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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

北岡悟、圧勝するもラスト30秒の”偽悪”。/〜DEEP「日本最大」を証明する大会(2)

試合はこんな感じでした。とくに話題を呼んだのは最終ラウンド。
http://d.hatena.ne.jp/lutalivre/20130426/1366981266

・・・残り2分で立ち上がることに成功するが北岡はタックル。受け止めた中村。スタンド膠着でブレイク。北岡は引き込み・バックステップで時間を使い逃げ切り。自演乙戦での青木戦法にブーイングを送る観客も。タイムアップ。

判定5-0で北岡。
(略)
北岡マイク「こういうのも格闘技なんです!僕は何が何でも勝ちたかったんです!」・・・・・・北岡のインタビュー「まさかのラスト30秒に、僕の中に青木が降臨しました」

自分が生中継を見ていたときの、リアルタイムの感想はこう(twitter)。

gryphonjapan (MMA) ‏@gryphonjapan 4月26日
最後の猪木アリはちょっと偽悪的な趣きもあったな。「北岡が青木真也に親指を立てた」を一瞬「中指を立てた」と聞き間違えた(笑)
 
gryphonjapan (MMA) ‏@gryphonjapan 4月26日
いま北岡悟「最後の30秒に青木真也が降臨した」と言ったのかな?聞き間違いじゃなければ、つまりvs長島☆自演乙☆雄一郎戦みたいな戦略、という意味か(笑)。/北岡の感触では「中村大介は、僕のフロントチョークから逃れたときにどこかを怪我したのかもしれない」と。


即興の書き込みだから”偽悪”という表現が言い尽くしているとは思わないけど、ある一面は表現していると思う。要は「自分が時間稼ぎのように最後に猪木アリ状態を見せる」→「会場などから、それに批判的な声が上がる」→「これも格闘技です!」までは予想通りのワンセットだったのじゃないかと思うのだ。

何しろ、残りの30秒だか1分だかをその攻防でしのがないと逆転負けされていた、という状態にはとても見えなかったほど、相手の途中負傷もあって圧勝の展開だったのだ。
※中村の途中負傷についてはこちら
http://blog.livedoor.jp/d_nakamura/archives/26161657.html
もちろん、戦う当事者にとって見れば、80%の確率で勝つところを90%にまで高める、という選択肢も当然ある(くしくも前の試合、前田吉朗は1Rでワンサイドゲームだったのに2Rで大逆転を喫したのだから)。
ただそれがメインだとしても、それを会場が、ファンがどう見るかを北岡が”無視”したとは到底思えない。それを予想、計算の中に組み込みつつ、「格闘技ってこういうのもありなんだと思うぜ!さあみんなも議論してくれや」という意識も確実にあった、と思う。
「アオキが降臨」という言葉で思い出したが、青木真也長島☆自演乙☆雄一郎戦も最後がご存知の結果だったので伝わらなかったが、あのルールに対し”このルールなら、こういうふうに戦っちゃうとこうなるよ”というアンチテーゼ意識がやっぱりあった・・・と後日どこかで語っていたはずだ。
そういえば最初に提示された北岡によるこの試合のテーマが「純粋に格闘技一本の選手vs格闘技とプロレスを一緒にやってる選手」だった。
相手の中村大介は実際にU系プロレスもやっているけど、実は格闘技の試合で、ときどきムーブの中には「これが勝ちに一番近い」という選択より「Uのような動きのある攻防を見せたい」という選択が混じる・・・しかもそれがセオリーを越えたトリッキーさになってしばしば結果的にはすぐれた選択になったり(笑)、所英男戦のような珠玉の名勝負になったりする。偶然か必然か、その相手だからさらに今回ここのスポットが当たるようになったのかもしれない。
結果的にこの記事も、UFC当日なのにめちゃくちゃ膨大になったし(笑)

そういうやり方への否定論とは?

これは特に、それほど奇矯なものではない。
さまざまな論がこれにはあったでしょう。疲れてきたので列挙に留めるが

「アトラクト・ユア・オーディエンス」というのがレフェリーの正式な掛け声だったり
高田延彦vsミルコ・クロコップ」への非難の声(ミルコ含む)だったり、
「なんで立ち技選手が立てよ、と寝技の選手にいうのは積極的で、その逆は消極的なんだよ」という高瀬大樹戸井田カツヤのぼやきであり、
その高瀬が序盤は完全に逃げ回る形で相手のスタミナを奪い、体重差を克服して勝ったヤーブロウ戦であり、
アリスター・オーフレイムvsファブリシオ・ヴェウドゥムであり、
今成正和の戦法と、その判定基準であり、
ダナ・ホワイトの時々の咆哮やジョン・フィッチ解雇であり、
この前、ヴァンダレイ・シウバvsブライアン・スタン戦で起こった賛否であり・・・これだけ引用してみるか。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130404/p1

高島学氏)「(専門メディアが陣取る)その席から「これが格闘技だ」「これが見たかったんだ」という興奮した声が聞こえてくると、寂しさは「何も変わらないんだな」という絶望感へ変わっていく。」

(シウバ本人)「いい仕事をしなければ。ファンの感情をかきたてなければいけない。負けることをおそれずにね。勝ち負けは相対的なものだ。我々選手は質の高いショーを見せることにこだわらないといけないよ。このスポーツが発展するためにもね。”戦う”意志を持った選手がもっと必要だ。」

さらには昨年の五輪のなでしこジャパンの「次戦の日程を考えると、この試合は引き分けでいい」や、同じく日程や次回組み合わせをにらんでバドミントンで「両者(結果的に有利になることを狙って)負け狙い→その試合ぶりが連盟規定違反だと失格」などだって、
http://www.asahi.com/olympics/news/TKY201208010701.html
 
すべて関連付けて考えることができるかもしれない。


結局、「試合で積極的になる(攻める)」というのは、個々の戦術の問題だから当然基本的にはコントロールできない。しかし主催者、「やらせる側」は積極的な試合、活発な試合を見せたい。
そこで
「ちょっと膠着したらブレーク」
「クローズガード禁止」
「猪木アリは”寝た側が消極的”と『見なす』判定基準」
「ロッカールームボーナス」
「”つまらない”試合の選手は勝っても干す」
「連盟規則『試合に勝つために最大の努力をしなければならない』」
などがある。

ただ、明文規定のルールでは覆えない部分はもちろん出てくる。今回のブーイングも、あの展開であの場面が出たら、おそらく世界中の会場でああいうふうになる気がする。
ただこうやって、その反響も含めて楽しめる人もいたりするので厄介なのだ(笑)。

北岡悟のフロントチョークを上から極める戦法

試合後コメントによると、本人もあれで極まるだろう、という手ごたえがあって、逃げただけで中村にあっぱれやってください、なものだったという。
自分はあれを「安心フロントチョーク」と勝手に呼んでいる。もちろん、それは「外れても上を取っているので安心」という意味でして。肩固めが同じ意味で安心技だ。
フロントチョーク、三角絞めなどは流れ上、当然自分が下になることが多いが、今回の北岡や、日沖発三角絞めのように、上から攻めていると見てるほうも安心する・・・だがまだ使い手が少数なのは、やっぱりあれはコツがあったり、体力が要るんだろうな。まあ素人的に考えても、タックルのがぶりの攻防から一撃必殺でフロントチョークを狙うなら、やっぱり自分から引き込むような通常型が楽で、北岡のように極めつつ上を取り、万が一外れても安心、というポジションにまでいくのは難しいように思える。