「パトレイバー2」自作自伝
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121130/240347/?P=1
Q:(略)押井監督の作品はサラリーマン的な登場人物が結構いますよね。
押井:サラリーマンというより中間管理職かな。
機動警察パトレイバー2」(以下、「パト2」)なんてそういう意味でまさに中間管理職の映画だよ。僕は後藤(喜一・警部補)という隊長に一番興味があったし。あるいは(南雲)しのぶ(後藤と同格の小隊長)という人間はなぜ隊長たり得なかったか、というそういう話しかないんだもん。でも日経読んでる人向けなのに「パトレイバー」でいいの?
Q:編集Yさん、どうですか、ロボットアニメはNGとか?
編集Y:いや、大丈夫ですよ。その辺はあまり気にしなくていいので(笑)。というか「パト2」だったら個人的に大歓迎です。
押井:だけど自分の映画の話をここでやるのはちょっとなあ(笑)。あまりにもストレートなんだけど。
Q:今回は、ネタを準備されてなかったペナルティということで(笑)。
・・・ということではじまった「自作を語る」。
押井氏は今までもずっと分かってたことだけど、「パトレイバー」という与えられた世界観、設定についてはずーーーーっと違和感を表明してきてて・・・その違和感の中で、ちょっといろんなことを捻じ曲げつつ、妥協もしつつ自分の描きたいことを描いていた。
脚本の伊藤和典氏も軍事シミュレーション的な描写好きだし(平成ガメラの人だもんね)、それが融合してああいう傑作が生まれた・・・のだが「主人公の扱い、あれってどうなの?」とか「レイバー活躍してないよね」という、やっぱり普通に見る人が抱く根本の疑問については・・・
みじんも後悔がないことだけは分かった(笑)。
押井:だけど女の子のファンとか泣いちゃったけどね(笑)。遊馬はちっとも出てこないし、野明は全然かわいくない。キャラクターまで変えちゃった・・・(略)それでも最初の「パト1」なんて2本目に比べたらかわいいもんじゃん。ちゃんと楽しいアクション映画になってるし。だけど2本目は監督が勝負する映画だから。僕が勝負しないと、勝っても負けても誰も幸せにならない。
Q:メカ描写にしても「よほど制作期間がなくて、肝心のレイバー同士の戦いを描く余裕がなかったのであろう」との批評を読んだことがありますけど、最初のOVAの時と違って、レイバーを動かさなかったのはわざとですよね?。
押井:そう。最初からその気はなかったから。戦車とかヘリコプターを動かすほうが絶対大事だから。・・・(略)ほとんど全エネルギーを注ぎ込んだからね(笑)。レイバーはほとんど動いてない。最後だけはいちおう動かしてみせたけど、極端に言うと使用前と使用後しか見せてない・・・(略)あのロボットにはそれしかテーマがないんだもん
自分も含めて、あるいはゆうきまさみ氏や高田明美氏、出渕裕氏のように、パトレイバーの設定・世界観そのものに愛着を持っている人たちはだから手放しでは万歳できないのだが・・・それをねじ伏せる、それ単独の傑作さがあるという奇妙な作品だ、今更思えば。
押井氏の「スタジオジブリ」評の憂鬱・・・正論であるがゆえに
一つ前のインタビューから
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121031/238838/
押井:そういえば、若いプロデューサーたちや制作たちで鬱病っぽく・・・(略)出社拒否になっちゃって、会社に出てこないで家でDVD見てるんだって。揃いも揃ってみんな30過ぎてから。ローンで家を買って子供が産まれた途端に。
Q:何があったんですか?
押井:たぶん、これから30年間ローンを返さないとって考えたときにやっと気付くんだよ、自分のスタジオはこれから30年存続するんだろうかって。
例えばジブリ(宮崎駿氏の所属するアニメスタジオ)。どう考えても宮さん(宮崎駿)があと30年生きるわけがないけど、宮さんが死んだ時点でジブリはおしまいだってことは誰でもわかってる。存続するにしても版権管理会社だよ。じゃあ今あそこで働いてる連中はどうなるのか。
Q:他のスタジオには移れないんですか?
押井:ジブリのアニメーターには5年10年やってても人間を描いたことないアニメーターもいるんだよ。そうじゃなければ、あれだけクオリティの高い作品なんてできない。キャラクターを描かせてもらえる人間なんて一握りで、それ以外の人たちは延々と動画だったりするんです。
他のスタジオだったらアニメーターは忙しいんだよ。2年に1本なんて悠長なことを言ってられないから、バンバン描かせる。そういう人はそこそこ描けるから、どこへ行っても食えるんです。ジブリは、うまい人はめちゃくちゃうまいけど、下積みの連中はなかなか上に上がれない
このジブリ評にちょっとばかり憂鬱になるのは
(A)「質のいい作品、すばらしい作品を作りたい」→「若手に重要な仕事(=チャンス)なぞ与えられない。天才の俺の手足となれ!手足の仕事、下請け仕事だけに特化しろ!」→「傑作と、つぶしの利かない下積みが生まれる。そして天才は老いて死に、下積みは食えない」
(B)「質のいい作品、傑作を作る気はあんまりない。とにかく仕事をこなせばいいや」→「そこの若いの!ちょっとこの重要な仕事をやってみろ!なあに、品質はそこそこでいいからさ…」→「平凡な作品と、ある程度重要な仕事を経験した、凡才だけどつぶしの利く職業人が生まれる。先輩が老いて死んだ後も、ひとりで食える」
こんな逆説があるとしたら・・・どちらが、いいんだろう?と。
映画、アニメの現場だけではない問題でもあるかもしれない。