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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「本を読む」ことを寓話的に表現した漫画。/中島敦「文字禍」も合わせて。

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ステキデザイン ‏@sutekicom

本を読むことで視野が広がり、そして違う世界が見えてきます 笑
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Zoikhem ‏@Zoikhem1 16時間
@sutekicom @sigv_v これの次があるんだよなぁ。 pic.twitter.com/45uJSqonpB

これを見たら、マイフェイバリット短編「文字禍」をまたまた紹介したい。これはこのブログのおなじみで、もう何回目の紹介か、だが・・・。


楔形文字に粘土板だった古代、ある学者が王から「すべてのものには精霊がいる。では文字の精霊とはどんなものか、調べてまいれ」と命じられる。
だが、学者が調べれば調べるほど、本や文字は恐ろしい精霊に見えてくる……。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/622_14497.html
ナブ・アヘ・エリバは、ある書物狂の老人を知っている。その老人は、博学なナブ・アヘ・エリバよりも更に博学である。彼は、スメリヤ語やアラメヤ語ばかりでなく、紙草パピルスや羊皮紙に誌された埃及文字まですらすらと読む。およそ文字になった古代のことで、彼の知らぬことはない。彼はツクルチ・ニニブ一世王の治世第何年目の何月何日の天候まで知っている。しかし、今日きょうの天気は晴か曇りか気が付かない。
彼は、少女サビツがギルガメシュを慰さめた言葉をも諳んじている。しかし、息子をなくした隣人を何と言って慰めてよいか、知らない。
彼は、アダッド・ニラリ王の后、サンムラマットがどんな衣装を好んだかも知っている。しかし、彼自身が今どんな衣服を着ているか、まるで気が付いていない。
 
何と彼は文字と書物とを愛したであろう! 読み、諳んじ、愛撫するだけではあきたらず、それを愛するの余りに、彼は、ギルガメシュ伝説の最古版の粘土板を噛砕みくだき、水に溶かして飲んでしまったことがある。文字の精は彼の眼を容赦なく喰い荒らし、彼は、ひどい近眼である。余り眼を近づけて書物ばかり読んでいるので、彼の鷲形の鼻の先は、粘土板と擦すれ合って固い胼胝が出来ている
文字の精は、また、彼の脊骨をも蝕み、彼は、臍に顎のくっつきそうな傴僂である。しかし、彼は、恐らく自分が傴僂であることを知らないであろう。傴僂という字なら、彼は、五つの異った国の字で書くことが出来るのだが。ナブ・アヘ・エリバ博士は、この男を、文字の精霊の犠牲者の第一に数えた

しかし、もっとおそろしい一節が、このあとに続く。

ただ、こうした外観の惨めさにもかかわらず、この老人は、実に――全く羨ましいほど――いつも幸福そうに見える。これが不審といえば、不審だったが、ナブ・アヘ・エリバは、それも文字の霊の媚薬のごとき奸猾な魔力のせいと見做した。