、そんなマヌケなこと言ってたのか! そんなことしたら、あの名作が台無しになっちゃうだろ!
キイスが親友のフィル・クラス(SF作家のウィリアム・テン)にこのことを話すと、「もしきみが結末を変えようなんて気を起こしたら、おれはきみの両脚をバットでたたき折ってみせる」と言われた。 その言葉に勇気づけられたキイス、今度は〈F&SF〉誌に送って採用された。
(略)
その後、キイスはこれに加筆して長編にするのだが、「またもやハッピー・エンドを要求する編集者に拒絶された。そしてさらに大手出版社二社にも断られ、追い打ちをかけるように別の出版社からも拒絶の手紙が送られてくる」という有様。キイスの絶望、いかばかりか。
- 作者: ダニエル・キイス,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/03/13
- メディア: 文庫
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「琴となり 下駄となるのも 桐の運」
<林忠崇>http://homepage3.nifty.com/ponpoko-y/kotonoha/k-20.htm
「重版出来!」でも、主人公の編集者は、とある持込原稿が「うちでは難しい」と判断しつつもお世話(他社の紹介)をしたところ、意外なかたちで大ヒットしてへこむ話があった。周囲には「こういうのは相性もあるから」、となぐさめられる。
- 作者: 松田奈緒子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/03/29
- メディア: コミック
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でも、「いちえふ」はさあ…もっとも低俗というか単純なレベルにおいて「話題作」になることは、やっぱり俺がドシロートすぎて単純なのかもしれないけど、もう確実中の確実だったんじゃないですかねえ。
だが、ここで逆に思う。彼は「これは話題になるかも、売れるかもしれない。だが、敢えて俺の漫画に関するポリシーを貫く!」だったのかも?
自分は実のところ、「めずらしい『体験』を描くエッセイ漫画」は大好きで、このジャンルは総合して日本の一番の諜報機関、民俗学の研究機関だと思っている。当然マンガの質は問わない…のだが、「漫画がただの紹介広報、ガイドブックになっていいのか」的な批判、ポリシーを持っている人がいることは知っている。
また全然そうは思わんけど、いちえふは「フクシマ(片仮名)の現状を隠蔽している」「東電のプロパガンダ」うんぬんという批判をする人もいる。
上の小学…いや、某社の若い編集者は
「これは確かに話題になるだろう。売れるだろう。だが……マンガはこうであるべきではないのではないか!いかに評判作になることが確実でも、俺のマンガのポリシーとは違う!!」ということで突っ返したのではないか、との可能性も思うのだ。
「これは漫画でやるべきことなんでしょうかね?」という問い、自分は「やるべきことです!」と200%の確信で断言したいが、異論を持つ人もいるのだろう。
「……こ、これはこれで、一人のサムライ!!」(梶原一騎調)
いやあ、そうでも考えないと「『いちえふ』の原稿が持ち込まれたが、興味を示さないプロのマンガ編集者がいた」という状況が考えられないんですよ。
マンガ編集のドシロートの感覚で語ってしまってすいません。
しかし、あまりの衝撃だったので敢えて書かせていただいた次第。