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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

イスラエル首相が天皇に「わが国と日本は共通点がある。ホロコースト・原爆を体験した」。すごく…「取り扱い注意」!!

言いましたか、言っちゃいましたか。しかもその場面で…。

http://www.asahi.com/articles/ASG5F4W42G5FUTIL01J.html
 天皇、皇后両陛下は13日、皇居・宮殿で、来日中のイスラエルのネタニヤフ首相夫妻と懇談した。

 宮内庁によると、懇談でネタニヤフ首相は「イスラエルと日本には共通点がある」と述べ、いずれもおびただしい数の市民が犠牲となったホロコーストユダヤ人大虐殺)と、広島、長崎への原爆投下を挙げた。天皇陛下は「ホロコーストは大変に痛ましいことだったと思います」と語ったという。

いや。客観的に当否を語るなら、間違いや暴言放言ではない。
それは世界からの反応が実際に無かったことでも分かるだろう。
 
ただ、いくつか論点があって……

・まずホロコーストとそれを生んだ「ナチの悪」は、当のユダヤ系団体が「唯一無二の悲劇であり、安易に他の例を『ホロコーストと同じだ』などというのは犠牲者への冒涜だ」としているところも多い。
これ、言った側は「私はホロコーストけしからん、という前提なのになんで?」と戸惑うことも多いらしいが…。

亀井静香小泉首相ヒトラーより最悪」発言に、外国人記者ら嫌悪感&呆れ
http://news19.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1125539123/

しかし、イスラエル国家の最高指導者が、天皇家との懇談というもっとも重みのある場で語った、というこの事実。
 
 
・そしてこの話、この見方を、原爆投下当事国のアメリカ政府が受け入れるか?
報道官に日本かイスラエルのメディアが尋ねれば、とりあえずノーコメントも含めて反応はあるだろうけど、まあ現実としてないな。
安倍晋三政権は「戦後的価値観」「戦後的歴史観」に挑戦する勢力だ、というのはよく言われることだが、原爆投下に関しては実のところ微妙である。米国の見解も「ファシズム日本を打倒するためのやむを得ざる措置だった」と主張する勢力も多い。
本多勝一小林よしのりといった論者がこの問題では「人種差別が原爆投下を生んだ」という見解で一致している。逆に「原爆投下、仕方ない」と語った閣僚が批判を浴びたのはつい最近だ。
日本政府の公式答弁は、下の質問趣意書への返答のかたちで出ている。

http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a166473.htm
http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b166473.htm
政府としては、広島及び長崎に対する原子爆弾の投下は、極めて広い範囲にその害が及ぶ人道上極めて遺憾な事態を生じさせたものであると認識している。
 先の大戦後に、これらの原子爆弾の投下について米国政府に直接抗議を行ったことは確認されていないが、他方、戦後六十年以上を経た現時点において米国に対し抗議を行うよりも、政府としては、人類に多大な惨禍をもたらし得る核兵器が将来二度と使用されるようなことがないよう、核兵器のない平和で安全な世界の実現を目指して、現実的かつ着実な核軍縮努力を積み重ねていくことが重要であると考える。

 

・ということはネタニヤフも十分知っているはず。
そしてそもそも、イスラエルと米国の関係は、両国の「建国以来最悪」な状態になっているという現状がある。オバマはあんまり個人的に首脳間で親しくなること自体が少ないらしいが、ネタニヤフ政権とオバマ政権の間の軋轢は挙げたらきりが無い。

■『オバマ・ネタニヤフ関係がギクシャクし始めている』
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2013/10/no_1730.html

ここでネタニヤフが放ったボールが「ホロコースト=原爆投下」だった。恐ろしいな…というか皇室を平気で外交に巻き込もうとしてる、ともいえる。もちろん、原爆やホロコーストを悲劇として追悼するのは非政治的なものだ、と表面上はシレッといえるという巧妙さ!!
 
・そもそもイスラエルと日本はいま、国際的な地政学の構造的に共通してる、との指摘がある。

新語「IBJs」をご存知ですか・・・「アメリカに捨てられた旧同盟諸国(イスラエル、英国、日本)」のことです(笑)〜池内恵文芸春秋より
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140211/p6
  
第二期オバマ政権と同盟国の外交は「親分やる気ないなら、うちら勝手に動いていいですか?」「まあ待てや」のせめぎあいなのだろうね。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140426/p3

その「IBJs」は、前線の緊張状態のある隣国と緊張を高めるにしろ独自に緊張緩和に動こうと、米国から離れて行う…かもしれないと思わせて米国のプレゼンスを引き出す(この前のオバマ訪日)という難しい芸当を迫られている。その一環と見ること出来るかも。
 
 
・そして何より…イスラエルが最近「原爆は悲劇だ、繰り返してはならない」というとき、それを正確に翻訳すると「だからイランを攻撃していいよね???」になるという流れ!!!

http://mainichi.jp/select/news/20140514k0000m030095000c.html
イスラエルのネタニヤフ首相(64)は13日、東京都内で毎日新聞伊藤芳明主筆と会見し、イランが進める大陸間弾道ミサイル開発の技術が北朝鮮に提供されていると明らかにした。イスラエルの首相がイランの軍事技術拡散について具体的に言及するのは異例。北朝鮮からイランへの技術提供はこれまでも指摘されているが、イランのミサイル技術レベルは既に北朝鮮を上回るという。ネタニヤフ首相は12日の安倍晋三首相との会談で、こうした問題に対応するための情報共有について「より緊密な連絡を取り合っている」と述べ、両国の防衛当局間で協力体制を築く方針を示した。

 ネタニヤフ首相は「イランのミサイルや核開発の技術は北朝鮮に提供されているか」などの問いに、「まさにその通りだ」と述べた。また、「(イランは)獲得したいかなる技術も北朝鮮と共有するだろう」と指摘。イランと北朝鮮の協力関係を強調することで、日本とイスラエルの連携強化の必要を訴えた。

 
・しかし、そういう思惑たっぷりの暴投一歩手前のネタニヤフのボールを、陛下は卓見にも「ホロコーストは大変に痛ましいことだったと思います」と述べただけでかわした。
雷帝」とか「壮麗帝」とかの異名を付けるなら、将来「護憲帝」と呼ばれるかもしれない今上は、さすがにこのボールの危険性などお見通しであっただろう
「若造よ、わたしが何人の総理のフォローしてきたと思ってるんだ」とでも思っていたかもしれない(笑)。


まあ、とにかく読んだ瞬間に緊張感の走った、懇談の報道でした。