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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

スタローンvsデ・ニーロのボクシング対決『リベンジ・マッチ』…それで思い出した「中年の挑戦」物語【大人のおとぎばなし】

【大人のおとぎばなし

http://thepage.jp/detail/20140330-00000013-wordleaf
シルベスター・スタローンロバート・デ・ニーロがボクシングでガチンコ勝負ーーー。 4月4日から日本公開される映画『リベンジ・マッチ』では、ともに『ロッキー』、『レイジング・ブル』というボクシング映画の名作を持つ2人が、初の共演を果たす。67歳のスタローンと70歳のデ・ニーロのベテラン名優が体を張った演技と死闘…(略)
 
 
 2人が演じるのは1980年代に一世を風靡した伝説のボクサー。現役時代のタイトルマッチは1勝1敗の五分で「決着」はつかないままになっていた。性格も対照的な2人は、引退後も対照的な人生を送っていたが、ひょんなことから30年ぶりにリングで戦う機会が舞い込んできた。「終わった人」扱いの、世間の冷めた目線をよそに、2人のトレーニングは次第に熱を帯びていく。そして、「リベンジ・マッチ」はまさかの…(後略)

映画情報、製作決定とか海外での公開とかのときに伝わるもんだけど、この作品はなぜか当方、上映直前の昨日に始めて知りました。(追記。この映画、すでに全米で大コケし(爆笑)、日本では「全国19館」での公開とか…そりゃあんまり宣伝も見ないわけだ )


後者は間もなくデジタルリマスター版か。
どっちにせよ、同じテーマで映画史に残る傑作を残したと。その二人を、同じジャンルで共演させて対決させようと。
まず企画を思いつくところであれこれすごいし、さらにいうと実現させるところがやっぱりすごい。
ま、日本にも「座頭市と用心棒」とか、「グレートマジンガーゲッターロボ」とかありますがね。
「マジンガー対ゲッター」ヴォーカルアルバム

「マジンガー対ゲッター」ヴォーカルアルバム


まあ大体、こういう映画は
「男の魂に火をつけろ!」
http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/
とか
「挑戦者ストロング」
http://d.hatena.ne.jp/Dersu/
で、大いに語られるだろう。  (名指しするな)


映画にはいろいろと仕掛けはあって、スタローンのほうは名ボクサーの宿命ともいえる転落人生を歩んでいるらしい。デニーロのほうが珍しく成功し、安定した生活を営んでいる。しかしそれでも「1勝1敗の決着を付けたる!!」と思ってしまうようなところは、ボクサーの宿命なのかもしれない。
最近亡くなったばかりのビル・ロビンソンのこれを思い出したりするじゃないか。

「高円寺の人間風車ビル・ロビンソン逝く。頑固爺の「人生一本勝負」は場外戦へ… -
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140305/p1
……「日本でのスパーリング」を聞き手の坂井ノブが振ると。
「そのときにカールと約束したんだ。プライベートなスパーリングだから、このことは誰にも話さないと。だからそこでこの話をするつもりはない(キッパリ)」
聞き手は「なるほど、分かりました」と矛を収めるのだが、たぶん時間にして10分もたたないうちに
「(唐突に)……さっきの話の続きをしようか」
と言い出して(笑)、
「69年にジャパンプロレス日本プロレス)のドージョーで、約20分間、私は彼の上でコントロールした」
「15歳のときの(ゴッチでスパーに負けた)屈辱を晴らすことができた」
「先人へのウィガン流のリスペクトとして、極めることはしなかった」

と滔々と回想するのである。お前本当に話すつもりなかったんかと(笑)。


いろいろ連想する作品はある。
片方が成功者、片方がくすぶり人生のお笑い名コンビが再結成するという演劇「サンシャイン・ボーイズ」。
なんとハヤカワで「演劇文庫」になってた。

人気コメディアンだったウィリーも今はわびしい一人暮らし。甥でマネージャーのベンが珍しく仕事をつかんできた。だがそれは、回顧番組で往年の名コンビぶりを見せるもの。あの憎たらしい相方アルとの共演が必須条件。ベンの必死の説得で渋々練習に入るが、目は合わせない、ちょっとした言葉じりをつかまえ対立する、二人の意地の張り合いはエスカレート、遂に決裂し……。人生の黄昏時を迎えた男たちの姿を、最高のユーモアと哀感をこめて描く傑作戯曲。解説:酒井洋子

中高年の「再挑戦」や「夢を追い続ける」というテーマなら、実のところ短編気質である浦沢直樹氏が、大ヒット作品を描く直前に書いていた一連の傑作郡のひとつから「NASA!」がある。

