twitterをまとめて、さらに細部を補足して一本の文章にしました。
昨日見た「地獄でなぜ悪い」の感想をまずtwitterで書いて、ブログで長文にまとめた。
ネタバレはあまり気にせず。
個人的に好きなテーマ(シチュエーション)が並んだ作品
まず、この作品は個人的に、以前から好きなテーマというかシチュエーションを2つ扱っていた。それは
・「ヤクザが大真面目にXXX(別の仕事、趣味)をする」
・「『ごっこ遊び』が拡大していき、現実との区別が曖昧になっていく(擬似イベント)」の二つだ。
「ヤクザが大真面目にXXX(イメージから離れたもの)をやったら?」という設定は、かなり鉄板で面白いものになるので、けっこう使われたパターン。もちろん頂点にして確立者の小林信彦「唐獅子株式会社」シリーズをはじめ、こち亀の「御所河原組長」シリーズ、落語ドラマの金字塔、クドカンの「タイガー&ドラゴン」などなど。現在再放送中。
- 作者: 小林信彦
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「ごっこ遊びと現実の境がいつしか無くなっていく(広い意味での「擬似イベント」)」は、いとうせいこう「ノーライフキング」や、実話を基にした映画「THE WAVE(ザ・ウェイブ)」を考えてほしい。
- 作者: モートンルー,Morton Rhue,小柴一
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- 作者: いとうせいこう
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こういう系譜は大好きなので自分は基本的に贔屓する。つまり面白かった。
【参考:「ヤクザがXXをしたら」「ごっこ遊びの拡大」ものに関する過去の記事】
「(元)ヤクザ?が喫茶店」という「なごみさん」が連載開始。 <ヤクザが○○をしたら・・・>ものの系譜
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100303/p2
「笑の大学」関連
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20041003/p5
「タイガー&ドラゴン」猫の皿
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050528/p3■「キージェ中尉」の紹介。僕はこのジャンルが好きなのだが、何と呼ぶべきか・・・ http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100912/p4
■「よいこの黙示録」に大期待する理由
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20101024/p2
映画「THE WAVE ザ・ウェイヴ」を見て、思い出したのは「鈴木先生」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20091204/p5
■軟禁中のイラン監督が自らを映す〜「これは映画ではない」を実際に見てきた
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20121006/p2
あ、すまん。二つに分けたけど、さらにもうひとつ好きなパターンがあったんだ。
「創作者が、自分の創作のために社会常識も他人の迷惑も顧みず、メチャクチャなことをやって後悔も反省もしない」という。実は一昨日、こういうtogetterを作りました。■「手塚治虫らの「締め切り美談」とかって、常識で見ると結構どんびきじゃね?という話」
http://togetter.com/li/570815
自分がまとめた上のtogetterのテーマは、手塚治虫が編集に迷惑かけ通しの”武勇伝”を「常識的に見たらおかしい」と批判するものだけど…実はまとめた当方は好きなんだ、こういうの。むろん本当に自分に被害があったらいやだけど(笑)。
今回の映画マニアは、才能や成功度の差は別にして、その戯画だったんじゃないか。【「芸術至上主義の創作者が常識や迷惑も顧みず、メチャクチャをする」の過去記事】
■不満点あるも、伝わる手塚の「偉大なる狂気」…「ブラック・ジャック創作秘話」感想
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110713/p2
■デ・ニーロが映画プロデューサー役の「トラブル・イン・ハリウッド」が公開中。「g2」では自己破産の映画屋(くらたま夫)手記も
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100914/p5
■代理人、プロデューサー、エージェント、プランナー…現代の「縦横家」よ闇にうごめけ
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080613/p5
■映画、TV、出版…「最後の冒険商人」が生きているのは、こういう権利仲介ビジネス?