▼N・A・S・A
あらすじ/49歳のサラリーマン・野村は毎朝トレーニングを欠かさない。なぜなら彼は友人・工藤とともに宇宙飛行士になる夢を追い続けているのだ。彼らは昭和30年代に発行された「民間宇宙航行論」の著者である神田妻三郎を探し出して協力を乞い、自分たちの手で低予算の宇宙ロケットを飛ばそうとするのだった…(略)…のちに数々の名作を生み出す浦沢直樹の記念すべきデビュー作「Return」を始め、1981〜1986年に描かれた初期作品を収録した短編集。


ひとつのまとまりあるストーリーとして、中高年の無謀とも言える挑戦を描いたということなら、いちどは肘の故障で引退した元プロ野球ピッチャーが、ナックルボールを身に着けて、安定した職を捨ててもういぢど球界に挑む「男の自画像」。
ナックルボールは当時、アメリカでこれを武器にして当時としてはかなり高齢のピッチャーが活躍していたそうで、そういうリアリティの裏づけがある。そこに作者・柳沢みきお流のどろっとした中年男の自省や悩み、こだわりがあって…失敗するとこの人の作品、収拾がつかなくなったりするが、これは奇跡的に最後まで読ませる。


しかし、今回のテーマ、スタローンvsデ・ニーロはどつきあいであるからして、今回詳しく紹介したいのは「ハード&ルーズ」の1エピソードだ。

原作者・狩撫麻礼、作画・かわぐちかいじ…そして主人公は私立探偵ということで、実にどうにも80年代…ただ主人公が「時代遅れ」を自認していて、ある意味では70年代っぽくもあったりする。
この2巻収録、第9話がわたしらにとっては非常に傑作なのだ。


主人公が、街のぬるい喧嘩を目撃するところから話は始まる。

最近の喧嘩に迫力が無くなったことから資本主義や管理社会批判に結びつくのは、80年代の流儀なんです。そこらへんは流して。
自分もボクシングをやっていた主人公は、不完全燃焼な思いを抱き帰宅する。

そんな中、知り合いの大手探偵会社から「地下で行われるプロレスvsボクシングの異種格闘技戦の観客になってくれ。入場料じゃなくて、観戦の日当をこちらから支払う」という奇妙なオファーがきます。

主人公、仕事としてでも報酬目当てでもなく、実にノリノリ。
ガチで「プロレスとボクシング、どっちが強いんだ?」とめちゃくちゃ楽しみにしているのです(笑)


この巻は1985年に初版が発行されている。
こんな時代を覚えているかい。
しゃらくさく「最高のエンターテインメントがプロレス」とか言ってる21世紀の時代とは、世間の沸点がちがうのだ。


さて、ではこの、秘密裏に観客を集めた異種格闘技戦を闘うのはだれか??
この話では、そこであまりにも意外すぎる展開を見せる。

実にどうにも、感動させるのは、これがひとつの「大人のおとぎばなし」であるからだろう。
骨の髄まで、21世紀の今でもゆるぎなくロマンチストである原作者が、「大人のおとぎばなし」として描いたストーリーが
「社会的地位も財産もある老人が、自分の信じる格闘技の優位を確信するために、終生のライバルと『自ら闘う』」
という話だった。
およそ作品としてのリアリティや説得力を考えるなら、この二人は実績ある本職のレスラー、ボクサーにオファーし、自分で興行のスポンサーになる…という展開にすればいいのである。何より致命的なのは、それなりに鍛えただろうとはいえ、ただのマニア、ファンであるおっさん(爺さん)ふたりが取っ組み合って殴りあったりして、それで「プロレスとボクシングのどっちが強いか」を決めるのは、本職やジャンルに対してド失礼だろう、ということだ。

しかし、そんなことは十分踏まえたうえで、
狩撫・かわぐちコンビはこの強引極まりない設定を描いた。
原作のストーリーを送られたときのかわぐちの心境とかはどうだったのかな(笑)?
でも、素人目だと作画はノリにノッてる感じがあるよ。特に実際の試合のシーン。

そしてこれは、こうやって語り継がれる「大人のおとぎばなし」となった。
この試合の展開や、試合結果も詳しく語りたいのだが、それは野暮というものだろう。
キンドル版が2年前に復刊したばかりで今でも入手可能だろうから、実際にお読みありたい。

ハード&ルーズ 2巻

ハード&ルーズ 2巻

(もし冊数が変わって、最初の双葉社版の巻と収録作が違っていたらごめんなさい)

タイトルである「アホとロマンの肉袋」は、私立探偵をしている自分が「特殊な人間だ、世間の常識からのはみ出し者だ」という”ひそかな自負”を抱いていたものの、この試合を見せられてこの自負を大いに揺るがされた主人公が、「琥珀の液体」の力を借りて生んだキャッチコピーだ。

さて、デ・ニーロとスタローンの映画も、そんな上質の「大人のおとぎばなし」になっているだろうか。この二つの肉袋には、アホもロマンもたっぷり詰まりそうだが(笑)