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110619/p2という訳でこの映画は、その三つの俺好きシチュエーションが詰まった豪華幕の内弁当。
「ヤクザが溺愛する自分の娘(女優)のために映画を作り」
「長年くすぶっていた、ネジの外れた映画狂がそれを演出し」
「実際の抗争、出入りがその『映画」として撮影される」
………要はこの設定を聞き面白そう!」と思う人は見るべし、、なんだ。
そうだ、類似の作品…だと、まだ見る機会がないんだけど(笑)設定を聞くだけで大好き(というかそれだけで一寸満足)な「ブロードウェイと銃弾」http://movie.walkerplus.com/mv10893/ブロードウェイと銃弾 ―デジタル・レストア・バージョン― [Blu-ray]
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と対比できるかも。これがさらに三谷幸喜「ラヂオの時間」や、「笑の大学」に似てるつう話もあるから、全部まとめて類似ジャンルに近いかもしれないな。
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- 作者: 三谷幸喜
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描写は最後のクライマックス部分も含めて喜劇的演出、スラップスティック性が高い。ふと「筒井康隆の『トラブル』『ヤマザキ』など、スラップスティックな短編を映像化したら、こんな感じになるだろうな」と連想。実際映画化された「ジャズ大名」が最後はやや似た大騒ぎを映像化して〆ていたし。
「二つの流れ」の合流の演出に不満
ただ、非常に大きな不満があって……「娘かわいさに映画製作を思い立つヤクザ」「くすぶっていた、他人の迷惑を顧みない狂気の映画監督」の物語は前半並行し、無関係に進んでいく。
それが偶然のいたずらで合流するわけだが…ここをつなぐ設定が、実に弱い。
偶然にしても、ちょっと説得力が弱すぎる気がする。
自分は個人的に、出来過ぎなぐらいつじつま、伏線がぴたりとあうタイプの脚本(「ダイ・ハード」「バック・トゥ・ザ・フィーチャー」「キサラギ」など)が好きなのでその偏愛があるから気になったのかもだけど…娘溺愛のヤクザと、狂気の映画監督が交わる展開はいかようにも工夫できたんじゃないかなあ。
ビリー・ワイルダーだっけ?
男と女の出会いを「デパートでパジャマの上だけ買いたいという女性と、下だけしか要らないという男性が出会う」と現場でアイデアを出し、それで認められてチャンスを得た人物は(笑)。それは極端というか逆に懲りすぎだとしても…この作品では、結果的に接点となった、ヤクザの娘にあこがれる弱気な男…。
素人考えだが、彼はファックボンバーズと同級生で、以前から顔や性格を遠くから見知っていたとか、”アクション俳優”役同様に、以前はボンバーズの一員だったが一向に芽が出ない状況に呆れて辞めた元メンバーだった…とか、そんなつなげ方もできたんじゃないか?とオモタ。まあ、この「不自然さ」の感覚は人それぞれでありましょうから、これから見る人は「映画を撮りたいヤクザと、狂気の監督」に接点ができる経緯を、展開に自然さを感じるかどうか自分でチェックしてみてください。もちろん「強引・不自然だからこそギャグになる」という視点もあるでしょう。
ただ、「映画を撮るときに、身内のヤクザ組織は協力するとしても、出入りされる側がそれに乗る義理は無いだろーよ」という、当然出てくるツッコミに対しては、逆に一寸面白い説明をして納得させてる。ここもギャグ的に「あまりに監督が強引なのでつい乗せられた」なんて、マンガ的説明でもOKだったかもしれないが、敵の親分の性格設定は見事だった。
そして、それが拡大して… 「擬似イベント」「ごっこの拡大」という部分では、「撮られる」ことへの誘惑に抗えず、身内のヤクザも敵のヤクザもついついカメラを意識してしまう…という細かいギャグが、擬似イベントの本質をついていて楽しかった。その元祖、筒井康隆「48億の妄想」的な何か。
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自分はそういうような見方で、この「地獄でなぜ悪い」を愉しみました。かなり特殊な見方ではありますが、…
最後に一言。どうせならあの狂気の監督は生き延びたということにして、続編を作ってほしい。舞台は、完成した映画の、出入りの場面のリアルさに驚愕した、某共和国の独裁者が、彼を招いて党大会とパレードの映画を作ってほしいと依頼し…という感じでどうでしょうか(笑)